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2012年3月30日 (金)

シンポ「公正なる会計慣行を考える」のご報告

本日(3月29日)大阪弁護士会館2階ホールにて、大阪弁護士会・日本公認会計士協会近畿会共催シンポ「公正なる会計慣行を考える」を開催いたしました。平日の昼間にもかかわらず、弁護士、会計士の皆様、約170名のご参加をいただきました(どうもありがとうございます)。

司会は近畿会監査会計委員会の廣田委員長、パネリストは弥永真生氏(筑波大学)、松本祥尚氏(関西大学)、渡部靖彦氏(会計士)と私です。基礎知識に関する解説の後、「公正なる会計慣行」が具体的に問題となった事例を①長銀・日債銀事件、②三洋電機「減損ルール」事件、③ビックカメラ元会長課徴金事件、④キャッツ最高裁判決の順に法律学者、会計学者、弁護士、会計士の視点から議論し、その後は中小企業会計指針や会計要領との関係、IFRS強制適用時における問題点などを討論。本日、金融庁企業会計審議会においてIFRSと監査法人の対応、中小企業会計との関係などが議論されたそうですが(こちらの記事参照)、当シンポにおいても興味深い意見が出されました(詳しくは、また講演録が出されるようですので、そちらをご参照ください)。IFRSと「公正なる会計慣行」との関係につきましては、私も申し上げたいことがございましたが、タイムアウトとなってしまいました。。。

討論の中でも申し上げましたが、フィールドの異なる弁護士と会計士が、有価証券報告書の虚偽記載や違法配当の判断に関わる論点について問題意識を共有することはとても有益だと思っております。弁護士は裁判所(司法判断)を通じてアウトとセーフの境界線を探るわけですが、会計士の関心はもっと以前の段階、つまり監査の現場で悩ましい問題の解決方を探りたいわけです(会計士の方々にとっては、そもそも法的紛争に至ること自体が回避すべきリスクかと思います)。したがって、弁護士側からすれば、まさに「実務慣行」を知る機会となりますし、会計士側からすれば、悩ましい問題解決に向けての予測可能性を認識する機会となります。お越しいただいた皆様方にとって、そのような機会となりましたら幸いでございます。私自身も、登壇者ではございましたが、本当に勉強させていただきました。ただし、法律実務家としての視点で虚偽記載の意味、つまり「重要な事項」について「事実と異なる表示」をすることの要件から出発した議論が展開できなかったことを反省しております。「重要性」とか「事実」という意味が、どうしても会計士と弁護士で認識が食い違うように感じておりますので、そこを各論点において浮き彫りにできたら、もっとおもしろかったのではないか・・・と。

個人的には弥永先生の「中小企業会計要領」をとりまとめた経緯がとても参考になりました。ご承知の方も多いとは思いますが、2日ほど前に経産省から「中小企業の会計に関する検討会報告書」がリリースされ、正式に「中小企業会計基本要領」が公開されましたが、弥永先生はその研究会WGの座長を務められました。会計士の皆様は、公正なる会計慣行を考えるにあたり、(当然のことですが)ストライクのど真ん中を企業の監査現場で求めるわけですが、弥永先生は、策定にあたり「ど真ん中ではないけど、このあたりだったら、なんとか裁判所に持ち込まれてもストライクと言ってもらえる、『ボールと言われないためのスレスレはどこか』を体系的に意識しました」とのこと。会社法上の「公正なる企業会計の慣行」の概念は、かなり幅を持つものであることが再認識された次第です(ただし、上場会社の場合には、この幅が狭くなり、時間軸のなかで「会計基準が事実上強制力を持つ」に至るのかもしれません)。

3時間のシンポの最後におふたりの(重鎮?)会計士の方々よりご意見をいただきました。旧商法32条2項が包括規定として条文に組み込まれた昭和49年以前からの会計学と法律学との実務レベルでの交渉経緯、コモンローの世界と大陸法の世界における対応の比較、最近の第三者委員会における意見が監査実務に及ぼす影響など、なるほど検討しなければならない点が他にもありそうで、まだまだツッコミが不足していたことを痛感いたしました。ただ、廣田委員長を中心に何度も準備会を重ね、松本先生、弥永先生といった、企業会計の分野で気鋭の先生方をお迎えして、この難しい論点についての「レベル」を体感できたことで、まだまだ不十分ではあるものの今後の議論深化に向けての第一歩を踏み出せたのではないかと考えております(会場を見渡したとき、存じ上げている先生方がたくさんお見えになっていたので、ちょっぴりうれしかったです!)。

最後になりますが、取り上げた事件とのコンフリがあるために「黒子」に徹し、弥永先生も「これは使えますね~」とビックリされていた当日配布資料(132頁!)を一生懸命作ってくれた森久敦司弁護士(大阪弁護士会 会計士試験合格を目指しているとか・・・)に厚く御礼申し上げます<m(__)m>。

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2012年3月29日 (木)

オリンパス社は元社長暴露本の出版を差し止めないのか?

当ブログではずいぶんと前に、オリンパス社のウッドフォード元社長が「解任」なる新刊書を出すことを伝えました(4月下旬に早川書房から出版予定)。私個人としては、早く読みたくてウズウズしているところであります。

本日(3月28日)のWSJの記事によりますと、ウッドフォード氏は講演や執筆活動に大忙しであり、すでに2冊目の執筆にもとりかかっておられるそうです(この記事からしますと、たいへんお元気そうですね。WSJニュースはこちらです)

ところで、上記ニュースによりますと、オリンパス社もこのウッドフォード氏による新刊書の内容がとても気になるようでして、英国の法律事務所を通じて、ウッドフォード氏に内容を開示するよう求めているとのこと。これに対してウッドフォード氏側は(英文原稿の)開示を拒否しているそうであります。たしかにウッドフォード氏自身が社長に就任した経緯から、解任に至るまでの事情を告白する、というものですから、今後のオリンパス関係当事者の刑事・民事事件においても有力な資料になるかもしれず、企業の信用や役職員のプライバシーにもかかわる事実が含まれている可能性もあるため、オリンパス社としても新刊書の中身については一日も早く知りたいと思うのが自然ではないかと。

事件当事者の方にご迷惑をおかけしないように、あくまでも素人的発想としての疑問でありますが、こういった場合、オリンパス社としては、ウッドフォード氏による著書が発売されるまでに出版物の発売を差し止める仮処分命令の申し立ては検討されていないのでしょうか?もちろん日本の出版社の「表現の自由」に関わる問題であり、また公益目的に沿う内容のものだと思われますので、出版差し止めが許容される可能性はかなり低いものとは思いますが、しかし、そうでもしない限りは、出版以前の段階において、オリンパス社としては何が書いてあるのか、察知するのは困難ではないかと思います。仮処分命令申立の裁判が起こされれば、裁判官の指示によって債務者(被申立人)側は、出版前の書類審査のための開示が必要となり、嫌がうえにもオリンパス社側による事前閲覧が可能になってきます。

出版まで、あと20日余りを残すところとなりました「解任」でありますが、今後はまた、なにか関係当事者から法的な動きがあるのかもしれませんね。とりいそぎ備忘録として。

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2012年3月28日 (水)

ガバナンス改革「第三の波」と企業周辺領域への規制拡大

ジュリストをはじめ、最新の法律雑誌はどれも「会社法改正(中間試案)特集」ばかりです。著名な学者、法律実務家の方々の魅力的な論稿や座談会記事が多すぎて、いったいどれがおススメなのか、よくわかりません。かくいう私自身も、会社法改正関連ではございませんが、「社外監査役の理論と実務(第二版)」(商事法務)の編集作業が大詰めとなりまして、条文解釈や判例解説記事の最終チェックをしております。

会社法改正の着地点がどのあたりになるのか、まだまだ不明な状況でありますが、先日ご紹介しましたように、ガバナンス改革はリーマンショックを契機として世界的に「第三の波」が押し寄せているようでして、会社法の改正がどのような結果になったとしても、この第三の波が日本企業のガバナンス改革にどこまで影響を及ぼすことができるのか、今後注目されるところかと思います。会社や会社役員に対する法的な行為規制ではなく、会社に影響を及ぼす外部第三者の力をもってガバナンス改革に取り組むというものであります。ここで力を発揮しそうなのが、金融庁によるガバナンス改革への構想(?)であり、以下は勝手な私の推測による構想図であります。

