テルモ社によるオリンパス社統合提案とディスクロージャーの巧拙
自己資本比率問題や、FCPA(海外腐敗行為防止法)疑惑、内部告発者への正式謝罪など、相変わらず話題が豊富なオリンパス社でありますが、オリンパス社への統合提案を行っているテルモ社の社長さんの会見記事が本日(8月11日)の日経朝刊に掲載されております。先日、当ブログにおいて「テルモ社 オリンパス社への損害賠償提訴とガバナンス上の理由」と題するエントリーを書きましたが、昨日の記者会見の発表内容によると、やはり(予想しておりましたとおり)「ガバナンス上の理由」とは「損害賠償請求訴訟の提訴期限を考慮していた」「取締役としての義務上、避けられなかった」といったことを表現していたものでして、オリンパス社への損害賠償提訴は決して戦略的なものではない、とのことだそうであります。
とくにテルモ社へ味方をする意図はございませんが、統合提案をしている会社に対して裁判を起こす、というのは普通に考えても納得できないわけでして、やはりテルモ社側にやむをえない事情があったための行動とみるほうが自然ではないかと思われます。東日本大震災の直後である2011年3月22日、テルモ社は有事において投資家が一番知りたい「被災の有無、被害額、被害状況」等の定性的情報を開示したうえで、3月締めの決算において業績予想を速やかに下方修正しています。大方のファンドマネージャーの方々は「このテルモ社の速やかな情報開示は、有事になってから頑張っても実現は不可能であり、テルモ本社が平時から各拠点の状況をしっかり把握していたからこそできたのだ」と非常に高い評価をしていました(2011年4月24日付け日経ヴェリタス記事より)。
上記テルモ社の社長さんの会見記事にあるように、損害賠償請求訴訟を提起した後で、統合提案を開示したのであれば、おそらく「脅迫的言動による戦略的訴訟」と世間から受け取られ、提携競争に敗れること以上にテルモ社の社会的信用を毀損することにもなりかねません。したがって、どうしても訴訟提起よりも先に統合提案を公表する必要があったと思われます。このことで、なんとか戦略的訴訟などと言われる可能性を低減させることが可能になり、訴訟と統合提案は全く別、といったテルモ社の主張も、世間から信用されることになるのかもしれません(もちろん、上記社長さんの会見での説明を信用するかしないかは、投資家の判断に任されるところではありますが)。有事におけるディスクロージャーの巧拙は、日頃からどれだけ投資家のことを考えながら業務に取り組んでいるか、という平時の取り組みの姿勢によって決まるものと思われます。本件は、平時の取り組みが取締役の有事対応に活かされる典型的な例ではないかと。
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