企業の内部監査は驚くほど進化している(ACFEカンファレンスを終えて)
本日は休日版とさせていただきます。10月12日、青山学院アイビーホールにて、第三回のACFE(公認不正検査士協会)JAPANの年次カンファレンスが開催されました。当ブログでも、ずいぶん前にご紹介いたしましたが、おかげさまで2週間前に申込み受付終了となりまして、当日も満員の中で開催されました。内外のマスコミの方々もお越しいただき、主催者側(理事)として、厚く御礼申し上げます。
なんといってもオリンパス元社長のマイケル・ウッドフォード氏の講演(および八田教授との討論会)をメインに据えましたので、「一度でいいから生(なま)ウッドフォードを観たい、声を聴きたい」との想いでお越しいただいた方が多かったのではないでしょうか。懇親会でもウッドフォード氏と名刺交換や記念撮影をされておられた方が多かったですし、彼の著書にサインをしてもらっていた方もおられました。今回のカンファレンスの盛況が、彼の存在によるところが大きかったことは否めないところかと思います。
さて、ウッドフォード氏の講演を拝聴したことの印象については、また「不祥事と企業倫理」に関するテーマでお話させていただくとして、私がこのカンファレンスで一番印象に残ったことは「企業の内部監査部は結構進化しているのではないか」というものであります。大手企業の内部監査に携わっておられる方々には「それはあたりまえですよ」と言われるかもしれませんが、会社法上は「任意の機関」にすぎない内部監査という部署が、ここまでガバナンスという意味で進んでいるのか・・・と(恥ずかしながら)外野の者にとってはたいへん新鮮なものでありました。
昨年は尼崎信用金庫の国際部長の方のスピーチで、尼信さんでは内部監査部だけでなく、他の部署にもCFE(公認不正検査士)の資格者を配置するようになり、金庫内ではすでに7名のCFE資格者が活躍されている(たしか現在は10名を超えておられるとか)、とのお話にビックリいたしました。そして、今年はI商事とA製薬さん(実名でもかまわないとは思うのですが、念のためイニシャル表示とさせていただきます)の担当責任者の方々のスピーチがございました。
まず総合商社のI商事さんですが、I商事さんでは内部監査部とは別に、なんと!不正検査専門部署を設置されているそうです。しかも内部監査部とは指揮命令系統が違う合計30名ほどの部隊ということだそうで・・・ええ!?不正検査専門部署?・・・スゴイ・・・、つまり定例の内部監査とは別に、不正が疑われるところがあれば、これを確認し、不正の芽が存在すれば早期に発見してこれを是正する、というものだそうであります。もちろん、不正検査部署ということなので、そのような疑惑がない時期もあるわけでして、そういった疑惑がないときには何をしているのか?という点についてもご解説がございました。きちんとミッションが決められているうえに、コンサルタント的な指導も高く期待されているようで、たいへん驚きました。
さてもうひとつのA製薬さんですが、こちらは内部監査部署の会社での位置づけが非常に高く、なんと!?グローバル経営会議や国内経営会議等の重要会議では「陪席」という形で重要な意思決定の過程をレビューされるそうであります。ええ!?意思決定会議体に出席ですか?しかも、重要会議に出席したうえで、内部監査部署が身内に対する厳しい意見を出さなければ陪席という立場も危うくなってしまうとか。「CEOとして心配すべき事」をきちんと報告しなければ「陪席の意味なし」と評価されるそうでして、つまり会社挙げて内部監査を高く評価しているそうであります。だからこそ内部監査部署の方々も非常にやる気が出る、とのこと。あと、ここでは詳しくは書きませんが、内部監査人として倫理と現実の狭間の問題にも真正面から苦悩されている姿を堂々を発表されておられ、「ああ、内部監査という職務はここまで前面に出てくる時代になったのだなあ」と、改めて新鮮な気持ちになりました。おそらく(これは私の推測ですが)、監査部門の評価活動に加えて、その指導機能を発揮していかなければ(少なくとも発揮しようという気概をもたなければ)、経営執行部からは高い評価を得られないのではないかと思われます。