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上の「金融庁」から出ている黒い線は監督権限や組織的なつながりを示すものです。各組織から企業に向かっている矢印が企業のガバナンス改革に影響を与えるテーマです。たとえば証券取引等監視委員会は、昨年の機構改革で「課徴金・開示検査課」から「開示検査課」を独立させました。課徴金制度は事後規制の世界ですから、ここから独立した「開示検査課」は不正開示を早期に見つけて、企業に早期是正を促す、という事前規制を重視しております。証券取引所については、先のオリンパスの上場維持の理屈(事件発覚後のオリンパス社の自浄作用を考慮して、将来の投資家に迷惑をかけない体制が認められれば、今の株主保護を重視する)や、企業行動規範による上場管理(独立役員制度等)によって企業自身によるガバナンス改革を促しております。監査法人はJ-SOXにより、企業の統制環境をチェックします。金融機関は(林原社事件で明らかなとおり)、信用リスク管理態勢の強化において、企業のガバナンスをチェックします。平成21年金商法改正によって格付機関に対する行政当局の監督権限が強化され、今後はガバナンス評価が見直されるかもしれません。

これらに加えて、最近のAIJ事件やオリンパス事件を契機とした海外機関投資家へのチェックなども(法改正により)含まれてくるわけでして、企業に対する直接のガバナンス規制ではなく、周辺領域への開示規制や監督権限(品質管理)の手法を活用して、政府の事前規制を代替する「事前規制」によりガバナンス改革を実現する方向が検討されます。

では金融庁の監督権限が及ばない領域についてはどうするか?そこは既に金融庁によって布石が打たれており、たとえば弁護士は日弁連ガイドラインに基づく第三者委員会の設置、という手法を奨励することで(これも事前規制の世界であります)、金融庁の味方につけることにほぼ成功しつつあるのではないでしょうか。強制加入団体である日弁連が関与する第三者委員会、しかもステークホルダーの利益を第一に考える・・・というところがミソであります。

また、各企業における監査役につきましては、平成20年の金商法改正によって新設され、このたびのオリンパス事件でも話題となりました金商法193条の3で布石が打たれてあります。会計不正事件の疑いを持った監査法人が、社内での早期是正を求めて監査役に「是正措置要求」を通知し、それでも会社がなんらの対応をしない場合には金融庁への届出義務を監査法人に課す、というもの。平時対応、有事対応、いずれにおいても、すべて事前規制の世界です。不正を起こさないガバナンス、不正を早期に発見し、これを自浄能力をもって解消するガバナンスを外圧によって企業に求めるという流れになろうかと思います。

上記の図は、本当に未熟なものにすぎませんが、ガバナンス改革は会社法改正だけの問題ではない、ということが今後次第に明らかになってくるのではないかと考えております。佐々木審議官の講演をお聴きしたり、また金融庁長官でいらっしゃった五味さんの新刊書を拝読し、1998年ころからの激動の金融行政を垣間見て、ふと、上記のような構想を思い浮かべた次第です。

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2012年3月27日 (火)

内部通報事実の事前開示はリスクが高い(大阪市の事例より)

昨日に引き続き、内部通報制度に関するお話であります。橋下大阪市長が「法律家として危ういのではないかと思っていた」と述懐するほどに「トホホな結果」になってしまった市交通局の選挙支援職員リスト疑惑事件でありますが、本日(3月26日)大阪市は、内部告発の根拠とされた職員リストが嘱託職員によってねつ造されたものであることが判明したと公表しております。

市長就任直後に内部告発を奨励する制度を導入し、その甲斐あってか、前市長の応援に関する職員リスト問題が内部資料によって発覚したことが維新の会によって明らかにされ、市長は調査のための特命チームを発足する方針、と述べておられました。その後、労働組合側が「資料はねつ造」と反論し、反論に合理性が認められたため、維新の会も刑事告訴を行う、と混迷を深めていたところであります。そして結局のところ、不誠実な通報があったということになります(正確には資料作成者と内部告発者との関係はいまだ不明でありますが)。

先日講演させていただいた日本監査役協会主催のセミナー「内部通報・内部告発への監査役の対応」では、対応実務の解説を「不誠実な通報への対応」に絞りましたのも、まさにこういったことが一般企業でもよく起きるからでありまして、しかも取り返しのつかない状況に至るケースも散見されるからであります。今回は形式的には外部(政党)への告発事例でありますが、そもそも市長が内部告発を奨励し、その結果として維新の会に告発が届いておりますので、一般企業の内部通報制度に近い運用とみてよいかと思われます。したがいまして、内部通報制度が機能する場面において、通報事実を開示してしまった場面に等しいものと考えてよいのではないかと。

一般企業において内部通報制度が機能し、社員間に周知されるようになりますと、不誠実な通報が増えるのは当然のことであり、企業としましても、限りある人的・物的資源が、これらの不誠実通報の調査に費やされることを回避しなければなりません。しかし、窓口段階で簡単に「不誠実な通報」を仕分けできるわけでもないので、そのバランスをどうとるか、ということが問題となります。ましてや大阪市のようにトップ自らが内部通報や内部告発を奨励する、ということになりますと、窓口担当者および調査担当者は要注意であります。

「法律家として危ういのではないか」と考えるのは、私も同じであります。不誠実な通報は当然に増えるわけですから、その真偽が危ういのは何ら問題ではなく、むしろ当然であります。しかし問題は、告発事実の真偽もはっきりしないまま「告発事実ありき」で告発を受理した者がこれを開示してしまった点であります。「法律家として危うい」と感じなければならないのは、むしろこの告発を受理した者の行動であります。内部告発者は私利私欲、面白半分、あるいは組織に対する害意をもって、あるいは誰かを貶める意図をもって虚偽事実を通報してくる可能性があるわけですから、通報事実の調査は担当者間で厳格に情報管理を行い、その信ぴょう性を判断しなければなりません。したがいまして、内部通報・内部告発に基づく不正調査の運用実務からすれば、調査の途中で事実開示を行うことはありません。もしあるとすれば、すでに同様の事実がマスコミに内部告発され、マスコミからの取材に対して「そういった事実は内部でも問題視しており、現在鋭意調査中です」と回答する場合だけであります。

今回の事例では、維新の会側が内部告発を受けての発言が発端となりましたので、直接大阪市に責任が発生することはないのかもしれません。しかし、企業が内部通報や外部者からの告発を受理して、特定職員の不正事実に関する事実を途中で開示するのであれば、組織として「名誉毀損」に基づく損害賠償責任を負担する可能性が出てまいります。また、それ以上に問題なのは、今後の内部通報制度に関する組織内での信頼性であります。いったん通報事実が開示されながら、その内容が虚偽であった、ということが組織の内外に明白になりますと、今後は不正調査に関する信頼性が失われ、「またガセネタでは」と誰もが考えますし、調査の秘密が守られないことへの恐怖感から、まともな通報が上がってこなくなる、という事態となります。

市議会を構成する特定の政党と内部通報者との関係なども取りざたされておりますが、これは本件の特殊事情であり、あまりそういったことには関心がございません。むしろ、こういったトラブルが、せっかく軌道に乗り出した内部通報制度の機能を喪失させてしまうリスクがあること、これは大阪市だけでなく、どこの企業においても同様のリスクがあることを認識することが肝要ではないでしょうか。

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2012年3月26日 (月)

PCメールの抜き打ち調査と内部通報の奨励について

検索サイト大手のグーグル社が東京地裁より「表示差止め」に関する仮処分命令を発令されたにもかかわらず、これに従わない状況が続いているそうです。数年前、プリンスホテルさんが、本業である宴会場使用に関する仮処分命令に従わなかったときはコンプライアンスを無視したとんでもない会社としてマスコミや国民、そして司法裁判所から大きな非難を浴びました。同じようにグーグル社(少なくとも日本法人のグーグル社)も本業に関する命令ですから「裁判所の命令に従わないトンデモ会社」として世間や裁判所の強い非難を浴びるのでしょうか?かりに浴びないとすれば、それはプリンスホテルさんの場合とどのような差があるからなのでしょうか。ちなみに「山口利昭」で検索してみますと「山口利昭法律事務所」と「山口利昭 弁護士」が自動検索されるだけでした(よかった・・・)。ここに「山口利昭 悪徳弁護士」とか「山口利昭 懲戒」などと自動検索されれば、おそらくどこの企業さんにもセミナー講師として招聘いただけないか、と(^^;;そう思うと、債権者(申立人)の気持ちもよくわかります。。。(以下、本題)

先ごろ、大阪市の職員(幹部)のメール調査について新聞で報じられておりましたが、企業(官公庁)所有・管理にかかるパソコンやサーバーに保存された送受信メールの(無承諾による)調査についてはなかなか難しいところがございます。

