« 2012年5月 | トップページ | 2012年7月 »

2012年6月29日 (金)

壮絶・アコーディアゴルフ株主総会-24時間、闘えますか?-

(6月29日 午後0時30分追記あり)

今年の株主総会の話題としては、電力会社や不祥事を起こした企業に集中した感があります。ガバナンス問題によって会社側の取締役選任議案が否決され、株主側提案による社長さんが誕生した会社も出てきたようであります。しかしながら、マスコミの関心とは別に、当ブログとしましては、今年の株主総会の「真打ち」としてアコーディアゴルフ定時株主総会に注目しておりました。予想通りといいますか、前代未聞といいますか、壮絶な株主総会となっているようであります。

結局のところ、本日(6月28日)の総会では取締役議案の賛否集計が終わらず、29日の午前10時に議長が集計結果を報告する、という事態となりました。法的には総会をいったん打ち切って「延期」や「続会」にする、ということではなく、実際に集計作業が続いている、ということでしょうから、28日の午前10時から29日の午前10時まで株主総会が続いていることになります。つまり会社側も、大株主側も、委任状争奪戦をもって24時間以上闘い続けている、ということであります(いちおう、ホテルニューオータニの会場はそのまま使用され続けている、というなんでしょうね)。

会社側リリースによりますと、どうも会社側による取締役・監査役候補者の大半の方々が過半数の賛成票を得たようですが、委任状の集計結果次第では、ほかに会社側候補者2名、大株主側候補者1名の方の賛成票が過半数に達する可能性があるとのこと。「大株主側は敗れたのか?」と思いきや、深夜になって大株主側(アコーディアゴルフ株主委員会側)よりリリースがアップされ、「不公正極まりない会社側の行為によって総会の手続きが異常事態となっている。我々は今後、委任状等の閲覧謄写請求を行い、株主総会決議取消の訴えも辞さない」と声明を出しておられます。ちょっとこれでは株主総会で決着がつく雰囲気ではなくなってきたようにも思われます。

こういったことにならないように、わざわざ事前に裁判所によって総会検査役が選任されているのではないか?とも思うわけであります。しかし、そもそも総会検査役というお仕事は、決して「株主総会を仕切る」ことが求められているのではなく、そこで行われている手続きや決議方法を逐次観察して、これを記録し、報告するというものであります。ただ、総会が混乱しないように検査役が選任されるのであれば、あらかじめ双方の代理人弁護士と集計方法や委任状の有効性に関するルールについて合意したり、事前に予想もしていなかったような問題が発生した場合のジャッジを行うなどといった、多少「権限外」とも思われるようなことにも積極的に参画すべきではないか、とも思ったりしております。なお、こういったことは外野だからこそ言えるのでありまして、いざ総会検査役の立場からすれば、委任状の有効・無効の判断が速やかに行われることは重要ではあるものの、あまり(法の趣旨を無視して)荒っぽいルールで仕切ってしまいますと、今度は株主総会決議の有効性にも影響しかねないところなので、どこまで総会検査役が仕切ってよいのかは、非常にむずかしいところであることは事実であります。

現に、会社側リリースによりますと、議決権行使数を確定するための委任状の有効性の判断に時間を要するために、一日では取締役・監査役選任議案の集計結果が出ない、ということのようであります。会社側も大株主側も、あらかじめ一般株主向けに「委任状発送上のご注意」ということで説明をされていたようですが、それでも1000枚以上の委任状に疑義があるとのこと。平成21年1月から株券電子化が施行され、届出印制度が廃止されましたので、委任状の真正の確認が行いにくくなっています。また、ひとりの株主が会社側と大株主側双方に委任状を提出しているような場合には、日付の遅い方が有効として取り扱うはずですが、これも日付が同一であったり、日付が記入されていない場合にはどっちが有効とすべきかは判断しかねないところです。さらに事前に議決権行使書を提出していながら、委任状を送付している株主さんの場合、原則としては代理人が出席した時点で議決権行使書は効力がなくなりますので、その取扱いも問題となります。

こういった理屈の問題とは別に、その瑕疵の程度もさらに問題となります。委任状の記載から判断して、軽微な瑕疵の場合には有効としてもよいのではないか、瑕疵が軽微といえるかどうかは、双方の主張が食い違う場合どうすべきか等、考えるだけでも気が遠くなりそうな問題が発生するわけです。さらに、これは私だけの考えかもしれませんが、平成19年のモリテックス事件東京地裁判決が、両立しない議案に関する委任状の取扱いについて、委任者の合理的な意思解釈を許容しているところがありますので、ひとつひとつの委任状の不完全な記載部分を、委任者の全体の意思解釈によって補う、という作業も出てくるようにも思われます。もうこうなってきますと、委任状争奪戦に関与するすべての人たちの「互譲の精神」でもないかぎり、つつがなく総会を終了させることは至難の業ではないかと。

いずれにせよ、29日午前10時の議長報告だけでは、アコーディアゴルフの支配権争いは終結することはないように思われます。委任状・議決権行使書の閲覧謄写請求が認められるのかどうか、総会決議取消の訴えが認められるのかどうか等、争いの場は総会議場から裁判所に移りそうな気配がいたします。なお、総会に参加された株主の方から、総会の雰囲気等に関するご報告、総会審議に関するご意見・ご感想などをお待ちしております。マナー違反にならない程度にて、またご紹介させていただきます。

(追記)ロイターニュースが報じるところでは、会社側提案の取締役・監査役のみが選任され、株主側提案の役員候補者の方々はすべて否決されたとのことです。

6月 29, 2012 株主総会関連 | | コメント (8) | トラックバック (0)

2012年6月27日 (水)

不祥事企業の自浄能力は役員をも救う!(D&O保険の最新事情)

先週金曜日、ある研究会にてD&O保険(会社役員賠償責任保険)の最新事情を某外資系保険会社の方からお聴きしましたところ、ちょうど本日の朝日新聞ニュースでもとりあげられておりました(朝日新聞ニュースはこちら)。会社役員の法的な賠償責任について、保険が適用される場面が少し広くなりそうであります。

オリンパス、大王製紙等、昨今の企業不祥事を受けて、たとえばAIU社の保険制度では、会社が役員に対して損害賠償請求訴訟を提起し、役員に法律上の損害賠償義務が認められた場合でも、当該役員の賠償金を保険から負担するようになるそうです(2012年7月1日より運用開始)。たとえばオリンパス社のケースを例にとりますと(あくまでもモデルケースとして、という意味です)、責任調査委員会が「善管注意義務違反あり」として認定した十数名のうち、実際に違法行為に関与していたとされる数名の方々の分は対象とはならないが、他の役員の方々の分(たとえば取締役の監視義務違反や監査役の任務懈怠による法的責任)については対象になる、とのこと。自社できちんと第三者委員会を設置して、その公正な調査のもとで役員の責任判断が下され、その報告結果に基づいて会社が損害賠償責任追及訴訟を提起する、という例は今後も増えてくるものと思われます。そういった企業の自浄能力を発揮した対応をも保険でカバーする、というのは、コンプライアンス経営という視点からは画期的なものであります。

通常、D&O保険は会社役員賠償責任普通保険約款と会社補償担保特約条項の、いわゆる二層建によって構成されております。基本約款部分では株主代表訴訟による役員の賠償義務には保険が下りないことになっており、これを特約で一定の条件のもとで解除している(つまり代表訴訟で敗訴した役員にも保険金が下りる)ことになっております。しかし、今回問題となっているのは、普通保険約款6条9号、7条1号の条文です。そもそも、会社が役員に対して損害賠償責任を追及するケースは、保険の対象外になっています。この原則の例外として、一定の条件のもとで(上記紹介したとおり)会社提訴にかかる役員の職務に関する任務懈怠事案に適用されるものだと理解されます。したがいまして、会社自身が役員を訴えるといっても、どういった条件のもとで提訴した場合に保険の対象となるのか、このあたりは保険会社の方に十分説明を求める必要がありそうです。

たとえば上ではオリンパス事例をモデルにしましたが、では佐藤食品工業さんの事例のような場合はどうなるのでしょうか(これもモデルケースとして例示したものにすぎませんのであしからず・・・)。つまり、株主から提訴請求を受けた監査役が、提訴が妥当と判断して、会社自ら役員に対して責任追及訴訟を提起するケースであります。このケースも基本約款および株主代表訴訟特約条項からすると適用されないことになりそうです。たとえば日弁連ガイドラインに基づいて、公正な第三者による責任判断がなされたからこそ、保険の対象になると考えるのであれば適用外と考えられます。もっと広く会社判断による役員責任追及の場面もカバーする、ということであれば対象になるようにも思えますが、どうなんでしょうか。皆様の会社が契約を締結されていらっしゃる保険会社の方々に、一度説明を求めてみてはいかがでしょうか。

