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2012年9月10日 (月)

巨額年金消失。AIJ事件の深き闇-元企画部長の告白

Fukakiyami002金融庁は、AIJ事件を教訓として、新たに投資運用業者に対する規制強化策を公表するそうであります。なにゆえ国内信託銀行によるチェックが厳格に求められなければならないのか、また外部第三者による監査報告書が求められるのか、本書を読むと、なるほど理解できるところです。

巨額年金消失。AIJ事件の深き闇 (元AIJ企画部長)九条清隆著 角川書店 1400円税別)

ライブドア事件において、監査を担当されていた公認会計士の方が書かれた「ライブドア監査人の告白」を読んだときと同じような興奮を覚えながら一気に読み終えました(たしかあのときは、著者の方は後日、日本公認会計士協会から出版に関して懲戒処分を受けましたよね)。

本書は、AIJ事件発覚の経緯について、当時の企画部長が詳細に告白したものであります。金融庁による調査の様子、業務停止命令発令前後の社内の状況、AIJ投資顧問に「藁をもすがる」想いで期待を抱いた年金基金の様子を知るうえで貴重な記録です。著者である九条清隆氏(本名は巻末に記載されています)は野村證券でデリバティブを専門に扱い、みずほ証券勤務を経てAIJで企画部長として浅川社長を支えることになります。著者自身、警察から取調べを受けている最中も本書の執筆を続けておられたようで、本書原稿をクラウド上に保存しておられたために、金融庁による押収からも免れたそうです。社会的に大きな問題を起こしたことを真摯に謝罪しつつも、消えた2000億円のナゾや、10年間も不正が発覚しなかった本当の原因など、社会に知っていただきたいとの強い想いから、本書を世に出す決意をされたとのこと。野村證券→みずほ証券の時代は運用のプロとして相当の年収を得ていたそうですが、現在は時給800円でコンビニのアルバイトに勤しんでおられるそうです。

AIJ投資顧問の事件につきましては、未だ中心人物3名の刑事訴追が続いているところでありますが、不正調査という仕事に関わる者として、本書の一番の関心は、なにゆえ浅川社長からAIJの開示書類作成を任されていたにもかかわらず、著者は浅川社長による長年の粉飾を見抜くことができなかったのか?という点であります。この会社には、著者をはじめ大手証券会社出身の投資運用のプロがゴロゴロ存在していたにもかかわらず、なぜその知見によっても「運用に関しては素人同然だった」浅川氏の粉飾を見抜けなかったのか・・・・・、そのあたりは本書をお読みいただくとおわかりになるかと思います。とくに新聞等で広く報じられていたように、雑誌「年金情報」では、かなり前から「AIJは開示に積極的ではなく、どうも運用が怪しい」と書かれ(もちろん雑誌では社名は伏せられていたものの、誰が読んでもAIJを指していることは明らか)、同社内でも当然にそういった噂の存在を社員が熟知していたにもかかわらず、なにゆえ浅川氏は堂々と年金基金に対して営業を続けていられたのか、という点に関する記述は、一般の企業のコンプライアンス経営を検討する際にも参考になるところと思われます。

また、大手の年金基金の担当者は、年金コンサルタント等の専門家を交えてAIJの報告を受けていたにも関わらず、どうして著者(企画部長)の説明に納得してしまったのか、そのあたりも同様の事件が今後も発生するリスクを考えるうえでとても参考になりました。そんな自信満々だった著者が唯一プレゼンで苦労したのが大阪の年金基金だったそうであります。なぜ大阪の年金基金だけは営業に困難が伴ったのか、という理由は、本書を読みますと納得できるのではないでしょうか(大阪には振り込め詐欺の被害者が極端に少ない、という理由にとてもよく似ているような。。。)

昨今よく世間で語られるところの「リスクと不確実性の違い」に関する著者の考え方なども垣間見え、またデリバティブ取引の基本的な仕組みなどもわかりやすく解説されておりますので、AIJ投資顧問事件の全体像を知るうえでの知識なども学ぶことができます。読者の方々の立場によって、興味を持たれる点は異なるかもしれませんが、不祥事のまっただ中におられた方の証言から学ぶものはとても多く、ご一読をお勧めする一冊であります。

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