大手運用会社によるガバナンス強化策(第三のガバナンス改革)
本日(5月28日)の日経夕刊一面に「社外役員 より独立性を重視」と題する記事が掲載されておりました。野村アセット、三井住友アセットマネジメント等の大手運用会社が、6月の定時株主総会において、これまで以上に議決権行使に関する判断を厳格に行う、とのこと。今まではスクリーニング(社会的に問題行為を起こした企業をピックアップして、そこだけ重点的に審査する)をかけるところが多かったようですが、今後は不祥事を発生させていない企業であっても厳格に議決権行使基準を適用していく、ということだと思います。
とりわけ社外役員候補者については「独立性」基準を厳しく適用し、たとえば社外役員の相互派遣、親会社出身者の選任、長期の社外役員在任に関しては反対票を投じる運用会社が増える見込みのようです。これまでは海外の機関投資家や議決権行使助言会社の独立性要件の厳しさが目立っておりました。しかし、3名の社外取締役が存在していたにもかかわらず、損失飛ばし、飛ばし解消スキームを長期間見逃してしまったオリンパス事件などを教訓に、社外取締役の人数だけでなく、その属性についても厳しく審査していこう、という国内運用会社の姿勢が注目されるところであります。
ただ、企業不祥事が目立ったことだけが、大手運用会社の議決権行使ポリシー厳格化の理由ではございません。当ブログの3月28日付けエントリー「ガバナンス改革の『第三の波』と企業周辺領域への規制拡大」でもすでに述べましたように、行政当局による上場企業に対するガバナンス改革の一環としての意味合いが強いのではないかと推測いたします。最近よく言われる「ガバナンス改革第三の波」の兆候ではないかと思われます。これは日本だけではなく、リーマンショック以降の欧米におけるガバナンス規制の手法にも合致するところです。
上図は3月28日付けエントリーで示した解説図に、大手運用会社を用いたガバナンス規制を加えたものです。会社法改正はもちろん法務省の管轄ですが、法務省主導によるガバナンス改革が進まない場合には、金融庁主導による改革が上場企業に改革へのプレッシャーをかける、という構想図となっております。
社外役員の独立性がいろいろと話題になりますが、独立性を知るうえで一番効果的なのは社外役員候補者の方に以下の質問をぶつけて、ご回答いだだくことだと思います。
「〇〇さん、あなたは誰の紹介で、この会社の社外役員候補になったのですか?」
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コメント
こんばんわ。このガバナンスの強化というのはもはや株主-経営陣だけの課題では済まされないなあ、と感じるようになりました。
アセットマネジメント会社やその親会社のインサイダー問題、役人、政治家の不祥事(不倫とかも含める)、などガバナンスの「食物連鎖」のような形で、誰もが皆襟を正さなければ、国が正しい方向にまわっていかないような気がしています。
(平たく言えば、(役人やアセマネも「偉そうに言えないだろ」と言うことですね)
結局、株式の場合であれば受益者たる株主、政治であれば国民が普段から(健全な)「ものを言う」姿勢をプロアクティブに持っていないと変わらないし(今回の政権交代は失敗だったと思いますが)、決して社外取締役だけの問題ではないなあ、と一般的に考えてみたりします。
投稿: katsu | 2012年5月30日 (水) 19時37分
一番イタイところを指摘されたような気がします(笑)
たしかにガバナンスの第三の波については、上場企業に影響を与える機関が適切に行動することが前提ですね。したがって、そこが機能しなくなると見栄えが悪くなってしまいます。
まぁ、ベストプラクティスとはいえないまでも、ベタープラクティスとしては存在価値はあるのではないかと考えます。いまのところは。
最終的には「民度」に関わる問題なのかもしれませんね。有益なご意見として承っておきたいと思います。
投稿: toshi | 2012年6月 1日 (金) 02時15分