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2012年2月28日 (火)

AIJ投資顧問にマルコポロスは現れたのだろうか?

AIJ投資顧問による年金消失事件について、「日本版マドフ事件」などと報じているマスコミさんの記事を読みますと、ついついマルコポロス氏のことを思い出します。マルコポロス氏は、元ナスダック代表であるバーナードマドフ氏のポンジ・スキーム(ねずみ講)を用いた巨額投資詐欺事件について、事件発覚の前からSECに「あれは怪しいから調査せよ」と警告を言い続けていた方であり、CFE(公認不正検査士)の資格保有者です。事件発覚後は米国議会にも証人として呼ばれ、SECに捜査を求める警告を発していた経緯について詳細に語っておられます。

おもしろいのがマルコポロス氏の著書「誰も聞き入れなかった:実際にあった怖い投資の話」にあるエピソードであり、その抜粋はこちらからお読みになれます(タビスランドHPより)。マドフの投資手法が怪しい・・・ということを多くの人が知っていながら、だれもそれを口に出さなかった。では、なぜマルコポロスが口に出して「怪しい」と公言していたか・・というと、それは上司から「お前もマドフのような運用実績を出せ!」とマドフと比較されならが厳しく命令されていたからだそうです。つまり自己保身(自己防衛)のために「マドフはぜったいイカサマ」というのを証明してみせねばならず、そのためにSECにも警告を発信していた、とのこと。つまり、自分の人生がかかっていたからこそ言い出せたのであり、そこまで追いつめられないと「おかしい」と口に出すことはむずかしいということなのですね

そのマルコポロス氏は、ウォールストリートには「マドフは怪しい」と知っていながら、口に出すことをしない人が多く存在することが「最大の驚き」だったようです。なぜ口に出さないかといいますと、怪しいかもしれないが、マドフの投資によって手数料が入ってくるなら、それでもいい・・・と皆さんが思っていたから、だそうです。また、プロのファンドマネージャーたちでも、普通ならばデューデリを求めて断られた場合、「じゃあ、さよなら」となるわけですが、そのあまりにも美しい投資実績に目がくらんでイギリスのオイルマネーを集めるファンドマネージャーすら数億ドルを預けていた、とのこと。二人しか会計士がいない事務所が帳簿をチェックしている事実には「見てみないふりをして」、その実績に賭けていた、というのが実際のところだったようです。つまりいくら開示規制を強化したとしても、またいくら投資家の能力が高くなったとしても、行政の監督責任は免れ、かつ投資家の自己責任は問えるけれども、だまされる人(だまされたい人?)はなくならない、というのが真実ではないでしょうか

いろいろなブログでAIJ投資顧問の年金消失問題が話題になっていますが、「私は以前から、この業者の手法は怪しいと思っていた。なぜなら」的な書きぶりが目立ちます。しかし、怪しいと思っていたことと、実際に怪しいと口に出すこととは雲泥の差です。たしかに2009年に格付情報センターが警告を出していた、ということのようですが、マルコポロスがSECから無視されたようなものだったのかもしれません。マルコポロス氏ですら、お尻に火がつかなければ口に出すことはできなかったそうで、これだけ2ちゃんねるやヤフー掲示板を初め、匿名による意見広報の機会があるにしても、やはり「あそこは怪しい」と公言することで不正を早期に発見することは本当にむずかしいと痛感します。いや、早期に発見した人ほど、(本来ならば一目散に撤退するのが筋かもしれませんが)AIJの運用の失敗によって大儲けをしているのかもしれません。これからの捜査の行方を注目したいと思います。

2月 28, 2012 未完成にひとしいエントリー記事 |

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コメント

「証券界では、オリンパスは損失飛ばしをしているはず」という噂は2000年初頭からあった」みたいな書き方をされている記事をいくつか見かけましたが、同じことですね。その証券界の一部の会社がレーティングしているわけですし、「だから、俺はこの10年間オリンパスにはカラ売りを続け、ようやく昨年、莫大な利益を獲得したのだ」などという話も聞かない。世間に訴えでなくても、こっそり空売りで稼げば良いのに。いや、空売りしていたら、金融庁などに告発すればもっと早く莫大な利益を獲得できたのに・・・という話ですね。

投稿: ひろ | 2012年2月28日 (火) 09時24分

その点では、FACTA誌が以前報道した件が事件化してますね。
IT企業の方は、他の中国系企業にも飛び火する可能性があるようですが、
アメリカでは以前から問題視されており、ムーディーズは中国企業について警告信号の付いた調査レポートを発表しています。
http://www.epochtimes.jp/jp/2011/07/html/d80522.html

IT企業の有価証券報告書を見ると、常勤監査役が社外監査役となっていますが問題ないのでしょうか?

