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2012年4月27日 (金)

深夜の日経ニュースは蜜の味?(アコーディアゴルフの乱)

(27日午後 追記あり)

午前0時を過ぎたころの「ベタ記事日経ニュース」には、ときどき美味しい蜜の香りのするものがございます。その日経さんの深夜ニュースが、数日前にエントリーいたしましたアコーディアゴルフの件を報じております。同社の大株主さんが、反乱を起こした専務さんと組んで、6月の定時株主総会にて、8名もの独自の取締役選任に関する株主提案権を行使し、会社側提案にはすべて反対を表明することが判明、とのこと。同記事では提案権を行使した大株主さんの親会社の名前も報じられており、いよいよ「ただならぬ雰囲気」が漂ってきております。この内紛、主人公は社長さんなのか、それとも専務さんなのでしょうか?それとも・・・・?

この「ただならぬ雰囲気」は、昨年当ブログでも展開を追っておりましたゲオさんの事例に似ているようですが、ひょっとすると、もっと壮大なスケールなのかもしれません。たしか社外取締役さん方で構成される社内調査委員会は(まちがっておりましたら訂正いたしますが)社内不正を独立公正な立場で粛々と調査を行う予定ではなかったかと思いますが、では専務さんが「コンプライアンス違反」と主張しておられる「社長の不適切な行動」の真偽はだれが調査するのでしょうか?

と思いつつ、本日(26日)付けのリリースを読んだところ、上記社外取締役さん方の「特別コンプライアンス委員会」は大手法律事務所に在籍する弁護士とフォレンジックサービスに調査協力を依頼しました、とのこと。しかしこれとは別に、監査役会も、企業法務で著名な法律事務所を独自に選定して、これまたフォレンジックサービス会社とともに独自の調査を依頼しているとのこと。つまり、この監査役会独自の調査が社長の疑惑を調査する、ということになるのでしょうか?(おお、まさにゲオ社の事例に似ているような気がしてまいりました。)ますます興味が湧いてまいります。

これだけ(外形上は)コーポレートガバナンスがしっかりしている企業において、どうしてこれだけ歯車がかみ合わなくなってしまったのか、今後の展開に注目しておきたいと思います。

(追記)

本日(4月27日)、たくさんの決算発表の開示情報にまぎれるかのように、午前11時30分に同社より適時開示があります。なかなかスゴイ・・・。一個人株主さん、情報ありがとうございました。

株式会社オリンピアを含む当社一部株主からの株主提案権行使に関する書面の受領及び受領に至る経緯について

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2012年4月26日 (木)

全国監査法人アンケートの結果を法律的に考えてみる

4月25日の日経朝刊(投資・財務面)に会計不正事件を監査法人が見抜けたかどうか、というとても興味深いアンケート調査の結果が出ておりました。上場会社監査事務所名簿登録は160ほどなので、有効回答数46は、一般的な公認会計士の方の意識を探るには十分かと思います。

オリンパス粉飾決算事件、大王製紙不正流用事件を監査法人が見抜けたかどうか、というシンプルな質問に対して、見抜くのが難しいと回答された方はO社24%、D社5%。一般に公正妥当な監査の基準に準拠した監査をもってしても見抜けない・・・というのは、つまり監査の限界を超えた粉飾(もしくは不正)だったということですから、たとえ担当監査法人にミスがあったとしても、損害との間に因果関係(監査法人がミスしたので会社に損害が発生した、という関係)が認められないということになります。ただ医療過誤訴訟でも同じですが、裁判ではなかなか因果関係不存在の抗弁は認められないですよね。そもそも「平均的な注意義務をもって監査をしたとしても本件の粉飾は発見できなかった」ということの立証の程度や方法がむずかしそうです。たしか東北文化学園事件でも、S監査法人さんがこの抗弁を提出したようですが、裁判所は認めなかったと思います。因果関係の推定が働く、ということでしょうか。

つぎに「見抜いても対応がむずかしい」と解答された方が、O社37%、D社30%。回答の読み方に若干疑問があるかもしれませんが、これは見抜くことはできるが、たとえ見抜いたとしても監査法人としては言い出せないだろう、ということでしょうね。この回答だと、ミスがあった場合には損害との因果関係は推定されることになりそうです。ただ、対応がむずかしいということですから、たとえば金商法193条の3をもって対応することに逡巡する、ということになろうかと思います。疑念を抱いたにも関わらず、行動しなかったということになりますと、これはこれで、新たな法的リスクを生むことになりそうです。

最後に「発見、対応できる」と回答された方が、O社17%、D社44%とのこと。一般的な職業専門家としての注意義務をもってすれば発見、対応できた、ということですから、この比率が高いということは、まさに法的責任の根拠となります「注意義務違反」「過失」があったと推定されることになるのでしょうか。とくにD社については44%の会計士の方々が「不正を発見できたであろうし、また対応できた」と考えている、というのは重い結果かと(そういえば数日前に、D社を担当しておられる監査法人さんでは、地方の監査体制強化に向けた対応をされる、との報道がありましたね)。しかし不正の発見が会計監査人の主たる目的ではないとしても、これほど周知された事件への感想として、会計士の方々でばらつきがみられるのは意外でありました。

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2012年4月25日 (水)

お知らせ 富士通元社長事件判決全文が掲載されています。

昨日エントリーしております富士通元社長さんの件、東京地裁判決の全文が朝日法と経済のジャーナルに掲載されております(本日付け)。さすが朝日さん、丁寧に問題個所を修正されており(若干読みにくくなりますが、これはやむをえない)、公表価値の高い判決をアップされました。法律雑誌でないと読めないものとあきらめておりましたので、これには感謝。

本業中なので、速報版にて失礼いたします。

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2012年4月24日 (火)

富士通元社長事件判決からみた社外役員の効用

昨日(4月23日)の日経「法務インサイド」において、「富士通元社長辞任問題の教訓」と題する記事が掲載され、そこで富士通社には(当時)社外取締役3名、社外監査役3名がいったいどのような役割を演じていたのか明確ではなかった、社外役員の実効性(監督機能)が改めて問われるのではないかと報じられておりました。社外役員強化の方向性はわかるけれども、本当に実効性があるのかどうか懐疑的、といったトーンで書かれていたように思います。

先日、私は(学術的な目的のため)この判決文をある方から見せていただきましたが、地裁レベルの判断ではありますが、この富士通元社長事件の判決文を全文読みますと、少し違った印象を受けると思います。といいますのも、社外監査役のおひとりが、元社長に対して厳しく尋問を行うシーンが(録音レコーダーで記録されたまま)、そのまま判決文に引用されているからであります。ちなみに本事件では、原告(元社長)側が、脅迫や強要によって辞任を迫られ、自由意思を奪われていたと主張しておられるので、本当に脅迫や強要があったのかどうかが詳細に検討された結果、(脅迫や強要の事実はない、とする判断根拠として)判決では詳細な会話内容が引用されることになったものと思われます。

この社外監査役の方には、尋問までの綿密な準備、一回の尋問によってなんとか解決に至らしめる気迫が伺われるのでありますが、判決全文を読みますと、とても社内の取締役や監査役では同じことはできないと確信いたします。本件はまさに企業の有事対応が問題となっておりますが、なんとか企業の自浄作用によって不祥事を解決しようとする意図がひしひしと感じられます。もしこういった場面で他の取締役や監査役が社長を辞任に追い詰めることができるとすれば、すでに社内で社長と他の役員の間で支配権争いを演じており、社長の反対側に大株主がバックについているような場合くらいではないでしょうか。私はこの判決文を読ませていただき、上記の記事とは逆に社外役員の有効性が如実に現れた事案であると認識しております。

何度も申し上げるところですが、反社会的勢力と上場会社との接触は、「後から発覚」では遅いわけでして、合理的な疑いのあるところでどう対応するか、ということが最も大きな課題であります。元社長さんにとっては、判決後の記者会見で述べておられるとおり、突然の辞任要請、しかも役員が一堂に会している場ではないところで、ということから、デュープロセスの視点から疑問を感じるとのこと。たしかに会話の中でも、「なぜもっと早く警告をしてくれなかったのか」とおっしゃっているところもあります。しかしこの点についても、判決文を読みますと、会社側として手続き的にも最大限の配慮がなされているようです。なかでも「どうして警告が元社長の耳に入らなかったのか」という点については、企業組織における情報伝達のむずかしさが示されており、こちらもコンプライアンス的には勉強になるところです。