ところで、このD&O保険の普通保険約款や特約条項等は、法律家でなければ、かなり読みにくいものと思われます。そこで、意外と知られていないかもしれませんが、「身内」どうしの争いには適用されないことになっています(普通保険約款6条9号参照)。つまり社外監査役や社外取締役等が現経営陣と対立して、現経営陣の責任を追及した場合、かりに現経営陣が損害賠償責任を負担した場合には保険金は支払われない、ということであります。社外役員が、自分たちの責任まで問われるような場面であれば、まさか現経営陣を率先して訴えることはないかもしれません。しかし、経営判断において意見が対立し、現経営陣が会社に損害を与えたようなケースであれば、社外役員が一株でも株式を保有している場合、社内の取締役には、かなりリスキーな場面も出てくるかもしれません。

現在上場会社の(少なくとも)8割において、なんらかのD&O保険に加入しているそうですが、今後、社外役員の導入が真剣に検討される時代となった場合、この身内に訴えられるリスク、というものもD&O保険との関係でも検討される必要があるように思いました。また社外役員に就任される方にとっても、どういった賠償保険の内容になっているのか、就任時の条件としては重要なものなので理解をしておく必要がありそうです。

6月 27, 2012 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2012年6月26日 (火)

日興インサイダー事件は「法令遵守」では防げない

日興コーディアル証券(現SMBC日興証券)の元執行役員が、インサイダー取引容疑で逮捕された、とのこと。最近のインサイダー事件といえば「増資インサイダー」が話題となっておりましたが、こちらはここ数年の典型的なTOBに絡むインサイダー事件であります。ただ、自らはインサイダー取引によって利益を得ていない情報提供者を立件するというものです。当ブログでもしばしばとりあげました「西友インサイダー事件」でも結局情報提供者の立件は困難でありました。ということは、このたびの日興コーディアルの件については、捜査機関の並々ならぬ意欲を感じさせるところであります。

インサイダー取引に関する法律的な問題点をここで議論することは控えまして、本日はインサイダー取引が、果たして組織における「法令遵守」の徹底によって防止できるものかどうか、ということについて考えてみたいと思います。

今回は、昭和59年に三井住友銀行(当時の住友銀行)に入行し、同期の出世頭として日興コーディアル証券の執行役員として出向していた人が逮捕された、ということのようです。なぜ顧客に未公表のTOB情報を流していたかというと、以前銀行員だったころに、この顧客(金融業者)とは仕事上の付き合いがあり、融資を受けたいという法人を顧客に紹介していたようです。その法人が返済を滞らせてしまって、不良債権化させてしまったことから問題が発生し、この銀行員は顧客からクレームをつけられるようになりました。つまり顧客のためを思って、お客さんを紹介したところ、これが裏目に出てしまって顧客とのトラブルが発生したそうで、その顧客の損失を穴埋めさせるために何度もインサイダー情報を提供していた、と報じられています。

(6月26日朝 追記)本日の朝日新聞朝刊の記事によりますと、この元執行役員は銀行員時代、銀行が融資をできない相手をこの金融会社のほうに回していた、と報じられております。ということは、三井住友銀行にとっても、この金融会社は都合がよい存在だったのかもしれませんし、そうであればますます損失穴埋めを銀行側に求めたい金融会社の気持ちも強まるところかと。

インサイダー取引はバレるもの、と冷静に考えればわかるはずであり、おそらくこの元執行役員も、頭ではマズイことをしているといった意識はあったと思います。しかし、反面において、インサイダー取引の片棒をかつがなければ、顧客とのトラブルが現実化することも間違いなかったわけです。ご承知のとおり、金融機関において、顧客とのトラブルが表面化した場合、間違いなく自分の出世街道に影響が出ます。とくにこの元執行役員のように、出世頭としてここまで進んできた者として、ここで顧客トラブルが表面化することは、なんとしてでも避けたい、と考えても不自然ではないと思います。

なにもしなければ間違いなく顧客とのトラブルは表面化し、自分の将来に暗雲が立ち込める、しかしインサイダー情報を提供することによって、顧客が満足し、自分としてもトラブルを隠し通せるかもしれない。つまり、一方は確実に自分にとって不都合な出来事が発生するが、もう一方は摘発されるとたいへんなことになるが、それでも摘発されない可能性もある、ということになります。

そうであるならば、法令遵守の精神を無視してでも、出世街道に残る道を選ぶ、ということも考えられるように思います(もちろん、法令遵守の意識が欠如していることを正当化しているものではなく、有事に至った人間の選択の心理としては可能性が十分にある、という意味です)。つまり「出世街道に残るために、インサイダー取引は摘発されない、という方向に賭けた」ということであります。

いくら法令遵守を徹底したとしても、この「心の選択肢」まではなくならないのであります。法令遵守の研修を積んだとしても、同じような状況に至った社員が「出世よりも法令遵守」を選択するとは考えにくいです。とくに銀行のように「減点主義」によって人事評価がなされるということになりますと、おそらく顧客とのトラブルは、行員にとっては何とか隠ぺいしたいところかと。法令遵守を徹底するくらいでしたら、そもそも銀行の人事評価制度の在り方にまで遡らなければインサイダー防止は困難かと思います。ちょっと極端な言い方かもしれませんが、市場の健全性を確保するためのインサイダー規制は、典型的な事後規制の世界であり、規制を広くしてかつ厳罰で臨むよりも方法はないものと思います。とりわけチャイニーズウォールをどんなに規制してみても、役員クラスのインサイダー情報の提供は防げません。もはや刑事罰の厳格化で対応するしか方法はないと考えます。

6月 26, 2012 刑事系 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2012年6月25日 (月)

取締役・監査役にはなぜ株主総会検査役の選任申立が認められないのか?

いよいよ今週は3月決算会社の定時株主総会のピークを迎えます。私が社外監査役を務める会社も、6月27日が開催日でありまして、(以前お知らせしましたように)総会終了時をもって8年間の監査役任務を終了いたします。ということで、やはり今週は「総会ネタ」が中心ののエントリーとなりますが、本日は「野菜ホールディングス」のようなオモシロネタではなく、法律実務的なまじめなネタをとりあげたいと思います。

先週、謝罪広告の件でとりあげましたトライアイズ社の元監査役さんの一連の事件を顧みて、どうしても会社法実務として理解しにくい点が気になっております。今年はアコーディアゴルフ定時株主総会の壮絶な紛糾が予想されるなか、決議方法等の公正性が担保されるよう、株主側からの申立により株主総会検査役が選任されております(会社法306条1項参照)。おそらく当日になって、投票ルール等で紛糾しないよう、検査役を通じて会社側と株主側でいくつかのルールが合意されているものと思います(たとえば委任状の記載にミスがあった場合に、どの程度のミスであれば会社は有効な委任状として取り扱うか、かりに定款に定められている取締役の員数を超えて過半数の賛同を得た取締役が生じる可能性を考えて、議案の取り上げ方をどのようにするか等)。

そもそも総会検査役の制度は、裁判所が選任した検査役が株主総会の招集手続きや決議方法を調査し、これを裁判所に報告するもので、少数株主の権利を保護するために少数株主に選任申立権が認められたものであります。そして平成17年改正会社法では、あらたに会社側にも選任申立権が規定されることになりました(ちなみに東京地裁管轄では、年間25件程度の検査役選任事例があるようです)。つまり、会社としても株主総会の手続きが公正に行われることを担保する実益がある、ということになろうかと思われます。しかし、会社法306条1項には、取締役や監査役による総会検査役の選任申立権は規定されておりません。

先のトライアイズの臨時株主総会では、監査役解任議案が上程されたのでありますが、その解任議案についてはご承知のとおり特別決議事項とされています。よく「3分の2」の賛成がなければ監査役は解任されないと言われ、よほどのことがない限り、監査役は解任されず、したがって監査役の職務の独立性が確保されているのだ、と解説されています。

しかし、一般の上場会社では実際のところ、会社法に従って、定款で定足数を3分の1まで緩和するところが多いと思いますので、議決権を行使できる株式総数の3分の1×3分の2、つまり全体のわずか22%の議決権株式が賛同すれば監査役を解任できる、ということになります。中堅・中小の上場会社であれば、たとえば創業者社長や取引先の大口株主が賛同すれば、あっという間に解任できる数字です。しかし、ここに個人株主等が投票行動を起こして、出席株主の議決権行使株式の総数が増えるとなりますと、俄然3分の2の賛同という数字の重みが増してきます。

トライアイズ社に限らず、監査役が取締役の違法行為差止訴訟を提起したり、会社を代表して損害賠償請求訴訟を提起している場合には、現経営陣は監査役の解任決議を総会で可決させることで、その差止め等の訴訟を止めることができます。新たに選任された監査役が、「バカな前監査役が一存で起こしたもので、どうもすみません」と言って訴訟を取り下げることができることになります。これほどまでに重大な事態になるにもかかわらず、監査役は自身が解任される株主総会において、手続きの公正性を担保するための手段を活用することができないのはどうもおかしいように思います。

