「あのひと」買いの構造と企業の社会的信用(ブランド)の維持
日本中古自動車販売協会連合会(JU)が全国の20~60代の男女2000人を対象に実施した調査によりますと、「あのひと」買いを行っている人は、35・4%もいらっしゃるとのことであります(サンケイビズニュースはこちら)。商品・サービスの種類別でいうと、自動車(47%)、家電(36%)、洋服(28%)の順で、販売員が「あのひと」とされる決め手は誠実さ、信頼感、商品・サービスの知識と並んでいます。ただ、販売員がいくら誠実でも、消費者は、まずやはり商品やブランドへのこだわりがあり、最後の決め手が「あのひと」だと思いますので、私は基本的には下図のように考えております。
やはり消費者が商品やサービスの品質の水準を第一に考え、そのうえで販売(提供)会社のブランドを考慮し、いくつかの候補が絞られたら、最後は「この販売員が推薦したものを買おう」というのが実態ではないでしょうか(このピラミッドのバランスが崩れてしまいますと、特定商取引法違反事件や高齢者を狙った詐欺事件など、極めて問題の発生しやすい事態が招来されてしまいます)。もうほとんど購入したい商品・サービスは自分の中では決まっているのでありますが、「なりたい自分」「私のライフスタイル」を理解している「あのひと」が最後にポンと背中を押してくれる・・・、そういったイメージが一番ぴったりくるように思います。
私の外食産業の役員や顧問の経験からしますと、今の時代、提供するお料理が美味しいだけではお客様は何度も足を運んできてはくれないわけで、そこに「+付加価値」が求められます。その付加価値は、お店の種類ごとに顧客層を割り出して、その「ライフスタイル」「自分らしさ」「なりたい自分」「なりたい家族」というものを想定し、レストランで食事をするお客様が、自分のライフスタイルを実現することに寄与するものでなければならないと感じています。設備投資に豊富な資金が投入できなければ、ひとつひとつの調度品は安いものであっても、お店つくりのトータルなバランスにデザイン的なセンスを表現できれば、けっこう評判がいい時もあります。
コンプライアンスの概念が「企業と市民社会との共生」ということで語られるようになりますと、お客様の「なりたい自分」のイメージを損なうような行動は厳に慎まねばならないわけでして、とりわけ外食産業のケースでは、お店の食中毒事件や社員の粗暴犯、破廉恥犯などがマスコミで報じられますと、(いくら美味しいものを提供しても)長期間にわたる売上減につながることになります。おそらく外食産業以外のBtoC事業会社、BtoB事業会社でも、多かれ少なかれ同じようなイメージをもたれるのではないでしょうか。
「あのひと」「あの会社」で商品・サービスを選んでいただく時代。企業にとって、無形価値であるブランドを維持することはとても重要なことではありますが、残念ながら、どこの企業にも不祥事は発生するわけであります。競争が激しくなる中で売上を伸ばし、また管理費用を限界まで削減しなければならない企業にとっては避けて通れない問題であります。要は不祥事が発生した場合に、いかなる方法で誠実に、信頼される形で処理すべきか、ということがとても大事なことになります。
先日ご紹介した大阪ガス社の野球とばく事件の処理事例、2年前にこちらでご紹介した日本ハム社の中元商品差し換え事件の処理事例、またこちらでご紹介したマクドナルド社の原田CEO新任時における消費税二重徴収事件における対応(わずか9500円の消費税二重徴収のために、2800万円の謝罪広告を出した事例)などをみますと、不祥事対応も「消費者目線」で考える必要があると思われます。つまり社外の消費者の自己実現、社内の従業員の自己実現にとって、この会社は評価されるに値するものであるかどうか、ということへの配慮であります。消費者はこの会社の商品・サービスを購入することによって、どのような自己実現の欲求を満たすことができるのか、従業員はこの会社に勤めることで、単に労働の対価を得るだけでなく、どのような自己実現を図ることができるのか、たとえ不祥事を起こしたとしても、この気持ちにブレを生じさせないような対応が求められるのではないでしょうか。
どんなに立派な経営者の方でも、自己の欲求が満たされているとき(企業経営が順風満帆な場合)には、きちんと自己の利益と会社の利益とを区別するだけの余裕があるわけですが、不祥事が発生して「経営者失格と評されるのではないか」「法的責任を追及されるのではないか」と不安が生じた瞬間から、どうしても深層心理として分別がつかなくなるのは当然のことかと思われます。敗者復活戦が存在する国ならまだしも、我が国の場合は敗者復活戦がほとんど存在しないわけですから、深層心理の振れ幅も大きいものと推測されます。そのときに「企業ブランドを守るための消費者目線でのコンプライアンス」を心の天秤にかけるために自ら用意しておくべきものが「職業倫理」であり、また経営者に灯った黄色信号にイエローカードを出すのが「コーポレートガバナンス」の役割である、と考えるところであります。
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