そういえば先日、大阪の某大手企業の監査部長さん、監査役室長さんとお食事をさせていただいたとき、私が単純な素人考えで「内部監査という仕事は結構、親会社や子会社の社員から嫌われるのでしょうね」とお聴きしたところ、
「先生、それは古いですよ。いまは評価よりも指導の時代。指導ができるからこそ、評価を受け入れてくれる。むしろ子会社の社長さん等は、内部監査はウェルカムです。自分たちがわからないところを指摘したり、膿を出し切る作業を手伝ったりするわけですから。また、子会社の内部監査の指導などもやりますので、本当に歓迎されるようになりました。」
とのお返事でした。金融監査なども、このように検査から指導へと少しずつ変わっているようで、内部監査の役割というものが進化しつつあることを認識いたしました。
法律家からみますと、内部監査部門というのは、ホントのところよく理解していないところでして、任意の機関であるがゆえに、「知識よりも知恵がモノを言う」部門として企業によってもその位置づけは千差万別であります。だからこそ、企業努力により、内部監査の巧拙には大きな差が出てきているのではないでしょうか。「自浄能力」という意味からしても、内部監査部門の活躍は大いに期待されるところでありまして、来年のカンファレンスでも「他社よりも進んだ取組みを行っている内部監査部門」の方々が多数ご発表いただけることを楽しみにしております。とくにこのたびは、企業法務に関心を持つ弁護士として、もっと内部監査部門のことに精通しなければガバナンスは語れないものと認識した次第であります。
ACFE JAPANも、いよいよ会員数が1000名を超えまして、その存在意義が問われる時期に差し掛かってきたように思います。自社で速やかに不正を発見する、ということが企業の社会的信用に大きな影響を及ぼします。また(弁護士の木曽裕氏が基調講演でお話されたように)「小さな政府」(規制緩和の時代)になればなるほど、企業は自律的作用を発揮しなければ競争に負けてしまうことになります。今後はガバナンスや内部統制、コンプライアンス、そして企業倫理の面において、ACFEとしての意見を広く発表していけるよう、会員の皆様の叡智を結集して運営していきたいと考えております。最後になりますが、当ブログをお読みになり、ご参加いただきました非会員の皆様、ご参集いただき、どうもありがとうございました。また、カンファレンス全体のとりまとめをされた濱田真樹人理事長(立教大学教授)に一言「お疲れ様でした」と申し上げて今年度のカンファレンスのご報告とさせていただきます。
PS
内部監査部門の皆様の発表とともに、印象的だったのが、(関西人特有のしゃべくりで時間オーバーしてしまった)私のスピーチを、一番前の席で聞いておられた八田教授のあきれ顔でした。懇親会の席で八田教授曰く
君は以前はもっとピュアだったと思うんだけどなぁ・・・・・・・
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コメント
内部監査の役割が評価から指導に変わり進化しているとの話は内部監査部OBとして嬉しい話ですね。
J-SOX制度が導入され、経営者評価を主に内部監査部門が担うことになったことから、助言・指導機能(コンサルティング)より評価・保証機能(アシュアランス)を重視する傾向が強くなっていました。手法的にも会計士の財務諸表監査の一見厳密そうな専門家的評価方法が無批判的に導入されることにも危惧を抱いていました。
内部統制にとって本来重要なのはマルかバツかの判断でなく、プロセスの不断の改善、段階的前進であり、内部監査の主な目的は改善提案であると思ってきました。その意味では、内部監査部門がやっとJ-SOXの負の影響を払拭しつつあるのは誠に喜ばしいと申し上げると、八田教授は呆れられるでしょうか。
投稿: いたさん | 2012年10月19日 (金) 20時42分