金商法の改正と「第三のガバナンス改革」
来月、日本監査役協会の全国会議でご一緒させていただくパネリストの方から、金融危機以降の欧米のコーポレートガバナンス改革についてご教示いただく機会がありました。海外の動向に疎い者として、とても新鮮に聴かせていただきました。
以下は私の頭での理解でありますが、1990年代が取締役会改革や社外役員による外部統制を中心とした第1フェーズ、2000年代がエンロン事件等を契機とするSOX法など内部統制の規制を中心とした第2フェーズです。そしてリーマンショック後の(2010年代の)第3フェーズはドット・フランク法やEUグリーンペーパーに象徴されるような金融機関の経営監視、格付け機関の管理規制、会計監査人の監督強化、機関投資家の責任問題等を中心課題として、いわゆる企業を評価する外部組織の統制を通じて企業の統制を図る、というもの。健全な経営を継続している企業に(今以上の)直接的な負荷をかけないようにしながら、なおかつ企業統治の健全性を向上させる、ということへの配慮かと思われます。
3月10日の日経新聞朝刊に、金商法改正が閣議決定された、と報じられております。オリンパス問題のインパクトからだと思いますが、企業の粉飾決算に加担・協力した第三者に対して出頭命令を出したり、課徴金を課すことができるようにするとのこと。また粉飾決算だけでなく、インサイダー取引や不公正ファイナンス、相場操縦等の不正についても協力者への制裁条項を新設するそうであります。普段から不適切な会計処理を行った上場会社の第三者委員会報告書を読む者からしますと、ほとんどの事例において外部の協力者の存在が認められるわけでして(だからこそ会計監査人による発見が困難なわけで)、そのような協力者への行政処分は不正抑止へ実効性が期待できる一方、企業の資金調達の面における副作用(萎縮的効果)に若干の不安も残るのではないでしょうか。
こういった金商法の改正は、オリンパス問題を契機として「場当たり的に」行われるように一見思えるのですが、先に掲げた「第三のガバナンス改革」にある機関投資家責任の強化に通じるところがあるように思います。平成21年の金商法改正では登録信用格付業者に対する業務管理体制の整備義務が新設され、林原社問題を発端に上場会社のガバナンス強化に金融検査が活用され始め、そして会計監査人の監督を通じて「問題企業をあぶりだす」といった一連の規制手法をみますと、すでに日本でも「第三のガバナンス改革」の流れが始まっているのかもしれません。3月11日の日経新聞朝刊に、電子版読者アンケート結果が集計されており、日本の企業統治には何らかの問題がある(機能していない、機能しているが諸外国と比べて見劣りする)と回答した方が9割にも及んでいるとのこと。米国ドット・フランク法におけるプロキシー・アクセスのような委任状制度の民主化まではちょっとむずかしいとは思いますが、日本のガバナンスもグローバルスタンダードを意識することが必要なのでしょうね。
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