誹謗中傷メールの調査を行った会社のメール調査の違法性が問われた日経クイック事件判決(東京地裁判決 平成14年2月26日 労働判例825号50頁)などを参考にしますと、保存されている会社所有のパソコンについては、①メールを無断で調査する必要性があり、②調査の方法も相当で、③調査対象者のプライバシー侵害の程度も重大とはいえない場合には調査は違法とは言えない、と考えるのが適切かと思われます。つまり会社の勝手な目的によって一般探索型の調査を行うというのは問題であり、調査対象者に不正の疑いがある場合で、かつプライバシー侵害の程度が重大とは言えない方法、つまり事前に包括的な調査承諾ルールが定められており、なおかつメール調査でなければ有力な証拠が得られない、といった事情がなければ適法とは言えないものと考えます(ちなみに社員所有のパソコンやスマホについては私的なメールが含まれている蓋然性が極めて高いので、無断調査の違法性は極めて高いと思われます)。

そうしますと、やはり内部通報などによる情報入手は、上記の「メールを無断で調査する必要性」の要件を満たすためにも有効な手法かと思われます。もちろん、単に内部通報があったということだけでは無理でして、通報をもとに調査をしたところ、調査対象者の不正の蓋然性が高いと認められ、かつメール調査以外には有効な証拠収集方法が見当たらない、といった状況にあることが必要かと。

ここでさらに厳格な要件を求める立場もあるようです。たとえばメール調査について、任意の提出を求め、これを拒否された場合に初めて調査ができる、といった考え方です。しかし、昨年の12月16日にリリースされたゲオ社の不明朗取引に関する第三者委員会調査報告書にも登場しましたように、最近は「メール復元ソフト」だけでなく、「メール復元を困難にするソフト」も簡単に手に入る時代となりました。つまり調査対象者に事前に任意提出を求めた場合、対象者はこれを拒否して、関連パソコンから「復元困難ソフト」を用いてメールを抹消してしまう、ということが考えられます。これは不正調査を著しく困難にしてしまいますので、おそらく「抜き打ち調査」自体もある程度の調査の必要性が認められる場合には許容されるのではないでしょうか。先の日経クイック事件では、メール調査以前の事前面談において、調査対象者が不正事実への関与を否定したことが「必要性」を認めた重要なポイントだったようですが、事前面談も証拠隠滅を促す要素となりますので、面談がなくても、他の証拠によって不正関与の蓋然性が認められる場合には「必要性あり」とされるのではないかと(これは完全に個人的意見ですが)。

内部通報制度の充実は、自浄能力を高めるため、また「組織ぐるみの犯罪ではないか」といった疑惑を排除するためにも有効であることは毎度申し上げているところでありますが、こういった不正調査の手法の有効性を基礎付けることにもつながるわけでして、調査対象者の人権に配慮しながら社内処分、民事、刑事立件のための証拠を保全するためにも有意義なものと考えます。

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2012年3月22日 (木)

公募増資インサイダー事件に思う「信託銀行の法令遵守態勢」

(3月22日午前 追記あります)

本日(3月21日)東証ホールにて「企業不祥事への早期対応に向けた処方箋」なる講演をさせていただきました。ご聴講、誠にありがとうございました。不祥事への早期対応にとって重要なのが「不正の兆候への気づき」と「有事意識の共有」であることを講演で申し上げましたが、本日報じられている中央三井アセット信託銀行によるINPEX(国際石油開発帝石)公募増資に絡むインサイダー事件は、まさに担当者の「気づき」が欠如したことに起因するもののようであります(日経新聞ニュースによると、中央三井の社長さんが「担当者は『重要情報』ではないと判断した」と記者会見で述べたことが報じられております)。課徴金の金額こそ数万円にすぎませんが、一昨年から噂されていた重大なインサイダー疑惑に関するものであり、信託銀行の今後の業務に重大な影響が出ることは想像に難くなく、社会的信用毀損の程度を併せ考えますと、同銀行にとっては極めて重大な不祥事に発展してしまったように思います。

私の妻も長年信託銀行に勤務しておりますので、ときどき「コンプライアンス研修」なるものを受けております。その研修内容をときどき妻から聞いておりますが、あまりにも形式的なものであることに愕然としております。いわゆるWEB研修というものが主流のようですが、基礎的な法令の知識や顧客資金の取扱い等、チェック形式によるもの。もちろん支店職員とホールセール業務を扱う職員とでは、求められるリーガルリスク対応は異なるものだとは思いますが、いわば「金融検査ありき」の法令遵守態勢の構築ではないでしょうか。社員の法令遵守態勢はこうやって確保していますよ、といった履歴を残すための対応ではないかと。いや、金融検査よりももっと手前の社内監査に耐えうるコンプライアンス研修、といったほうがよいかもしれません(支店サイドとしては、本部から臨店する内部監査部のチェックのほうがピリピリするようです)。

社長さんの記者会見でのご発言のように、本当に主幹事証券会社と接触した担当者は「プレヒアリングに関する情報提供は重要情報にはあたらない」と判断したのでしょうか?相手は著名証券会社でありますし、にわかには信じがたいところではありますが、もし本当だとするならば、当信託銀行の法令遵守態勢はどうなっているのでしょうか?このあたりは金融コンプライアンスに詳しいご専門の方のご意見もお聴きしてみたいところであります。そのご担当者の方が、普段どのようなコンプライアンス研修を受けておられたのか。本日、ある取引所関係者の方から「昔は取引所の職員は積極的に株を買ってリスク感覚を理解するよう勧められた。今ではとても考えられないですね」と述べておられましたが、銀行のコンプライアンス感覚も10年で大きく変わったと思います。以前であれば許されていたようなことも、経営環境の変化とともに「絶対に許されない」と理解されなければならないわけでして、そのあたりの環境の変化と金融機関の担当者の意識にズレが生じてしまっていて「気づく」ことができなかったのでしょうか?

もちろん行員の横領事件や説明義務違反(適合性原則)の防止も重要なコンプライアンス研修の中身ではありますが、毎度申し上げておりますとおり、事後規制手法への対応(行員や役員の行為による民事、刑事事件の防止)から事前規制手法への対応(法令遵守違反による信用毀損のリスク。つまりリスクベースで法令違反を回避する対応)へ「態勢整備」の重点をシフトさせていかなければ、今回のような重大な法令違反を早期に回避することは困難ではないかと考えます。このあたりは、金融機関といえども、また厳格な金融検査が存在するといえども、一般の企業と同じではないかと思います。

3月22日午前 追記

毎日新聞ニュースでは情報提供者側である証券会社の営業部門担当者から増資情報が伝わったとされています(毎日新聞ニュースはこちら)。ということはチャイニーズウォールが機能していなかったということなんでしょうか?たしかこの証券会社の情報遮断統制は日本でもナンバーワンとお聴きしておりますが、結局、これも「人の問題」なのでしょうか。また、そうだとすると信託銀行側としても、当然に(プロとして)情報遮断統制のことはご存じのはずですから、「重要情報とは知らなかった」という言い訳が果たして通用するのでしょうか。。。

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2012年3月20日 (火)

取締役の不正行為に関する内部通報を受領した監査役対応(ベリテ社事例)

先日の監査役協会の研修におきまして、取締役関与の不正事例の場合には「ガバナンス+ヘルプライン」でなければ内部通報制度は機能しない、と述べましたが、そのベストプラクティスに近い事例が3月19日に公表されております。

宝飾品小売大手のベリテ社(東証二部)の監査役会は、取締役関与のもと、①商品仕入れに関する架空取引、および②関連会社との間における経済合理性のない取引が行われた疑いがあるとして、これを取締役会に報告し、同時に監査役会の下で第三者委員会を設置し、さらに事実関係を調査するとのこと(リリースはこちら。取締役会も、これに対して全面的に協力するとされております)。

内部通報が監査役の下に届き、その通報事実の調査を監査役会で行い、取締役が関与していた不正の疑いが濃厚になったために会社法上の報告義務を履行したもののようです。もちろん、このリリースだけでは、以前から監査役の方々にとって不正の兆候が認められたのかどうかは不明ですが、社内の通報制度によって経営者不正が明るみになるのは唯一、このパターンしかないのではと思います。

もし本当に、監査役会による報告まで、不正の存在および第三者委員会設置の事実を役員会のメンバーが知らなかったとすれば、監査役間において「有事意識が共有」されたものとして監査が有効に機能した好例ではないでしょうか。また監査役会の下で、機動的な調査対応が要請されることから、「日弁連第三者委員会ガイドラインに完全に準拠するわけではない」と書かれているところも個人的には「好み」です。

1か月程度で出される予定の第三者委員会報告書を楽しみにしております。ということで、お休みモードではありますが、備忘録程度にご紹介いたします。

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2012年3月19日 (月)

