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2012年7月 4日 (水)

株主提案権における平面軸と時間軸

みずほフィナンシャルグループの株主総会において、株主提案の7つの議案(会社側は反対意見表明)が20%以上の賛成票を得たとのことで、「日本企業統治史上、画期的な事件」だと報じられております(産経新聞ニュースはこちら)。なかでも「役員研修の方針と実績の開示」については最高の28%の賛同票が集まったようです。たしかに高い賛同票だとは思うのですが、2年前から開示されるようになった(※1)議決権行使結果によると、みずほFGでは以前から「役員の個別報酬開示」はじめ、株主提案権行使に対しては20%程度の賛同票が集まっているようなので、急激に株主提案に賛同する一般株主が増えた、ということにはならないように思います。

※1 金融庁は、平成22年3月31日付で「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」を公布しております。適用開始時期は、3月決算の上場会社は平成22年に開示される有価証券報告書、定時株主総会からとなりますので、今年で3回目の議決権行使結果の開示となります。この内閣府令では、報酬が1億円以上の役員がいる場合は、有価証券報告書に、当該役員の個別報酬が開示されることになりましたが、役員報酬の他にも注目を集めているのが、議決権行使結果について、決議の結果だけでなく賛成反対の票数も法定開示の対象とされた点です。

ただし同社の株主構成をみますと(四季報参照)、2008年には29%だった外国人株主が2012年には19%に減少していますし、浮動株主も11.8%だったのが4%にまで減少しています。こういった株主構成の変動の中で、20%以上もの賛同票がとれたことは、やはり画期的なのかもしれません。ちなみに、あれだけ東京都の副知事の方が「脱原発」を呼びかけていたにもかかわらず、実際のところは脱原発の株主提案に対する賛同票は8%程度だったようで、昨年の5%からは伸びているものの、やはり個人株主の意見が集約されたとまでは言いきれないのではないかと。

ところで株主提案権の行使といいましても、アコーディアゴルフvsオリンピア(PGM)、イオンvsパルコ、栄光HDvs進学会、ヤクルトvsダノンのように、M&A型(支配権争奪型)の場合には、当然のごとく、その年の株主総会における得票数が問題となるわけですが、みずほFG、関西電力、野村HDなどのように問題提起型(経営関与型)の場合には、単純にその年の賛否の比率で一喜一憂するのではなく、過年度における賛否率と比較したうえで、提案権に賛同する株主が増えているかどうかを検討する必要もあります。企業としても、今後は長期的に株式を保有してもらえる株主を増やしたいと思いますので、こういった政策的な提言を行う株主提案権への賛同票の増加は会社経営陣にとっても無視できなくなるように思います。

ちなみに下表は先週、大阪の司法記者クラブとの懇談会でスピーチをさせていただいたときに配布させていただいた資料からの抜粋です。

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大阪市の市長は、今年の関西電力の株主総会において、約4分にわたり株主提案の理由を説明しました。その後、株主提案に係る定款一部変更議案が否決されたことを受けて、「この経営陣では関電はダメになる、何を言っても無駄」として、大阪市保有の関電株の売却も検討する方針だと報じられております。ただ、問題提起型の場合にはむしろ再度提案権を行使すべきであり、その賛同票の推移こそ、主張の根拠とすべきではないかと思います。報じられたところでは、大阪市は日本プロキシーガバナンス研究所の助言を受けておられたそうですが、ISS、グラスルイス等の議決権行使助言会社の推奨意見に影響を及ぼすことも含めて、毎年粘り強く提案を続けることが重要だと思います。未だ関西電力の臨時報告書は出ておりませんが、原発廃止に関する定款一部変更議案については、関西電力を取り巻く経営環境は(おそらく)毎年変わると思われますし、重要な課題でもありますので、株主提案権の濫用には該当せず、議案提出が制限されることはないものと思料いたします。そう考えますと2年前から議決権行使結果が臨時報告書によって開示されるようになった意義は大きなものがあります。

