創業家との対立で懸念される大王製紙の企業価値
土曜日(2月4日)の日経朝刊にて、大王製紙の関連会社11社が、いったんは持分法適用会社になったものの、再び子会社に復活したことが報じられておりました。昨年の元会長不正貸付事件の際、特別調査委員会は創業家との決別を大王製紙社に要望しておりました。その流れで、元会長、元顧問の方々が大王製紙社および子会社の役員を辞任されたことから、いったんは大王製紙の支配力が薄まったとして子会社➔持分法適用会社へ移行することとなりました。
しかし関連会社の株主構成について、大王製紙本体と創業家ファミリー企業が別々の大株主として存在することからややこしい問題が発生しております。創業家からの独立を目指し、創業家ファミリー企業から株式買取を希望する大王製紙側と創業家(ファミリー企業)との間で買取価格に大きな差が生じたため、ほとんど買取が進展しておらず、業を煮やした大王製紙側は、持分法適用会社どうしの持合い株式を大王側に譲渡させることで大王製紙が単独で過半数を維持する戦略に出たそうです。株式譲渡や譲渡承認に取締役会決議が必要になるでしょうから、持合い双方の会社の意思決定に大王製紙側が強く関与できる組み合わせで整理を行ったものと思います。
大株主として君臨する創業家側は、これから関連会社の役員関係を整理しようと考えていたところ、いきなり先手を打って持ち合い株式の整理に大王側が走ったため、複数の関連会社の株式譲渡に関する取締役会決議の無効確認請求の訴えを各地の裁判所に提起した、とのこと。取締役の選任・解任作業を進めようとしていた時期に審議されたものであることや、創業家の取締役に通知がなかったこと等が理由のようです。創業家側が主張している評価額の5分の1程度の買取価格で株式譲渡が行われたそうですから、紛争になるのも当然かもしれません。しかし残る18社の持分法適用会社については、まだそのような整理が終了していない、ということですから、今後ますます大王側と創業家側との対立が激化するのではないでしょうか。
創業家が本体である大王製紙の株式の過半数を握っておらず、関連会社を複数のファミリー企業で支配する、という複雑な統治形態がとられていることで、こういった問題が発生しているわけですが、関連会社には多数の「大王製紙から派遣された役員」の方々が、現在も存在していることから、この「サラリーマン役員」さん方はたいへんなご苦労ではないかと推察いたします。大王製紙側の指示に従うべきが筋だとは思いますが、創業家の方からも、様々な要求が飛んでくるはずです。俺たちの言うことを聞け、でないと取締役を取り換えるだけでなく、不適切な価格で株式譲渡に応じ会社に損害を与えた、ということで代表訴訟も提起するぞ、ということではないかと。この関連会社役員の皆様は、いったいどちらを向いて仕事をすればよいのか、とてもつらい立場にあるのではないでしょうか。いや、ひょっとすると関連企業の取締役会での意見が対立して、いろいろな権謀術策のなかで決議が成立したり否決されているのではないかと邪推してしまいます。これで果たして企業経営が遂行できるのでしょうか。
また、大王製紙社の子会社、持分法適用会社は、そもそも地方の有力製紙会社を買収してきたところもあり、大王とは関係の薄い役員の方もいらっしゃるはずであります。そのような役員さんも大王製紙と創業家との紛争に巻き込まれる形となるため、おそらく従業員を含め、非常に経営が不安定になる可能性があるかと思います。非常に売り上げ比率の高い関連会社もあり、また大王製紙にとって重要な原材料調達先になっているところもあるようですから、こういった対立が本業に及ぼす影響も無視できないように思います。早期に事態の収拾を図らなければ大王製紙社の企業価値が毀損される不安が生じることになりそうです。オリンパス事件に比べて、最近は少し報道される機会も少なくなった大王製紙社の件ですが、関連会社も巻き込んで、その企業価値の行方が左右されるのはこれから始まる第二幕の結果次第のようであります。
なお、以上は今回の対立構造からみた私個人の感想を述べたものであり、「邪推」がはずれている可能性もございます。どうか株取引は個人責任において行っていただきたいと思います。
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