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2012年2月22日 (水)

不適切会計事件発覚で薄氷を踏む思いの監査役の方々。。。

(2月22日 午前 追記あります)

ただいま日本監査役協会セミナーの全国ツアーまっただ中でありまして、昨日(月曜日)は名古屋でお話をさせていただきました。講演終了後、中部地区の協会担当の方が「昔はもっと監査役さんにとって『のどかな時代』でしたよ。最近はホント、監査役さんもタイヘンな時代になってきましたよね」とのつぶやき・・・・(本年もお世話になりました<m(__)m>)。いや、私もそう思います。「閑散役」などと揶揄される時代はもう終わったのかなぁと。

昨日、名古屋から東京に移動しまして、毎月楽しみにしている某研究会に参加いたしました。その研究会で、昨年11月に開示されましたインネクスト社の架空循環取引に関する第三者委員会報告書が取り上げられましたので、結構長い報告書ではありますが、ざっと目を通しました。当時の代表取締役の方が一部役員を巻き込んで多額の架空売り上げを計上している点や、親会社からの強いプレッシャーが動機となるなど、かつてのアイ・エックス・アイ社の架空循環取引事例にとても似ております。同社の監査役さん方も、おかしいのでは?と感じておられたようで、売掛金回収が進まない点を代表者にヒアリングしたり、監査役会で独立して滞留債権の管理をされておられたそうです。でも、在庫チェック等においても、経営者側の「にせもの商品」にだまされてしまい、この第三者委員会も「責任を問うのは酷かもしれないが、道義的責任はある」と結論付けておられます。

オリンパス事件や大王製紙事件だけでなく、このインネクスト社の報告書、つい最近(2月17日)にリリースされた共同PR社の報告書、そしてゲオ社の報告書もそうですが、いずれも経営トップが関与する重大な不正会計事件について、「おかしいな」と監査役が感じてはいるのですが、経営トップから「それなりの理由」を述べられると、それで納得してしまって、それ以上の非定例の深度ある監査までは踏み込まない。もし、そこで踏み込んでいたら、不正は早期に発見され、過年度の決算訂正額も変わっていたはずで、むしろ自浄能力が発揮される事例になったのではないか、とも思われます。

最近のこういった不適切会計事例をみますと、監査役さん方が「青天の霹靂」で会計不正の発覚に至る、というものは少なく、やはり不正の兆候が監査役さんの目の前にその姿を現しているケースが多いことに気づきます。先のインネクスト社の事例でも、証券取引等監視委員会が調査に訪れたとき、「ああ、やっぱり!」と悔やんだ監査役さんもおられたのかもしれません。どの事例も、明らかに監査役さんの法的責任あり、と認めたものはありませんが(オリンパス事件はちょっと横に置いといて)、どの第三者委員会の報告書も、監査役さんの対応について疑問を呈しておられます。正直、私自身の感覚としても「これはちょっとビミョーかも・・・・」と思える事例もあるわけでして、ヒヤヒヤされていらっしゃる監査役の方もおられるかも、と推測いたします。

ただ、かくゆう私の推測も、実は「後出しじゃんけん」的発想にとりつかれているところはあります。後で重大な不正会計事件が発生したからこそ、「なんで監査役さんたちは、もう一歩踏み込まなかったのか」とエラそうに言えるわけですが、もし不正の兆候が杞憂に過ぎなかった場合だと「あいつら、細かいことばかり言う連中だな」と、経営執行部に文句を言われ、事後はなかなか重要な情報が監査役さんの耳に入らなくなるのでは・・・との不安にかられるわけでして。そのあたりの不安が、監査役さんの意識の切り替え(平時➔有事)を遅らせてしまうところもあるわけです。監査役さんの「監査見逃し責任」を法的に追及する場合には、このあたりまで考慮したうえで判断する必要があると思います(かなり自己弁護的な感想ではありますが)。