不正調査において経営者・指南役に調査協力を求める手法

関西電力に対する大阪市の「脱原発」株主提案が具体化してきたみたいですね。関西電力さんは取締役会設置会社ですから、脱原発の株主提案をそのまましてみたところで、アンケート調査みたいなものになってしまいます。したがいまして「定款変更議案」として提案して3分の2以上の賛成を目指す・・・ということでしょうか。大阪市としては、「どこの会社は脱原発に賛成し、どこの会社は原発推進派だ」と明確にしたいのであれば委任状争奪戦に持ち込むのかもしれませんね。(以下、本論)

金融商品取引法の改正案が3月9日に閣議決定されたと報じられております(たとえばロイターニュースはこちら)。総合取引所制度の整備のほかに、課徴金制度の改革案も盛り込まれているようで、このたびのオリンパス事件をうけて、不正取引に協力した外部第三者への出頭命令や課徴金賦課も可能となるそうであります。とりわけ会計不正事件の発覚を困難にしているのは、必ずと言っていいほど「外部第三者」の不正関与に起因するものであり、外部の不正関与者に対する調査権限の強化やペナルティの新設は、今後の会計不正事件の取締りへの実効性が期待されるところであります。

普段、不正調査の業務を行うなかで、強制権限なく調査を遂行することはむずかしいのですが、経営トップが社員に対して「調査に協力するように」と真摯に広報していただきますと、スムーズに調査が進みます。しかし取締役や監査役など、経営陣が不正に関与しているケースでは、こういった広報が期待できないため、任意の調査に応じてもらえないケースが多いと思われます。経営陣が関与する不正について、経営者や外部協力者に対する不正調査が効果的に行われるためには、具体的な工夫が必要であります。

不正調査に携わる方々は、いろいろと工夫されているところも多いとは思いますが、たとえば会社法における推定規定の活用などもそのひとつではないかと。社内調査や外部第三者委員会の調査などは、時間との闘いであり、正確性と迅速性、独立性のバランスを確保しなければなりません。経営者不正によって社内の資産が流出している事例などをみますと、一部の支配株主(もしくはその株主の支配会社)との取引が問題となったり、顧問と名乗る者と経営者との不透明な関係に基づく非通例的取引が問題となるケースがあります。

こういったケースにおいて、取締役の利益相反取引に関する行為規制を定める会社法356条、365条、取締役の責任について規定する同423条、428条などを活用して、会社と取締役との間における利益相反取引を認定し、会社側に損害が発生している場合には、取締役側で任務懈怠(善管注意義務違反)がないことを積極的に立証しなければ厳しい責任が問われることを取締役側に伝えます。この場合、重要なのは資金の流れなどを把握して、「誰が儲かる仕組みなのか」を考え、会社と取締役との間に利益相反関係が存在することをまず認定することです。ここでは取引の安全保護の要請よりも、会社内部の権利義務関係の整理が問題となりますので、客観的な外形から捉えるよりも、実質的な利益相反状態を示すことができれば足りるのではないかと。もし取締役会で承認決議がとりつけられていたり、事後の報告がなされている場合には、取引を執行した代表者や、当該役員会で賛成をした取締役にも積極的に調査に応じてもわらなければなりません。

これは議決権行使に関する利益供与の禁止を定めた会社法120条の活用にも言えることだと思います。会社法120条は、もともと総会屋対策として会社法に導入された規定ですが、現在は総会屋対策、というよりも、広く「健全な会社運営を害する行為を防止する趣旨の規定」として理解されています。たとえば子会社役員の任免権に関する議決権に関し、親会社に有利な非通例的取引がなされれば、会社法120条に該当しうる(江頭「株式会社法」332頁)とされておりますので、「利益供与」の要件、「議決権行使に関し」の要件に関して客観的な判断が可能であれば、利益供与を行った取締役側で積極的に反論をしていただかないと、取締役側が不利な立場となります。

こういった会社法の規定を活用して、経営者に身の潔白を積極的に主張していただくことになりますが、経営者とともに不正に関与していると疑われる第三者に対しても、経営者の任務懈怠が推定されるのであれば、会社に対する取締役の忠実義務の履行を侵害する者として、不法行為に基づく損害賠償請求を行使しうる、と判断できる場合があります(ただしこの手法は実効性に乏しい、との反対意見あり)。したがいまして、我々の調査では出頭命令などは出せませんが、有利なことを主張してもらわないと、調査結果次第では極めて不利益な立場に立つ、ということを外部の協力者に理解していただき、間接的ではありますが、社内調査に協力を要請する、ということも行われています。

誤解のないように申し上げますが、こういった手法は取締役や外部第三者の責任追及よりも、不正事実の解明、原因究明が目的であります。ご自身の責任問題に関連することは容易に語られないケースが多いので、語っていただくための説得材料として、というのが正直なところです。そもそも「不正の兆候」がなければ合理的な疑いをもって非定例の調査に進むことは困難であります。利益相反取引や利益供与禁止規定などを活用することは、この「不正の兆候」理論の応用であり、社内における信頼関係を崩すことなく、できるだけ関係者の自発的な協力を要請するものとして、今後も工夫してみたいと思っております。

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2012年3月18日 (日)

内部告発を受けた記者さんへの企業側の対応について

今年も3月7日の東京プリンスをもって日本監査役協会主催セミナーの全国ツアー(大阪2回→名古屋→福岡→東京3回)が終了しました。今年は内部通報・内部告発への監査役対応ということで、レジメでは設例を3つご用意いたしましたが、時間の関係で、残念ながらどこの会場でも1つくらいしか解説できませんでした。そのなかで、皆様方から反響が大きかったのが以下の設例でした。

(設例3)

某新聞社の社会部記者からM社広報に電話連絡があった。「御社の件で、M社従業員と名乗る人から、『M社の○○部門のことだが、販売商品に関する試験データの改ざんが長年行われている。試験用の製品を別に作って、これを検査機関に持ち込んでいる』との告発があった。こちらとしても、すぐに記事にはできないので、とりあげず真偽を取材させていただきたい」との話。

M社広報は、とりあえずもう少し詳しく聞かせてほしいとして、社会部記者に尋ねたところ、たしかに試験データ改ざんを疑わせる書類のコピーを入手している気配があったが、その告発者が事情をよく理解していないこと(つまり噂に基づいて告発したこと)から、指摘された内容には多くの事実誤認があった。ただし社内で調査した結果、告発事実に近いデータ改ざんは長年にわたって行われていたことが判明。
M社としては、これにどう対応すべきか。

最近のエントリーにコメントをいただいている皆様方のご意見からすれば、過去の不正は明らかにすべき、とりわけマスコミから取材を受けているのだから当然のことだ、と思われるかもしれません。でも、「後だしジャンケン」の発想ではなく、取材を受けたときの役員さんの印象からすると、過去に重大なコンプライアンス違反があった、というのは半信半疑でしょうし、社内調査の結果と社内の噂とのズレが認められるのであれば、取材に対して「そのような事実はございません」と回答することも虚偽ではないわけで、とりあえずは社内調査の結果を公表しない、とするところが多いのではないでしょうか。(ここからが本当の解説部分ですが、そこはブログで書くにはちょっと長くなりますので省略させていただきます)

ところで、最近、上記設例によく似た事件が発生しております。朝日新聞の記者さんから取材を申し込まれた巨人軍の経営執行部の対応に関するこちらの記事(巨人対朝日新聞・高額契約金報道」で勃発)ですが、本件はたまたま話題性が強い事件であるために、大きく取り上げられておりますが、実は似たような件は結構どこでも発生している、ということであります(上記設例も、私が経験した実例を修正したものです)。どなたが機密資料を持ち出したのかはわかりませんが、保管を厳重にしていたからといって、機密情報が外部に流出してしまうおそれがなくなるわけではございません。上記ニュースによりますと、ジャイアンツの常勤監査役さんが朝日新聞の社会部記者さんと面談されたそうですが、やはりこういった有事において監査役さんが前面に出ることも現実にありえる話です。

また、内部の機密資料を持ち出す・・・ということに対して、内部告発者を刑事告訴したい、というのが企業のホンネではないでしょうか。正当な目的(たとえばマスコミに対する公益通報目的)で社内の機密文書を社外に持ち出す行為は形式的には窃盗罪に該当するかもしれませんが、おそらく違法性は阻却されるでしょうし、不正競争防止法による刑事罰も公益通報目的による情報取得行為には適用されない可能性が高いと思われます。ただし巨人軍の事例では、かなり以前の「業界ルール違反のモラル」が問われているもので、これは公益通報者保護法上の公益通報にはあたらないので(2012年2月現在、434本の法律違反行為が公益通報の対象となります)、告発者による機密情報の外部持ち出しにつきましては、その目的や持ち出し行為の態様、他の立証手段の有無等を検討したうえで違法性の有無が検討されることになります。

会社としては、「とりあえず否定」といった発表をしますと、さらに有力な証拠が出てきて、「なんでウソをついたのか」と反論され、さらに窮地に陥る可能性もあります。米国ではゴールドマンサックスの元社員の会社批判が大きな話題となり、GS側は反論されていないみたいですが、その背景には「ここで反論したら、何が飛んでくるかわからない。とりあえず様子をみよう」といった気持があるからではないかと。

朝日側も、信憑性には十分に自信があるようなので、ジャイアンツ側の今後の対応も含めて、注目されるところです。

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2012年3月15日 (木)

会社が潰れてしまうほどの不祥事を社長は公表できるのか?

