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2012年8月10日 (金)

内部統制:そのあるべき姿と現実(第五回学会開催のお知らせ)

ロンドンオリンピックも終盤戦、毎日寝不足で出勤されていらっしゃる方も多いかと思いますが、いかがお過ごしでしょうか。さて、今年も(私が理事を務めております)日本内部統制研究学会の年次大会(第5回)が開催されることになりました。今年は例年よりも時期が少し早まりまして、9月3日(月)、開催場所は日大商学部(世田谷キャンパス)です。

「内部統制のブームは去った」と言われることもありますが、たしかに「内部統制を商売のネタにするブームは去った」ことは間違いありません。しかし裁判例や第三者委員会報告書などでは、平時の内部統制システム構築の巧拙が、取締役の有事対応に関する善管注意義務の判断にどのように影響を及ぼすか、という点を示したものが複数出てきております。また企業実務としてのJ-SOX対応も、システムの構築や評価に慣れてこられたところも出てきて、法律対応だけでなく、経営管理手法としての有効性を向上させることに取り組んでおられるところもあるようです。そこで今大会は、内部統制のあるべき姿をあらためて見直し、現実とのギャップを整理しておく必要があるのではないか、とのことから、「内部統制:そのあるべき姿と現実」というテーマで議論を進めていくことになりました。

今回の学会で中堅・中小規模上場会社の内部統制(海外子会社の内部統制を含め)をここ5年ほど、熱心に整備・運用をされてこられたS氏(今回も発表担当者のおひとり)と、昨夜(すきやきを食べながら)お話をする機会がありました。S氏は内部統制報告制度施行当初から、法対応としての内部統制だけではなく、経営管理手法としての有効性・効率性向上のための内部統制に取り組んでこられました。さすがに4年間、まじめに取り組んでこられただけあって、「内部統制システムの整備運用によって、社内にいったいどのような変化がみられたのか」という点を、実務家として堂々と話しておられました。そしてその内容は、私にとって本当に興味深いものでした(ここで書くことは控えておきます)。これは「どうすれば監査役監査が経営者にとって役立つものになるのか」という、私の考える課題への対応と非常に似たものであり、とても「現実的かつ人間臭い」お話でした。このたびの学会での講演では、この「内部統制によって当社がこの4年でどのように変わったのか」という点をS氏に披露していただけるそうです。当ブログで過去に何度か申し上げましたが、法曹界や経営学の世界、会計監査の世界から、いろいろと批判を受け、これに真摯に耳を傾けながら、「経営手法としての有効性・効率性向上のための内部統制構築」に取り組んでこられた会社と、そうではなく、あくまでも経営者評価として「内部統制は有効」という評価結果を得るためだけの対応に終始してきた会社とでは、大きな差が生じてきたものと思われます。どうしても巧拙は属人的なスキルに依拠していることは否めないとは思いますが、「まじめにやればこうなる」といったわかりやすいイメージを提案することはとても重要かと思います。

なお、同時刻に別会場にて東洋電機製造社の内部監査責任者の方が「内部監査人の経験と、経営への貢献度自己評価の関係」をご発表されます。ちなみにGさんは、東京CFE(公認不正検査士)研究会のメンバーの方で、内部監査に認知心理学を採り入れる研究をされておられるとのこと(研究会のメンバーの方より教えていただきました)。こちらも、題名からして、やはりここ数年の取り組みが、どのように経営に生かされているかをご披露されるものと思いますので、「目に見える成果」が堂々と発表される時期になってきたことを感じさせます。

また、研究部会の報告では、内部統制に関する判例および処分事例の研究について、法律家と会計実務家との共同研究の成果をご披露申し上げます。鳥飼重和弁護士を中心に、青山学院の町田教授、西村あさひの武井一浩弁護士などの豪華メンバーも加わり、合計7回ほどの研究会の成果を発表いたします。まだ最終報告書の詰めの段階ではありますが、判例研究報告としては、かなりレベルの高いものではないかと(私も当研究会メンバーとして、平成22年に最高裁で判決が確定したヤクルト本社株主代表訴訟事件の検討結果をまとめました。地裁判決、高裁判決とも長文の判決なので、かなり苦労しました)。なお、この研究部会の成果品は、(かなり分厚いものとなるため)当日お越しになられた方々への配布のみとなります。私自身も、この研究会での意見交換がたいへん勉強になりましたし、また新たに内部統制を企業の実務家的な視点、法律家としての視点から研究する意欲が湧いてまいりました。ぜひ当日は、研究報告を聴講いただければと思います。当日は、町田教授から研究部会の報告がなされる予定です。

午後の統一論題につきましても、これまで内部統制の第一線で活躍されてこられた方々の発表と討論は、今後の実務レベルへの影響を考えるうえで貴重な機会かと思います。企業が否応なしにグローバルに事業を展開せざるをえない時代はますます企業の自律的機能に注目が集まります。内部統制と①ガバナンス、②ペナルティ、③職業倫理、④役員の法的責任、⑤ディスクロージャー、そして⑥財務報告の信頼性確保などなど、どれをとっても自社の自律的機能をどう組み立てるべきか、それぞれの企業において整理する必要があります。その整理のためのヒントになれば幸いです。

お申し込みは、上記リンク先の日本内部統制研究学会のHPをご覧ください。まだまだ暑い時期ではございますが、どうか多数の方のご参加をお待ちしております。

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