今後、社外取締役も(制度が強制されるかどうかは別として)まちがいなく増えてきますが、当然のことながら、社外取締役は経営陣と対立することが想定される立場にあります。社長と対立することは好ましいことではありませんが、社外取締役は、どうしても社長と意見が食い違うケースも想定されるわけでして、そういった場合に社長が「あいつはうるさいから、解任議案を出してやめさせてしまおう」といった強硬手段に出ることも考えられます。その社外取締役は、解任されるにあたり、総会の決議方法や招集手続きが適正に行われるよう検査役の選任申し立てはできないのでしょうか。監査役や取締役が少数株主としての要件を満たしていればいいのですが、社外役員の立場で多数の株式を個人的に保有しているケースも少ないわけで、こういった解任議案が上程される株主総会では、指をくわえてその手続きの進捗を眺めているしかない、というのはどうも納得がいきません。

取締役や監査役から検査役を選任申立てを行うよう会社に要求するといっても、会社側が「公正にやるのだから、その必要はない」と言われてしまえばそれまでですし、機関として業務調査権を行使すればよいではないか、といっても、現実に投票箱の横にへばりついているわけにもいかないでしょう。書面行使のチェックもできないものと思われます。監査役にせよ、取締役にせよ、会社法831条による解任決議取消の訴えを提起しうる立場にありますが、提起できる期間は3カ月と限られており、事実上解任されて社内に立ち入ることができない者が、自己責任で証拠を集める手段はありません。また、後日の証拠保全手続きを活用したとしても、そもそも違法行為が行われたと疑われる事実を疎明する資料が手元にないわけですから、却下される可能性が高いと思われます。

たしかに自己の解任決議について異議を述べるため、というのは、そもそも監査役や取締役としての職務の範囲内だろうか?という素朴な疑問があります。しかし適切な監査役の職務や取締役の職務が不当に制限されたまま解任される、という事態は、株主の利益を損なうものであり、今回のトライアイズ社の謝罪広告のように「あれは間違いでしたので撤回して陳謝します」と後日言われても、もはや監査役としての地位は戻らず、株主共同利益も回復されないことになってしまいます。そうであるならば、たとえ解任理由が「能力不足、資質に欠ける」といった抽象的なものであったとしても、会社と対立関係にある監査役や取締役には総会手続きの公正性を担保する機会を付与することが必要になってくるのではないでしょうか。また平成17年改正会社法が、会社自身にも検査役選任申立権を認めたことからみても、手続きの公正を担保することのために、広く総会検査役制度が認められてもよいのではないでしょうか。

このように考えても、直ちに会社法の解釈によって認められるものではございません。ひょっとすると、今回のエントリーは大恥をかいてしまうような誤解があるかもしれませんし、あまりエラそうには言えないのですが、少なくとも私と同じように疑問に感じておられる方もいるかもしれませんので、あえて(赤っ恥を覚悟のうえで)エントリーにしてみました。

6月 25, 2012 株主総会関連 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2012年6月21日 (木)

小さな謝罪広告が監査役制度に遺した大きな功績

(6月21日午後11時 訂正あります)

本日(6月21日)の日経新聞朝刊の社会面右下に、ほんの5行程度の小さな広告ではありますが、トライアイズ社(4840 JDQ)作成に係る謝罪広告が掲載されております。また、同社HPでも、本日付にてもう少し詳しい内容でリリースされています。その題名は、

「当社元監査役古川孝宏氏に対するお詫び」

広告内容を、そのまま引用することは避けますが、その概要は、

当社は元監査役の職務対応について、その在職中に任務を懈怠した、として名誉を毀損する表現があったが、これらの表現や記述を撤回するとともに、元監査役に対して陳謝します

というものであります。本件謝罪広告は、判決に基づくものではなく、当事者間における裁判上の和解条項の履行としてなされたもの、のようであります。

トライアイズ事案につきましては、もう3年ほど前のお話でありまして、経営執行部と元監査役との間で監査方法に関する紛議が生じ、これに異議をとどめた監査役に対して会社側から「監査役解任議案」が上程されました。その上程議案の理由として、株主総会の招集通知には「この監査役には任務懈怠があり、監査役としての資質や能力に欠ける」とされ、残念ながら総会では3分の2の解任賛成票が集まり解任された、という経緯がございます報じられています※。もう2年半以上前ですが、何度か当ブログでも採りあげまして、 「トライアイズ元監査役が遺したものを無駄にしてはならない」として、総括したことがございます。

※・・・なお、古川氏は、この3分の2の賛成票が集まった、というのは疑義があるとしています。この点は、私自身も法律的な観点から関心がございますので、別途検討してみたいところです。

現在も未だ上記古川氏とトライアイズ社との間では、別件裁判が係属中でありますので、ここで上記広告に至るまでの経緯を推測に基づいてお話をすると関係者にご迷惑をかけることになります。したがいまして、あくまでも上記謝罪広告が公表された限りでの感想しか申し上げることはできませんが、この謝罪広告の重要なポイントは「元監査役」に対する会社側からの陳謝、という点であります。私は未だかつて会社法関連の事件で、監査役や取締役の職務執行の適正を確認するための謝罪広告というものは存じ上げません。おそらく、こういった謝罪広告は極めて貴重なものだと認識しております(もし、同様の謝罪広告が過去にございましたら、講学上も勉強しておきたいと思いますので、どなたかお教えいただけましたら幸いです。かならず付記させていただきます)。

私も過去にわずか数例はありますが、(監査役や社外取締役側にて)同様の紛争事案を経験したことがございます。しかし、いずれのケースにおいても、相手方企業が内紛を対外的に公表してはならない、という「守秘義務」にこだわり、高額な和解金と引き換えに一切の対外的公表は当事者が控える、という(民事調停上の)和解条項を付して終結しました。古川氏としては、会社側の「仕打ち」に対する個人的な感情もあるかもしれません。しかし、ここまで謝罪広告にこだわったのは、「監査役として」間違ったことはしていなかった、ということを正式な会社情報として開示せよ、という気持ちの現れだと思います。たしかに株主総会では解任されてしまいましたが、いまでも古川氏は「監査役」という職務に誠実に向き合い、監査役としての職務を適切に履行されたことを世間に伝えたかったことは間違いないと思います。

当ブログでこの謝罪広告を紹介させていただく一番の目的は、(古川氏の気持ちとは異なるかもしれませんが)当時のトライアイズ社の株主総会の状況に私がとても暗い気持ちになったからであります。監査役が自信をもって監査業務を遂行すれば、ときに経営執行部と対立することは当然であります。経営執行部としては、監査役解任議案を上程する、といったことも、予想されるところかもしれません。当時、元監査役の意見は招集通知に記載され、さらに株主の皆様宛にHPを開設して、堂々と監査役としての意見を公表しました。しかしながら、一般株主の方々の反応の中には(もちろん元監査役の意見に賛同された方も多かったのですが)お家騒動はやめろ、監査役が騒ぐと株価が落ちるから騒ぐな、ずいぶんと変わった監査役さんがいて会社も迷惑ですね、といった意見も聞かれるところでした。監査役が堂々とモノを言う、というのは、一般株主からはこのように映るのか・・・と、とてもつらい気持ちになったのを覚えております。

「モノ言う監査役」が珍しければ珍しいほど、「おかしな監査役さん」という感覚を一般株主の方に持たれるのはとても残念です。しかし監査役が取締役の職務執行を停止させる仮処分には担保は積む必要はありません。この会社法上の趣旨を実務上で実現するためには、単純に監査役に認められている権限を強化することにもまして、堂々と権限を行使できる環境を整備することにこそ目を向ける必要があります。そうでなければ、今後も監査役制度は機能しないはずであります。このたびの古川氏の行動も、けっして古川氏個人と経営陣との個人的な紛争によるものではなく、古川氏が監査役として誠実に職務を執行することに起因する紛争であったことを、一般株主を含めた投資家の皆様に知っていただける機会になったものと確信いたします。そういった意味においては、実に画期的なものであると評価いたします。

本当に小さな小さな広告ではありますが、監査役制度の発展に向けて、大きな前進であり、大きな功績を遺したものとなりました。最後になりますが、この裁判をここまで続けてこられた古川氏と、支えてこられた代理人弁護士の方々に敬意を表したいと思います。

6月 21, 2012 監査役の理想と現実 | | コメント (6) | トラックバック (1)

2012年6月20日 (水)

今度はどうなる?ヤクルト本社VSグループ・ダノンの攻防

この時期はどうしても株主総会ネタが増えることになりますが、アコーディアゴルフ社や関西電力社など、とても興味深い総会よりもやや早く、6月20日はヤクルト本社(「本社」までが会社名)の定時株主総会が開催されます。新聞報道等では、20%の株を保有するグループ・ダノンとの提携の行方を占ううえでも重要な総会になる、とのこと。そもそも2000年ころの損失飛ばし事件の際、ダノン社が3%の出資をして、2003年には20%に出資比率を引き上げたようですが、この20%引き上げの攻防は、日経新聞編集委員の三宅伸吾さんの「乗っ取り屋と用心棒」271ページ以下で紹介されています。

