大王製紙・創業家のしたたかな訴訟戦略
毎度申し上げるところでありますが、以下は私個人の感想であり、邪推の域を出ないものでありまして、大王製紙社の企業価値に関するご判断は皆様個人の責任においてお願いいたします。
2月8日深夜の日経新聞ニュースでは、12日に大王製紙の持分法適用会社のひとつであるエリエールペーバーテック社(以下、EPT社といいます)の臨時株主総会が開催される(裁判所の許可がおりた)ことが報じられております。創業家が同社の取締役全員の解任議案を上程するために開催されるものでして、創業家側代理人によると解任議案が可決されることは確実とのこと。
大王製紙では数多くの子会社、持分法適用会社がありますが、このEPT社は今回の元会長不正貸付事件のカギを握る会社だと思われます。特別調査委員会報告書によると、このEPT社は、約1か月間に10億円ほどの金銭を取締役会の承認を得ずに元会長の個人口座に振り込みをしており、現在も残高が5億円残っております。
しかも、同報告書によると短期間に多額の資金が元会長個人に貸し付けられたことを不審に思った監査法人と監査役が、実際にEPT社に往査に行っておりますが、融資担当者の話もろくに聴取できないままに往査を終えた、とのこと(結局、監査法人と監査役がこの往査によって何を調査できたのかは、報告書に何も記載されておりません)。大王製紙社において、内部通報があり、社長以下経営陣が不正貸付の事実を知るところとなるのは、なんとこの1年後のことであります。
同報告書では、このEPT社に往査に向かいながら、適切な監査がなされなかったことについて、監査法人には問題がある、との意見を述べておりますが、監査役の業務が適切だったかどうかには何ら触れられておりません。私がこの特別調査委員会報告書を初めて読んだときも、「これって、監査法人や監査役が不正の兆候にアクセスしたことにはならないのだろうか」と疑問を抱いたところであります。
ところで、創業家は株主代表訴訟を提起して、不正貸付を行った取締役の責任を追及することを予定している、と報じられているので、おそらくこのEPT社の取締役らが対象とされているものと予想されます(本来、大株主であれば、まず最初にご子息である元会長さんに会社が残金返還するよう求めるのが筋だとも思うのでありますが・・・)。この株主代表訴訟の対象となる取締役の方々は、自分に責任がないとして争うはずです。
「だって、監査法人さんも、監査役さんも、当社に来て問題がないかどうか調査したけども、とくに指摘されることはありませんでした」
と、具体的な事実を掲げて反論する可能性があります。つまり特別調査委員会報告書には出てこなかったような、大王製紙社の監査役、監査法人の行動が、代表訴訟を仕掛けることによって浮上する可能性が出てくるのではないかと。
つまり大王製紙側としては、関連会社役員を応援しようとすると、自社の監査役は監査法人の監査の問題が浮上することになり、いっぽう監査役や監査法人の責任を回避しようとすると、関連会社役員の責任が認められやすくなるという二律背反の関係が生じるように思われます。今回とくにEPT社は、いったん持分法適用会社となった関連会社を子会社に復活させることに貢献した会社のひとつです(大王製紙社の指示に従って関連会社の株式を大王製紙側に譲渡した会社)。大王製紙側としても、無下に扱うことはできないのではないでしょうか。これは創業家としては、大王製紙側の一番痛い部分をピンポイントで突いてきたものと思われます。非常にしたたかな戦術ではないかと思われるのでありまして、かなり大王製紙側は厳しい局面を迎えるように感じました(それにしても、関連会社の役員さん方が、とても気の毒に思えるのは、私が単に甘いだけなのでしょうか・・・・)
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