一昨日(3月13日)はBDTI(会社役員育成機構)主催のセミナーに多数ご参加いただき、本当にありがとうございました。また、場所を提供いただきましたトムソン・ロイターさんに厚く御礼申し上げます。

ところで14日の朝日新聞ニュースにおきまして、オリンパス社の前社長であるK氏が東京地検特捜部の調べに対して「不正を公表することも考えたが、損失飛ばしの金額があまりにも巨額であったため、どうすることもできずそのまま隠し続けてしまった」と供述していることが報じられております(朝日新聞ニュースはこちら)。他の役員に対して公表することを提案したが、会社や従業員を心配する役員に説得され、そのまま隠ぺいすることに決めた、とか。

しかし、この供述には(私個人としては)疑問を感じます。何度も申し上げるとおり、K氏はなぜウッドフォード氏を社長(代表者)に選任したのか、未だに不明なままですので、これは推測にすぎませんが、損失飛ばしを公表しないことに決めたのであれば、かならず当該不正は次の代に引き継がねばなりません。しかも、単に不正を引き継ぐのではなく、指南役との関係を含めて引き継ぐことになります。これはFA報酬の支払をもって終了するわけではなく、今後の発覚を防ぐためにも不可欠の作業です。これを引き継ぐことができるのは、企業文化を共感できる日本人であり、かつ不正の内容を熟知した者でなければならないはずで、まさに会社や従業員のことを第一に考えて代表者の地位を引き継がせなければ無理な話です。指南役との今後のお付き合いのことを考えれば、会社初の外国人社長が不正を引き継ぐことはむずかしいと思います。私は(K氏の場合)もっと安易に、たとえば経営環境の変化によって処理できる日が来るとか、担当者に任せておけばうまくやってくれるといった気持ちから、ズルズルと損失隠しを続けていたのではないか、と推測いたします。そのほうが、これまでのK氏の供述(指南役による損失飛ばしのスキームはよくわかっていなかった)とも合致するように思います。

ただ、仮にK氏が供述しているとおり、「このまま不祥事を公表してしまうと、会社は潰れてしまうかもしれない。もし潰れてしまったら社員は路頭に迷ってしまう。社員のためにも、一か八か、このまま不祥事を隠ぺいしてしまおう」との気持ちがあったとすれば、社長としては、おそらく不祥事を公表しない方向へのインセンティブが働くものと思われます。実は一昨日のBDTIでのセミナーにおきまして、講演終了後に(今、超上り坂の某上場会社の)常勤監査役さんから、同じ質問を受けました。不祥事は公表すべき、と口では簡単に言えるが、では公表してしまっては会社が債務超過に陥ってしまってもはや存続困難となるようなケースでも公表しなければならないのか、どうせ潰れてしまうのであれば、公表せずに隠ぺいして社員の生活を守る方に賭ける、というのも社長としては正しい選択ではないのか?というものであります。

前回のエントリーでも少し触れましたが、たしかに、こういったケースでは不祥事を発生させてしまった企業の社長としては、公表しないことを選択する気持ちは十分に理解できるところでありまして、ただ単に企業倫理として「不祥事は公表せよ」では解決しない難問かと思います。ただ少し整理をしますと、上記質問は、会社が不祥事を公表しない限り、不祥事が世間で発覚しないことを前提としております。現実には、内部通報、内部告発その他、SNS等ソーシャルメディアが発達した現代において、また経営者不正を手伝う管理職、一般社員がかならず存在する状況において、 「不祥事が発覚しない」と想定できるケースはかなり限られているわけでして、これを安易に「隠ぺいできる」と判断した経営者にはリスク管理義務違反の任務懈怠が認められるケースが多いものと思われます。とりわけ不祥事の隠ぺいには、オリンパス事件に代表されるように外部第三者等の協力者が存在するわけでして、こういった協力者との関係からも、不祥事はかならずバレルと考えておいたほうがよろしいかと思います。例のダスキン事件の場合も、「口止め料をもらって不正隠ぺいに協力した者」が存在したからこそ(過去に違法添加物が混入した豚まんを売り切ってしまった事実が)発覚してしまったわけです。

また、不祥事が発覚するかどうかは別として、粉飾決算のような違法行為を隠ぺいする経営判断は原則として取締役には認められないわけであり、隠匿行為自体も違法性を帯びる意思決定であります。社長は「社員の生活を守るため」と言いますが、社員を守るために隠ぺいを続けるに従って、現在進行形の不正は株主や会社債権者の被害を拡大させ続けていくことになり、社長の上記正当化理由は到底法の保護に値するものではないと考えられます。さらには会社という組織の人員には流動性がありますので、不祥事を隠すことを続けることによって、不正に加担せざるをえない社員の数も増えていくわけです。そうなりますと、悪事に手を染める社員の数も増え、インサイダー取引の可能性も高まることから、おそらく不幸な社員を増やす結果となるはずです。こういった予測からみれば、不祥事を隠ぺいすることが本当に社員の生活を守ることになるのかどうか、そもそも正当化理由たりうるか、という点から問題があるのではないでしょうか。

本件問題は、なかなかすっきりと正答が思い浮かばないところがございます。もちろん、多くの経営者の方は、倫理観に支えられて企業不祥事への対応がなされるものと思います。社員を路頭に迷わせない・・・というのも経営者の立派な倫理観に基づく判断かもしれません。しかし、その考えは「自分ひとりが負の遺産を処理できるという錯覚に基づくもの」であり、「いったん権力を持った者特有の驕り」かもしれません。上場会社の社長の任期は限られています。一人で墓場まで持っていくことはできません。不祥事は隠ぺいすることができても、次の世代の社長さんに負の遺産を背負わせることは、あまりにも代償が大きいことを肝に銘じるべきではないでしょうか。

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2012年3月13日 (火)

生活者の企業観の変遷と「企業不祥事の公表」について考える

一部の新聞でも報じられておりますが、財団法人経済広報センターさんが、第15回生活者の企業観に関する調査結果を公表しておられます。「企業を信頼できる」と回答した方が43%(前回よりも8ポイント下落)と、調査以来初めて下落したそうであります(朝日新聞ニュース)。朝日が報じているように、おそらく昨今の企業不祥事のイメージが生活者の意識に残っていることによるものかと思われます。

個別のアンケート集計結果のなかで興味深いのは、「企業からの情報で不足していると思われるものは?」との問いに対して、「不良品や不祥事に関する情報」で57%と最も多く、次いで、「企業の社会的責任に関する方針・行動指針に関する情報」(38%)、「企業理念やビジョンなど、経営の考え方に関する情報」(37%)とのこと。その一方で生活者の方々は、商品・サービスを購入する際、何を重視して決めるのか、という問いに対して「不祥事を起こしていない企業の商品・サービスを優先して購入を決める」(2011年度27%、2010年度21%)との回答が増えております。

つまり生活者にとってみれば、不祥事を起こした企業は、その不祥事情報は誠実に公表してほしい、と願う反面、不祥事を起こした企業の商品は買わない傾向にあるわけでして、企業業績に及ぼす影響を考えるならば、(できることなら)不祥事を隠して商品を売る、というインセンティブが企業に働くことが考えられます。とくに消費者の安全・安心に関わる商品であれば、不祥事情報は商品の売上に直結するものでしょうから、「できることなら墓場まで持っていく」つもりで自社の不祥事は隠したいところでしょう。