ところで以前、大王製紙社の事例を扱ったときにも申し上げましたが、この「不正の兆候」に接する監査役さんの行動を検証するにあたり、第三者委員会委員の皆様は、監査役会と会計監査人との普段の情報交換会(たとえば報告会等)で、いったい何が話し合われていたのか、あまり気を使っておられないように思いました(おそらく、このあたりを突っ込んで触れているのはオリンパス事件における甲斐中報告書と監査役等責任調査委員会報告書ぐらいではないかと)。監査法人の責任、監査役の責任をそれぞれ別個に検討されているわけですが、最近は監査法人さんの主導によって「情報交換」の場が毎年何回も設定される上場会社も多いわけでして、会計監査上の問題点があれば、それぞれの立場から相談が持ち込まれるのが通常ではないでしょうか。※(追記あり)これは監査法人や監査役の法的責任を判断するうえで、極めて重要なポイントではないかと思うのでありますが、あまり実態が報告書等で示されるケースが少ないようです。

監査見逃し責任については、まだ監査役の皆様への(世間からの)期待ギャップがそれほど大きくないがゆえに「監査役はいったい何をしてきたのだ!」とお叱りを受けることも少ないのかもしれません。しかし、最近の不祥事続発の状況のなかで、監査役さんが自社の異常事態(有事)であることを認識せざるをえない「不正の兆候」とは何か、また問われる場面も増えてくるのではないかと予想されます。ホント、のどかな時代は終わったのかもしれません。。。

(2月22日午前9時25分追記)何名かの現役監査役の方からメールをいただき、当社ではそのような情報交換会はやっていない、こちらから要望しなければ情報交換会は開催されないといったご意見をいただきました。したがいまして、どこでも制度化されている、というわけではないことを付言しておきます。

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コメント

現役監査役さんから、監査法人との情報交換会がないという情報が寄せられたというのは、公認会計士としては驚きです。日本公認会計士協会では、監査役とのコミュニケーションについての文書が出ていたり、監査役協会でも監査人との意見交換を求める文書が出ていたと思います。監査役とのコミュニケーションの実績なしに監査法人内のレビューや審査を通過できるのか?と思ったり。

投稿: ひろ | 2012年2月22日 (水) 12時41分

監査法人と監査役との連絡会が開かれていないとの話は、監査役である私にとっても新鮮な驚きです。正直に申せば、監査法人サイドは必要最低限(期末の監査報告、期初の説明会)しか申し出てきませんので、監査役がシツコク迫る事が必要です。四半期末、J-SOX来社の際とか、折に触れて会計士の部屋に立ち寄り世間話などしていれば、相手方も胸襟を開いてくるのではないでしょうか。監査法人との緊密な情報交換がなければ、期末の監査報告はとても自信を持って書けないと思います。

投稿: 悩める監査役 | 2012年2月22日 (水) 14時32分

>監査役がシツコク迫る事が必要

リクエストがあれば、大抵は応じるのではないでしょうか(少なくとも、私の所属する組織では、「当然に報告申し上げる」という感覚です)

>四半期末、J-SOX来社の際とか、折に触れて会計士の部屋に立ち寄り世間話などしていれば

このような監査役様もいらっしゃいます。お話をしていて勉強になることも多いです。忙しい時期に現場の人間を捕まえて延々詰問されるのはご遠慮頂きたいところではありますが・・・。

投稿: 監査現場作業員 | 2012年2月23日 (木) 00時37分

各社事情があり、一概には言えませんが、監査チームにいた自分の経験から申しますと、逆に監査役の立場に気を使ってそう簡単に情報交換をするのも、という面もありますし、公式な文書を携えての交換となるとその文書が独り歩きしてしまって本音ベースの情報交換がしにくいのも実情です。

私が所属する監査エンゲージメントでは、最近では非公式の懇談会が四半期に一度くらいの割合で行われています。ざっくばらんに会費制で各自自腹ですけども、食事しつつ懇談する場を設けています。

私は監査パートナーではありませんが、本音でズバリいいたいことも、やはり会社対会社のビジネス上のお付き合いですから、失礼になるような直球での指摘はなかなかできませんし、難しい会計処理の話(経理が監査法人におんぶにだっこで実質こちらが会計処理を考えているに等しい場合はザラ)をしてもあれですし。
胸襟を開かないというのは、ちょっと実感として違うのかなと思ったりします。

あと、監査役が監査報酬を異常に値切ってくるケースもあり、現代の複雑な会計や監査に必要な工数も理解せず、保証リスクを無視したかのようなことをされる監査役もおられ、監査役にもいろんなスタンスの方がおられます。

