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2012年7月12日 (木)

D&O保険(会社役員賠償責任保険)の最新事情(続編)

先々週「不祥事企業の自浄能力は役員をも救う!D&O保険の最新事情」というエントリーをアップしましたが、同保険に精通されている方より「ちょっと正確ではない」「それは見方が片面的である」といったご異論・ご批判をいただきました。当ブログでは、迷える会計士さん、JFKさん、KATSUさん、KAZUさん、とーりすがりさんなど、常連の皆様よりご意見をいただくたびに、若干誤った(誤解を招いた)点を修正させていただいておりますが、今回は修正というよりも、いただいたご意見の代表的なものをご紹介するほうが妥当と判断いたしましたので、以下のとおり要旨をお伝えいたします。

1 会社訴訟を補償することのメリット・デメリット

前回のエントリーにて、私は朝日新聞の記事を紹介する形で、「オリンパス、大王製紙等、昨今の企業不祥事を受けて、たとえばAIU社の保険制度では、会社が役員に対して損害賠償請求訴訟を提起し、役員に法律上の損害賠償義務が認められた場合でも、当該役員の賠償金を保険から負担するようになるそうです」と書きました。そして私個人の意見として「そういった企業の自浄能力を発揮した対応をも保険でカバーする、というのは、コンプライアンス経営という視点からは画期的なものであります」と述べております。おそらく、こういったメリットはあるものと思うのでありますが、いっぽうにおいてデメリットについても検討しておく必要がありそうです。以下のようなご意見です。

会社訴訟を補償すると保険契約者が会社、被保険者が役員個人というD&O保険の構造上大きな利益相反が生じます。例えば、10億円の支払限度額のD&O保険を買っており、会社訴訟を補償してしまうと、その10億円が費消します。その後、本格的な株主代表訴訟が生じると、支払限度額がなくなっていることになります。D&O保険の企業内立案担当者としては、本当に必要なときに補償がなくなっているという現象が生じるので非常に怖い補償ということが言えます。

なるほど、これはD&O保険の建付けや株主代表訴訟の構造についてきちんとした知識を持っていなければ理解できないかもしれませんが、安易に会社訴訟についての補償をしてしまうと役員が「いざという時」に(保険金がすでに使われてしまっていて)予想に反するような事態になってしまうかもしれない、ということであります。このあたりはリスクとして検討しておかねばならないところと思います。

2 内輪もめ訴訟の補償について

これはご異論ではございませんが、前回のエントリーにおきまして、内輪もめ訴訟に保険が適用されないことを以下のとおり述べました。

「ところで、このD&O保険の普通保険約款や特約条項等は、法律家でなければ、かなり読みにくいものと思われます。そこで、意外と知られていないかもしれませんが、「身内」どうしの争いには適用されないことになっています(普通保険約款6条9号参照)。つまり社外監査役や社外取締役等が現経営陣と対立して、現経営陣の責任を追及した場合、かりに現経営陣が損害賠償責任を負担した場合には保険金は支払われない、ということであります。社外役員が、自分たちの責任まで問われるような場面であれば、まさか現経営陣を率先して訴えることはないかもしれません。しかし、経営判断において意見が対立し、現経営陣が会社に損害を与えたようなケースであれば、社外役員が一株でも株式を保有している場合、社内の取締役には、かなりリスキーな場面も出てくるかもしれません。」

この件については以下のような問題点があるようです。

被保険者間訴訟のカバーも問題です。F社やN社でありましたが、退任した役員が現役の役員を訴えた場合もカバーしようとすると、現役役員が反訴した場合は、退任した役員の弁護士費用も含めてカバーされてしまいます。結果的に10億円の支払限度額がまたしても費消されてしまうことになります。立案担当者としては現役の役員につかなければなりません。これも怖くて採用できない補償です。よって反訴の場合は免責という条件は必要だと思います。

D&O保険は一個の保険で争訟費用(防御費用)と損害賠償金の双方を賄うことになるため、複雑な事件で多数の被告が存在するような場合には約定保険金の範囲内ではすべてを賄えない事態になることがあるわけですね。役員間での配分に関する調整規定のようなものも存在しないようなので、前払い費用(弁護士着手金等)が重なりますと、肝心なときに会社保護のために必要な保険金が消尽してしまっている、という事態も考えられるということです。独立役員が増える時代となりますと、このあたりも検討課題になってくるかと思われます。

3 告知義務違反に関する課題

研究会のときにも伺っていたのですが、前回のエントリーでは話題にしていなかったこととして「告知義務違反」に関する問題があります。独立役員とD&O保険との関係でいえば、けっこう重要な問題かと思われます。たとえば有価証券報告書虚偽記載罪が成立するような粉飾決算が発生した場合に、当該粉飾に関与していなかったような独立役員が法的責任を問われる場面において保険金が出るのかどうか・・・・・といった問題です。この問題については、以下のようなご意見をいただきました。

保険会社がはっきりと表明しないものに、告知の分離条項があります。現在のD&O保険では、5人の役員のうち1人の役員の告知義務違反があれば、保険契約は解除され他の誠実な4人の役員も一瞬にして保険カバーを失います。日本の保険会社もほとんど告知の分離条項を入れていないので、社外役員・独立役員にはたまったものではありません。

被保険者の違法行為等に起因する損害賠償責任の免責については、被保険者ごとに適用されるものと思いますが(約款5条)、この規定は告知義務違反には適用されないのですね。これまで有価証券報告書の虚偽記載を理由に告知義務違反による保険解除が行われた例はないとのことですが、重大な告知義務違反と思料されるような事態ともなれば、今後はどうなるのかわかりません。

以上はご意見をいただいた範囲内で課題を掲載いたしましたが、このたび独立役員におけるD&O保険の課題をいくつかの論文等を拝読したかぎりでは、今後社外取締役や監査役等の支援を積極的に行う意思のある弁護士にとって、このD&O保険の運用上の実務についての深い知識が必須であることを知りました(恥ずかしながら、これまでは十分勉強したことがございませんでした)。株主代表訴訟における和解合意をする際にも、その和解文言に配慮したり、オーダーメイドなので、各会社における特約条項にも配慮することが求められます。社外役員が増えそうな時期だからこそ、D&O保険の実務運用を関係者が理解しなければならないことを痛感いたしました。

7月 12, 2012 商事系 |

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