内容を相当にうまく削除(訂正)しなければ、当該判決文は公表されないかもしれませんが、企業法務的には非常に価値の高い判決文であると感じた次第です(判例情報誌などで全文掲載されるといいのですが)。また、高裁がどのような判断を下すのでしょうね。

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2012年4月23日 (月)

オリンパス社臨時株主総会決議の瑕疵について(全くの個人的意見)

先週金曜日(4月20日)に開催されましたオリンパス社の臨時株主総会ですが、サンケイビズニュースや朝日「法と経済のジャーナル」等で詳細な報道がなされておりましたので、少しばかり総会の状況を知ることができました。開催時間は約3時間ということだったそうですが、同社関係者や参加された株主の皆様は、たいそうお疲れになったのではないでしょうか。前日までの書面投票の結果と包括委任状により、すでに賛否は総会前に決していたとしても、銀行出身の役員候補の方々に、30%以上の反対票が集まったそうですから、この反対票の重みは新執行部の方々にもかなりのプレッシャーになるように思います。

さて、元社長ウッドフォード氏の「株主」としての質問(事前質問状を提出していたもの)について、会社側がどのように回答するのか、非常に注目しておりましたが、一括回答方式を採用して、個別質問の際には「先ほど述べたとおり、英国の審判で争点となっているところなので、ここでは回答を控える、審判の中で明らかにする」と回答。つまり質問への実質的な回答を拒否されたようであります。ちなみにウッドフォード氏の事前質問状の全文がこちらからご覧になれます。これに対して、ウッドフォード氏は、会社法314条違反(株主総会における役員らの説明義務違反)を理由に総会決議取消の訴えを提起するかどうか検討中と報じられております。以下は全くの外野からの個人的意見でございます。

事前質問状の内容から推察しますと、ウッドフォード氏は各取締役、各監査役に対して「自分を解職にさせた理由、つまりウッドフォード自身の行動に重大な不正行為があった、とされる具体的な内容はなにか」説明を求めていたようです。おそらく、この具体的な内容を求めるなかで、自身が解職されるに至った経緯を説明してほしかったようであります。

しかしウッドフォード氏は株主の立場で質問をしたわけですから、なぜ監査役に固有の説明を求めなかったのでしょうかね?上程議案との関連で質問をしなければ総会決議の瑕疵につながらないため、と考えたのでしょうか。それとも取締役会で解職決議に同意した取締役の方々が、いまどのように考えているのか、その感想を述べてもらいたかったのでしょうか。しかし、自身を解任したことが不当だったのかどうか、という点は、取締役の職務の違法性に関する問題点ですから、当然に監査役に回答してもらうべき質問ではないでしょうか(もちろん、監査役自身の違法行為も関連するところではありますが)。

会社法314条は監査役にも株主総会における説明義務を規定していますので、その監査業務に関わる質問については概括的にでも説明をする必要があります。とくにウッドフォード氏を解任(正確には解職)した取締役会に出席していた役員の方については、取締役や監査役の責任調査委員会報告書でも「善管注意義務違反の有無」について重要な論点とされているのですから、取締役の職務執行の違法性については合理的な根拠をもって疑いが生じるところであります。したがって、監査役に何らかの説明が求められるところです。

一方、会社側は「ウッドフォード氏解任に重大な不正があるかどうかは、英国労働審判所で紛争中であり、ここでの発言が審判に影響を及ぼすおそれがあるため発言を控える」と回答しております。このあたりは、監査役が説明する場合にも同様の回答拒絶がなされるのかもしれません。たしかに裁判に影響を与えるような発言が求められるのであれば、回答を控えることについては、正当な理由になりそうな気もいたします。

ところで、英国労働審判所で争点となるのは、労働契約上の文言解釈の問題、つまり解雇するための正当理由があったのかどうか、という問題。いわば「民と民の私法上の関係規律」の問題です。しかしウッドフォード氏が真に聞きたかったところは、自身を解任するに至った経緯であり、これは主として「企業と一般株主との開示規律」に関する問題であります。オリンパス社は当初「ウッドフォードは代表者として不適格」とリリースし、その後もマスコミの騒動に「今後は根も葉もないうわさで当社のことを悪くいえば法的措置をとるぞ」と世間に対して恫喝しました。しかし、その後は一転して不正事実を認め、謝罪会見となるわけですが、それでもウッドフォード氏解任は「正しかった」としている。では、最初の「社長不適格」なる役員会の判断が重大な不正行為になるのかどうか(投資家や一般株主に対する虚偽説明になるのかどうか)、という点は、単純にウッドフォード氏とオリンパス社との私法上の問題ではなくて、オリンパス社の一般株主や投資家への情報開示における不正行為ではないか、ということこそ問題となるはずです。この点については、オリンパス社は一般株主に向けての説明義務はあるはずで、「審判中」なる理由では回答を全面的に拒絶することはできないものと思います(このあたりは、質問する側が、もう少し上手に質問すればよかったのかもしれません)。

現に、最近の山口義正氏の著書やウッドフォード氏の著書によって、「ウッドフォード氏をCEOに選任した役員会の決定は、オリンパス社のHPに英文では開示されたが、日本語では開示されなかった」という不可解な事実も判明しています。これに不信感を抱いたウッドフォード氏が元会長らの辞任を強く求め、その結果、自身が解任された、という事実関係は責任調査委員会報告書にも記述がありません。解任の2週間前に取締役会でCEOに選任されながら、わずか半月後に「あいつは不適格だ」とされること自体不自然ですが、さらに上記のようにウッドフォード氏が元会長らに辞任を要求することにあたり、きちんとした理由(動機)があった、ということですから、「社長不適格」なる理由がおかしい(つまり一般株主に虚偽の説明をしたのでは?)と思うのは一般的な株主の立場からすれば素直な印象ではないでしょうか。なお、説明義務を果たすといっても、質問への回答は概括的なもので足りるでしょうし、英国の審判に関連する部分については個別に発言を控える、という形であれば、それほどの負担でもなかったように思われます。

なお、説明義務違反が認められ、上程議案の決議取消の原因になるとしても、つぎに「裁量棄却」にあたるのではないか?という問題がありますが、これはまた別の機会に述べたいと思います。

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2012年4月20日 (金)

なぜ金商法193条の3は監査法人に嫌われるのか?

金商法違反(偽計)容疑で社長および元取締役が起訴されているセラーテムテクノロジー(JDQ)社に対して、4月18日、同社の監査を担当しているパシフィック監査法人より金商法193条の3に基づく「法令違反等事実に関する通知」が提示され、同社がこれを受領したそうであります(セラーテム社の適時開示はこちら)。同適時開示にもありますように、同社は社長らが金商法違反に該当するような行為は一切していないと主張しておられるそうなので、同社の監査役の方々も、監査法人の見解と相違があることが予想されます。(ん?といいますか、ひょっとして、もっとほかに意味があるのでしょうかね?)

同社としても、この通知に基づいて社内で調査を進める旨述べておられますが、社長らの刑事裁判との関連において前向きな是正措置が取られることは期待できないかもしれません。そうしますと、平成20年の金商法改正後、はじめて金商法193条の3に基づく「監査法人による金融庁への不正行為の届出」がなされる可能性もあります。

ところでオリンパス事件でA監査法人が監査役に対して「金商法193条の3の行使をほのめかした」ことから、やっと世間的にも監査証明業務を担当する監査法人(公認会計士)の不正届出制度が認知されるようになりました。最近、会計士の方々が、各種座談会等におきまして、金商法193条の3に言及する機会も増えておりますが、その際「これまで金商法193条の3は抜かずの宝刀であって、一度も行使されたことがない」と表現されることが多いようです。これは一面においては正しいのですが、一面においては誤りだと思います。たしかに監査法人さんが被監査企業の法令違反等事実を当局(金融庁)に届け出た事案はこれまで皆無かもしれません。しかし、2008年の当ブログのエントリーでもご紹介したとおり、春日電機さんの事件では、仮処分申立書のなかで監査法人が金商法193条の3に基づく通知を(監査役に)行ったことが登場し、証拠としても内容証明通知書が提出されております。つまり監査役に対する通知事例はすでに数例出ているはずです。

さて、この金商法193条の3でありますが、どうも監査法人(公認会計士)さんの世界では評判がよろしくないように感じております。私などは、不正行為を発見した場合に、これを監査法人さんが放置してしまうよりも、重い荷物を監査役さんに委ねることができるわけですから、むしろ監査法人さんにとっては「都合の良い制度」ではないか・・・と考えておりました。この通知が監査役さんのところへ届いた場合には、このたびのセラーテムテクノロジーと同様、監査役さんは社長と対峙するか、監査法人と対峙するか、二者択一の選択を迫られるわけでして、監査役の善管注意義務に従った対応が迫られることになります。

