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2012年10月29日 (月)

中小規模会社の監査役のための監査環境を考える

先週は日本監査役協会主催の研修会におきまして、監査役さん向けの法律講座「経営執行部の理解をより深めるためのコンプライアンス体制」の講師を務めさせていただきました(23日が福岡、26日が大阪、名古屋は11月)。当ブログで告知させていただいたこともありまして、地元大阪ではほぼ満席となりまして(250名定員のところ223名)、本当にどうもありがとうございました。<m(__)m>「有事対応のための平時の監査環境作り」を中心にお話しさせていただきましたが、なにぶんマニュアルのないところでの試論にすぎない部分も多かったので、咀嚼しにくいところもあったかもしれません。コンプライアンス体制のベストプラクティスや合格点レベルの作り方は、講演で申し上げました通り、各社によって異なります。各社での体制作りのためのヒントにしていただけますと幸いでございます。

さて、九州および大阪での講演終了後、数名の方より同じ質問をいただきました。講演の中では大規模上場会社、グループ企業親会社、中小規模上場会社に分けて、監査役の監査環境の特徴を解説させていただきましたが、「では、中小規模の未上場会社の場合はどうなのか?監査環境作りのうえで特徴はないのか?」といったものです。すいません、ついウッカリ中小規模の未上場会社の監査役さんのための解説を失念しておりました。たいへん申し訳ございませんでした。

私の考えとしましては、基本的には中小規模上場会社の場合と同様だと認識しております。そもそもモニタリングに割くことができる人的資源に限りがありますので、内部統制監査に特化した形での監査には適していないものと考えています。常勤監査役さんがいらっしゃる場合が多いと思いますので、いわゆる「歩き回る監査」(往査中心の監査)を念頭に置かれることが前提となるかと思います。ただし、大規模上場会社のグループ子会社のように、たとえば親会社の執行役員が子会社の非常勤監査役を兼ねている、というようなケースでは、そもそも「歩き回る監査」にも限界があります。したがいまして、そういった組織では、内部統制監査に近い形でリスクアプローチに徹した監査役監査を念頭に置かれることが妥当かと考えられます。

中小規模上場会社の場合、経営トップもしくは親会社の意向が経営判断に強く反映することになります。いわば経営トップもしくは親会社のワンマン的支配によって組織のコンプライアンス体制が特徴付けられますし、モニタリング部門の人数も少ないとあって、なかなか監査環境が整備されにくいものと思われます。したがいまして、そこでの監査環境の整備のレベルは、(レジメにも書きましたように)監査役の法的責任が問われない程度の最低限度のレベルとは何か、法的責任は問われないが、監査役がコンプライアンス体制の不備を指摘すべき「合格点」のレベルとは何か、という点を中心に検討することになります。

ここで注意すべきは、中小規模会社の監査役に参考となるべき判例が存在することです。大原町農協(監事)の監査見逃し責任に関する最高裁判決、そして釧路生協(監事)組合債事件札幌高裁判決などは、いずれも中小の組織の監事(監査役)の責任を認めた事例であります。事例の内容は来年2月~3月の講演会の際に解説いたしますが、こういった事例を通じて、監査役が自浄能力を発揮しなければ、自らの法的責任が問われてしまうレベルというものが見えてきます。ひとつは監査役として(平時の定例的な職務として)法が期待する行動をとらなかった場合の問題点と、不正の兆候に触れた時点から(つまり有事に至った場合)の監査役の懐疑心をもった行動を明確にできなかった場合の問題点があります。どうしても監査役としてノーと言えない状況を打破するためには、こういった判例の傾向を知り、気持ちを後押しさせる必要があります。

また、上記の判例に登場する監事(監査役)の方々は、いずれも法律や会計の知見に乏しい素人の方ばかり、ということも注意すべき点です。「不正の兆候」というものが、法律や会計の専門家でないと判明しないような高いレベルを法は要求していません。誰もが気づいて当然、という程度の「不正の兆候」とは何か?ということも、大切な問題であります。まずは日本監査役協会等の研修に積極的にご参加いただき、このレベル感を認識していただいたうえで、「不正の兆候」を知るための補完(組織に内部監査的業務の責任者を指定することや、仕組み作りの提言を行うこと)に従事していただくことが肝要かと思われます。これらはすべて、経営トップと監査役との信頼関係を維持しつつも、監査役としての職務においてモノを言いやすくするための工夫とお考えいただければ結構でございます。

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