三洋電機元役員株主代表訴訟判決と「公正なる会計慣行」
本日はかなりマニアックな話題でありますが、先月末(9月28日)に三洋電機元役員に対する株主代表訴訟の判決が大阪地裁商事部にて言い渡されたそうであります(たとえば時事通信ニュースはこちら)。結論的には「三洋減損ルール」を用いて作成された同社計算書類(2002年9月中間期~2004年9月中間期まで)に基づく剰余金配当については、「違法配当」に該当しないため、元役員らの損害賠償責任は認められない、ということになり、原告株主の請求は棄却されたようです。この裁判は、会社自らが過年度の計算書類を訂正して違法配当を認めている、ということを前提として、当該年度の違法配当分の返還を元取締役に求め、あわせて違法配当を認めていた当時の監査役5名に対する損害賠償も求めていたものであります。「違法配当には該当しない」というところで判断されているので、監査役監査の責任論などさらなる論点への判断がなされなかったことは残念です。
まだ地裁判決が出たばかりであり、判決文も入手していない状況なので、現時点で内容についてコメントすることは控えさせていただきます。ただ、三洋電機の不正会計事件というのは、会計事実自体が歪められていた、典型的な粉飾決算事件とは異なり、適用すべき会計基準の処理方法に誤りがあったとして「不適切な会計処理」事案とされているところに特色があります。2007年当時、当ブログでも紹介いたしましたが(こちらのエントリー)、新聞報道などでは「この事案は課徴金処分が見送られるのではないか」とも報じられていたところであり、①会計基準の解釈という特殊性や、②連結決算だけでなく、単体決算も開示するという日本独特の制度に由来するということも影響していたものと記憶しております(実際には、金商法に課徴金制度が導入された2005年以降の虚偽記載についてのみ課徴金処分がなされたわけでありますが)。
新聞報道などを総合しますと、債務超過にある子会社の株式評価については、果たして業績が回復して、(当時の会計基準の適用を前提としても)株式評価額を減損せずに済むのかどうか、もし幅があるのであれば、その幅のどのあたりを基本として評価額を算定するのか、そういった問題について会社は恣意的に判断したものとはいえず、当時の監査人と協議のうえ、妥協の産物として三洋減損ルールを適用した可能性があります。そうなると、極めて会計専門性の高い判断が求められるところであり、経営者としては経営判断原則が適用されるのと同様、判断内容が著しく不合理なものでないかぎりは会計基準の選択に裁量が認められた、ということになりそうであります。つまり会社法上は計算書類の作成は適正になされたものであり、違法配当とは「評価されない」というのが判断理由かと。そもそも旧商法時代から、違法配当時の取締役の損害賠償責任については、無過失責任とされていることに批判が出ていましたので(たとえば江頭「株式会社、有限会社法(第2版)」357頁)、役員に故意・重過失が認められるほどの悪質なケースでなければ「違法配当」とは解釈されにくい、ということなのかもしれません。
本件訴訟は、今後高裁における判断も予想されるところでありますが、金商法における虚偽記載(投資家保護の思想)と会社法における違法配当規制(利害関係者間の権利調整)との関係、会社法上の違法配当と公正なる会計慣行の判断、長銀・日債銀最高裁判決の影響度などが地裁判決の検討課題とされるところではないかと思われます。また、当時話題となりました「第三者委員会報告」が判決にどのような影響を及ぼすのか、という点についても興味のあるところです(たしか会計処理の妥当性が問題とされていたにもかかわらず、会計監査実務家が委員に含まれていない、ということに疑問を呈する専門家の方々もいらっしゃいます)。また以前は無過失責任だった違法配当時の役員責任が、平成17年会社法改正により、過失責任(ただし立証責任転換規定あり)に変わったことが、今後の実務にどのように影響するか、というところも考える必要がありそうです。
今年3月に、大阪弁護士会で開催いたしました「公正なる会計慣行を考える」シンポでも、三洋電機事件の関係者の責任問題(監査人に対する行政処分を含めて)は会計学者、会計実務家の方々より多くの批判的意見が聞かれたところであります。ビックカメラ社の不適切会計処理に関する株主代表訴訟なども係属中であり、今後の同種事案への裁判所の判断にも参考となるかと。私自身も判決文を入手できましたら、いろいろと研究したいところでありますが、ぜひとも企業会計法で著名な学者の方々の判例評釈などに、今後注目しておきたいと思います。
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