同書では、いきなり20%まで買い増したダノン社に対抗しようと、ヤクルト本社が東京の大手法律事務所に相談にいったところ、「このまま頑なに拒んでいたら、どんどん買い増してきますよ。どこかで妥協しなさい」と言われ、2008年(その後2012年まで伸長)までの現状維持協定を結んだことが記されています。その期限が到来した、ということで今後のダノン社の対応が注目されているところかと。すでに妥協案として28%案がダノン社側より出されましたが、これをヤクルト側は頑なに拒否しているそうです。

TOBの可能性も十分にある、と企業法務で著名な先生が(ダイヤモンドニュースにて)おっしゃっておられますし、先の大手法律事務所の先生の助言内容などからも、もはや35%まで買い増しが強行されても文句は言えないように思えます。しかしどうなんでしょうか、グループ・ダノンとしては、今回もそんなに簡単に強硬策に出るようには思えないのです。なんといってもヤクルト本社がノウハウを持つ「BOPビジネス」(開発途上国の比較的貧困な方々に購入してもらい、しかもCSRではなく、しっかりと本業で儲けを出す仕組み)は真似ようとしても真似できなかったのではないか、と。日本では「ヤクルトレディ」さんの販売形態が有名ですが、開発途上国における販路拡大でもヤクルトは一定の成果を上げているようです。このBOPビジネスはダノン側としても、アジアの販路拡大にとってはどうしても手に入れたいわけで、ここでホワイトナイトでも出てくると、これまでの努力が水の泡になってしまうような気がします。

また、日本ではなかなか敵対的なM&Aは成功しない、ということも認識されているのではないでしょうか。もちろん、ヤクルト「販社」と手を結び、買い増しの脅威が噂されるところかとは思いますが、経営者交代、というところでの利害は一致するかもしれませんが、企業統治の異なる経営陣の姿勢と長年のヤクルトビジネスが、そのまま一致するのかどうかはよくわからないところです。

結局のところ、(これまで以上にダノン社が経営に関与する形で)今回もどこかで妥協することで決着がつきそうな気がするのですが、甘いでしょうかね。これはあくまでも私個人の意見なので、投資判断は皆様方の自己責任にてお願いいたします<m(__)m>。M&Aネタでは毎度申し上げるところですが、私は特にこの分野の専門ではございませんので、あくまでもガバナンスに関心を寄せる野次馬的意見、ということでご理解くださいませ。

6月 20, 2012 商事系 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2012年6月18日 (月)

グリー社の事業活動と風営法適用問題を考える

もうすでに多方面で話題となっておりますが、先週金曜日に発売されました「四季報2012年夏号」におきまして、ゲーム運営会社であるグリー社の業績予想欄に「今後焦点は射幸性の高い仕組み自体への風営法適用に。当社含む業界6社で自主ルール作りによって徹底抗戦」との記述があり、たいへん驚きました。日経ニュースの5月22日付記事にて、グリーのコンプガチャ問題はとりあえず一件落着したかのように思えるが、火種は残っているとして「射幸性の高さ」に対する次の課題に触れておられましたが、ソーシャルゲームの問題は消費者庁から警察行政へと移行する可能性があるようです。

風営法が適用されるおそれ、というのは「射幸性の高い遊びの場を提供すること」自体が問題になる、というわけですから、ソーシャルゲームによる収益をパチンコ店やゲームセンターを運営して収益を上げるものと同様に扱う、というものです。私見としては、現行の風営法規制のままで摘発する、ということがなかなか困難ではないかと考えます。しかし、グリー社の収益事業の一部が「風営法違反のおそれあり」との評価が周知されてきますと、「法的にはグレーな事業」ということになり、「青少年の保護育成」という御旗のもと、グリー社に収益の機会を付与している周辺事業の大手企業が「コンプライアンス違反」ということで事業への協力を回避する傾向が出てきます。自社としては「グレーではなく、まったくのシロだ」と主張していても、周辺の事業会社が手を引く、ということになりますと、闘いたくても闘えない状況に陥ってしまうわけでして、事業者としては先手を打って「グレー」とされる原因を除去していかねばなりません(先の四季報にある「徹底抗戦」とは、このことを指しているものと思います)。

行政警察としては、この「グレー」のままで様子を見る、ということも十分効果的な時代になったものだと思います。摘発してしまえば、刑事事件ですから風営法違反に問えるのかどうか、かなり微妙な案件になってしまいます(検察警察側としても、裁判で下手を打つことは避けたいところ)。しかし「犯罪は成立する可能性はあるが、摘発はしない」という状況は、企業のコンプライアンス経営が重視される時代になればなるほど、対象企業の周辺における自粛的対応によって、いわば「摘発」と同視しうるほどの社会的制裁を投げかけることになります。企業としては、これを回避するために自律的行動に出なければなりませんので、行政警察としては、リスクを負わずに行政目的を達成することができるということで、事後規制社会における効果的な取締手法かと思います。

事後規制社会における効果的な取締手法といえば、6月16日の日経新聞朝刊で報じられておりました「違法ダウンロードに罰則」というのも同様です。ネット上に違法投稿された音楽や映像などを「海賊版」と知りつつPCやスマートフォンに取り込むと2年以下の懲役または200万円以下の罰金という刑事罰を科せられる法案が今国会で成立する見通しとなりました。一般の方々も犯罪者になってしまう、ということでセンセーショナルな話題となっております。しかし誤解をおそれずに申し上げますと、この刑事罰は(親告罪ということのようですし)ダウンロードした一般の方を犯罪者に仕立てる、というよりも、パソコンそのものを犯罪者に仕立てる、ということが目的かと思います。つまり、サイバー捜査を今よりも強力なものにするためには、一般人のPCの中身を強制的に捜査できる(自由に覗くことができる)理屈が必要なわけでして、いままではダウンロード自体が適法だったことから、そういった捜査はPC所有者の同意がないかぎりはできなかった。しかし今後は海賊版によるソフトをダウンロードした時点から「違法状態」が継続しているわけですから、犯罪捜査のためにPC上に強制的に侵入することも可能となり、そこから「巨悪」にたどりつくことが可能となるわけです。

この理屈の重要なところは、巨悪を摘発するためには「小悪」の幇助犯として捜査するのでは実効性がない、というところです。幇助犯構成だと、まず小悪をきちんと犯罪として立件しなければなりません。しかし、チマチマと「小悪」を立件している間に巨悪を取り逃がしてしまう可能性が高いわけでして、小悪には目をつぶってでも、巨悪を正犯者として抑え込むためにはどうしても(たとえ個人のプライバシー権侵害という問題が生じたとしても)必要な法改正ではないかと思われます。平成19年7月17日の最高裁第三小法廷での判決では、振り込み詐欺の主犯格をなんとしてでも摘発できるようにしなければ、国民の財産が危険にさらされることを意識して、「たとえ自分名義の預金口座を作る場合でも、後日その通帳またはキャッシュカードを他人に譲渡する目的があれば、銀行に対する詐欺罪が成立する」として、理屈の上では少し疑問が残る事案でも、主犯格摘発への道を開きました。今検討されているインサイダー取引規制の法改正なども、ひょっとすると同じ方向に向かうかもしれません。インサイダー情報を受領してお小遣い程度の利益を上げている犯罪者(もしくは行政処分対象者)を立件せずとも、営業活動の一環として、インサイダー情報を提供する側のほうが悪質なケースもあるわけで、やはり教唆犯や幇助犯として規制するのではなく、実行正犯として立件が容易になるように法改正を進めるほうが規制の実効性は上がるような気がします。

こういった「形式的な違法状態」を活用して「本当の」規制目的を達成する、という手法はダンスに関するクラブ規制にもみられるところであり、風営法の網をなんとかかぶせておいて、ほとんどのクラブを「いつでも強制的に立ち入ることができる状態で放置しておく」わけです。そして近隣住民から騒音問題で苦情が出たり、薬物利用の噂が広まったりした場合に、国民の安全を未然に守ることを目的に風営法違反で摘発に乗り出す、ということになります。風営法に詳しい法律家というのも非常に少ないこともあり、警察側には願ってもない便利な規制手法だと思います。ここにも、私が「行政法専門弁護士待望論」を主張する理由があります。

先のグリー社の収益事業と風営法適用に関する問題を考えておりますと、この「形式的違法状態」というものが、コンプライアンスの時代となって、ソフトローによっても実現可能になってきたのではないか、と思えるようになりました。

6月 18, 2012 行政系 | | コメント (9) | トラックバック (0)

2012年6月14日 (木)

美貴亭食中毒事件と「やぶへびコンプライアンス」リスク

藤本美貴さんをイメージキャラクターとした焼肉店「美貴亭」の食中毒事件については、あまりにも反響が大きく、当ブログのネタとしては「ふさわしくない」と思いましたので、もうブログネタにはしないつもりでおりました。しかし、ご承知のとおり本日の急展開にビックリしておりまして、もう一回だけこの事件について触れておきたいと思います。

ニュース等で皆様ご承知のとおり、「美貴亭」を実際に運営していた会社の代表者の方が本日(6月13日)、労働基準法違反で逮捕された、とのことであります。美貴亭の食中毒事件に関連して、というわけではなく、京都や神奈川で経営している「ガールズ居酒屋」で未成年者を雇用し、よろしくない格好で客に飲食物を提供させた、とのこと。京都府警と神奈川県警の合同強制捜査ということだそうですが、美貴亭事件と実質的経営者逮捕との時間的な近接性は単なる偶然とは言えないと思われます。

