「社外監査役」が期待する「社外取締役」の姿とは?
民主党の資本市場・企業統治改革ワーキングチーム(WT)が、3月中旬にも上場会社について社外取締役制度を義務付ける提言を公表する方針であることが週末のニュースで報じられておりました(たとえば朝日新聞ニュースはこちら)。社外取締役制度の義務付け問題は、各種団体からの反対意見も根強く、また独立性の欠如した社外取締役が関与した取締役会決議の有効性の議論なども尽きないところですので、未だ流動的かとは思います。ただ、今後の会社法制部会の予定回数もそれほど多くないように聞いておりますので、いよいよ大詰めの議論がなされる時期に差し掛かってきたのではないでしょうか。本日(20日未明)の日経ニュースでも、人材派遣会社のレイス社が、登録者の中から約400名を選抜して、いよいよ社外取締役の紹介事業を本格化することが報じられております。
上の民主党のWTもオリンパス事件や大王製紙事件を背景に、ガバナンス改革が急務として審議が重ねられたわけですが、それらの会社では特殊な事情があったために不祥事が発生したものであり、上場企業のガバナンス改革を強制する要因にはなりえない、との反論もなされるところです。この反論は一面において正しいと考えます。しかし、「巨額損失飛ばし」や「子会社資金の不正流用」といった一次不祥事はたしかに特殊事情かもしれませんが、取締役会の機能不全や監査役による監査見逃し、といった二次不祥事は「悪い意味でのサラリーマン根性」(オリンパス事件の第三者委員会報告書)といった言葉で形容されたように、どこの企業でも発生しうる問題であることは間違いないわけで、ここを区別して検討する必要があろうかと思われます(この点はまた別の機会に論じたいと思います)。
ところで最近の議論は、2011年後半に発覚した事件の影響からか、「不祥事防止」「コンプライアンス」という側面からの社外役員導入論が根強いものに感じます。しかし私のような現役の社外監査役という立場からみた場合、かりに当社に社外取締役さんが就任するということであれば、どんなところに期待をするでしょうか。ホンネで言えば、期待は単純に不祥事防止という点だけにはとどまらないものと考えています。いやむしろ、それだけの役割で社外取締役制度が強制導入されるというのは、実践面において社外監査役との役割分担も悩むところですし、ちょっと導入する会社が「後ろ向き」になるのも当然かな・・・と。
やはり社外取締役も「取締役」である以上、会社の業績に結果を出してもらわないと困るわけでして、機関投資家や一般株主を含め、投資家に対して有益な仕事をしてもらわないとマズいと思います。しかし事業とは無関係のところからお越しになるわけですから、営業や商品企画やマーケティング、マネジメントにおける良いアイデアを出してもらうことは期待しません。そうではなくて、たとえ業績が良くて「利益」が出たとしても、どういったプロセスで利益が出たのか、会社として無理をして利益を出したのか、たとえ「損失」が出たとしても、不透明な事業活動によって出たのか、それとも長期的な展望に立って健全な投資がされたのか、そのあたりをチェックしていただければ・・・・と期待をするわけであります。いわば利益、損失発生のプロセスの正当性を担保する、そして取締役会における議決権の行使をもって株主に社外取締役の意思を表明する、といったところが大きな意義をもつものと考えています。つまり事業の永続性という視点から損益を見ていただきたいのです。
監査役は取締役の職務執行の適法性をチェックするわけですが、任務として「利益」や「損失」の質まで言及するものではありませんし、その正当性を議決権行使によって担保するものでもありません。どなたかがコメント欄で述べておられるように、監査役は経営判断に疑問を抱いても、何も言わずに辞任してしまえば済んでしまうところがあるわけでして(もちろん、私はそれで良いとは思いませんが・・・)それ以上に株主・投資家へ説明責任を尽くすことも現実にはほとんどありません。しかし社外取締役さんには積極的に会社の業績向上に貢献していただきたいわけで、その貢献の仕方というのが、本当に当該会社は健全な経営によって利益を出したのか、つまり持続的な成長が見込める会社なのかどうかを見極めていただくことで貢献していただきたい、と思うのであります。また損失が出たときにも、その損失は長期的な視点からみてどうなのか、先細りの兆候なのか、次のステップへの投資なのか、そのあたりを取締役会における議決権行使によって説明責任を果たしていただくことに期待をいたします。このように考えるのであれば、社外監査役の役割と重複することもないでしょうし、また監査役と社外取締役との連係もうまくいくように思うところです。
委員会設置会社の指名委員会や報酬委員会を想定したり、取締役の過半数を社外取締役で占める、といった大きなガバナンス改革を念頭に置くならば、もう少し積極的な役割も期待できるところだとは思いますが、いまの世間における社外取締役義務つけの議論を踏まえますと、このくらいの役割を期待をすることのほうが現実的ではないかと。ホント、会社の業績向上に寄与する制度導入でないと困るわけでして。。。
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