たしかに監査法人にとっては(社内事情を開示する、ということで)守秘義務の解除という問題がありますので、金融庁への届出はむずかしい法的責任問題を背負うことになります。しかし監査役に対する通知はそれほどの悩ましい問題が発生しないわけで、むしろ不正の兆候に接した監査法人としてはバンバン内容証明通知をもって警告を出せばよいのではないかと思うわけであります。つまり、193条の3に基づく通知は監査役に対しては門戸は広く、当局に対しては門戸は狭く、といった運用がベストではなかろうかと。ところが先のオリンパス事件でもそうですが、監査法人としては会計不正疑惑に直面しても、なかなか監査役に正式な通知を出さない傾向にあるようです。

また、いろいろと勝手な推測による意見であり、関係者の方々から怒られそうな気もしますが、おそらく監査法人さんとしては、監査役との連係・協調を推進します、有事には監査役と情報交換を密にして不正の発見に努めます、と表明しているところですが、ホンネのところでは「どうせ監査役は経営者にはモノが言えないだろう。そうなると第二ステップに移行せざるをえなくなり、金融庁に対して法令違反等事実を届け出ざるをえない。結局経営者から守秘義務違反、虚偽説明と言われてリーガルリスクを背負うのは監査法人になってしまう。そんな面倒なことになるくらいだったら、金商法193条の3を監査役にちらつかせる程度にしておこう」といった感覚ではないかと。今回のセラーテム社の事例のように、すでに強制捜査が開始されているのであれば届出もやりやすいのですが、事案によっては不正発覚の引き金を引くはめになるわけでして、このあたりが監査法人にとって193条の3の制度がやっかいと思われる理由ではないでしょうか。監査役との連係に関する「ホンネ」と「タテマエ」が交錯する場面であるがゆえに、この制度は監査法人さんに嫌われる運命にあるのではないかと。

この制度が誕生したからといって、財務諸表監査を担当する監査法人に「不正発見義務」が認められるようになったとは申し上げません。しかし、会計不正事件に直面した監査法人にとっては、自法人の法的責任問題に発展する可能性をもつ制度だけに、できれば最後まで「抜かずの宝刀」のままであってほしいと願うところなのでしょうね。

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2012年4月18日 (水)

特別コンプライアンス委員会?or第三者委員会?(アコーディアゴルフの乱)

またまた脊髄反射的に取り上げてしまいそうな企業不祥事ネタであります。東証一部のアコーディアゴルフ社におきまして、社長さんの会社資産の私的流用疑惑を(役付を解任された)専務さんが告発したそうであります。アコーディアゴルフ社といえば、高い評価を受けているコーポレートガバナンスで有名のようで(ISSユニバースに組み込まれている企業のうち、上位0.2%に位置しているとのこと)、実際にも取締役10名のうち、3名が社外取締役、監査役に至っては4名すべてが社外監査役(常勤1名、非常勤3名)で構成されています。東洋経済さんの記事では「お家騒動」と報じられておりますが、見方を変えれば企業の自浄能力が機能した事例・・・ということも言えそうな気もいたします。そもそも社長さんの会社資産私的流用の事実は大株主から監査役に届いたようで、この監査役さんがコンプライアンス委員会に情報提供、専務の方が本格的に調査を開始しようとしたところ、臨時取締役会で解任された、というもの。

ただ、ここからが難しいところですが、会社側は社外取締役3名から構成される「特別コンプライアンス委員会」を設置して、専務を含む社内取締役4名を(接待費流用等で)調査対象とするとリリースしたのでありますが、この告発をした専務さんは、「社内の調査では公正さは担保できない。第三者委員会の設置を臨時取締役会で提案したところ、否決されてしまった」そうであります。また特別コンプライアンス委員会は社長の資産不正流用の件は特に明示して調査対象とはされていない、とのことであります(あくまでも東洋経済さんのニュースに基いています)。

現在、世間では社外取締役制度の義務付けの是非が論じられておりますが、この時期におきまして社外取締役のみで構成される委員会がどのような活躍をみせるのか、今後の論議の行方を占う試金石として重要かと思うのでありますが、いっぽうにおいてコンプライアンス委員会の委員長まで務めておられた専務の方の告発では「社外取締役による調査体制では不十分。第三者委員会による調査が必要」と述べておられるのであり、非常に複雑な状況を呈しております。専務さんのおっしゃるように、社外取締役といえども、公正な調査は期待できない・・・というのが正しいということであれば、またまた「ほれみろ、社外取締役といったって、しょせんは社長の子飼いではないか」と揶揄(やゆ)されることになりそうです。企業法務で著名な弁護士の方が社外取締役として調査に関与される以上、調査には非常に期待がかかるところではあるのですが・・・・・

社長さんの私的流用の内容が、これまた「すさまじい」だけに、おそらく新聞や雑誌ネタになる事件かとは思いますが、いずれにしましても、これだけコーポレートガバナンスがしっかししている(と思われている)上場会社において、今後社内調査(特別コンプライアンス委員会による調査)のみで問題終息に向かうのか、それとも第三者委員会が設立されるような事態になるのか(ちなみに専務は東証にも調査依頼を要請しているとか)、今後の展開に注目したいと思います。とりいそぎ、本日は速報版のみにて失礼いたします。

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2012年4月17日 (火)

CCC(カルチャーコンビニエンスクラブ)のMBO裁判決定について

このたびの会社法改正論議におきまして、個人として最も影響を及ぼした方は、当ブログ右欄にコメントを寄せておられる山口三尊さんだと思いますが、本日(4月16日)またまた山口氏を申立人、CCC(カルチャーコンビニエンスクラブ)を相手方とするMBO価格決定申立事件におきまして、大阪地裁は公正な強制取得価格を649円とする決定を出したそうです(裁判長は昨年このブログで紹介させていただいた、M判事さんです)。ちなみに山口氏側は779円、CCC側はTOB価格と同額(600円)を適正な価格と主張していますので、実質的には山口氏側が「裁判を提起した意味があった決定」ということは間違いないようであります。

決定文を読ませていただいた印象だけで申し上げますが、CCCのリーガルアドバイザーであった「天下のNA法律事務所」さんの戦略が裏目に出てしまったということでしょうか。もちろん高裁ではどのような判断が出るのかはわかりませんが、少なくとも大阪地裁の裁判官との関係では、「マジョリティ・オブ・マイノリティをTOBの成立要件とする」ことや、「取締役会は中立的立場でMBOには賛同するが、価格面で疑問があるから応募は推奨しない」といったスタンスを用いたことや、買収対象者側が株価算定評価を公表するといった「初めての試み」を示したことは通用しなかったようであります。「成立してしまえばTOB価格(600円)が公正であると自信をもって言える体制を作る」という戦術がうまく機能しなかったのではないか、と。

大阪地裁の裁判官は、この戦略の意図とは逆に、取締役会は中立といっているではないか、そんな「異例」なMBO事例なんだから、株価算定はこれまでの判例で認められてきた理論を踏襲するにしても、これまで以上に慎重に判断すべきだ、そんな中立性を守る取締役会が依頼したアドバイザーが算出した価格にこそ、重きをおいて判断すべきではないか・・・とみて、結局はTOB価格よりも50円近く高い金額を適正な強制取得価格と示したわけです。スクイーズアウト(株主の締め出し)に用いられる価格決定申立制度の趣旨や、会社と一般株主との情報の非対称性を尊重して、「公正価格の決定は多数決論理では決められない」との裁判所の判断が示された、ということになるのでしょうか。

もちろん、天下無敵のNA法律事務所さんですから、次の一手があるのかもしれません。しかし、すくなくともこのたびの決定文を読むかぎりにおいては、知名度抜群のGCAさん、プルータスさん、KPMGさんが万全の態勢でMBOの公正性確保に向けて臨んだにもかかわらず、「打倒三尊!」大作戦が奏功しなかったように映りました。M&Aネタについては毎度申し上げておりますとおり、私は専門家ではございません。また金融・商事判例あたりで決定文が掲載されると思いますので、M&A実務に精通されている法律実務家の皆様の解説を期待しております。

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2012年4月16日 (月)