単なる偶然ではないと考えますと、ふたつの可能性があります。ひとつは美貴亭食中毒事件の捜査を展開しているなかで、たまたまガールズ居酒屋の経営状況を調べていたところ、労基法違反の事実が発見された、というもの。そしてもうひとつは、美貴亭食中毒事件の真相究明のためには、どうしても実質的経営者の強制捜査が必要となり、「すでに把握していた」ガールズ居酒屋の労基法違反容疑の事実を活用して身柄を確保した、というもの。新聞ニュースだけでは、いずれかは不明であります。しかしビジネス法務の視点から本件を考えますと、いわゆる「やぶへびコンプライアンス」事例の典型例かと思います。

もうすでに当ブログでは何度か解説させていただきましたが、「やぶへびコンプライアンス」というのは、①事件や事故を原因として企業が行政当局による調査対象になってしまったところ、それまで社内で眠っていた不祥事が行政当局やマスコミによって掘り起こされてしまって、むしろ眠っていた不祥事が発覚することで企業の信用が毀損されてしまうケース、②行政当局が「違法状態」にある企業をそのままマークしておいて、一般国民や消費者に(当該違法状態とは別件の)被害が生じたり、苦情が出てきた場合に、その「違法状態」を活用して被害の拡大や事故の発生を未然に防止するケースなどが典型であります。いずれのケースも、発端となる問題が生じることで、「この程度なら大きな問題にはならない」と考えていた不正が突如、後戻りできない企業不祥事として大きな問題に発展してしまうものです。

たとえば①の事例は、昨年の東京ドーム事故や天竜川川下り事故などにみられます。遊戯施設の事故によって、その事故の本当の原因は不明なのですが、事故調査の時点で行政規制や社内ルールに反する施設運営の実情が明るみとなり、これをマスコミが大々的に報じることで「こんないい加減なことをしているから事故が起こる」と一般国民に認知されるものであります。 事故の原因が不明であり、その責任主体はどこにあるのか不明であっても、こういったニュースによって企業の信用が地に落ちる、というパターンです。②の事例は、風俗店などが軽微な消防法違反の状況にあることを警察が認知しておき、風俗店に対する町民の苦情が出た場合に、苦情対応を主たる目的として、別件(消防法違反)で検挙する、というパターンであります。警察行政の在り方として、企業における形式的な違法状態を把握しておくことで、その営業から生じる国民生活への侵害行為に備える、というものです。

最近のクラブ規制も、取締の主たる目的は大麻や脱法ハーブなどによる薬物犯罪を検挙するというところにあるが、とりあえず摘発がしやすい風営法違反(営業許可の必要な風営法上の「接待」にあたる、というもの)として立件するという流れであり、②の典型例といえます。ひょっとすると「コンプガチャ問題」も、賭博的な(射幸性の高い)行為が行き過ぎてしまったので、景表法違反という「より立件しやすい違法行為」を問題視して、こちらを前面に出して本来規制すべき「賭博性の高い営業活動を抑止する」ということが目的だったのかもしれません。

企業コンプライアンスの視点からすると、企業内において「これぐらいなら軽微な違法であり、とくに問題となることはない」と思料できるような形式的違法行為はそのまま放置することなく、早めに社内で対応せよ、という教訓であります。美貴亭食中毒事件がなければ、実質経営会社の社長さんが、いきなりガールズ居酒屋の件で逮捕されることはなかったかもしれません(よくありますように、食中毒事件で企業不祥事が発覚しますと、いきなり内部通報や内部告発が増えますが、そういった告発が警察に届いた可能性も考えられます)。また労基法違反の状況をすでに解消していたとすれば、(立件できるだけの証拠が把握できないという趣旨から)食中毒事件の捜査に活用されることもなかったかもしれません。上場会社においても、この「それだけでマスコミが騒ぐような不祥事とはいえないけれど、別の不祥事が発生した場合には、合わせ技一本で企業の社会的信用が地に落ちてしまう」といった類の不祥事を、社内に抱えているケースが結構多いはずです。「合わせ技一本」によって苦しい立場に追い込まれることがないよう、「やぶへびコンプライアンス」のリスクについては平時から留意しておきたいところであります。

6月 14, 2012 コンプライアンス経営はむずかしい | | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年6月12日 (火)

内部通報を外部窓口担当者が留めておくことは是か非か?

ひさしぶりの「内部通報」ネタでございます。毎度申し上げておりますとおり、私は複数の上場会社や学校法人のヘルプライン(内部通報制度)の外部窓口を担当しておりますが、通報制度がうまく機能すればするほど、いわゆる「不誠実な通報」が増えてまいります。上司を左遷させるために虚偽の事実を申告するもの、ヘルプラインの対象とはなりえないような不平不満を長々と語るものなど、その内容は様々です。「うちの会社はホントに通報制度が使えるんだ」と社員の方々に周知されるほどに、まじめに対応するのがしんどくなってくるような案件が増えてきます。先日も、私の担当する外部窓口に、取扱いが難しい通報が参りました。ただし決して「いいかげん」な通報ではございません。

通報者は実名で上司のパワハラに悩んでいることを私に語りだし、私も(通報としては典型的な事例でしたので)手際よく記録票を作成しておりました。約30分ほどの事情聴取が終了。私は「あなたの通報については社内の担当者に記録を渡します。事案の内容からみると、おそらく上司に対する会社からのヒアリングが行われるであろう。そのとき、あなたの通報が上司に判明することになるが、それでもよいか」と確認をいたしました。そのとき、通報者は以下のように私に要望してこられました。

「通報事実を私の実名で会社に伝えてくださっても構いませんし、もちろん上司に私が通報したことが知れることについてもまったく問題ありません。ただ、今日の通報を会社に伝えることは少しだけ待ってもらえますか?私は外部窓口にパワハラの件を通報したことを上司に伝えて、自分自身で交渉したいと思います」

こういったヘルプラインの活用をされる社員の事例は私としては初めてであります。なるほど、外部窓口にセクハラ・パワハラに関する事実を通報したことで、これをネタにして上司と何らかの和解を図ろうという意図が通報者にある、ということです。たしかに上司としても、すこし後ろめたいところがあれば、ここで通報者と何らかの私的な取り決めをして、会社側からのヒアリングを避けたいという動機も働くかもしれません。もし部下の要求を上司が呑まなければ、部下はそのまま外部窓口を通じて通報を受理してもらう、という手段に出ることを画策するわけです。さて、こういった通報者の要望に対して、外部窓口担当者はどのように対応すべきでしょうか。

パワハラ・セクハラ案件については、通報者と対象者との微妙な人間関係に関わる問題があり、通報によって会社が速やかに対応することで、さらに通報者が窮地に陥ってしまう可能性があることは否定できません。したがって、会社側としても通報を受理した場合に、どのように対応すべきかは悩ましいケースも出てきます。しかし、これはあくまでも会社側が不正な事実を確知した後の対応であり、窓口担当者がヘルプライン規則に反してまで通報者の意図に沿って聴取した記録を留めておくこと(つまり通報があったことを会社に伝えないこと)は問題があると考えます。公益通報者保護法では、会社側が通報を受理したことに法的な効果が発生しますので、どの時点で通報が受理されたのか、会社側が知っておく必要があります。また、任意の制度である内部通報制度においても、たとえば昨年8月のオリンパス配転命令無効等請求事件の高裁判決では、会社側が「決められた社内ルール」に沿って内部通報を受理していなかったことが、会社側が敗訴する重要な原因になりました。いったんヘルプライン規則を定めた以上、例外を許容せずに運用することが会社側に強く要請されています。このような理由から、私は外部窓口を担当する者として、いったん通報を受理した以上は、通報者の都合によって窓口限りで留め置くことはできない旨を本人に説明し、もし納得がいかないのであれば、いったん通報を取り下げてほしいと告げました。

同じようなことは、会社が従業員による横領被害を受けた場合などに、横領した従業員の刑事告訴をしながら被害弁償を迫る、というケースがあります。最近は警察のほうも、民民の示談交渉に利用されることを前提に告訴を受けることを嫌いますので、けっこう慎重に対応されることが多いと思います。内部通報制度も、会社が不正を速やかに受理して、これに対応することが目的なので、社員どうしの問題解決のためにルールに例外を作ってまで活用されることなってしまっては、かえって会社側が別のリスクを背負い込むことになります。こういった事例も、内部通報制度が実効性を持つようになればなるほど、新たに発生する問題として検討しておく必要があります。

なお、この説明は窓口で通報事実をすべて聴取した場合について述べたものですので、未だ通報事実の聴取を終了していない時点において、窓口で通報を留めておくことは何ら問題はございません(むしろ私の経験上、一回のやりとりで通報事実をすべて聴取し、記録票作成を完了したことの方が少ないように思います)。

