「不正の共謀」は組織の連帯感を育(はぐく)むかもしれない
本日(2月29日)は、日本CSR普及協会主催、関経連後援事業「企業不祥事への対応」(基調講演とシンポ)に多数ご参集いただきまして、誠にありがとうございました。230名以上の方に大阪弁護士会館にお越しいただき、会場も満席となり、セミナーも無事終了いたしました。法律雑誌や某著名ネットニュースの取材もありましたので、当日の様子(雰囲気)などはまたご覧いただけるのではないかな・・・と思っております。2月15日のエントリーでも述べましたが、マスコミに追われて(ボコボコにされて)不祥事対応を体験された方でないとわからないことが多く、その一端でも、あのように赤裸々に語っていただけたことは、私だけでなく、聴講されていた方にも有益なシンポになったのではないでしょうか。
さて、シンポにもお越しいただいていた会社様のことで、ご紹介しにくいのですが、戸田建設社が2月13日付けにて、連結子会社における不適切会計処理に関する第三者委員会報告書をリリースされております。連結子会社で、会計基準に適合しない売上の繰上・繰延計上、伝票操作による原価の付替え、不良債権の隠ぺい等が約10年間繰り返され、過年度決算の訂正を余儀なくされた事例でして、その不正会計の中身については、とくに珍しいといったものではございません。
ただ、子会社不正がなぜ10年間も親会社に報告されず、また親会社も発見できなかったのか、その背景事情が非常に詳しく第三者委員会によって分析されており、興味深いところです。会社法ではひとくちに「企業集団内部統制」などと言われるところですが、その実効性を確保することが結構むずかしい、ということが理解できます。ここではゼネコンの下請子会社ならではの特殊背景なども詳しく紹介されており、企業不正の発生原因を知るうえにおいて、改めて第三者委員会報告書を読むことの大切さを認識いたしました。
とりわけ、不正会計処理を行っていたこの子会社では、親会社から派遣されてきた役職員と子会社プロパーの役職員との信頼関係が(ゼネコン子会社の特殊事情によって)破壊されていたわけですが、平成13年の国税調査の折、プロパーの副社長を筆頭に会計不正が行われていたことが子会社内部において発覚します。当然、親会社から派遣されていた役職員も、これを知ることになるわけですが、子会社監査役(親会社の部長兼務)が、この不正を知ったにもかかわらず、子会社不正が親会社に知られると(立場上)マズイと思い、これを報告しないことを決定しました。もはやこれまでか、と思っていたプロパーの役職員は、この監査役の態度に驚き、そこから「共犯者意識」を共有することになります。この共犯者意識が連帯感を生んだのか、その後は粉飾に粉飾を重ね、10年間も親会社に不正を報告することもなく、今回も子会社から報告を受けるまで親会社は見抜けなかった、というものです。
子会社プロパー社員と親会社派遣役職員との対立の激化で「労務倒産」寸前まで至った会社(子会社)が、双方が会計不正を共謀することで連帯感を生む・・・といったことは、これまであまり聞いたことがありません。第三者委員会の委員は「当該子会社監査役が最も責任が重い」と判定しておりますが(子会社社長も親会社から派遣されておりますが、親会社の職階では、この監査役さんのほうが断然上のようです)、親会社がこの子会社監査役の方を当該子会社に送り込んだ理由もわからないではありません。親会社で実力を発揮されていた部長級の方であり、最初は顧問として子会社のお目付け役として役割を果たしておられたとのこと。「彼に監査役をやってもらえば間違いない」との信頼があったことで、派遣役職員を全面的に信頼していたように思われます。ただ、慣行としていったん子会社に派遣されてしまうと「片道切符」だったようで、親会社には戻れない・・・ということであれば、どうなんでしょうか、やはり派遣される立場の方からすれば、親会社への忠誠心というものに陰りが見えてくる、ということはないのでしょうか(このあたりは、私はサラリーマンの経験がないのでわからないところですが)。親会社の期待と派遣役職員の忠実義務との間にズレが生じたのではないか、そのあたりが本当の不正放置の原因だったのではないか、と感じた次第です。もうこうなりますと親会社への忠誠心ではなく、たとえ子会社であっても「監査役という職責」への意気込みが支えにならないと法の要求する職責を全うすることが困難になるのではないか・・・と考えます。たとえば最近は増えてきましたが、グループ企業間での「監査役連絡会議」等によって、それぞれの意識の向上や連帯感を醸成する、といったことも不可欠ではないか・・・と。
本件では、親会社が監査等によって発見した(つまり自浄作用が機能した)事例ではないようですので、なおさら再発防止のためには、プロセスチェックをしっかりしたうえで、原因を究明する必要があるのではないかと思いました。
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