私個人的には、同じマインドで会話ができない監査役は、こちらとしてもしんどいし、こちらが得るものは少ないです。もちろん、立派な方はたくさんおられます。

そもそも、自分が当事者ならばどうかをイメージすることなく、事件が起こると騒ぎたて、コンプライアンスだなどど一辺倒に世論が流れていることが、誰もがより大きなリスクを背負い、安心して暮らせない原因だと思っています。
日本社会で生きることは、貧しいアジアの国に暮らす人に比べて幸せだとは言えないなと、よく思います。

規制で縛り付けるのも、適度にしておかないと、人間は失敗するものですからね。このへんでやめとかないと誰も幸せにならないと思います。

投稿: 監査法人会計士 | 2012年2月23日 (木) 00時58分

誤解を招く表現があり、お詫び申し上げます。
私が「シツコク」と表現したのは、世の中の監査役は遠慮深く(?)
自ら積極的に会計士に物申す事を憚られる方が多いようですので、
敢えてシツコクと表現しました。勿論、そうではいけない訳ですが、
元職が経理部長の方は別として他部門から監査役になった方は簿記会計
全般の知識が当然に乏しく、プロ相手に「何か問題点は無いですか?」
と臆面も無く聞きにくいと言うのは実情であります。
監査役の会計スペックの現実を考慮すると、「会計士と監査役の緊密な
連携」が必要と言葉で言うのは容易ですが、会計素人の監査役としては途方に暮れている方もいらっしゃいます。この現実を改善する為には、相当の
工夫・努力が必要ではないかと思います。私は、監査法人のパートナーが
来社する都度、彼と1対1で会社の状況について本音ベースのトークを実施し
ています。経理部門から聞けない話を監査役から聴取できる事で、彼らも
感謝しているようで、先方からは当社の経理の実態について率直な意見も
聞けたりしています。微妙な問題もありますが、私が胸襟を開いてと言う
趣旨は、そういう事を指しています。

投稿: 悩める監査役 | 2012年2月23日 (木) 15時05分

監査人側の規定は、「監査役等とのコミュニケーションは、内容に応じて適時に行うことが必要である」と義務規定であるのに対して、監査役側の規定は、「監査役及び監査役会は、会計監査人と定期的に会合をもつなど、緊密な連係を保ち、積極的に意見及び情報の交換を行い、効率的な監査を実施するよう努めなければならない」と推奨規定で、整合性が問題ですが、監査役としては、監査人側の規定がどのようになっているかについて理解しておく必要があります。監査法人が情報交換会を開催していないのであれば、監査法人の品質管理に問題があり、会計監査人の職務執行が適切に行われていないとする評価となり、監査役としては会計監査人に説明を求める必要があります。

このような状況では、監査役に会計監査人の選任権を付与したとしても、その実効性に疑問が残ります。また、会計監査人の監査業務に精通している監査役であっても、現任の会計監査人であればまだしも、新規に会計監査人を選任しようとした場合に、その判断の根拠となる情報を十分に得ることができるでしょうか?
会計士協会が監査法人の品質管理レビューを行っていますが、その結果については全面的に公表されているわけではなく、重大な問題がある場合に公表措置がとられます。日経ヴェリタスの記事にあった監査法人は、さらに公認会計士・監査審査会がレビューを行い、金融庁が処分を行ったもので相当に品質管理に問題ありということで、現状で監査役が把握できる情報としてはこの辺りでしょう。会計士協会は、監査役に会計監査人の選任権を付与すべきであると従来から主張してきたわけですが、その実効性を担保するためにレビュー結果の全面開示といった用意はあるのでしょうか?

投稿: 迷える会計士 | 2012年2月24日 (金) 12時12分

皆様、貴重なご意見ありがとうございます。本件につきましては、メールも含め多くの反響がございました。
監査役、監査法人の法的責任を論じるにあたり、おそらく今後大きな課題になるのが「監査役と監査人との連係」問題だと思います。実務がどのように動いているのか、実務慣行を検証していくことは、きわめて重要になると思います。現在進行形の会計不正事件でも、多くを語ることが可能かと。
今後ともどうかよろしくお願いいたします。

投稿: toshi | 2012年2月27日 (月) 02時22分

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