« 社長にはなぜ社内の不祥事情報が届かないのか?(増資インサイダー事件) | トップページ | 契約書の見方・つくり方(新刊のご紹介) »

2012年8月31日 (金)

内部告発者に対する社内リニエンシー制度の適用

すでにマスコミ各社で報じられているとおり、8月29日に大阪市元職員による「市職員による金品着服の内部告発」に関する大阪地裁判決が出たようであります。内部告発を行った元職員は、自らも事件に関与していたものとして、大阪市から懲戒解雇処分を下されていましたが、この懲戒処分は重過ぎる(裁量権の濫用に該当する)として、大阪地裁は処分を取消す判決を言い渡したそうであります(たとえばこちらの読売新聞ニュース)。

本件は、内部告発を行ったことに対して、その報いとして告発者が所属する組織から不利益な制裁処分を受けたものではありませんので、公益通報者保護法に関する問題とは区別して考えたほうが良いと思われます。つまり、自身も関与していた不正事実を公表し、あわせて証拠を提供することによって不正摘発に協力をしたものでありますが、結果として組織の不正を是正した告発者自身に課せられる懲戒処分が軽減されるべきかどうか、という点が問題となりそうです。

朝日新聞の記事によりますと、大阪地裁の裁判官は

「内部告発の結果、組織不正の是正が図られており、男性の処分の内容を選ぶ際に有利な事情として考慮すべきことは明らかだ」

と判決理由が示したそうなので、たとえ内部通報(自身の所属する組織の通報窓口に通報したケース)ではなく、内部告発(外部第三者に対して通報すること)がなされた場合でも、告発者に対しては社内リニエンシー制度に近い運用がなされるべきである、ということを示したものでありまして、かなり注目される判決ではないでしょうか。ちなみに今年8月に最高裁で確定したオリンパス配転命令無効確認等請求事件の場合は、社内のヘルプラインに通報した事例なので、本件のようにいきなり外部第三者へ告発された事例とは少し性質が異なるものと思われます。

最近は各企業のヘルプライン(内部通報規約)にも、役職員が加担する不正事実について、社内調査開始前に自主申告をして、さらに社内調査に協力した場合には、当該社員に対する社内処分の減免を定めるケース(いわゆる社内リニエンシー)も見受けられます。とくに海外カルテルなど、独禁法上の不正行為に関与した職員の自主申告は喫緊の課題であり、かなり社内リニエンシーも一般化しているものと思われます。

ところで本件判決は、内部通報制度を整備している一般企業の場合にも、果たして参考になるのでしょうか。一般の企業では、自浄能力を発揮することを目指して、社内の不正はできるだけ社内の窓口で受理したいと考えており、そのために(内部通報者への)自主申告者への処分減免制度を整備しているはずであります。しかしながら、社内の通報窓口ではなく、いきなり外部第三者へ告発されるケースであっても、社内処分の減免を図らねばならないとすると、そもそも内部通報を奨励し、できるかぎり自浄能力を発揮させるためのインセンティブがなくなってしまうようにも思われます。

上記の大阪地裁判決でも述べられているように、本件は「組織ぐるみ」の不正であり、「不正が長期にわたって放置されたことについて、市の監督責任がある」と思われることから、市役所内部に通報したとしても(監督責任をおそれた)市役所が不正を十分に調査することが期待できず、また周囲の社員から嫌がらせを受ける可能性も高かったことが推測されます。したがって、マスコミへの情報提供もやむをえなかったものと思われるところであり、内部通報とは言えない場合でも懲戒処分の減免がなされるべき事案だったのではないでしょうか。とりわけ「懲戒解雇処分」(組織→市民社会)という、最も厳しい処分が審査対象となっていましたので、裁判所も裁量権の逸脱について慎重な判断がなされたことも考慮すべき点であります。

しかし内部統制システムの一環として内部通報制度を整備し、できるだけ内部告発を減らそうと努力している一般企業としては、不正申告者が、内部通報制度を活用することなく、ダイレクトに内部告発を行った場合には別異に考えるべきではないかと。(もちろん、厳格な要件のもとで公益通報者保護法上の保護が図られることはあるとしても)自ら関与した不正への処分を企業が検討するにあたり、常にリニエンシー制度を適用しなければならない、とまでは言えないように思います。

8月 31, 2012 内部通報制度 |

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/104680/55543624

この記事へのトラックバック一覧です: 内部告発者に対する社内リニエンシー制度の適用:

コメント

 確かに、大阪府の場合は、いきなり外部への告発であり、類型化は色々慎重に考えたいですね。

 ところで、オリンパス配転命令無効確認等請求事件の場合は、裁判所の認定した事実(会社は争ったようです。)では、社内のヘルプラインに通報するより以前に上司に取引先の状況も含めて報告・進言しており、それでも受け入れられなかったので社内ヘルプラインに通報した事例とのことです。こうした差異を踏まえますと、
1.いきなり外部(今回の大阪の事案)
2.職制を飛ばして内部通報
3.職制を通じた情報提供をしたのに効を奏さなかったので、内部通報(オリンパス)
というような段階を分類して、社内リニーエンシーを考えることになるのでしょうか。

 オリンパス事件と比較すると、原告の方が未だに配属が決まっていない状況はどうなるのでしょうか・・・・。

投稿: Kazu | 2012年8月31日 (金) 11時03分

通報者自身が不正に関与しているケースと、そうではないオリンパスの件を区別する必要はあると思っています。社内リニエンシー制度は、通報者自身が不正に関与していることが前提のケースですが、やはり通報者の行動が不正発見に与えた影響や、通報制度を尊重する姿勢など、具体的な個々の事例ごとにリニエンシーの適用を検討する必要があるのでしょうね。
ところで、大阪市のケースでは、通報者は一部、不正に関与していることが前提になっていますが、全く通報事実とは無関係な事実も懲戒処分の根拠理由とされています。もし全く関係のない事実のみで懲戒処分が下されている場合には、不正申告という事情はリニエンシーの対象になるのでしょうかね?私はならないような気がしますが。

投稿: toshi | 2012年8月31日 (金) 12時47分

 全く通報事実とは無関係な事実も懲戒処分の根拠理由とされている場合、報復による処分の可能性もあるので、認定が難しいですよね。
 本件の場合、判決はどう考えたのでしょうか。

投稿: Kazu | 2012年8月31日 (金) 19時10分

コメントを書く