もちろん本当にバレる可能性がないのであれば、(取締役の信用回復義務なる発想がそもそも出てこないわけですから)それはもはや法律の世界ではなく、企業倫理や経営理念、トップの経営方針に拠るところの話だと思います。しかしこれだけ内部告発やネット上の犯人捜しが横行する現代社会において、本当に墓場まで持って行ける不祥事がどれだけあるのでしょうか?今朝(3月12日)の日経法務インサイドでも話題になっておりますように、急激なSNSの発展によって犯人探しがあっという間に展開されます。以前、当ブログで「日清ラ王騒動」を取り上げましたが、高齢者の朝日新聞への投稿記事が発端となって、2ちゃんねるで犯人探しが始まり、わずか半日で日清食品さんの問題行動が発覚、翌日に謝罪広報となりました。日清食品さんの対応は極めて速やかなものでしたが、後日、不祥事が「発覚」してしまった場合、自ら公表する場合とはくらべものにならないくらい「安全、安心」への信頼は喪失されることになります。「不祥事発覚の可能性」を十分に検討しない場合は、リスク管理体制の構築に関する問題となり、役員の善管注意義務違反が法的責任として問われる事態となります。

それでは不祥事を公表することで事業自体が継続できなくなる可能性が高いケース、逆に公企業に近い法人で、不祥事隠しが非難されて信用が落ちても、売り上げが落ちない企業のケースではどのように考えればよいのでしょうか。こういったケースでは、レピュテーションリスクの恐ろしさを経営者が共有できないため、不祥事を隠すことへのインセンティブが高まるように思われます。しかし「不祥事の公表」は企業の隠ぺい体質を体現するものとして企業の社会的評価に関わるリスクと考えられるだけでなく、企業による情報提供の一環とも言えるものと思います。企業が財やサービスを国民に提供している以上、その商品を世に出す企業は(通常の耐用年数に至るまで)国民の生命、身体、財産の安全を確保する義務があります。たとえば商品リコールは、企業だけで判断するものではなく、国民との情報のやりとりのなかで国民と一緒に(その要否および原因を)判断する、というアメリカの思想があります。企業が国民に情報を提供しない、ということは、当該企業が世に出した製品の安全性を保証しないことを意味するのであり、パロマ工業事件刑事事件判決のように経営者には厳格な法的責任が認められる場合が生じます。これはリスク管理の領域を超えて、企業経営の根幹に関わる問題だと理解しております。

「不祥事」といっても、公表しなければならないほどの重要性があるケースはそれほど多くないと思いますが、たしかに上の調査結果からすれば、不祥事を発生させてしまった企業の商品は(公表することで)一時的には売れなくなってしまうかもしれません。しかし「自浄能力」のある企業であることを発信すれば、市民と企業との間における信頼関係を、かろうじてつなぎとめ、名誉挽回のチャンスは訪れるものと思います。いっぽうで、公表しないことが後日発覚する企業では、もはや社長がなんと弁解しても国民からは信頼されず、社会的責任を全うできない企業、というイメージがいつまでもつきまとうことになるかと思われます。

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2012年3月12日 (月)

金商法の改正と「第三のガバナンス改革」

来月、日本監査役協会の全国会議でご一緒させていただくパネリストの方から、金融危機以降の欧米のコーポレートガバナンス改革についてご教示いただく機会がありました。海外の動向に疎い者として、とても新鮮に聴かせていただきました。

以下は私の頭での理解でありますが、1990年代が取締役会改革や社外役員による外部統制を中心とした第1フェーズ、2000年代がエンロン事件等を契機とするSOX法など内部統制の規制を中心とした第2フェーズです。そしてリーマンショック後の(2010年代の)第3フェーズはドット・フランク法やEUグリーンペーパーに象徴されるような金融機関の経営監視、格付け機関の管理規制、会計監査人の監督強化、機関投資家の責任問題等を中心課題として、いわゆる企業を評価する外部組織の統制を通じて企業の統制を図る、というもの。健全な経営を継続している企業に(今以上の)直接的な負荷をかけないようにしながら、なおかつ企業統治の健全性を向上させる、ということへの配慮かと思われます。

3月10日の日経新聞朝刊に、金商法改正が閣議決定された、と報じられております。オリンパス問題のインパクトからだと思いますが、企業の粉飾決算に加担・協力した第三者に対して出頭命令を出したり、課徴金を課すことができるようにするとのこと。また粉飾決算だけでなく、インサイダー取引や不公正ファイナンス、相場操縦等の不正についても協力者への制裁条項を新設するそうであります。普段から不適切な会計処理を行った上場会社の第三者委員会報告書を読む者からしますと、ほとんどの事例において外部の協力者の存在が認められるわけでして(だからこそ会計監査人による発見が困難なわけで)、そのような協力者への行政処分は不正抑止へ実効性が期待できる一方、企業の資金調達の面における副作用(萎縮的効果)に若干の不安も残るのではないでしょうか。

こういった金商法の改正は、オリンパス問題を契機として「場当たり的に」行われるように一見思えるのですが、先に掲げた「第三のガバナンス改革」にある機関投資家責任の強化に通じるところがあるように思います。平成21年の金商法改正では登録信用格付業者に対する業務管理体制の整備義務が新設され、林原社問題を発端に上場会社のガバナンス強化に金融検査が活用され始め、そして会計監査人の監督を通じて「問題企業をあぶりだす」といった一連の規制手法をみますと、すでに日本でも「第三のガバナンス改革」の流れが始まっているのかもしれません。3月11日の日経新聞朝刊に、電子版読者アンケート結果が集計されており、日本の企業統治には何らかの問題がある(機能していない、機能しているが諸外国と比べて見劣りする)と回答した方が9割にも及んでいるとのこと。米国ドット・フランク法におけるプロキシー・アクセスのような委任状制度の民主化まではちょっとむずかしいとは思いますが、日本のガバナンスもグローバルスタンダードを意識することが必要なのでしょうね。

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2012年3月 9日 (金)

オリンパスの法人起訴とSESCの課徴金処分勧告

先日、拙ブログにおいてオリンパス事件が予定調和的に解決できない理由として、「大きな力」でも制御できない「検察の正義」と「株主代表訴訟」の存在を挙げました。本事件の幕引きに向けてのストーリーが出来上がったとしても、そのストーリーは検察には通用せず、独自の正義感によって立件がなされる可能性が高いと思料されます。現に大方の見方が3名逮捕だったのに、ふたを開ければ7名逮捕という点が、まさに「検察の正義」だと思ったわけですが、またまた異例の事態が続くような状況にあるようです。

3月7日の日経社会面の記事ですが、金融庁は法人としてのオリンパス社を刑事告発したばかりですが、今度は証券取引等監視委員会が1億円超の課徴金処分を(金融庁に)勧告する予定と報じられています。つまり虚偽有価証券報告書提出、という一つの事実に対して、刑事処分と行政処分を併科する、ということであり、これは金融商品取引法(証券取引法)に課徴金制度が創設されて以来、全く初めてのことであります。まさに異例中の異例の事態が生じております。これは証券取引等監視委員会の再編問題(5課➔6課 開示検査課の独立)に絡む問題なのでしょうか、それとも金融庁と検察庁との力関係に起因するものなのでしょうか。それとも他に理由があるのでしょうか。

憲法39条違反(二重処罰の禁止)の疑義が残るなかで、経済犯罪において、どうしても検察がイニシアチブをとりたい、という気持ちの現れなのでしょうか。これも有識者の方々の間では、オリンパスの法人としての処分はおそらく課徴金どまりだろう・・・とまことしやかにささやかれておりましたが、結局は「検察の正義」が通る形となりました。このように「検察の正義」がオリンパス事件の前面に出てくる・・・ということであれば、やはり私の予想しておりますとおり、今後もオリンパス事件では組織的関与を示すような何か新しい事実が出てくるのではないかと思われます。

なお、継続開示義務違反に対する課徴金処分の導入と刑事処罰との関係については、内閣法制局の見解等も含め、また別途エントリーしたいと思います。

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2012年3月 8日 (木)

やっぱりコワイP.O.BOX957BVI

ひさしぶりにオオボケをやってしまいまして、研究会の日程を一日間違えてしまいました(ToT)/~~~ということで青山一丁目のサントリー系列のお店におります。。。関係者の皆様にたいへんご迷惑をおかけしております。。。

本日、AIJ運用資産が同社系列の会社によって評価が改ざんされていた、との日経新聞ニュースが出ておりますが、この系列会社(私募投信を設定する会社)は、かの有名な「英領バージン諸島 私書箱957号」に本拠を置くものだそうです(3月1日の日経新聞 R&Iの方の記事より)。

こちらのエントリーでもご紹介しております、あの方が「私書箱957号は120%怪しい!」と5年ほど前から公言されておりますとおり、またまたこれを裏付ける結果となってしまっていたようです。