6月 12, 2012 内部通報の実質を考える | | コメント (3) | トラックバック (0)

2012年6月11日 (月)

著名人の名義貸しと損害賠償責任(美貴亭食中毒事件)

先週、野村HD社の株主総会における株主提案「野菜ホールディングス商号変更」に関する話題をとりあげましたが、fdmsさんよりコメントをいただきまして、東京都中央区に「日本牛乳野菜ホールディングス株式会社」なる古い登記が存在する、と教えていただきました(すでにtwitter上では話題になっているようで)。なるほど、これが商号変更に関する定款変更議案が上程されなかった真の理由なのかもしれません(ご指摘どうもありがとうございました)。ただ、この株主提案をされた株主の方への夕刊フジのインタビュー記事を読みますと、野村グループによるトマト栽培を皮肉ったものだと述べておられますので、私の推測も全く外れていたものでもないように思います(単なる言い訳ですが・・・)。

さて、商号に関する話題をもうひとつ採りあげたいと思います。週末、元モーニング娘。の藤本美貴さんがプロデュースしていたとされる焼き肉店にて、高校生16人が食中毒症状を訴えた(3名ほどは入院)という事件が報じられております。私自身も外食産業運営会社の役員をしておりますので、こういった事件にはとても敏感に反応してしまいます。藤本さんは謝罪するとともに、同焼肉店の運営には関与していない、あくまでもイメージキャラクターだった、と自身のブログ等で説明しておられるようです。

同焼き肉店の運営会社も、藤本さん(及び所属事務所)に謝罪された、とのことで、おそらく被害者の方々との今後の対応も、運営会社側が主体的に行っていくものと思われます。藤本さんも3月に出産されたばかりで、育児に専念されている最中でしょうから、今回の件では困惑されているのではないかと推察されます。ただ、被害に逢われた方々は、「ミキティの焼肉屋さん」ということで同店舗にお越しになり、ミキティプロデュースというメニューを堪能することが目的だったと思われます。ご自身は名前を貸しただけ、同店舗の運営には関与していない、ミキティ考案メニューというのも実は運営会社が企画したもの、という説明だけで、果たして藤本さん(もしくは藤本さんの所属事務所)は食中毒事件の損害賠償責任(運営会社との連帯責任)を免れることができるのでしょうか?

法律的に検討すべき点は二つあると思います。ひとつは名板貸し人の責任を規定する商法14条、会社法9条の類推適用が認められる事案かどうか、という点であります。商法14条とは、商人が他人に自己の商号の使用を許諾した場合に、その商人が事業を行っているものと誤認して、その他人と取引した者に対し、その他人と取引から生じた債務について連帯責任を負う、というものです。厳密に読めば、著名人プロデュースといっても、決して「商号」の許諾ではありませんし、同じ事業を営む者でもありませんので、商法14条ズバリの適用場面ではありません。しかし、自己の名前を付けて商売することを許諾して、その著名な氏名を売りにして焼き肉店が営業をしている以上は、消費者保護(取引先保護)の見地から商法14条を類推することも可能なように思われます。

代表的な判例は旧商法23条(現商法14条の前身)時代ではありますが、ペットショップで購入したインコが病気に罹っていたのですが、そのインコの病気が家族に伝染し、家族が死亡したという事例におきまして、そのペットショップが入っていたスーパーマーケットは、ペット購入者からみれば(ペットショップを)スーパーが運営していたものと誤認される外観があり、その外観作出についてはスーパー側にも原因があるとして、この名板貸し責任に関する規定を類推適用してスーパー側にも責任を認めたものがございます(最高裁平成7年11月30日 判例時報1557号136頁)。旧商法23条と現商法14条とは条文が少し変わったため、果たして現在もこの最高裁の平成7年判決がそのまま妥当するかどうかは疑問とする説もございますが、そもそも名板貸し責任が認められる根拠が外観法理ということからすると、現時点でも商法14条を類推適用する場合の有力な根拠判例にはなるものと思われます。

著名人の名前で焼き肉店を運営する、というものも、著名人の関与の仕方でいろいろと分かれてくると思います。実際に著名人が経営しているところもあるでしょうし、お店のプロデュースという形で参加するところもあるでしょうし、単に名前だけを運営会社に貸して「イメージキャラクター」として登場するだけ、ということもあります。私個人の意見で申し上げるならば、イメージキャラクターとして著名人が参加して、実質的には第三者が運営しているようなケースであれば、原則として商法14条の類推適用の根拠となるほどの名板貸しにはあたらない、と考えます。運営会社に自分の名前を使って商売する、ということまでは許諾しているとはいえないからであります(たぶん、ここまではあまり異論はないと思います)。ただ、藤本さんの場合、焼き肉店「美貴亭」のHPのトップに「藤本美貴の焼肉屋さん」と大きく表示されており、外観上はあたかも藤本さんが焼き肉店を経営しているようにも思えます。こういった外観を藤本さん側が黙示的にも運営会社側に許諾していた、という事情があるならば、名板貸し人の責任規定を類推する前提もあるかもしれません。

さて法律的に検討すべきもう一点は、たとえ藤本さんが商法14条類推適用上の名板貸し人に該当するとしても、食中毒という突発的な事故にまで法的責任を負わねばならないのか、という点であります。たとえば「美貴亭」の従業員がお客さんに暴力をふるってケガをさせてしまったような場合、いくら名板貸し人としての立場であったとしても、その損害賠償責任を負う、というのはちょっと違和感があります。

商法14条は「他人との取引から生じた債務」について名板貸し人が責任を負う、とありますので、たとえば「ミキティ考案メニュー」と書いてあったから注文したのに騙された、金返せ、といった取引上の問題については責任を負うということになるかもしれません。いわゆる取引的不法行為に関する責任であります。しかし、食中毒事件が発生した、という場合、これを取引から生じた債務と言えるかどうか、ひとつの問題になりそうです。

なお、先の平成7年の最高裁判決でも、インコを購入した際に、そのインコに瑕疵があり、その拡大損害(家族の生命・身体への損害)が問題となった事例です。焼き肉店とお客さんの間における飲食物提供契約に基づいて提供された食品に病原菌が含まれており、それによって身体への損害がもたらされたということであれば、少なくとも取引行為に付随する安全配慮義務に関する債務不履行として、やはり名板貸し人の連帯債務が認められる余地はあるものと思います。食中毒事故が突発的なものとはいえ、外食運営会社としては通常生じうる事故として、「取引から生じる債務」と言えるのではないでしょうか。

こういった問題は、店舗の早期再開を目指して食中毒の原因究明に尽力することも大切ですが、まずは運営会社が個々の被害者の状況にあわせて誠意をもって対応することがなによりです。また、そのことが藤本さん側に迷惑をかけないためにも、最優先で取り組まなければならないことかと思います。「法律的に解決するとどうなるのだろうか」といった問題は最後に考えればよい課題であります。事件発生直後に「当社はこういった立場にあったので、法律的には責任は負いません」といったサインを世に示すことは、今のご時世、かえってマスコミや世論を敵に回すことになりかねないので(私の経験から)要注意です。

6月 11, 2012 商事系 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2012年6月 7日 (木)

会計士問題「期待ギャップ」をどう埋めるのか?-その2

先日の「会計士問題・期待ギャップをどう埋めるのか?」にはたくさんのご意見どうもありがとうございました。非常に詳細にご解説いただいているコメントも、私を含め、世間一般人の理解を進めるものとして参考になります。たしか先日の監査法人アンケートに関するエントリーの際にも、多くのご議論をいただきまして、そちらと併せて読ませていただきました。基本的には元会計監査従事者さんのご意見が、私個人としては最もなじみやすいものと感じました。

今日も、ある会合で持論を述べましたが、当ブログでたびたびご紹介する山一證券監査人だった伊藤先生の本を読み「会計監査人が裁判に巻き込まれると、監査や会計を知らない人たちのなかで行われるわけで、適正な手続きによるのであれば10年もかかってしまう」という現実を認識しました。伊藤先生には申し訳ありませんが、この裁判に関係する方々は、私個人としてもよく存じ上げている方々です。立場が異なるとはいえ、やはり会計監査への疑問を感じておられました。決して名声とか報酬目的でなく、あるべき監査制度との矛盾に憤りを感じていたものと思います。しかしそこに「期待ギャップ」というものが横たわっていたのであれば、これをなんとかしなければなりません。

提訴の時は「甘い監査」「役に立たない監査」とマスコミから大々的に報じられ、10年後に最高裁で完全勝訴の決着がついたら誰も「会計監査人に責任なし」と報じないというのが現実なのです。つまり会計士さんは裁判に巻き込まれると、自宅を担保に入れてでも膨大な裁判費用をかけて、人生をかけて、元の平穏を取り戻さねばならないのです(勝訴しても弁護士費用は自己負担です)。いや、勝訴したとしても、きっと過去に一度失った信用は取り戻すことはできないでしょう。