オリンパス臨時株主総会を悩ませる最強の株主・・・

Kainin001_2オリンパス社の元社長(兼CEO)でいらっしゃるマイケル・ウッドフォード氏が今週4月20日に予定されているオリンパス社臨時株主総会に一般株主として出席するそうで、その際に、役員に対して質問すべき内容を、すでに「質問状」としてオリンパス社に提出しているそうであります(読売新聞ニュースはこちら)。オリンパス社としては、会社側提案にかかる取締役・監査役の選任議案に対して、海外の機関投資家を中心に、どれだけの反対票が投じられるのか、かなり不安を持っておられるかもしれません(たとえばこちらのロイターニュース等)。しかし、もっともオリンパス社がおそれる株主は、このウッドフォード氏ではないかと。それもそのはず、自身による臨時株主総会への出席、および質問の時期に合わせるかのように、ウッドフォード氏を解任するに至った内部事情を詳細に告発する著書を発刊いたしました。

「解任」(マイケル・ウッドフォード著 早川書房 1600円税別)

すでに当ブログにお越しの皆様には、2か月ほど前から予告しておりましたので、ご承知のことと存じますが、オリンパスの損失飛ばしおよび解消スキームの事件を「内部告発」した元社長マイケル・ウッドフォード氏による手記でして、自身が社長に就任し、オリンパス社取締役会によって解任され、その後海外のマスコミ等に事件を告発するまでの経緯を詳細に語っておられます。まさにオリンパス事件に関心を抱いておられる方には必読の一冊です(私も4時間ほどで一気に読んでしまいました)。先日、当ブログでもご紹介いたしました「サムライと愚か者-暗闘・オリンパス事件」の著者である山口義正氏との出会いの場面も一ヵ所出てきますが、オリンパス事件を世に問うおふたりの著書は、併せてお読みいただくことをお勧めいたします(たとえば「官製粉飾決算」なる山口氏の理解も、ウッドフォード氏の著書で再認識されるところがあります)。

ネタバレ的な書評はエチケット違反かと思いますので、詳細な事情について書くことは控えさせていただきますが、本書を読んだ感想を若干述べてみたいと思います。

山口氏の「サムライと愚か者」を読んだときにも述べましたが、やはりオリンパス事件については、発覚以前の時点から、社内で(詳しいことまでは知らないとしても)問題視していた社員がたくさんいた、ということ。山口氏の本では「不正関与者に近いところにいる社員」に焦点があてられていましたが、本書では、ウッドフォード氏と連絡を取り合っていた支援者が多数存在していたようであります。そういった状況においても、経営トップが関与する不正というのは、今回のウッドフォード氏のような「覚悟の上での毅然とした行動」がなければ到底表面化しない、ということであります。

次に(これも素朴な疑問だけはすでに述べておりましたが)、今回のオリンパス事件が大きく報じられ、真相が明るみになったのは、ある意味「偶然」に左右されているのではないか、ということです。つまり最初から「財テクの失敗を隠すための損失飛ばし、飛ばし解消スキームとして海外のファンドが使われた」というストーリーが判明していたのであれば、これほど大きく取り上げられたのだろうか、という疑問です。オリンパス社が反社会的勢力と深いかかわりを持っている、という疑惑が浮上されていたからこそ、世界的に新聞で一面を飾ることになり、海外の捜査当局も動き出したのではないか、と。ウッドフォード氏は、解任された後に会社が不正を発表したときの心境を本書で述べていますが、「怒りを覚えたが、聞かされてみればつまらない真実」というのがホンネだそうです。オリンパス社と裏社会との関係、この疑惑こそが、関係者の「暴露のエネルギー」を高めていった、と私は推測しております(ここは企業コンプライアンスに関心のある者としては極めて重要な点であります)。

私にとっての最大の疑問である「なぜ、ウッドフォード氏は25人抜きで社長に選ばれたのか?」という点につきましては、正直なところ、本書ではっきり理解できた、ということまでは申し上げられません。ただ、ウッドフォード氏がCEOに選出される前後において、取締役会を構成する他の役員のウッドフォード氏に対する発言に変化がみられるのでありますが、その状況からすると、(言葉は悪いですが)おそらく他の役員の方々も、ウッドフォード氏はしょせん、K氏のプードルであり、社長としての実権を持っているわけではない、ということが共通認識になっていたからこそ、ウッドフォード氏を代表取締役にも安心して選出していたのではないかと。このあたりは読む方によって意見も異なるかもしれませんので、皆様方の印象にお任せいたします。

さて、オリンパス事件の真相こそ、本書を読む魅力なのでありますが、英国人社長からみた日本企業のガバナンス、という視点での感想をふたつほど述べておきたいと思います。ひとつは、とても残念でありますが、ウッドフォード氏には日本の「監査役制度」というものが、なにひとつ理解されていなかったようであります。取締役会の構成員に対する絶望感を述べたところ、取締役会の手続きについて真実を描写したところがありますが、いずれにおいても、監査役は誰ひとりとして登場しません。首謀者のひとりとされるY氏(常勤監査役)に対するウッドフォード氏の印象は意外なほど希薄なものであり、むしろ非常に好感のもてる紳士として記されています。またプロキシーファイトを検討していたころに出会った株主提案側の役員候補者についても、社外取締役候補者への関心についての記述はありますが、社外監査役候補者への関心については記述は一切ございません。おそらく、ウッドフォード氏の頭の中には、「なぜもっと監査役がしっかりしていなかったのか」とか「監査役も取締役と一緒にグルではなかったのか」といった疑念は湧いてこなかったものと推測いたします。悲しいかな、外国人経営者からみた日本の監査役制度への理解というものは、しょせんこの程度なのか・・・・・と、すこし暗い気持ちになりました。

そして最後になりますが、ウッドフォード氏はなぜ、ここまで危険な状況に追い込まれることを承知で経営トップを糾弾し、告発まで行ったのか?という点であります。この本を読んだ私の最大の収穫は、外国人経営者の持つ「信託の精神」「信認義務」を垣間見たことでした。ウッドフォード氏のM副社長とのやりとり、サウスイースタンとのプロキシーファイトに関する接触、金融機関の行動に対する疑念などから窺えることは、

「株式会社の経営者は、誠実でなければならないのは、会社でもなく、株主でもなく、またCEOに対してでもない。唯一、預かっている資産に対して誠実でなければならない」

という強い信認義務の思想がウッドフォード氏の行動に一環している、ということであります。経営者は他人から資産を預かっているのであるから、その資産こそが委託者であり、その資産に対して誠実でなければならないというのが信託の思想かと。私は信託法には詳しくありませんが、おそらくこのような信託の精神が、ウッドフォード氏の行動を支えていたのではないかと思います。

「私は正義の味方でも、なんでもない。ただ、私は不正疑惑に遭遇してしまった。見てしまった以上は、これを見過ごすわけにはいかない。疑惑があれば徹底的に調査をして、これを自発的に解決しなければならない」と述べるウッドフォード氏の「信託の精神」こそ、長年の付き合いがあったK氏にも理解できなかったところであり、これこそ、K氏にとっての最大の誤算ではなかったかと思う次第です。いよいよ今週金曜日がオリンパス社と株主ウッドフォード氏との(法廷以外での)対決のときであります。どのような展開になるのか、楽しみにしております。

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2012年4月13日 (金)

反社チェックの困難さをカバーする内部統制システムの運用(富士通事件の教訓)

4月11日に東京地裁で出されました富士通元社長辞任事件に関する判決でありますが、当ブログをお読みの方からのご厚意により、なんとか報道機関向けの判決要旨を入手することができました。(判決要旨と骨子で合計4枚)どうもありがとうございました<m(__)m>。

昨日、ニュース等の内容から判決の思考過程を推論いたしましたが、争点こそもうすこし多岐にわたるものの、主要な部分においては概ね当たっていたようです。辞任を余儀なくされた前社長側としては、そもそも富士通社の子会社売却にあたり、関与させていたファンドが本当に反社会的勢力に該当するのかどうか、その真実性に焦点をあてたいのですが、会社側としては、そもそも本当に反社会的勢力に該当するか否かが問題なのではなく、限りなくクロに近いグレーであれば、企業の信用を維持する必要があり、関係者の排除を求める行動を起こすことは当然のことと反論しております。

そもそも、子会社売却に関与していた会社について「評判のよろしくない会社」と富士通側の役職員が知ったのは、単純にネット上の書き込み等からだそうです。そこが調査の発端となり、富士通側は①主幹事証券会社からの情報提供、②富士通社が依頼したふたつの調査事務所の調査報告2通により、ネット上の噂はかなりの確率で真実との心証を得たそうであります。