投稿: 迷える会計士 | 2012年2月28日 (火) 13時00分

ひろさん、迷える会計士さん、コメントありがとうございます。オリンパス事件との共通点もありそうな事件だと私も感じております。まだ文書化できるほど頭の整理ができておりませんが。。。

社外監査役さんには「常勤社外」と「非常勤社外」があり、就任の際に会社法上の「社外性」を満たしていながら、その後は社内で監査役として毎日従事される方も結構いらっしゃいますので、たぶん大丈夫かと思います。

投稿: toshi | 2012年2月28日 (火) 13時10分

普通ファンドにはアドミニストレーター、カストディアン、プライムブローカレッジとの取引があるので、その三者の目プラス監査法人の監査が入ります。また、投資家からも上記の情報や監査証明書の提出が求められます。今回の事件ではプライムブローカレッジとの取引がなかったといわれてます。プライムブローカレッジはレバレッジをかけたりショートしたりする際に必須なので、一体どうやっていたのか謎です。投資すらしてなかったのでしょうね。ただアドミン等はあったみたいなので、そちらのリスク管理不足も否めないですね。日本の企業年金のデューデリ力量不足もこれから改めて行かないといけないと思います。

投稿: ぜろわん | 2012年2月28日 (火) 15時35分

「怪しいと思っていることと、それを言うこととは雲泥の差」はそのとおりだと思います。ところで、全く別の角度からのコメントでよろしいでしょうか?
1.敢えて自己責任論としての資産運用
この問題は「社保庁の消えた年金問題同様、企業年金などというモノ自体が過去の遺物なのだ」ということを示したと思います。要するに「自分の資産に関する運用は自分でヤレよ。人(運用会社)なんかに任せるからこういうことになるんですよ」ということだと思います。「自己責任」という言葉は、以前、ジャーナリストやボランティアに絡んで一部の政治家やメディアがそれこそ無責任な観点から使用した印象が強いので「嫌いな言葉」なのですが、敢えて「自己資金=自分の財産資産の運用くらい自分で研究し、自分で行おうよ」、ということに尽きると思います。
今回の出資者はお気の毒です。消えた部分の1800億円とか1900億円と言われている投資マネーは戻らないでしょう。これは実は「オリンパスの粉飾問題の百倍深刻な事件」だと思います。まだ、マスコミではそういう論調はあまり出ていませんが。
2.こんなことが赦(ゆる)されるのか?
1とは全く対照的な立ち位置から考えますと、この事件は結局AIJ投資顧問の幹部関係者が逮捕されて有罪になろうとどうあろうと、消えたお金は出資者には戻らないでしょう。せいぜい残った200億円をどうするのか(争奪戦か)?ということでの「処理」で、肝心なはずのお金の問題はあまりにも巨額ゆえ全く未解決のまま、出資者が泣きを見るだけで終わるでしょう。でも、そんなことを許してよいのか?という、これまで幾多のこの種の経済事件の総括的根本的問題として、この事件にこそ何らかの新しい(処罰等を含む)要素、新しい展開を見たいものです。例えば金融庁による「監督弱くてゴメンナサイ賠償金?」による補てんとか(でも税金になるだろうから土台無理な発想)・・・。とにかく、最初から運用ミス+事実隠ぺい状態の継続、という悪いこと=詐欺的行為を行っていて、「刑事罰は受けますが、お金は無いので返せません」というこの種の事件に、何らかの新しい処罰、一定の解答を見てみたいものです。
以上、長くて失礼しました。

投稿: 伊藤 晋 | 2012年2月28日 (火) 20時48分

■ごぶさたしておりました。DMORIです。
J-SOXを作ったはずなのに、AIJが非上場企業のため、社外監査や内部統制報告書の対象外になっていたことは、穴だったといえます。
2000億円の被害は、奇しくも1985年の豊田商事事件と同じ額です。AIJの営業マンが、「資金が集まりすぎて、今は新規募集を停止している状況です」などと、豊田商事とよく似た手口で営業していたのも、興味深いことでした。J-SOXを作った八田先生も、Toshi先生も、この年金被害は想定の中にあったでしょうか。
私も、年金をあまり意識していなかったので、今回のAIJ被害は意識しておらず、事件が発覚したときに「J-SOXがなぜ機能していないのだ」と思ったくらいでした。
AIJを利用した側の自己責任とはいえ、格付け会社がAIJの運用を評価していたり、社保庁OBがコンサルとして報酬を得て、AIJを推奨するセミナーを開いていたりしていました。彼らは「残念だ」などと他人ごとのように言っていますが、こうした関係者も、同罪と自覚してもらいたいと思います。
AIJの運用報告書がいかに魅力的な内容であっても、保有資産が実際に帳簿どおりに、どこに存在しているのか、それは誰が保証しているか、外部の第三者監査を経ていないものが信用できるのかを、確認できない限り預けるべきでない、という考え方が基本でしょう。
ちなみに、私個人もいろいろな資産運用の営業を受けますが、リスクのあるものには1円でもカネを出さないことを、人生観にしています。もらえる年金が安くても、質素に生活すればできないことはないわけで、「甘い話には必ず落とし穴がある」は、次代が変わっても大切にすべきです。

投稿: DMORI | 2012年3月 4日 (日) 12時14分

皆様ありがとうございます。専門分野以外の内容が含まれていますのでたいへん勉強になります。

現代ビジネスの藤野さんの文章「AIJ問題とナニワ金融道」がおもしろいですね。AIJ関連のネタでまたご紹介したいと思います。

投稿: toshi | 2012年3月 7日 (水) 10時37分

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