監査報告書の「無限定適正意見」の重みとは?
本日(7月17日)金融庁より、大手監査法人と同監査法人に(監査業務執行当時)在籍されていた3名の会計士の方々に懲戒処分が出されたとのこと。平成21年に経営破たんした会社の仕掛品在庫の実在性チェックに問題があったため、過大に利益が計上されていたにもかかわらず、これを見落として適正意見を出していたことが「監査人としての注意を怠った」ものと指摘されています。
そういえば経営財務の7月9日号(3072号)6頁に「監査部会を読む 無限定適正意見の質と監査報告書の改訂」と題する、とても興味深い記事が掲載されておりまして、最近の企業会計審議会監査部会での議論が紹介されています。格付け会社のチーフアナリストの方が、財務諸表を利用するときは、無限定適正意見が付されているだけでなく、どこの監査法人が監査報告書を作成しているか、ということもチェックされているそうです。また、あるシンクタンクの執行役員の方は、無限定適正意見といっても、その質には開きがあるのではないか、と述べておられます。なるほど・・・・、単純に「無限定適正意見」といっても、やはり監査の質には避けがたい差がある、ということなのでしょうか。(しかし、冒頭にご紹介した懲戒処分は日本を代表する監査法人に対するものなのですが・・・・・ウーーーン・・・)
たしかに不適正意見や意見不表明という監査結果を公表する、ということは、当ブログのプロの方々のコメント欄のご意見をご覧いただけばおわかりのとおり、監査法人にとっては(市場からの一発退場を宣告することになりますので、債務不履行リスクなどのために)かなり困難な状況です。有報提出期限との関係で、会社側とギリギリの交渉を行い、その末に適正意見が出される、というあたりがまさに現実の対応かと。したがって、上記記事で実務家の方から「監査人はレッドカードしか持っていない、イエローカードも必要ではないか」といったご意見も出てくることになります。
私自身、このご意見に基本的に賛成です。しかし監査法人が「上場廃止にはならないが、財務諸表利用者にリスクを知らせる仕組みが必要ではないか」との疑問が呈されるのであれば、それは内部統制報告制度の基本的な制度趣旨と基本においてかぶってくるのではないでしょうか?たとえばダイレクトレポーティングの制度を内部統制報告制度が採用する、ということであれば、まさにイエローカードを監査法人が示すことになるのではないか・・・とも(素人ながらに)疑問に思うわけですが。施行4年目の内部統制報告制度の運用をみますと、「開示すべき重要な不備」が期末に残っていると開示した上場会社は(2012年3月決算までの会社の合計では)10社程度。しかもその開示会社の内容をみますと、ほとんどが不適切な会計処理がらみ、ということになっています。つまり将来のリスクを投資家に示す、という機能はほとんど果たされておらず、過去の会計不正が判明したから「不備があります」と宣言するにすぎません(これでは何の意味もないような・・・・)。
もし本当に監査報告書の改訂を目指すのであれば、監査部会で指摘されているように、少しくらいは監査人がリスクを負担するような書きぶりにならざるをえないのかもしれません。そのあたり、ソフトランディングを図る、ということであれば、もう一度内部統制報告書の運用に光をあててみてはいかがでしょうか。
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コメント
経営財務のような話、新興市場に毎年100社!といった時代には東証の審査部の人たちが言っているよ、と聞いたことがあります。彼らは、上場申請書が出てくると、「どこの監査法人のどの人が関与社員か」を見て、「この人が監査しているなら大丈夫かも」とか、「この人、上場準備したことあったっけ」みたいなニュアンスで審査を開始するとのこと。もちろんセットで、主幹事証券がどこであるかもチェックです。
ま、当然と言えば当然ですが、監査基準やら監査法人のレビュー体制とか言っても、差が出てしまうものなのかもしれません。なら、そこに監査報酬の差が出てくるなら、競争原理が働くんですけどね。
投稿: ひろ | 2012年7月18日 (水) 15時43分
ひろさん、いつも実務に精通された方ならではのご意見ありがとうございます。
監査報酬の件ですが、たしか少し前に、大手監査法人の間で、相当に開きのある監査報酬が提示されたことが、監査人変更理由で開示されていましたね。やはりリスクをどう評価するか・・というあたりで監査報酬には差が出るとしても、「評判」や「品質」という面では出ないのが監査の世界なのでしょうかね、現状では。
投稿: toshi | 2012年7月24日 (火) 21時59分