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2012年6月 7日 (木)

会計士問題「期待ギャップ」をどう埋めるのか?-その2

先日の「会計士問題・期待ギャップをどう埋めるのか?」にはたくさんのご意見どうもありがとうございました。非常に詳細にご解説いただいているコメントも、私を含め、世間一般人の理解を進めるものとして参考になります。たしか先日の監査法人アンケートに関するエントリーの際にも、多くのご議論をいただきまして、そちらと併せて読ませていただきました。基本的には元会計監査従事者さんのご意見が、私個人としては最もなじみやすいものと感じました。

今日も、ある会合で持論を述べましたが、当ブログでたびたびご紹介する山一證券監査人だった伊藤先生の本を読み「会計監査人が裁判に巻き込まれると、監査や会計を知らない人たちのなかで行われるわけで、適正な手続きによるのであれば10年もかかってしまう」という現実を認識しました。伊藤先生には申し訳ありませんが、この裁判に関係する方々は、私個人としてもよく存じ上げている方々です。立場が異なるとはいえ、やはり会計監査への疑問を感じておられました。決して名声とか報酬目的でなく、あるべき監査制度との矛盾に憤りを感じていたものと思います。しかしそこに「期待ギャップ」というものが横たわっていたのであれば、これをなんとかしなければなりません。

提訴の時は「甘い監査」「役に立たない監査」とマスコミから大々的に報じられ、10年後に最高裁で完全勝訴の決着がついたら誰も「会計監査人に責任なし」と報じないというのが現実なのです。つまり会計士さんは裁判に巻き込まれると、自宅を担保に入れてでも膨大な裁判費用をかけて、人生をかけて、元の平穏を取り戻さねばならないのです(勝訴しても弁護士費用は自己負担です)。いや、勝訴したとしても、きっと過去に一度失った信用は取り戻すことはできないでしょう。

これはマズイと思います。期待ギャップ解消の必要性は、投資家の自己責任の認識を高めるためにも、監査法人側からもアクションが必要です。かといって、どなたかが、以前のコメントでおっしゃっていたように、粉飾というのは発見しろと言われても、いきなりシロがクロになるのではなく、段階をおってグレーが黒に代わっていくわけで、どの時点で「おかしい」と言えばよいのか、むずかしいというのも十分に承知しております。監査報酬のこともあり、合理的保証のレベルが監査に求められる以上は、私も一般世間の方々が抱いている会計監査への期待を、そのまま体現しろ、などと申し上げるつもりは毛頭ありません。

ただ、前のエントリーで元会計監査従事者さんが述べておられるように、過剰な期待は投資家の理解を促進させるような対応が必要でしょうし、正当な期待(合理的な期待)のレベルがあるとしたら、そこへ到達する努力をしなければ、これからも第二、第三の山一証券元会計監査人の悲劇が生まれるように思います。ごく一部の不届きな会計士のために、全体の規制が厳格になるよりも、厳罰化で対処したほうがいいのではないか、とのご意見もあります。しかしその厳罰を課すプロセスには、また「適正手続」が求められます。そのプロセスは、(たとえ最終的には厳罰を免れたとしても)また長く苦しい道程になってしまうのではないでしょうか。

会計監査制度が世界共通のものであるとしたら、訴訟大国アメリカで監査法人を被告として争われた裁判の判例も、日本で援用しやすい、ということを意味することになるのかもしれません。会計監査人のリーガルリスクを低減させるためにも、今後は「物言う監査法人」こそ必要なのではないかと感じております。