そして富士通側の大多数の取締役、監査役が、このような心証を抱くに至った以上は、内部統制システムの基本方針に基づき、整備されたシステムの運用義務の一環として、その排除に向けた諸施策が講じられたことになります。平成19年に内閣府より「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」と題するガイドラインが公表され、反社的勢力排除のための施策については内部統制システムの一環であることが、明確にされました。それから5年が経過し、本判決は、まさに反社会的勢力との関係が疑われた上場会社の場合には、構築・整備された内部統制システムの運用義務の問題として有事対応が承認される、という理屈を示したものと言えそうであります。内部統制の「整備」ではなく「運用」に光があてられたところに意義があるのではないか、と。

なお、一般論としてではありますが、反社会的勢力とのつながりが疑われる役職員に対する警告の出し方(不正調査の方法)については、また別途むずかしい問題があるのも事実です。そのあたりは本件ではどうなのか、これは判決文を読まなければわからないところであり、興味深いところです。企業のレピュテーションリスクの管理が注目され、また反社会的勢力と企業との断絶が厳しく要請される今日において、疑惑の目を向けられた対象者の人権保障と、重大なリスク管理をしなければならない企業の利益とのバランスをどうとるべきなのか、本件判決には、そのヒントが語られているように思えます。

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2012年4月12日 (木)

富士通元社長事件判決と上場会社の反社対応実務への影響

(4月12日夕方 一部訂正があります)

ニュースでも、皆様ご承知のとおり、富士通社の元社長の方が同社の役員および法人たる富士通社を相手に損害賠償を求めていた裁判において、本日(4月11日)東京地裁は元社長(原告)の訴えを棄却する判決を出しております。

この裁判は、元社長さんの(富士通の取締役としての)地位確認を求めるものではなく(こちらはたしか仮処分事件で、元社長(債権者)側の申立てが却下され、決着がついているはず 参照富士通のリリース)、取締役の地位を喪失したことを前提としたうえで、「富士通役員のいい加減な調査によって、自分は取締役を辞任させられた、ガサネタで辞めさせられたんだから、役員の辞任勧告は不法行為であり、損害賠償請求権を行使する」というものであります。

まだ判決文を読んでおらず、ニュースの記事のみからの推測でありますが、地裁は以下のような思考過程で原告の請求を棄却したのではないかと思われます。つまり、

元社長が子会社売却にあたり業務に関与させた法人(ファンド)について、反社会的勢力か否か、その真実性については、辞任勧告の際、原告・被告らの間で問題とはされていなかった。つまり、被告らの辞任勧告に至った理由の説明を原告が受け、風評の芳しくない当該取引先との交際を控えること(関係解消)を求められたにもかかわらず、元社長がこれに応じようとしないことから、その解決方として自ら同社の役員辞任の道を選択するのはやむをえないとして自らの意思で辞任したものであり、当該法人が真に反社会的勢力であるということから、辞任を決めたわけではない

被告らが、本当に「いい加減な」調査によって元社長の取締役辞任を求めたのであれば、虚偽事実を告げて辞任を強要したものと同様に評価できるのであるから、被告らによる不法行為責任が発生する余地がある。しかし、証券会社からの情報提供があり、これに基づき、被告らも独自に信用ある調査会社に依頼をして、そこでも問題取引先との情報提供があったのであり、これらの情報をもとに辞任勧告をすることには正当な理由がある。

被告らは上場会社の役員であるから、もし企業として反社会的勢力との関与が認められた場合には上場廃止となるリスクに直面するものであること、また近時の暴力団排除条例の施行など社会の目が非常に厳しくなっている状況において、企業のレピュテーションリスクを回避することは喫緊の課題であることから、たとえ当該法人が反社会的勢力と断定できない場合であっても、それなりに正当な理由がある場合に「企業として最大限度のとりうる方法を用いれば」違法とはいえない。これは蛇の目ミシン最高裁判決の趣旨にも適う考え方である。

といったあたりが裁判所が元社長の請求を退けた判断過程ではないかと。(もし私の推測に誤りがありましたら、当事者の方でも結構ですので、指摘していただけますと幸いです。すぐに修正させていただきます)

本件判決は、おそらく上場会社だけでなく、上場準備の段階にある企業においても(参考にすべき)重要な判決になるのではないでしょうか。上場会社の役員の属性や、訳あり関係者とのお付き合いに悩んでおられる会社は結構多いと思います。ひとつ有事の対応を間違えますと、上場廃止になったり、主要な取引先から取引の継続を拒絶されたり、さらには反社会的勢力との断絶を遂行できない役員の善管注意義務違反が問われてしまうわけであります。さらにオリンパス事件でも当初疑惑が報じられ、明らかになりましたが、「反社勢力とのつながり」という話題は国内だけでなく、海外でも大きな話題になってしまうわけでして、CSRの観点からも非常にマズイ状況に追い込まれてしまうわけです。まさに企業の自浄能力を発揮してレピュテーションリスクを最小化しなければならない局面であります。

ただ、こればかりはトップシークレット事項であり、なかなか外部の人に相談できるものでもありません。富士通社の場合も、元社長の突然の辞任について、当初「健康上の理由により」として適時開示されていましたが、後日「ふさわしくない取引を行ったため」と訂正し、東証から厳重注意を受けたことからも理解できるところかと思います。

企業としては、役職員の素性や「ふさわしくない者との関係」をどこまで調査したうえで行動に出る必要があるのか、調査の結果、グレーの状況で行動に出て良いのか、いやむしろ行動に出なければ善管注意義務違反になるのではないか・・・というあたりの限界を探るには参考になる事例ではないかと。基本的には、一般の上場会社としては、役職員の反社チェックを「できる範囲で」行えば、反社対応を実行しても違法ではない、いやむしろ、できる範囲での反社対応はしなければならない、ということかと思います(ここにまた、公表義務あたりの問題がからんでくるのかと。これは私の直感的な印象です。このあたりは、後日発表されると思われます著名な法律実務家の方々の法律雑誌での論文等で勉強させていただきたいと思います)。

(4月12日追記:やはり「反社会的勢力を排除すべき内部統制システム」なる言葉が判決文に登場しているようであります。こういった問題に直面する取締役、監査役にとっては善管注意義務違反とならない行動が要求されることになりますね)

本件は役員個人の不法行為責任が問われた事件でありますが、仮の地位を定める仮処分(地位確認請求事件)などで会社自身が被告(債務者)となるケースでも参考になるのかもしれません。おそらく控訴され審理は続行されるものと思いますが、いずれにしましても、地裁の判決文をぜひとも読んでみたいものであります(なんとか入手できないものかしら・・・・)

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2012年4月10日 (火)

監査役全国会議のコーディネータは緊張しました(パシフィコ横浜)

本日(4月10日)、パシフィコ横浜国立大ホールにて開催されました日本監査役協会第74回監査役全国会議「今、日本のコーポレート・ガバナンスに何が問われているのか-監査役への今日的期待-」にて、基調発表ならびにシンポのコーディネーターをさせていただきました。時節柄、代表的な企業不祥事を検証し、なぜ監査役がこれを早期に発見できなかったのか、どうしたら「気づき」と「勇気」を監査役が備えることができるのか、といったことを起点として、投資家サイド、会計監査人サイド、監査役(監査委員)サイドから、いろいろと語っていただく、というものです。

約2300名の監査役の皆様の前で発表ならびに司会を務めるのはたいへん緊張いたしました。おそらくひとりでしゃべる方が、コーディネータを務めるよりも楽だと思います(笑)。各パネリストの良さを引き出したり、ご本人がお話になりたいことを、シナリオの流れの中でどう組み入れるか、時間が足りなくなれば、どこを省いてしまうか瞬時に判断する等、結構気を使います。懇親会のときはさすがにヘロヘロでしたが、新日鉄の常任監査役の方に「僕ね、毎日あなたのブログ、楽しみにしてるんだよ~」と(やけに握力の強い手で)腕をつかまれて、少し元気になりました(^^;;

東大の岩原先生の基調講演も(これまた時節柄、得した気分で)有益なものでしたが、私が「参加してよかったぁ」と感じたのはキッコーマン会長の茂木さんのお話でした。リーマンショックの後、民主導経済についての反省がなされつつありますが、だからといって官主導に戻るのではなく、民主導経済の行き過ぎについて一部修正がなされるべき、その修正方法等について、監査役監査へのヒントがあることを理解いたしました。また健全な資本市場を形成する前提として、「日本にも敗者復活戦が必要」とのご主張には納得いたしました。