これはマズイと思います。期待ギャップ解消の必要性は、投資家の自己責任の認識を高めるためにも、監査法人側からもアクションが必要です。かといって、どなたかが、以前のコメントでおっしゃっていたように、粉飾というのは発見しろと言われても、いきなりシロがクロになるのではなく、段階をおってグレーが黒に代わっていくわけで、どの時点で「おかしい」と言えばよいのか、むずかしいというのも十分に承知しております。監査報酬のこともあり、合理的保証のレベルが監査に求められる以上は、私も一般世間の方々が抱いている会計監査への期待を、そのまま体現しろ、などと申し上げるつもりは毛頭ありません。

ただ、前のエントリーで元会計監査従事者さんが述べておられるように、過剰な期待は投資家の理解を促進させるような対応が必要でしょうし、正当な期待(合理的な期待)のレベルがあるとしたら、そこへ到達する努力をしなければ、これからも第二、第三の山一証券元会計監査人の悲劇が生まれるように思います。ごく一部の不届きな会計士のために、全体の規制が厳格になるよりも、厳罰化で対処したほうがいいのではないか、とのご意見もあります。しかしその厳罰を課すプロセスには、また「適正手続」が求められます。そのプロセスは、(たとえ最終的には厳罰を免れたとしても)また長く苦しい道程になってしまうのではないでしょうか。

会計監査制度が世界共通のものであるとしたら、訴訟大国アメリカで監査法人を被告として争われた裁判の判例も、日本で援用しやすい、ということを意味することになるのかもしれません。会計監査人のリーガルリスクを低減させるためにも、今後は「物言う監査法人」こそ必要なのではないかと感じております。

6月 7, 2012 不正を許さない監査 | | コメント (7) | トラックバック (0)

2012年6月 6日 (水)

「野菜ホールディングス」への商号変更議案はなぜ上程されないのか?

当ブログへお越しの皆様であれば既にご承知のとおり、今年6月27日に予定されている野村ホールディングスの定時株主総会の株主提案が話題になっております。ひょっとすると関西電力に対する大阪市の株主提案よりも話題性という点では上回っているのではないか、とすら思えてきました(日本のマスコミはわざと取り上げないようですが・・・(^^; )。今日のエントリーは、あまり深くお考えにならず、気軽にお読みいただければ結構でございます。

野村ホールディングス株式会社第108回定時株主総会から(株主でもないのに勝手に)招集通知の中身を見ておりますと、本年の総会上程議案に関する案内がございまして、その第2号議案から第19号議案まで合計18本の株主提案が決議事項とされています。当該少数株主の方は、合計100本の定款変更議案を提案されたそうですが、82本は不適当とされたそうで、そのうちの一つに「野村ホールディングスの商号を野菜ホールディングスなる商号に変更せよ」と提案がなされた、とのこと。商号変更登記の手続きには定款変更に関する特別決議がなされた旨の記載のある株主総会議事録の添付を必要としますので、もちろん総会決議を必要とします。しかし、この商号変更に関する定款一部変更議案は上程されておりません。ではなぜ、野村ホールディングス社は「野菜ホールディングスへの変更は不適切」だとして上程しなかったのでしょうか。

これは私の勝手な推測ですが、会社法8条1項は、「何人も不正の目的をもって、他の会社であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない」としています。そしてこの規定に反する行為を行った者は100万円以下の過料に処せられます(会社法978条3号)ただ、同社は持株会社ですし、ホールディングスなる文字も含まれているわけですから、「やさい」という文字が含まれていても、まさか似たような青果事業を主たる目的とした会社とは誤認されないのではないかとも思います。

しかし野村ホールディングス社は、平成22年より農業ビジネスに特化した新会社を設立しており、子会社を通じてトマト栽培も開始して、トマト販売を始めておられるようです。その新会社の名前は(おそらく商号も同様かと)「野村アグリプランニング&アドバイザリー」で、野村ホールディグス社が100パーセント出資、従業員も(設立当初より)10名程度いらっしゃるとのこと(2010年当時の新聞報道より)。ということは、もし野村ホールディングス社が「野菜ホールディングス」と商号を変更しますと、この野村の100%子会社(及び孫会社)と持株会社との誤認混同のおそれが具体化する、ということになります。これは上記会社法8条1項の強行規定に反するものとなるため、「不適切な提案」として上程議案からはずした、というところではないでしょうか。

しかし、こういった背景から一人の個人株主が「野菜ホールディングス」に商号変更せよ、と野村ホールディングス社に要望したとすれば、これはなかなか「社運を賭けて意識改革をせよ」との切実な株主の願いがこもった提案であり、まんざら捨てたものではないと感じました。そういえば数年前、野村ホールディングスは、同社CFOに医療機関のM&Aに特化した子会社のトップの女性を抜擢しました。わずか20名程度の従業員を率いて業績を上げた方をCFOに据えるというのは、まさに意識改革です。あの改革の機運はどうなっているのでしょうか?(ここまで書いてきて、真剣に書いているのかどうか、自分でもよくわからなくなってまいりました。。。)

また、取締役の呼称を「クリスタル役」にせよ、というのも、野村不動産の連結子会社化と関係があるのでしょうね。けっこう、意味が深いような気も致します。

いっぽう話題になっております「社内はすべて和式便器にせよ」議案ですが、これは野村ホールディングスを支えるステークホルダーすべての生理欲求に関する過度の介入であり、人権に関わる問題ではないかと。なかには肛門の疾病を抱えているステークホルダーもいらっしゃるわけで、(少なくとも私は)定款に記載することは公序良俗違反に該当するものと考えます。これがなぜ上程議案として含まれているのか、少し疑問に感じるところでございます。しかし、前日までの書面投票の集計のみとはいえ、この2号議案から19号議案までの賛否結果が開示されることを思うと、なんとなくやりきれない気持ちになるのは私だけでしょうか。。。

6月 6, 2012 未完成にひとしいエントリー記事 | | コメント (3) | トラックバック (1)

2012年6月 4日 (月)

内部通報制度と文書提出命令(シャルレMBO株主代表訴訟)

6月1日の朝日「法と経済のジャーナル」にて報じられているとおり、先月8日、シャルレのMBO株主代表訴訟に関連して、原告であるシャルレの株主の方々の(会社を相手方とする)文書提出命令の申立てが神戸地裁で認められた、とのことであります。つまり、裁判所が会社側に対して、役員の善管注意義務違反を立証しようとしている原告株主が「閲覧したい」と申し出ている文書を開示しなさいと命じた、というものです。ちなみに上記「法と経済のジャーナル」では、この決定文の全文もアップされております。

株主代表訴訟なので、基本的には被告はシャルレの役員なのですが、文書の所持者は法人であるシャルレです。そのため、株主代表訴訟とは別に、原告株主の方々は、法人であるシャルレを相手にシャルレが所持する文書を開示せよ、と求めることになります。どんな文書かといいますと、被告であるシャルレの役員の方々にミスがあった(善管注意義務違反)ことを立証するための文書を指します。たとえばMBOの際には、シャルレの側において、買付希望者側のTOB価格が適正かどうかを判断するわけですが、そのときはシャルレの取締役は、既存株主にとって不利にならないように最大限の注意を払って交渉しなければなりません。しかし一方でMBOの場合には、買付対象者側の取締役が買付希望者側にも関与するケースが多いために(できるだけ安く買いたいと考えるわけですから)、利益相反状況にあります。したがって本当にシャルレの株主にとって最大限の利益をもたらすような手続きをもって買付希望者のTOB価格に賛同したのかどうか(出来レースではないのか?)取締役の行動をチェックするために、シャルレの内部資料を開示せよ、というものです。

MBOの際、買付希望者側が、TOB価格を決定するために参考にされた株価算定書は、開示ルールによって開示が義務付けられているはずです。しかし賛同する側、つまりTOBの対象となる会社側の賛同意見形成のために参考とされる株価算定書については開示が義務付けられていません。したがって、構造的な利益相反状況にあるにもかかわらず、TOBをかけられた会社の取締役の善管注意義務違反が問題となるケースにおいて、会社側の資料が株主側には把握できず、裁判でも大きなハンデとなっておりました。

しかし神戸地裁の本決定は、株価算定書類だけでなく、株価算定の基礎資料とされる経営者作成の経営計画書等も文書提出命令の対象になるとしており、極めて画期的な決定ではないかと思われます。ただ、文書提出命令がどのような条件の下で認められるのか、この決定の射程距離がどのあたりまでになるのか、その線引きについては決定文を十分検討する必要があると思われますので、今後の民訴法学者や商法学者、企業実務家の方々の解説を期待するところです。また上記「法と経済のジャーナル」の記事によると、シャルレ側も「この命令は納得できない」として、抗告しておられるようですので、まだ確定したわけではないことを申し上げておきます。

さて、本件は取締役の善管注意義務(経営判断原則関連)に関わる重要な地裁決定であることは間違いないと思いますが、私個人がもっとも上記決定で興味を抱いたのは内部通報関連文書の取扱いであります。ご承知の方もいらっしゃるかもしれませんが、シャルレのMBOの問題点が浮上してきたのは、当時の社内関係者から寄せられた数通の内部通報が発端です。原告株主の方々は、この内部通報を受理したときの受理記録についても文書提出命令の対象としておられます。しかし、上記地裁決定では、この内部通報関係書類だけは提出命令申立を認めませんでした。

