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2012年3月28日 (水)

ガバナンス改革「第三の波」と企業周辺領域への規制拡大

ジュリストをはじめ、最新の法律雑誌はどれも「会社法改正(中間試案)特集」ばかりです。著名な学者、法律実務家の方々の魅力的な論稿や座談会記事が多すぎて、いったいどれがおススメなのか、よくわかりません。かくいう私自身も、会社法改正関連ではございませんが、「社外監査役の理論と実務(第二版)」(商事法務)の編集作業が大詰めとなりまして、条文解釈や判例解説記事の最終チェックをしております。

会社法改正の着地点がどのあたりになるのか、まだまだ不明な状況でありますが、先日ご紹介しましたように、ガバナンス改革はリーマンショックを契機として世界的に「第三の波」が押し寄せているようでして、会社法の改正がどのような結果になったとしても、この第三の波が日本企業のガバナンス改革にどこまで影響を及ぼすことができるのか、今後注目されるところかと思います。会社や会社役員に対する法的な行為規制ではなく、会社に影響を及ぼす外部第三者の力をもってガバナンス改革に取り組むというものであります。ここで力を発揮しそうなのが、金融庁によるガバナンス改革への構想(?)であり、以下は勝手な私の推測による構想図であります。

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上の「金融庁」から出ている黒い線は監督権限や組織的なつながりを示すものです。各組織から企業に向かっている矢印が企業のガバナンス改革に影響を与えるテーマです。たとえば証券取引等監視委員会は、昨年の機構改革で「課徴金・開示検査課」から「開示検査課」を独立させました。課徴金制度は事後規制の世界ですから、ここから独立した「開示検査課」は不正開示を早期に見つけて、企業に早期是正を促す、という事前規制を重視しております。証券取引所については、先のオリンパスの上場維持の理屈(事件発覚後のオリンパス社の自浄作用を考慮して、将来の投資家に迷惑をかけない体制が認められれば、今の株主保護を重視する)や、企業行動規範による上場管理(独立役員制度等)によって企業自身によるガバナンス改革を促しております。監査法人はJ-SOXにより、企業の統制環境をチェックします。金融機関は(林原社事件で明らかなとおり)、信用リスク管理態勢の強化において、企業のガバナンスをチェックします。平成21年金商法改正によって格付機関に対する行政当局の監督権限が強化され、今後はガバナンス評価が見直されるかもしれません。

これらに加えて、最近のAIJ事件やオリンパス事件を契機とした海外機関投資家へのチェックなども(法改正により)含まれてくるわけでして、企業に対する直接のガバナンス規制ではなく、周辺領域への開示規制や監督権限(品質管理)の手法を活用して、政府の事前規制を代替する「事前規制」によりガバナンス改革を実現する方向が検討されます。

では金融庁の監督権限が及ばない領域についてはどうするか?そこは既に金融庁によって布石が打たれており、たとえば弁護士は日弁連ガイドラインに基づく第三者委員会の設置、という手法を奨励することで(これも事前規制の世界であります)、金融庁の味方につけることにほぼ成功しつつあるのではないでしょうか。強制加入団体である日弁連が関与する第三者委員会、しかもステークホルダーの利益を第一に考える・・・というところがミソであります。

また、各企業における監査役につきましては、平成20年の金商法改正によって新設され、このたびのオリンパス事件でも話題となりました金商法193条の3で布石が打たれてあります。会計不正事件の疑いを持った監査法人が、社内での早期是正を求めて監査役に「是正措置要求」を通知し、それでも会社がなんらの対応をしない場合には金融庁への届出義務を監査法人に課す、というもの。平時対応、有事対応、いずれにおいても、すべて事前規制の世界です。不正を起こさないガバナンス、不正を早期に発見し、これを自浄能力をもって解消するガバナンスを外圧によって企業に求めるという流れになろうかと思います。

上記の図は、本当に未熟なものにすぎませんが、ガバナンス改革は会社法改正だけの問題ではない、ということが今後次第に明らかになってくるのではないかと考えております。佐々木審議官の講演をお聴きしたり、また金融庁長官でいらっしゃった五味さんの新刊書を拝読し、1998年ころからの激動の金融行政を垣間見て、ふと、上記のような構想を思い浮かべた次第です。

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