月刊監査役7月号に全国会議の様子が掲載されるそうですので、まだまだ速記録の確認等たいへんだとは思いますが、監査役の不祥事対応というかなり難しいテーマを今後、検討される際の「たたかれ台」になっていれば幸いでございます。いろいろと勉強させていただいたパネリストの関孝哉さん(コーポレート・プラクティス・パートナーズ代表取締役)、山田眞之助さん(日本公認会計士協会常務理事)、そして堀岡弘嗣さん(東芝 取締役監査委員)の皆様に感謝申し上げます。

※※※※※

なお、本日の全国会議の際には申し上げませんでしたが、2年前の横浜パシフィコでの全国会議には、東京電力の常務取締役の方がパネリストとしてご登壇され、おそらく日本でもっともすすんだ内部統制システムを紹介、参加された皆様方から絶賛を浴びておられました。パンデミック対策が話題だったころ、私も「東電さんのBCPは、さすが日本一、優秀な方々が集まってないと、これほどのものは作れないなぁ」と感心していたものです。その頃、だれも今日の東電さんの事態など予想できなかったわけでして、2年前の全国会議の速記録を改めて読み返し、コンプライアンス経営のむずかしさ、はかなさを感じております。あれだけ絶賛された東電さんの内部統制システムさえ(私も昨年、NBLに論文を掲載していただきましたが)、平時のリスク管理体制への疑問、有事の危機対応への批判が止むところはありません。社会の公器たる企業を形成するため、だれが社内の問題を指摘できるのか、どうすれば指摘できるのか、平時にこそ真剣に検討する必要があるという気持ちになります。

企業が有事に至ったとき、ひとりひとりの役職員の姿をみれば誠実であるのに、なにゆえ企業として、ここまでボタンの掛け違いが生じてしまうのでしょうか。本当にコンプライアンス経営のむずかしさを知るためにも、いまこそ2年前の監査役全国会議の記録を読み返すことが有意義ではないかと思う次第です。

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2012年4月 9日 (月)

大王製紙事件・創業家と経営陣対立について考える

4月5日の日経ニュースに著名な法律家の方々が、「専門家からみた大王製紙経営陣と創業家との対立の構図」を語っておられます。大王製紙の連結子会社の役員の方々が、創業家側によって招集された臨時株主総会にて解任され、次々と大王製紙経営陣のコントロールが効かない状況になっているのは既にご承知のところかと思います。メーカーたる大王製紙の「車の両輪」と言われる本体と子会社の関係ですから、このような状況が続けば大王製紙の企業価値が大きく毀損していくことになります。

法律的な関心もさることながら、創業家ファミリーが保有する子会社株式を、なんとか大王製紙側としては取得したいのでありますが、価格の折り合いがつかないまま、今後の両者の交渉進展について関心がございます。大王製紙側としては、創業家ファミリーから子会社株式を買い取るわけですから、その買取代金をもとに創業家側による元会長の貸付金の返済を促したいところかと。そうすれば、いわゆる「被害弁償」によって元会長の刑事罰も軽くなるわけでして、そこに創業家側の弱みがある(したがって、相当の買取価格であれば最終的には創業家側が応じるはず)と考えるものと思います。

しかし創業家側がノーと言い続けて、元会長の被害弁償が50億円ほど残ってしまいますと、今度は大王製紙側の損害金となるわけでして、現経営陣や監査法人(会計監査人)が大王製紙の株主から代表訴訟を提起されるリスクが現実化します。創業家自身が、身内のキビシイ刑事責任もやむをえない、と考えるのであれば、現経営陣や監査法人もかなりのピンチに陥ることになります。ただ、大王製紙は上場会社であり、適正価格以上の価格で子会社株式を買うことはできないでしょうから、金銭的解決といっても交渉には限界があるかもしれません。

つまり現経営陣と創業家との「我慢くらべ」の様相になってきましたが、従業員や取引先のためにも、どこかで折り合いをつける必要がありそうです。そうでなければメインバンクの対応も悪化するでしょうし、本体や関連会社、取引先の方々も、今後の会社の行方についてたいへん不安を抱くことになると思います。

「こんな大騒ぎになったのも、創業家に対する絶対的服従の企業風土によるものだから、何をいまさら創業家が偉そうにいっているのだろうか」と創業家側を批難する声も多いように思います。しかし、元会長による子会社からの資金流用の事実を知っていた担当取締役や元会長の親族である取締役は引責辞任したにもかかわらず、なぜ現経営陣や監査役は減俸程度の責任の取り方で一件落着となるのか、担当取締役が知っていたということは経営トップにある現経営陣も事前に知らなかったわけではないと思われ、現経営陣の方々こそ辞任すべきではないか、との疑問も一般的な感覚からは納得できるところであります。

昔は、こういったことは銀行さん主導で内々に解決されていたんでしょうか。これは私の勝手な推測ですが、創業家と経営陣との対立を終わらせるためには、大王製紙側の経営陣の人事的解決しか方法がないのではないかと思います。「そんなアホな。」と言われそうですが、筋から考えるとそうならざるをえないのではないでしょうか。ただ、創業家の経営方針に賛同しない幹部の方々が、元会長の不正事件をきっかけに、いわば計画的に創業家の色を薄めるためのクーデター的な事件を起こしているようにも思えます(これは全く私の憶測であります。たとえば昨年の総会で大幅な役員交代が行われたことなど)。いずれにしましても、先の日経ニュースにて専門家の方々がおっしゃるように、この対立には第三者委員会報告書の影響もあるのかもしれません。

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2012年4月 6日 (金)

会計監査人・監査役の連係(連携)と「監査見逃し責任」

たまたま、3月下旬に出た某監査法人さんの「監査見逃し責任追及」判決(地裁判決)の全文を読ませていただきました(ご厚意で、ある方からいただいたもので、学術的関心に基づくものです。ちなみに監査法人側、全面勝訴の結果となっております)。この判決文においても、また(先日の)オリンパス監査役等責任調査委員会報告書における後任監査法人の責任判断でも、不思議と出てこないのが「監査法人と監査役の連係」に関する論点であります。平成17年ころから、「会計監査人と監査役との連係・協調」に関する共同研究報告が出されているにもかかわらず、これは法的な争点として取り上げられることはなかったようです。あまり触れられていないのは、おそらく「公正なる会計慣行」と同様、この論点も法と会計の狭間の問題だからではないかと思われます。

監査手法として現場に浸透している「リスク・アプローチ」が判決文のなかにも普通に登場するようになり、これに伴い「不正の兆候」「異常な兆候」といった用語も普通に使われるようになったにもかかわらず、会計不正事件に遭遇した監査役と会計監査人とは、別々に法的責任が論じられているのが現実であります。たしかに、監査役の会計監査に関わるものとしては、ライブドア投資家損害賠償請求事件判決において、会計監査人側から「会計不正の疑いあり」との連絡を受けながら、監査役が何もしなかったということが任務懈怠とされた例がございます。つまり会計監査人からの指摘が監査役について「異常な兆候」ということになります。しかし、逆に会計監査人が監査役の報告を受けたたことで監査法人の責任が認められた判決は、見たことがありません。

会計監査人が監査計画を立てる時点において、どこにリスクがあるのかを判定するため、または内部統制リスクを評価するために監査役の意見を聞くとか、意見表明のための心証形成の時点において、監査役から会計監査に関する事実を聴取するなどすれば、重要な虚偽記載のおそれの有無について参考になる事情も出て来る可能性があります。たとえばオリンパス事件においては、監査法人どうしの引き継ぎの妥当性に関する論点については詳細に検討されているのですが、監査役との引き継ぎ時における論点はなんら触れられておりません。日本公認会計士協会「監査役会との連携に関する共同報告」平成21年改正版には、選任された監査法人は、監査役と前任監査法人との連携の状況は意見交換すべき基本事項として掲げられています。監査法人と違って監査役には職務上の守秘義務がないわけですから、忌憚のない意見を選任監査法人に述べることができるわけでして、まさに「不正の兆候」に結び付く可能性があるわけです。

会計監査人側からすれば、一般に公正妥当と認められる監査の基準に則って監査を遂行し、これをきちんと監査調書に記録しておけば善管注意義務違反に問われないのが原則かと思います。しかし平成21年の大原町農協事件最高裁判決は、監事に関する判決ではありますが、これまでの「慣行」に従っていたから、というだけでは注意義務を尽くしたとはいえず、監事の職務を規整する法律の趣旨に従った職務を尽くさなければならないとしています(現実に監事に損害賠償義務が認められました)。だとするならば、監査役との連携に関するガイドラインが一般に公正妥当と認められる監査の基準とはいえないかもしれませんが、リスク・アプローチの手法による監査を適正に行うためには、監査役との連絡協議等については、不可欠な監査業務ではないかと。