しかしBVIが法人設立や運営において規制が甘い・・・というのは理解できるのでありますが、数ある私書箱のうち、どうして957号だけがそんなに怪しい企業が集まっている(可能性が高い)のか、その根拠がよくわかりません。なにか「法人つながり」のようなものがあるのでしょうか。つながりは不明でも、資金の流れのようなものが957号法人に特別なものがあるのでしょうか。

どなたかコソッと教えていただければ幸いでございます<m(__)m>

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2012年3月 7日 (水)

オリンパスの法人起訴(刑事告発)と上場維持の判断

オリンパス社の元社長であるウッドフォード氏が4月20日、「解任」という著書を早川書房から出版するそうであります。「疑惑の発覚から突然の解任までの真相を明かす衝撃の告白。」とのことで、どうでしょうか、いままで語られてこなかった新事実がそこで浮上してくるのかどうか、とても興味津々の一冊です。

さて、新たな事実が出てくるのかどうか、といいますと、本日(3月6日)証券取引等監視委員会は、オリンパス社による虚偽有価証券報告書提出罪の嫌疑について東京地検に刑事告発をしたことを発表しました。現時点では2008年3月期までの水増し純資産計上だけの告発ではありますが、法人の刑事告発を事前に予想しておられた3月3日付の日経新聞が報じるところでは、東京地検特捜部は、(1)長年にわたり損失を簿外処理するなど一連の不正経理が歴代社長や財務担当役員らの間で引き継がれていた、(2)旧経営陣らが部下に指示し業務の一環として粉飾を実行していた――ことなどから「組織的な犯行に当たる」との見方を強めたとあります。また、当ブログにおける昨年大みそかのエントリーでも書きましたように、昨年の時点からNHKニュースでは東京地検特捜部が法人としてのオリンパスの立件を検討していると報じており、その理由として一連の巨額損失飛ばしや過大なFA報酬の上乗せについて、経営トップだけでなく、財務担当社員らも関与していることを理由として「組織ぐるみと特捜部が判断している」とのこと。昨年のNHKの記事や上記日経新聞記事などからすれば、相当程度の社員が経営トップの損失飛ばしに加担していたのではないかと推測されます(あれだけの粉飾を、外部の指南役とわずか3名程度の経営執行部だけで敢行できるはずはなく、当然といえば当然のことだと思いますが)。

今年1月20日の時点におきまして、東証さんは異例のスピードで「オリンパスは上場維持」と決定されたのでありますが、いまさらながら、海外の機関投資家の声に押されたのではなく、本当に諸般総合したうえでの上場維持だったのかどうか、疑問が残るところであります。もちろん、「組織ぐるみ」かどうかの判断だけで上場維持が決定されるわけではありませんが、3月5日の日経新聞(三宅伸吾さんの法務インサイド記事)でもとりあげられているとおり、日興コーディアルの上場が決定されたときの記者発表では、東証トップの方は西武やカネボウとは異なり、「組織ぐるみ」ではないことを強調されておられました。このたび、東証さんが認定した事実と検察庁の認定事実とが合致しており、単に「評価のちがいにすぎない」のであれば、特に問題はないだろうと思います。しかし、たとえばオリンパスの本業の儲けを偽装したものではないとしても、その損失飛ばしに多くの社員が関与していた(手伝っていた)という事実が新たに出てきた場合には、事実の食い違いが問題視されるのではないでしょうか(オリンパス社の第三者委員会報告書では、すでに経営陣のほか3名ほどの社員が関与していたことは記載されていましたので、そのあたりの事実まで東証さんが認識したうえでの判断・・・ということであれば事実に食い違いはないことになりますが)。

もう一点、私が気になりますのは、東証の上記判断の前に出された「オリンパス監査役等責任調査委員会報告書」の「結び」の文章であります。本件で極めて問題なのは、公認会計士や弁護士など、一般的に信頼の置ける専門家の評価や意見を悪用したことである、それらの評価や意見が限定的な条件のもとで作成されていることに注意を向けなかった役員や監査法人にも問題があるかもしれないが、そういった作成経緯を専門外の方々が知らなかったとしてもやむをえないところがあり、「専門家がこのような評価や意見を述べているのだから問題がないのだ」といった評価結果等を巧妙に活用して違法行為を隠ぺいしたことが問題である、と指摘して締めくくられています。私も今回のオリンパスの一連の事件において、会計士や弁護士(2009年当時の調査委員会)の評価書や意見書が経営執行部側に活用されている点はとても重要な論点だと認識しています。もっとも象徴的なのはウッドフォード氏が解任された理由が海外のメディアから伝えられたとき、オリンパスの当時の首脳陣は「我々は監査役会から適法意見をもらっているから何等やましいところはない」と明言されました。そのお墨付きを与えたとされる監査役会も、わずか1週間で結論が出された2009年当時の調査委員会報告書や某会計士事務所の鑑定評価書に依拠して「問題なし」との結論を取締役会で報告しています(第三者委員会報告書 参照)。

こういった会計士や弁護士の方々は、あくまでも限定条件付きでの判断である、との前置きをして評価や意見を述べているわけですから、当該専門家の方々は責められるものでもないわけで(多少はあるかもしれませんが、あまり世間で問題にはされていません)、だとすれば、この評価や意見が、さも「お墨付きを与えたもの」であるかのように巧妙に活用する者がいたとすれば、かなり悪質なものではないかと思われます。

最近、大規模な第三者割当増資が行われる場合には、東証のルールでも金融庁の開示ルールでも社外監査役等による意見の開示が求められます。現実に監査役会が「待った」をかけて取締役に第三者割当増資の中止を求めた事例がかつて紹介されていましたが、そういったケースでも監査役会の意見形成のために専門家の意見を求めることが増えています。そこで出てくる意見が無条件に問題なし、といったものかどうかは、投資家からはわかりません。ひょっとすれば多くの前提条件のもとでの「条件付きの限定意見」かもしれません。この解釈は極めて経営陣の誠実性に依拠せざるをえないところであり、そこにミスがあれば投資家の判断に極めて大きな影響を与えることになります。

もちろんオリンパスの件では、法や自主ルールによって関係者の意見開示が要求されていたものではありません。しかし、M&Aで取得した法人の価値や過大なFA報酬の合理性については当時の会計監査人から疑義が示され、専門家の意見をとってほしいとの要望があったからこそ、意見書をとりつけた経緯があります。監査意見という開示情報が意見書等によって影響を受けたことは間違いない事実であります。したがって、その時点での経営陣の誠実性の欠如は極めて投資家を愚弄したものと評価されてもいたしかたないと思います。その「経営陣の誠実性」に問題があれば、この点こそ(上記責任調査委員会報告書が締めくくっておられるとおり)本件の特徴的なポイントであり、上場維持の判断のなかでも斟酌せざるをえないと思うのでありますが、いかがなものでしょうか。

この「上場維持」の判断をされた東証の上場管理部さんからお招きを受けて、3月21日には東証ホールでお話をさせていただくわけでして、あまり気の強くない私としましては、到底東証さんの判断を批判できる立場にはございません(^^;。しかし、今でも東証さんの判断がスッキリと理解できておりません。少なくとも上場廃止決定禁止の仮処分等のなかで、今回の判断を先例として「悪用」するような企業が出てこないようにするためにも、東証さんには上場廃止基準の在り方や、特設注意市場銘柄指定、再上場の在り方などを検討していただきたいと願うところであります。

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2012年3月 5日 (月)

パルコ社外取締役の「置き土産」は吉と出るか凶と出るか?