その理由は決定文の13頁以下に詳細に記述されておりますが、要は内部通報関連文書が開示されてしまうと、通報者が不利益を受ける可能性があり、また文書提出命令の可能性があることで、通報がためらわれ、企業の内部通報制度の運用に支障が出てしまう、ということであります。したがって内部通報関連文書については、文書提出を拒むことができる文書(職業上の秘密文書 民訴法220条4号ハ、同197条1項3号)に該当する、とのこと。

内部通報の外部窓口業務に従事している弁護士は、匿名であれ顕名であれ、正確に通報受理記録を作成しますし、通報メールなども厳重に保管をしております。また会社の担当者とのやり取りなども記録として残しております。オリンパス損害賠償事件でも問題となりましたが、通報者が匿名を希望するかどうか、といった同意関係書類も保管しています。こういった一連の書類が文書提出命令の対象となりますと、おそらく窓口業務の際にも神経質にならざるをえないと思います。したがいまして、内部通報関連の書類については、これを除外する判断については内部通報実務からみて少々ホッとしている次第です。

6月 4, 2012 内部通報制度 | | コメント (0) | トラックバック (1)

2012年6月 1日 (金)

会計士問題「期待ギャップ」をどう埋めるのか?

監査基準の見直しを検討する企業会計審議会監査部会が昨日(5月30日)から始まりました。監査人は不正会計を見逃しているのではないか?監査人が社会の期待に応え得る監査とは何か?を議論する場として、私個人としてはとても期待をしております。昨日の審議の内容を報じているこちらのITフォーラムさんの記事がとても参考になります。また本日(5月31日)、金融庁HPに会計不正等に対応した監査基準の検討について(案)も公表されています。

上記の記事によりますと、昨日は社会が公認会計士・監査法人による会計監査に期待しているところと、実際の会計監査の仕事とのギャップ(いわゆる期待ギャップ)をどう解消していくべきか、ということが議論されたようです。上記の記事では、かなり監査法人さんに厳しいご意見が出ており、とくに会計監査の実務経験のある経済界の方の意見も特筆すべきところかと。

ただ、一方で、オリンパス事件や大王製紙事件における監査人の責任問題を検討した当ブログ4月26日付けエントリー「全国監査法人アンケートの結果を法律的に考えてみる」で寄せられた現場の会計士の方々のコメントを参照いただくとおわかりのとおり、近時の監査現場の意識と(少し前までの)現場感覚とはズレがあるようです。リスク・アプローチ手法やローテーション制度の導入、グループ監査や品質管理など、「期待ギャップ」を論じるには、監査現場の実務を踏まえたうえでの議論が必要です。

とくに印象的なのが、職業的懐疑心をもって臨め、と言われても、ほとんどの上場会社が誠実に決算書を作成しているわけですから、ほとんどの会計士はシロを前提に監査を行う、という点です。クロを疑いながら監査を行うのと、シロが当たり前と思って監査を行うのでは、監査の深度も変わってくるでしょうし、監査報酬にも影響が出てくるところかと思います。弁護士のようにクロの仮説を立てて、小さな証拠でも仮説を裏付けるものとして積み上げていく立証方法と、会計士のように、シロの仮説が否定されるべきものが存在しないことを検証によって積み上げる消去法的な心証形成方法とでは大きな違いがあります。弁護士は「クロ」を探り、会計士は「疑惑」を探ることになります。この職業的懐疑心の捉え方も、会計士の期待ギャップ問題と大いに関係があるように感じています。

先日、迷える会計士さんが「期待ギャップ」について以下のように解説されていました。

監査人が職業的懐疑心をもって監査を実施していれば、不正に気付く場合もあり、そうでなければ「期待ギャップ」は拡大してしまうでしょう。「期待ギャップ」は、実際の社会の期待と実際の監査実務との間のギャップですが、実際の社会の期待と正当な社会の期待との間のギャップ(過剰な期待)と正当な社会の期待と実際の監査実務との間のギャップ(不十分な監査)の二つの領域からなっています。監査人は全ての不正を発見すべきであるというのは、明らかに過剰な期待ですが、正当な社会の期待に応えることは、監査人の責務であると考えられます。

私もまったく同感です。そもそも「期待ギャップ」については会計士の法的責任論との関係で論じられるようになったことは認めるところですが、この期待ギャップについては、監査法人側からも解消に関する努力が必要です。解消の方向性としては、社会に働きかけて正当な社会の期待(過剰な期待→合理的な期待)を理解してもらうこと、そして会計士自身も、社会からの合理的な期待に応えるように監査業務に従事することの2点です。

そういった意味からすると、3月下旬に有限責任新日本監査法人からリリースされた「オリンパス監査検証委員会報告書」は、その賛否はいろいろと出ておりますが、画期的な一つの試みだったのではないかと考えております。守秘義務によるものなのか、監査法人の性格からなのかはわかりませんが、こういった不正会計事件が発覚した場合、当該企業の監査法人は沈黙を守る、という姿勢に終始していました。しかし、司法の場に出る前に、監査法人が自分たちの姿勢を世に開示する、という意味では期待ギャップ解消に向けた情報発信として注目すべきことと思います。企業コンプライアンスに関心のある者としては、裁判で負けることだけがリーガルリスクではなく、昨今は社会的評価が毀損されてしまう企業行動にこそリーガルリスクがあると考えます。同じように、監査法人も、もはや「沈黙は金」ではなく、自身の自律的行動に関する情報開示を積極的に行い、期待ギャップを埋める努力をすべき時期に来ているのではないかと思います。

9784495196714ただ、上記報告書については、第三者委員会に近い形の独立委員会だったので、新日本監査法人さんの法的責任の有無のみに焦点が当たっていたのが少し物足りないところです。私は期待ギャップを埋めるのに会計士の職業倫理を議論する必要があると思います。上記報告書には、ほとんど「会計士の職業倫理」について触れているところはなかったと思います。会計監査人の引き継ぎ問題について、監査基準に定められた細則を守っていれば法的責任は発生しないかもしれません。でも、それで会計士の行為規範としては十分なのでしょうか?細則の背後にある原則の趣旨を理解する必要はないのでしょうか?理解できるのであれば、それを実践する必要はないのでしょうか?そして構造的な利益相反関係にある被監査企業の利益(守秘義務)と投資家の利益との調整について、会計監査人はどのように考えるのでしょうか?

私は、最近出版された「会計倫理の基礎と実践」というアメリカの会計学者の方々が出版された書籍(藤沼亜紀監訳 同文館出版)を読み、とても感銘を受けました。「倫理」と聞くと、私などはすぐに顔をそむけたくなります。私の弁護士としての経歴を知る方からすれば「おまえに倫理のことなど言われたくない」と揶揄されることは承知しています。「どうせまた精神論や哲学的なお話。大切なことはわかるが、実務とは無関係」。そう思って初めは書棚に飾っておくつもりだったのですが、例題を読み進めているうちに、「これは最後まで読まなあかん」と。実務に密着した話ばかりであり、明らかに弁護士倫理と会計倫理とは発想が異なるのです。会計倫理というのは、日常の会計監査実務と密接にかかわっている利益相反状態をどう解決するか、監査チーム内での意見相違をどうまとめあげるか、(言葉は悪いですが)手を抜かざるをえないときに、どの方法が一番許される「手の抜き方」か、など、さすが訴訟大国、会計士の責任が認められた判例を参考にしながら学ぶ、というものです。会計倫理が会計士の優秀さとも関連性が深いことも理解できるところです。

この本を読むと、会計士の行為規範を考えるにあたり、法や会計基準、監査基準、日本公認会計士協会ガイドラインなど、いろいろと参考になるものもありますが、やはり細則の背景にある原則を理解するための会計倫理、そして理解したことを勇気をもって実践するための会計倫理というものがとても重要であることがわかります。そして、この会計倫理をどう理解するかによって、会計士は「企業会計の番人」にとどまるべきなのか、それともゲートキーパー(市場の番人)たる地位に就くべきなのか、その考え方にも差が出てくるように思います。

昨日の監査部会でも話題になった金商法193条の3問題。会計士さんも自主的に期待ギャップを埋める努力をして、さらに自主的に「市場の番人」たる役割を果たさなければ、結局は事前規制の世界(厳しい監督の世界)に戻ってしまうことになると予測します。期待ギャップを埋める努力を監査法人が自らしなければ、結局(行政当局の性質上)監査法人にも事前規制的手法で臨まざるをえないことになると考えます。ということは、193条の3以上に厳格な監査法人規制が「監査基準見直し」の名のもとに敢行される、ということです。結局は、いま企業がコンプライアンス経営を推進しているのと全く同じ努力を監査法人も遂行しなければ、職業自由人たる会計士さんの「かっこいい」姿は失われてしまうような気がいたします。

6月 1, 2012 不正を許さない監査 | | コメント (9) | トラックバック (0)