この「監査役と会計監査人との連係」という論点は、基本的には監査法人に有利に機能するのではないかと考えております。監査法人の法的責任を減じる方向に働く、いわば「監査法人にとっての有利な事情」になりうるはずです。ほんの些細な職務執行によって、リーガルリスクの半分くらいは監査役に負担してもらえる可能性があるわけでして。監査法人が当該会社の監査役監査がまじめに行われていることを信頼することは、法的保護に値するのではないでしょうか(いわゆる信頼の抗弁が適用される場面)。リスク・アプローチが監査手法として重視され、たとえ二次的にでも「不正発見」への関与が会計監査人に期待されるのであれば、監査役による業務監査の結果にも配慮することがごく自然な流れではないかと思います。

しかし、監査役との連係を怠ったがゆえに、不正リスクや内部統制リスクの評価を誤ったり、異常な兆候にアクセスできる機会を失った場合には、逆に職務上の正当な注意義務を尽くしたかどうか、かなり疑問に感じるところであります。原告・被告間において、立証責任がどちらにあるにせよ、争点形成責任は基本的に原告側にあるわけですから、「異常な兆候」がどこにあったのか、原告側が知るためには、監査法人と監査役間でいったいどのような協議がなされていたのか、双方の監査調書を取り寄せて検討することが不可欠だと思うところです。

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2012年4月 4日 (水)

「公正なる会計慣行」と古田最高裁判事の補足意見

本日は、頭出し程度のエントリーにすぎませんが、先日大阪弁護士会と日本公認会計士協会近畿会共催によるシンポ「公正なる会計慣行を考える」を開催したことをお伝えしました。弥永教授や松本教授も交えて、非常に活発な意見交換がなされたもので、終了後には数名の方からご意見を頂戴し、私自身も勉強させていただきました。

このシンポの準備会は合計7回に及んだのでありますが、実は長銀事件、日債銀事件の最高裁判決を関係者で検討する際、とても興味深い出来事がありました。それは、

「最高裁判事のなかで、本当に会計のことがわかっているのは補足意見を書いておられる古田さんくらいではないか?」

とのご意見が、数名の会計士、会計学者の方から出たことであります。

私はとても意外でした。私の理解では、もっと単純に

「古田裁判官は検察出身だから、自分の出身母体に恥をかかせないように(検察のプライドを守るために)リップサービスで補足意見を出したのではないか」

というものでした(古田裁判官には、たいへん失礼な物言いでありますが、正直、そのような印象だったのです)。

しかし、感覚的とはいえ、会計の専門家の方が、真剣に最高裁判決を読んだ結論として、上記のような意見が出た、というのは、少し検討する必要があると思い、いろいろと思い悩んでおります。また、さきのエントリーに藤野先生(公認会計士)がおっしゃっているご意見なども拝見しておりますと、「公正なる会計慣行」の中身をどのように考えるのか、そこには法律家と会計専門家との間で大きなミゾがあるのではないか、と考えるようになりました。投資家に対してその判断に必要な範囲で有益な意見を出す(保証行為を行う)会計専門家の考え方と、社会秩序を維持するために、具体的な紛争の解決を図ることを目的とする法律家の考え方の違いが大きくでるのが「公正なる会計慣行」の中身の理解である、ということが、ほんの少しばかり見えてきたように思います。

そこで、古田最高裁判事の長銀事件判決および日債銀事件判決における補足意見を検討しながら、続きのエントリーでこの差を検証していきたいと思います。続き、と申しましても、いまは公認会計士の方々の繁忙期ですので、本ブログを読んでいただけそうな、もう少し先になりますが。。。

基本的には、ザックリと会計監査人設置会社(もしくは有価証券報告書提出会社)とそうでない会社について、理路整然と「公正なる会計慣行」の意味を捉えることを重視するか、そのような分け方を意識せずに、個々の企業の規模、業界、業績、事業モデル等を斟酌して、会計基準の選択と、その適用方法まで含めて「公正なる会計慣行」として捉えるのか、というアプローチの違いから出発しているように思われます。そのあたりを整理してみたいところです。

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2012年4月 3日 (火)

サムライと愚か者-暗闘・オリンパス事件

Orokamono久しぶりに「一気読み」してしまいました。オリンパス事件に関心のある方には必読の一冊であります。

サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件(山口義正著 講談社1400円税別)

著者の山口義正氏は、オリンパス事件が世に出る発端となりましたFACTA誌にて、初めてオリンパス事件の記事を書いたジャーナリストの方です(元公社債研究所アナリスト、元日経新聞記者。オリンパス社への質問状の原稿も、この方が書かれています)。この山口氏と内部告発をしたオリンパス社員(もちろん本書では仮名)の「告白」シーンから本書は始まります。ジャーナリストの山口氏さえ、告発者のつぶやきに本気になるまで1年を要しています(それほど、オリンパス社の粉飾、ということは信じがたい事件だったということなのでしょう)。

多くの新事実が本書に出てくるので、書評として書きつくすことはできないのでありますが、まず本書を読み、当ブログでも既述のとおり、オリンパス事件は多くの社員が知っていた、ということを確信いたしました。本書で明らかになるのは、複数の内部告発者が存在したこと、そしてどの内部告発もオリンパス事件発覚において重要な役割を担っていた、ということであります。また、山口氏も最後のほうで記しておられるように、重要な社内メールが「cc」でたくさんの幹部社員に届けられており、筆者の言葉を借りるならば「ミニ菊川」とも言うべき幹部社員が数十人規模で存在していた、ということ。そうでなければ複数の内部告発者が出てくる、という事態は考えられないわけでして、やはり本件は「組織ぐるみ」と考えるのが正しいと思います。

ただ、私もきちんと整理していなかったのですが、「不正なM&AやFA報酬で巨額の資金が流れている」という不正を知っていた社員が多かったようですが、それが「飛ばしによる損失隠しの解消のために行われていた」という点まで知っていた社員がどれほどいたのか・・・ということについては、いまだよくわからないところであり、本書を読んでも、そこはハッキリしませんでした。また、FACTA誌が追及しているときに、週刊朝日に「先を越される」事態となりましたが(オリンパスの不正な資金流出が、実は損失飛ばしと関係がある、という点)、「悔しかった」という山口氏の感想が述べられておりますが、なぜ週刊朝日がすっぱ抜いたのか?という点もナゾのままであります。

本書を読み、多くの示唆をいただきましたが、3点のみ感想を述べさせていただきます。ひとつは、オリンパス事件とは、多くの偶然が重なって不正発覚に至ったという点。山口氏と告発者との出会い、FACTA編集長との出会い、ウッドフォード氏が温泉旅行に出かけたときに、同行した知人がたまたまFACTA誌の記事を読んでおり、これを英訳をしてもらい、これがウッドフォード氏の目に留まったこと、更なる内部告発があったこと、アメリカ人僧侶との出会い、ウッドフォード氏と菊川氏との密約違反の事実が発生したことなど、どれかひとつが欠けても「損失飛ばし事件」は世に出なかった、ということであります。また、こう考えますと、筆者が言うとおり、オリンパスは本当は債務超過の状態にあり、これを「官製粉飾決算」として、いまだ「なあなあ」の状態に保存しているのではないか、との疑念が湧いてまいります。本日(4月2日)の日経新聞ニュースでは、金融庁が開示検査として、上場会社の「のれん」の過大計上を重点的に調査する方針であることが報じられておりますが、まさに筆者も、この事件について「のれん」の計上を最大の論点として位置づけておられます。

次に、オリンパス事件というのは、後出しジャンケン的な発想を極力回避して考えてみると、「反社会的勢力と著名企業との癒着」ということへの関心が、不正発覚への強力な後押しになったのではないか?という点です。当初問題視されたのは、国内3社の買収代金、英国ジャイラス社の買収に伴う過大なFA報酬がケイマンの得体のしれないファンドに流れたことです。この事実が「オリンパスと反社会的勢力との癒着」への妄想を駆り立てことが告発者や筆者、そしてウッドフォード氏の追及の意欲を高めたのではないでしょうか。また、ウッドフォード氏解任後に英国やアメリカで連日大きく報じられたのも、オリンパス社と反社会的勢力とのつながりが連想された事件だからではないかと。これがもし、最初から「損失飛ばしスキーム解消のための資金還流」といった構図が判明していたとすれば、ここまで海外メディアは大きく報じていたでしょうか?(こういった事件の読み方をされた方はいらっしゃらないかもしれませんが、どうでしょうかね?)