エルピーダ倒産やAIJ年金資産消失事件、オセロ中島さん事件などが世間の注目を浴びるなか、すこし地味ですが、どうしても関心を抱いてしまうのが「パルコvsイオン」。さすが日経さんだけは、結構執拗に報道しておられます。毎度申し上げます通り、私はM&Aに精通した弁護士でもなんでもありませんので、単なる野次馬的関心しか持たないわけですが、昨年4月のエントリーでも書きましたように、「パルコvsイオン」とは、パルコの筆頭株主だった森トラスト社との信頼関係が破壊された間隙をぬってイオン社が12%ほどのパルコ社株式を米系ファンドから取得し、あわや敵対的買収寸前までいきましたが、双方譲り合い、最後は委任状争奪戦が回避された一件のことです。その後は和解的協議により、パルコとイオンにおいて業務提携検討委員会が設置され、イオンとの相乗効果が模索されていたところとばかり思っておりました。

ところが今年の2月下旬に、百貨店経営のJフロント・リテイリング社(大丸・松坂屋グループ)が、パルコの筆頭株主であった森トラスト社から33.2%の株式を取得したことで、事態が急に動き出した模様であります。イオン社の知らぬところでホワイトナイト出現・・・ということで、3月3日の読売新聞朝刊では、イオンのCEOの方が「パルコはちゃんと我々に説明する責任がある。理由によっては対決する。簡単に保有株は手放さない」とおっしゃったようです(ブルームバーグニュースより)。4年前のイオンによるCFSコーポレーション統合否決→子会社化の剛腕を記憶している方からすれば、Jフロント、日本政策投資銀行等の大株主との関係を含め、これからのイオン社の出方がとても気になるところかと。

しかしこうやってパルコにホワイトナイトが登場するにあたっては、パルコの取締役にイオン出身者がいらっしゃるにもかかわらず、イオンCEOから「俺は聞いていない」的な発言が飛び出してきたわけですから、パルコの取締役会におけるイオンの影響度が希薄だったものと思われます。イオン・森トラスト連合軍(議決権45%)だった昨年は、イオンから3名、森Tから2名の役員を送り込むことが要求されていましたが、委員会設置会社であるパルコの指名委員会を構成する4名の社外取締役(いずれも独立役員とのこと)が「パルコ防衛」を目的として交渉、最終的にはイオンから1名のみの役員選任に落ち着かせた、と報じられております(2011年4月21日付け日経朝刊記事より)。

イオン社との交渉にあたり、おそらくパルコ社の社外取締役の方々は、買収防衛策発動をちらつかせたり、従業員声明を出したり、最後は(おそらく)日本政策投資銀行のCBを(銀行の同意のもと)株式転換して(議決権18%)委任状争奪戦を辞さない構えで臨んだのではないかと推測いたします。2011年4月22日付け日経新聞の記事だと、この当時、日本政策投資銀行は、株式転換によって18%の議決権をもって(本気で)委任状争奪戦に乗り込む雰囲気だったようですので、そのあたりもパルコ側としては大きな力だったのかもしれません。結果は森T出身の社外役員2名はそのまま選任されたものの、イオンからの社外取締役は1名のみ、その代わりパルコの社長は辞任(ただし執行役としては残る)、買収防衛策は撤回、というところで落ち着いております。つまり役員の半数がイオン・森T連合軍となるはずが、10名中3名のみという結果となりました。なお、この攻防の後、指名委員会を構成していた社外取締役の方々は、指名委員会議長の方(ヤマト運輸会長)以外は全員が辞任、まさに「パルコの自主独立性」を置き土産に残してパルコ社を去って行かれました。

Jフロントは森T社から株式を取得したわけですから、パルコの取締役会が第三者割当を行ったものではありませんが、イオン社との業務提携検討委員会を粛々と進めつつも、水面下では森T、Jフロント、日本政策投資銀行あたりと共に、このたびの対応を検討されていたものに違いありません。つまりパルコの役員会において、イオン側役員がたった一人、という点がこのたびのホワイトナイト出現に大きく響いたのではないでしょうか。パルコ社は、元々西武グループ系列だったわけですから、やはり百貨店系列傘下、ということであれば社内でも歓迎ムードではないかと思います。しかしイオン社としては、百貨店がホワイトナイトだけに、まさにビックリ仰天、梯子をはずされた気分ではないかと。もちろん経済的な利益・・・という視点からすれば、適当な時期にイオンはパルコ株式を売却してしまえばいいわけですから、大損をした、というものではありませんが、相乗効果を狙っていた立場からすれば「とても痛いニュース」だったと思います。調剤薬局とファッション業界では、消費者と製品との距離感が全く異なりますので、委任状争奪戦が企業価値に及ぼす影響(レピュテーションリスクは高いと思われます)にも配慮しなければならないのでしょうし、現在の株価の1.6倍というJフロントの株式取得価格も気になります。東洋経済さんは、もはやイオン社は静かに退出する可能性が高いと報じておられますが、私にはどうもこのまま「天下のイオングループ」がひっこむようには思えません。イオン社がどのような「次の一手」を打ってくるのか、第三者的にはとても興味を覚えるところであります。

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2012年3月 1日 (木)

「不正の共謀」は組織の連帯感を育(はぐく)むかもしれない

本日(2月29日)は、日本CSR普及協会主催、関経連後援事業「企業不祥事への対応」(基調講演とシンポ)に多数ご参集いただきまして、誠にありがとうございました。230名以上の方に大阪弁護士会館にお越しいただき、会場も満席となり、セミナーも無事終了いたしました。法律雑誌や某著名ネットニュースの取材もありましたので、当日の様子(雰囲気)などはまたご覧いただけるのではないかな・・・と思っております。2月15日のエントリーでも述べましたが、マスコミに追われて(ボコボコにされて)不祥事対応を体験された方でないとわからないことが多く、その一端でも、あのように赤裸々に語っていただけたことは、私だけでなく、聴講されていた方にも有益なシンポになったのではないでしょうか。

さて、シンポにもお越しいただいていた会社様のことで、ご紹介しにくいのですが、戸田建設社が2月13日付けにて、連結子会社における不適切会計処理に関する第三者委員会報告書をリリースされております。連結子会社で、会計基準に適合しない売上の繰上・繰延計上、伝票操作による原価の付替え、不良債権の隠ぺい等が約10年間繰り返され、過年度決算の訂正を余儀なくされた事例でして、その不正会計の中身については、とくに珍しいといったものではございません。

ただ、子会社不正がなぜ10年間も親会社に報告されず、また親会社も発見できなかったのか、その背景事情が非常に詳しく第三者委員会によって分析されており、興味深いところです。会社法ではひとくちに「企業集団内部統制」などと言われるところですが、その実効性を確保することが結構むずかしい、ということが理解できます。ここではゼネコンの下請子会社ならではの特殊背景なども詳しく紹介されており、企業不正の発生原因を知るうえにおいて、改めて第三者委員会報告書を読むことの大切さを認識いたしました。

とりわけ、不正会計処理を行っていたこの子会社では、親会社から派遣されてきた役職員と子会社プロパーの役職員との信頼関係が(ゼネコン子会社の特殊事情によって)破壊されていたわけですが、平成13年の国税調査の折、プロパーの副社長を筆頭に会計不正が行われていたことが子会社内部において発覚します。当然、親会社から派遣されていた役職員も、これを知ることになるわけですが、子会社監査役(親会社の部長兼務)が、この不正を知ったにもかかわらず、子会社不正が親会社に知られると(立場上)マズイと思い、これを報告しないことを決定しました。もはやこれまでか、と思っていたプロパーの役職員は、この監査役の態度に驚き、そこから「共犯者意識」を共有することになります。この共犯者意識が連帯感を生んだのか、その後は粉飾に粉飾を重ね、10年間も親会社に不正を報告することもなく、今回も子会社から報告を受けるまで親会社は見抜けなかった、というものです。

子会社プロパー社員と親会社派遣役職員との対立の激化で「労務倒産」寸前まで至った会社(子会社)が、双方が会計不正を共謀することで連帯感を生む・・・といったことは、これまであまり聞いたことがありません。第三者委員会の委員は「当該子会社監査役が最も責任が重い」と判定しておりますが(子会社社長も親会社から派遣されておりますが、親会社の職階では、この監査役さんのほうが断然上のようです)、親会社がこの子会社監査役の方を当該子会社に送り込んだ理由もわからないではありません。親会社で実力を発揮されていた部長級の方であり、最初は顧問として子会社のお目付け役として役割を果たしておられたとのこと。「彼に監査役をやってもらえば間違いない」との信頼があったことで、派遣役職員を全面的に信頼していたように思われます。ただ、慣行としていったん子会社に派遣されてしまうと「片道切符」だったようで、親会社には戻れない・・・ということであれば、どうなんでしょうか、やはり派遣される立場の方からすれば、親会社への忠誠心というものに陰りが見えてくる、ということはないのでしょうか(このあたりは、私はサラリーマンの経験がないのでわからないところですが)。親会社の期待と派遣役職員の忠実義務との間にズレが生じたのではないか、そのあたりが本当の不正放置の原因だったのではないか、と感じた次第です。もうこうなりますと親会社への忠誠心ではなく、たとえ子会社であっても「監査役という職責」への意気込みが支えにならないと法の要求する職責を全うすることが困難になるのではないか・・・と考えます。たとえば最近は増えてきましたが、グループ企業間での「監査役連絡会議」等によって、それぞれの意識の向上や連帯感を醸成する、といったことも不可欠ではないか・・・と。

本件では、親会社が監査等によって発見した(つまり自浄作用が機能した)事例ではないようですので、なおさら再発防止のためには、プロセスチェックをしっかりしたうえで、原因を究明する必要があるのではないかと思いました。

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