「面白い恋人」がおもしろくない?本当の理由・・・
不正競争防止法ネタはあまり得意とするところではございませんが、このところ話題になっているのが「白い恋人」VS「面白い恋人」事件であり、私も大阪人としてとても関心を持っております。皆様ご存じのとおり、「白い恋人」で有名な札幌の石屋製菓さんが、「面白い恋人」を製造販売する吉本興業さん(正確には子会社)に対して商標権侵害で差止請求と損害賠償を求めて札幌地裁に提訴した件でして、本日(2月12日)のフジサンケイビジネスアイの特集記事でも取り上げられております。石屋製菓さんが記者会見された後、いったん新大阪駅のお土産やさんから突如消えておりましたが、その2~3日後には復活、むしろ事件のおかげで売り上げが急上昇中だとか。
真面目に本件を解説するのが「法務ブロガー」としての役割なのかもしれませんが、知的財産権の専門家ではない者としては(あえて)素人目線から、この事件、どうも素朴な疑問が湧いてまいります。そのネーミングやパッケージの雰囲気が似ているかどうか、いわゆる「誤認混同のおそれ」があるのかどうか…という点については、「こんなの誰だって違うってことはわかるのでは」といったご意見がございます(とくに関西方面の方)。また、「面白い恋人」は、これまで「白い恋人」のネーミングを有名にしてきた石屋製菓さんの努力に便乗しているとのご意見に対しては、吉本興業特有のパロディーなんだから「タダ乗り(フリーライド)」といった問題ではない、とのお声も。
私も大阪人として、最初に石屋製菓さんの記者会見をニュースで見たときは、「こんなのシャレなんだから、そんな裁判沙汰にしなくてもいいでしょうに。誰がみたって、パロディだってわかるんだから、誤認混同のおそれなんかないでしょう・・・」といった印象を抱きました。それどころか、社長さんの横で解説をされている石屋製菓の代理人弁護士の方は、たしか2007年の賞味期限改ざん事件の際、外部調査委員会の委員をされ、現在も内部通報の外部窓口を担当されていらっしゃる方だと思いますので、そもそも会社と独立性を維持しなければならないのでは?といった感想を持ちました。
しかし吉本興業の本拠地「大阪ミナミ」を歩いておりますと、海外(とくにアジア)からの観光客がもはや主力の顧客となっているのがわかります。休日の御堂筋となりますと、とくに中国から来られた観光客の方を乗せた大型バスが目立ちます。バスを降りて3時間ほど、たくさんのお土産を買っていかれるわけで、いまや心斎橋商店街もアジア圏からの観光客がどこもお得意様です。だとすると、日本の知財法が想定しているかどうかは詳しくは存じ上げませんが、お土産物の誤認混同のおそれは日本人の視点ではなく、海外から来る観光客の視点で考えなければならないはずです。そうしますと、おそらく「白い恋人」と思って「面白い恋人」を買って帰る観光客の方もけっこういらっしゃるのではないかと。とりわけ大阪だけでなく、最近は「面白い恋人」を東京でも買えるようになったわけですから、これは正直、石屋製菓さんにとっては面白くない現象になっていると思われます。
また「シャレ」や「パロディ」というのも、日本人だからこそ理解できるのであって、外国人観光客にはシャレは通じません。石屋製菓の「白い恋人」が有名なお土産と知っていても、「面白い恋人」の存在は知らないわけで、写真だけで知っている方は「オオ!シロイコイビト!」って感じで本気で「面白い恋人」を買って帰ってしまう人もいらっしゃるのでは?
「誤認混同」とは少し離れますが、もっと深刻なのが、「面白い恋人」が「白い恋人」とは違うものである、と知りつつも、これを「パロディ」と知らない外国人の存在であります。「ええ?日本は知財大国と思っていたけど、これってOKなの?じゃあ、俺たちも真似して日本に輸出したり、自国でマネしちゃってもいいってことだよね?」と勘違いされてしまうおそれもございます。このような事態が想定されるとなりますと、裁判の勝ち負けにかかわらず、とにかく石屋製菓としてのスタンスを世に示す必要があるわけでして、話し合いで解決することよりも、まず裁判・・・という石屋製菓さんの対応も、最近はなんとなく理解できるようになった次第であります。
とくに北海道は観光産業が重要なものであるがゆえに、「白い恋人」ブランドは、石屋製菓さんの社内事情だけではなく、もはや北海道の地域経済の威信をかけてでも守るべきものではないかと(そういえば、現在の石屋製菓さんの社長さんも銀行出身の方ですよね)。石屋製菓さんを取り巻くステークホルダーの利益を守るためだからこそ、外部調査委員会委員だった弁護士の方が会社側の代理人として提訴するに至ったのかもしれません。吉本興業さんとの話し合いによる和解的解決に進むのか、それとも(メッセージ発信のために)徹底して訴訟で闘っていくのか、今後の展開を見守りたいと思います。
| 固定リンク
コメント
外国人なら確かに誤認する可能性ありですね。卓見すぎます。
投稿: JFK | 2012年2月13日 (月) 21時15分
伊丹空港で札幌出身の母(60代)が,おもいっきり間違えていました。わたしが指摘するまでまったく気づいていませんでした。老眼も影響していたとは思いますが・・・
石屋製菓に対して,一定数のクレームがあったのかも知れませんね。
個人的には,大阪のシャレは,まだまだ全国的には通用しないように感じます。
投稿: 兵庫県出身いまは札幌 | 2012年2月13日 (月) 23時47分
確か吉本興業は、「面白い恋人」で商標登録申請をしています。当然、拒絶査定されたようですが。各空港でも販路を広げ、北海道でも販売しようとしたものの、各販路で断られた模様ですが。。。アメリカのディスカバリーのような制度があったら、Punitive damagesをくらってもおかしくないような状況かも、と邪推してしまいます。
投稿: MASA | 2012年2月14日 (火) 08時52分
いつも某研究会でお世話になっております。
本件、吉本興業が「面白い恋人」の商標登録出願を行った(2010-66954号?)ことで、石屋製菓も本腰を入れて対応せざるを得なくなったところがあるのではないかと思いました。
商標登録の出願となると、ちょっとシャレの域を超えてしまっているように思いますし…
しかも類似性ありで拒絶査定という結果だったそうですから、先生が述べていらっしゃるような、石屋製菓や北海道にとってのブランドの重要性を考えると、こうなることもある意味自然な流れかと。
正直なところ、商標の件については、ちょっと寒いなあと思いました(^^;
投稿: 餃子 | 2012年2月14日 (火) 09時17分
確かに、あのパッケージは見た目がそっくりで、名前だけパロディという訳にはいかないような気がします。
関西在住のどなたかから、「落ちがない。」とお聞きしましたが、まさにそんな感じです。単なる宙返りではなく、ヒネリの効いた月面宙返りでないと面白くないですし、吉本らしくないのですが、パッケージがそっくりだし、恋人は小さくて普通だし・・・・・・、中のお菓子もごく普通のゴーフルだし。
あまり知財法で保護したいとは思わない商品と思うのは、私だけでしょうか。
投稿: Kazu | 2012年2月14日 (火) 10時35分
意外に思われるかもしれませんが、文学でもマンガでも仲間同士でパロディ作品を書く際には、相手に承諾を得ることが多かったりします。
法律の問題ではなく、モラルの問題として。「仁義を切る」というやつですわ。
今回の問題も、吉本興業側が何故一言、「仁義を切らなかった」のか、ということに尽きると思います。
投稿: 機野 | 2012年2月15日 (水) 21時42分