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2012年9月14日 (金)

上場企業の役員必読!沖電気工業社・子会社会計不正事件報告書

昨日のエントリーとは打って変わって、全社的内部統制が機能していなかったために、尋常ではない会計不正事件が発覚してしまった、というお話でございます。あらかじめお断りしておきますが、本エントリーは沖電気工業さんについて、その経営管理の在り方を批判すること、揶揄することを意図するものではなく、あくまでも(どこの企業でも遭遇してしまう)海外子会社の管理のむずかしさを指摘するためのものであることをご了解ください。

すでに8月の時点で海外子会社で不適切な会計処理が行われていることが報じられていた沖電気工業社(東証・大証1部)でありますが(たとえば朝日新聞ニュースはこちら)、一昨日、同社は事実解明、原因分析、再発防止策の提言を目的とした第三者委員会報告書を公表しておられます。四半期報告書は本日(9月14日)開示される見込みとのこと。

影響はかなり大きかったようでして、事実公表に伴い株価は急落し、財務状態の改善が遅れるものとして、投資格付けも2段階ほど下がってしまったそうです。まだざっと一読した限りではありますが、日弁連第三者委員会ガイドラインに則った本報告書は、かなり会社側に厳しい意見が付されており、不適切な会計処理の中身だけでなく、発覚を遅らせてしまった原因事実につきましても、かなり踏み込んだ内容になっております。

私自身が不正調査で経験した海外子会社調査の例を、時々研修や講演等でお話させていただくのですが(もちろん、どこの会社の事例であるかはわからないように配慮しております)、私の講演をお聴きいただいている方からすれば、本報告書をお読みいただくと、「極めて酷似した事例」といった印象をもたれるのではないでしょうか。海外子会社の経営トップ(スペイン人社長)は最後まで会計処理が不適切であることを否定する(弁護士同伴のうえで抵抗)、その経営トップは、これまで親会社の業績に多大なる功績を残し、高い社内の評価を得ている、その海外子会社のトップが開き直ることにビビってしまう親会社役員、事件の処理方法において役員間で意見の対立が発生、調査責任者の度重なる交代、過年度決算修正をしないで済ます方向での意見が強まる、その結果、疑惑から不適切会計処理の調査断行まで1年もかかる、といった内容であります。会計不正の手法につきましては、在庫商品を外部倉庫に移して、実在しない売掛金債権を計上したり、重複ファイナンスによって取引先に対する滞留債権の存在を消し込んだり、ということで比較的わかりやすいものであり、報告書自体は少し長いものではありますが、理解しやすい報告書になっております。

本報告書は、親会社(正確には親会社と統括日本法人)が海外子会社の不正疑惑を知ってから、海外子会社経営トップが(自ら不適切とは認めないけれども)独特の会計処理を長年の慣行として行っていたことを白状するまでの「人間模様」をかなり詳細に記しており、読み物としても、なかなか秀逸な内容であります。有事(一大事)なのか、たいしたことはない平時なのか、親会社役員によって意識に違いが生じており、また危機対応が必要となる有事だと理解したくない(できれば平時処理をしたい)という役員の意識が、さまざまな正当化理由によって形成されていることがわかります。とりわけ親会社である沖電気工業社の経営トップ(社長および経理担当副社長)の有事対応の不適切さについて、この報告書は結構厳しく指摘しております。「監査法人が何も言ってこないのだから、大きな不正など存在しないのではないか」といった甘い考えに(役員が)支配されてしまうわけですが、会計監査は不正を摘発することが主たる目的とは言えないわけでして、これもやはり監査法人に対する「期待ギャップ」の現れではないかと。。。また、少し信じられないのでありますが、疑惑が発生している海外子会社の経営トップが、疑惑発生後に経営報告を出してくるのでありますが、その報告書の中身を信用して、「少し数値が改善しているみたいだから、もう少し様子をみよう」といった安易な経営判断を下してしまっているのであります(^^;;ホンマカイナ・・・。いや、笑えないかもしれません。オオゴトにしたくない、過年度の決算訂正をしたくない・・・という意識が強くなればなるほど、海外子会社のカリスマ社長の報告を信じよう、といったバイアスが親会社役員に働いてしまうものなのかもしれません。これは有事(会社の一大事)に遭遇された方々でないとわからないのかも。。。

さらに驚くべきことは、同社の内部統制基本方針の概要には「社内で不祥事が発覚した場合には、その旨を監査役に報告する」、とあるにもかかわらず、海外子会社の不適切会計処理の具体的な疑惑が現地調査担当者から上がってきてから1年以上も監査役の耳に届いていないことであります(監査役に報告がきたのは、社外に不適切会計処理を公表する直前!?)。これはいったいどういうことなのでしょうか?同社の監査役の皆様は、この海外子会社不正の事実を知って、どういった感想をお持ちになったのでしょうか?(涙)しょせん、どこの会社でも、監査役さんとはこういったものなのでしょうか?監査役と経営執行部とのコミュニケーション術を含め、私は10月に西日本地域を中心に、例年通りに日本監査役協会の研修講師を務めさせていただきますが、その折にでも、ぜひ皆様方のご感想をお聞きしたいと思っております。

国会に提出予定の会社法改正要綱では、これまで会社法施行規則で規定されていました「企業集団内部統制」が、いよいよ会社法条文の中に取り込まれ、いわば「格上げ」される予定であります。子会社管理がますます重要な課題となりつつあるなか、企業不祥事、コンプライアンスに関心のある方々には、ご一読をお勧めする報告書であります。そして、とりわけ上場会社の監査役の皆様には、ぜひともご一読いただき、発奮していただく起爆剤(?)になれば・・・と思い、ご紹介した次第でございます。沖電気工業グループ関係者の皆様、どうかご容赦くださいませ<m(__)m>。

9月 14, 2012 独立第三者委員会 |

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コメント

再発防止策の提言の中でも,真っ先に「役員の意識改革」が挙げられている点にも,外部調査委員会のみなさまの強い意思を感じるところですが,一方,内部統制報告書の訂正報告書における再発防止策では,「コンプライアンス意識の徹底」というきわめて曖昧な文言に置き換わっていいるようです。
名指しで批判された形の,社長,副社長,常務,経理部長,財務部長など,事態の隠蔽,先送りを企図した経営層の方たちの責任は,どのように追及されていくのでしょうか。

投稿: Tenpoint | 2012年9月15日 (土) 15時00分

調査報告書では,問題の海外子会社を監査していたErnst & Young Spainの会計監査の適切性については,「評価できない」,「結論表明は差し控える」としていますが,E & Yから日本の監査法人への情報提供はなかったのでしょうか。有価証券報告書を見ていたら,問題の子会社を統括する立場の欧州子会社は,Ernst & Youngに264百万円も報酬を支払っていて,これは日本の監査法人への報酬198百万円よりも多額なのですが。

投稿: Tenpoint | 2012年9月15日 (土) 15時57分

日本企業の海外子会社管理の問題から、これまでも海外子会社を舞台にした不正は多く起こってきましたが、まだ表面化してないものが相当数ありそうですね。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/33624

投稿: 迷える会計士 | 2012年9月26日 (水) 12時44分

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