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コメント

この株主提案はTOSHIさんもごぞんじのK社個人株主の会のYさんによるものです。
以前、M証券による株式評価書が常識外のK社の評価(株価)をしたため、K社の買い取り価格が非常に安くなった。それでM証券の親会社Mファイナンスグループにいろんな改善を求め数年前より株主提案をされるようになりました。
Yさんは株主提案が400字制限があり会社の反対理由は制限がないと批判されています。

投稿: 一個人株主 | 2012年7月 4日 (水) 13時34分

委任状争奪戦や有力な株主提案権の行使がある総会が大きな注目を集めるのは当然です。
一方山口先生の資料にある「株主共同利益型」の株主質問権の行使は、世間の注目を集めることは少ないとしても、企業統治の不断のレベルアップにとって重要な意義があります。
とりわけ社内事情を熟知し、かつ年金・株式を通して企業価値の向上に切実な関心を持つOB株主の役割は非常に大きいと考えています。

OBが総会に出て突っ込んだ発言をすることには、抵抗感を持つ人が多いのが現状でしょう。
セレモニーに過ぎない総会でまともに質問をしても適当にやり過ごされるだけで、意味がないとするあきらめ的な意見。
また経営者にとって触れて欲しくない質問や手厳しい意見を述べれば、「特殊株主」扱いされたり「白眼視」される懸念。
しかし、会社の最高機関たる総会で、的確で本質をついた、時には耳の痛い質問を積重ねていけば、経営トップも無視できず、その牽制効果は決して小さくないと考えています。

特に、オリンパス事件第三者委員会報告書で事件発生の背景要因として指摘された、①ワンマン体制を敷く経営トップへの牽制機能の不全、②風通しが悪く、意見を自由に言えない企業風土の問題は大なり小なり多くの日本企業が抱える共通の問題です。そうした会社では、人事権を握られている現役世代がおかしいと思っていても何も言えない以上、自由な立場にあるOBが発言する意義はより重要になるでしょう。

投稿: いたさん | 2012年7月 5日 (木) 00時28分

最近退職しました。持株制度で恩恵を受けた筈の株資産が激減し、経済環境の要素大きく半ば諦めも。「株主共同利益型」の立ち位置です。いたさんの「とりわけ社内事情を熟知し、かつ年金・株式を通じて企業価値の向上に切実な関心を持つOB株主の役割は非常に大きい」とありますが、経営トップ層と意見が合わず退職した方は舞台裏で静観するのでしょう。経営方針の食い違いはさておき、所詮不正は起きやすいと確信します。入社時、社内教育やOJTで徐々に健全な社風に染まります。が、とりわけ経営トップ層は権限もあり職務遂行上密室内で不正の機会という悪魔の窓口が常時口を開けているという性悪説に立ちます。証券会社など目立ちますが、どこの会社でも在り得るでしょう。物言わぬMajority(配当主眼の銀行、保険会社)を確保した経営陣が株主総会で勝者となる現実。長引くのを嫌うのでしょうが、株主、経営者、監査役夫々が対等な緊張関係を維持し、「シャンシャン」セレモニーではなく議論活発な総会を期待したいものです。例えばトイレ休憩時間を設けるなど、出席したお年寄り全員に肉体的な苦痛回避の為の温かい配慮も期待したいものです。内部統制報告制度はあまりにも形式的で、ある程度内部事情に通じた新人OBからの質疑は社内事情の機微を反映した緊張感をもたらすという好影響を期待したいと思います。

投稿: 鉄球 | 2012年7月25日 (水) 14時01分

鉄球さん、実務に則したコメントありがとうございました。出席者数の確定など、むずかしい法律問題は残りますが、個人株主の出席が増える分、ご指摘のような配慮も必要になるでしょうね。これからもご意見よろしくお願いいたします。

投稿: toshi | 2012年8月 1日 (水) 09時49分

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