Tomodachi03
そして最後になりますが、ウッドフォード氏は、菊川氏、森氏を追及する時点で、最初から彼らに辞任を求めるのではなく、「手打ち」を考えていたフシがあります。つまり菊川氏が形だけの取締役会のトップに収まり、自身が名実ともにCEOになることで合意したそうでありますが、その後、英文開示情報では「ウッドフォードがCEOに就任した」とオリンパス社のHPで公表したのみで、日本語ではこれを開示しなかった、とのこと。これに不信感をもったウッドフォード氏が取締役辞任を両名に求め、その後の自身の解任につながったというもの。ということは、ウッドフォード氏も、純粋な正義感だけで動いていたのではなく、オリンパス社の損害が最小限度に収まるように、不正な海外への資金流出問題を丸くおさめようと考えていたのではないかと思えてきました。けっしてウッドフォード氏を悪くいう意味ではなく、大会社の経営者であれば、そのように考えるのも自然ではないか、と。いや、これは私が本書を読んだうえでの感想ですので、このあたりはお読みいただいてから、皆様の評価にお任せしたいと思います。

本書の面白さは当ブログでは書き尽くすことは困難ですのでご一読をお勧めいたします。いずれにしましても、本書は日本のメディアへの痛烈な批判が随所に「事実を示しながら」登場してまいります。FACTAの編集長の方も、「FACTAだけでは事件が消えてしまうかもしれないから、もっと大きなメディアに売り込んでみては?」と山口氏に提言するのでありますが、残念ながら他紙では相手にしてもらえない、というのが実情。本書はおそらく売れると思いますが、さて、各新聞や雑誌が本書を取り上げるのかどうか、とても興味のあるところです。

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2012年4月 2日 (月)

大阪市の「脱原発」株主提案に対する素朴な疑問

あらかじめ申し上げますが、私はとくに大阪市、関西電力経営陣いずれにも中立の立場でありまして、思想的な背景はなく、単に法律的な関心のみで以下のような素朴な疑問を抱いた次第であります。

共同通信ニュース(内容はこちら)や日経新聞ニュースなどによりますと、関西電力の筆頭株主(約9%保有)として同社に脱原発を求めている大阪市は、エネルギー戦略会議の審議をもとに、関西電力に対して「脱原発」の株主提案を行う方針を固めたそうであります。具体的には、今年6月の関西電力の株主総会において、定款変更に関する議案を提出する、とのこと。これは株主総会期日の8週間前までに提出する必要がありますので、もうそろそろ期限であります。

日経新聞ニュースが伝えるところによりますと、現在の関電の定款は6章42条で構成されておりますが、これを提案では7章48条にする、というもの。その内容は、「可及的速やかに全ての原子力発電所を廃止する」「原発廃止までは他の電力会社から電力調達などで供給力をまかなう」「原発稼働については、需要が供給を上回ることが確実となる場合のみ必要最低限の期間、検討する」とのこと。また、定款の総則には経営情報を積極的に開示することを条項として盛り込む、といったものだそうです。

ご承知の方も多いと思いますが、株主総会における定款変更議案が可決されるためには、株主の過半数の賛成では足りず、出席株主の3分の2以上の賛成が必要となりますので、いくら大阪市が筆頭株主とはいえ、可決されるハードルが非常に高いものがあります。大阪市の株主提案の本意とするところは、現実に定款変更議案が可決されることが困難だとしても、多数の株主が「脱原発」を求めていることをパフォーマンスとして示すというところなのかもしれません。

しかしながら、株主提案権を行使する大阪市としては、可決要件という問題よりも、もっと以前の問題としてクリアしておかなければならないことがあるのではないでしょうか。とりわけ京都市や神戸市と共同提案する、ということが目論まれているわけですから、きちんと説明しておかなければならない点であります。

たとえば、大阪市の提案する定款変更が可決された場合、その定款の効力はどのようなものなのか?という点であります。会社の定款は、まさに会社にとっての「憲法」です。いわば経営陣は、この定款に反する行動はとれないことが原則です。法令や定款に違反する取締役の行動や意思決定は、取締役の善管注意義務違反となり、会社や株主に損害賠償責任を負うことになります。また、定款内容に反する会社の行動は、取締役会決議が無効となり、関電を取り巻く多数のステークホルダーにも多大な迷惑を被らせてしまうことにつながります。とりわけ関西電力のように非常に多くの株主が存在し、所有と経営が高度に分離した株式会社の場合、経営の執行は取締役会に任せることが会社法の原則です。そうであるならば、定款の内容は非常に明確でなければならないはずです。にもかかわらず、上記のように「可及的速やかに」とか「他の電力会社からの電力調達」とか「上回ることが確実」「必要最低限の」などなど、人によって判断基準が異なるような主観的な文言が定款に記載されることは、果たして「任意的記載事項」としての定款の効力を有するのでしょうか?記述内容があいまいなだけでなく、「他の電力会社から調達」といった内容は、関電自身で履行できるものではなく、第三者の都合次第であり、かなり疑問であります。

仮に大阪市から提案されている定款の効力が認められるとしましても、次の問題が生じます。以前、当ブログで「定款への『企業理念』の記載」として、エーザイさんの事例をとりあげたことがございます。企業理念を定款に記載する、ということがいったいどのような意味があるのか?ということを(その際に)検討いたしました。結論としまして、おそらく(企業理念を定款に記載しても)努力目標や精神訓示的な意味をこめたものすぎず、取締役の行動を法的に拘束したり、取締役会の決議の効力には影響しない、つまり裁判規範にはなりえないもの、と考えました。このエーザイさんの定款変更事例との比較でいえば、今回の大阪市による株主提案としての「定款変更」は、あくまでも訓示規定や努力目標のようなものであり、定款に反する取締役の経営判断がなされたとしても、その効力を否定したり、取締役の善管注意義務違反による損害賠償責任を追及できるようなものではない、ということになるのではないでしょうか。(そもそも努力目標であれば、電力会社としては今でも究極の目標として「脱原発」は考えられるところなので、あまり意味がないのでは?)したがいまして、提案する大株主である大阪市としては、まずこの定款は、関電の経営陣にとってどのような法的効果があるもの(もしくは法的には意味がないもの)と考えているのか、そこを明確にしないと、共同提案を受ける京都市や神戸市も賛否を決めることはできないでしょうし、なによりも一般株主にとっての判断が困難になろうかと思われます。とくに大阪市が今後、委任状勧誘をする、ということであれば「なおさら」であります。

もう一点、明確にしておかねばならないのは、大阪市の定款変更議案は一括して上程するのか、分割して上程するのか、という問題であります。この点につきましても、当ブログでは過去に「定款変更議案の分割決議」なるエントリーにて検討したところであります。5~6年前の株主総会のホットイシューとして、買収防衛策導入に関する議案が話題になったころに語られた論点でありますが、決して法的に分割提案ができない、ということもなさそうに思いました。

上記の日経新聞の記事によりますと、「脱原発」に関するものと関電の一般的な経営姿勢に関するものとが混在しているようであり、また変更議案の中身が相当に多いようようですので、かりに一括上程いたしますと、株主として、どこか一ヵ所でも賛同しかねる点があれば全体が否決されてしまう結果となります。むしろ大阪市としては、分割して提案する、ということを検討されたほうが(たとえすべて否決されたとしても)「この問題については民意が反映された」と後日、パフォーマンスできるのではないかと思うのでありますが、いかがでしょうか。とりわけ、これまでも多くの一般株主が関電の株主総会で「脱原発」を求めて争ってこられたわけですから、こういった既存の「反原発推進支持者」との接点を求めるためにも検討すべき課題ではないでしょうか。さらに法的な観点からみましても、平成17年改正会社法の立案担当者の解説では、旧商法時代とは異なり、取締役会設置会社における株主総会では、個別の条文で定款記載が許容されている事項のほかには、ごく一般的な事項(たとえば事業年度に関する定めなど)しか認められない、経営判断を拘束するような定款変更は法的安定性を害することになるため認められない、とされておりますので(相澤編 新会社法の解説 20頁)、たとえば電気事業連合会からの脱退を命ずる等の定款変更は、そもそも定款変更の効力がない、という考え方もあり得ます。

このあたりは、結局のところ筆頭株主と関電側との事前交渉のなかで検討されることかもしれません。しかし、提案を受ける側の一般株主としては、定款の変更にどれほどの意味があるのか、どうしても知っておきたい前提問題かと思われます。

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