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コメント

経済界の最新号「会計士特集」読まれましたか?期待したわりにはツッコミが足りなくて残念な内容だったように感じました。H氏やT氏のインタビューも不発でした。

投稿: たむさん | 2012年6月 8日 (金) 01時59分

 期待ギャップを埋める以前に、公認会計士でもきちんとした「今の監査」がわかっていない人がいることにも対処しなければいけないことがわかりました。
 5月30日企業会計審議会監査部会で議事が行われておりまして、その中で公認会計士税理士であり会社の社長をされている委員の方が「CAATコンピューター技法監査の導入で、システムに頼りすぎて、本来あるべき職人的勘が磨かれていないのではないか。」「定められた時間の中で書類作成に時間がかかり過ぎ、実際に監査する時間はむしろ減っているのではないかと言われているが、金融庁、公認会計士協会の査閲が厳しいということも一因として存在していないか。」という意見を書面で提出されています。しかし、CAATは、コンピュータ利用監査技法が正式名でありますが、おそらくその社長さんは、パソコンを使ってリスクアプローチによる監査手続を実施しているプロセスを批判されているのだと思います。企業のシステムのデータをダウンロードしてより大量のチェックをかけるCAATを利用することで監査の質が高まるとされているものであって、批判されるようなものではないと思います。たとえば、SUICAなどコンピュータで運賃が決まってくるJRの監査なんかできないですよね。
 しかし、リスクアプローチをCAATと間違ったことはおいておいても、「どうしてこの会社では、この監査手続を実施したのか、実施しなかったのか」を説明できるようにして、裁判でも監査内容に問題がないことを説明するには、監査の計画段階を充実するしかないという世界的な流れの中で行われる監査のやり方を批判する公認会計士がいたのでは、期待ギャップなんか埋まらないと思いました。「職人的勘で仕事をしたけど、発見できなかったんです」では裁判において免責されないから、業務のプロセスを書面化するようになったわけですよね。
 どうしてこういう人が企業会計審議会の委員になっているんだろうと思いつつ。

投稿: ひろ | 2012年6月 8日 (金) 15時52分

>たむさん様
私も新幹線の中で読みました。うーーーん、ZAITENさんや東洋経済さんのほうがもっと会計士(協会)側に「きつーーイ」記事でしたよね。S審議官のインタビューについても少しツッコミが足りなかったような気もいたしました。でも、いままで関心のなかった方々に広報する、という意味では、こういった記事を特集することも必要だと、私は考えています。

>ひろさん
いつもながら、ありがとうございます。
ほかのところでも述べましたが、日本における監査制度の歴史が浅いことや、監査制度自身が変化していることなどみても、監査実務を論じる場合、上場会社と日々対峙している監査法人の方々の意見をお聴きしたいと思います。8月下旬に出版予定の私の著書も、某中堅監査法人で日々監査に従事しておられる中堅の会計士の方に監修をお願いしています。監査役として、会計監査人と協議していて、現場感覚こそ広く世間に知ってもらわないと「期待ギャップ」は語れないと思うからです。ここで取り上げている話も、監査現場で日々悩んでいらっしゃる会計士の方々の声をできるだけ反映しているつもりです。期待ギャップを埋めることを語るとき、その対象となる監査とはどのようなものか?そこに物差しをあてる必要がありますね。

投稿: toshi | 2012年6月 8日 (金) 16時10分

昨今の事案と山一事件は区別して考えるべきかと。
現在、不正に対する監査人の対応については規定(監査基準委員会報告)が整備されており、不正事案について会計士協会から監査手続について過失あったものとして、何らかの懲戒処分がなされています。過失なく監査を行うことは、当然に社会の正当な期待であると考えられます。

>ごく一部の不届きな会計士のために
プロデュースの担当会計士ならともかく(それでも所属監査法人の審査体制等の品質管理の問題はありますが)、大手監査法人が担当する会社でも不正事案が起こっているわけですから、業界全体の問題でしょう。


>私も一般世間の方々が抱いている会計監査への期待を、そのまま体現しろ、などと申し上げるつもりは毛頭ありません
逆に、このような意見がないことが問題かもしれません。
アメリカでは、「監査人は社会のパーセプションがアンフェアであったとしても、それから逃げるわけにはいかず、それと共に生きていかなければならない」といった、プロフェッショナリズムの考え方も根強くあります。

投稿: 迷える会計士 | 2012年6月10日 (日) 12時13分

一般の人が思い描く「監査への期待」とは?
会計のプロの方はどのように考えておられるのでしょうか?

プロの方々の中では常識であっても、
一般人には常識ではないことを、どのように考えられているのでしょうか?
「期待ギャップ」というより「常識ギャップ」とは言えませんか?

投稿: unknown1 | 2012年6月11日 (月) 08時29分

この問題の根底には、監査コストを誰が負担しているのかと言う事があるように感じます。監査は株主、投資家の保護の為ならば、コストも負担すると言うのが「常識」ではないでしょうか。純利益の計算過程に含めるよりも、配当金から天引きするなどで、目に見える形でそれを明らかにした方が良い。「自らの配当金が減ってでも100億円の利益で1億の間違いも指摘してもらわなくては困る」と言うのであれば、理屈に合うと思います。

投稿: 生涯一経理マン | 2012年6月11日 (月) 11時36分

オリンパスの粉飾事件に関して、金融庁からあずさ監査法人・新日本監査法人に業務改善命令が出るようです。
http://www.jiji.com/jc/c?g=eco_30&k=2012070600463

投稿: 迷える会計士 | 2012年7月 6日 (金) 15時24分

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