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2012年10月30日 (火)

ホンダ社の「うっかり開示ミス」と内部統制の有効性

(30日午前:追記あります)

The Power of Dreamsのホンダ社が、連結決算短信(および説明資料)を「うっかりミス」によって予定開示時刻よりも大幅に早期に開示してしまい、午後になって株価が急落、同社はこの事態について謝罪されたそうであります(ロイターニュースはこちら)。先日もグーグル社が同様の事故を起こしましたが、グーグル社の場合は、委託先のディスクロージャー専門会社のミスによるものだったそうで、ちょっとホンダ社のケースとは異なるようです。

先週金曜日の日経新聞に掲載いただいた私のコメント(投資・財務面)のとおり、「不正はどこの会社でも起こる」わけでして、ましてや「うっかりミス」は(リスク管理に投下できる資源には限りがありますので)完全に防止できないもの。財務報告に係る内部統制の重要な要素のひとつである「情報と伝達」に問題が指摘されるものの、なかなか100%ミスを予防することはむずかしいかもしれません。

ただ、気になりましたのは(日経新聞ニュースで報じられているとおり)、今回のうっかり開示が約20分間にわたって、同社のホームページ上で閲覧可能な状況にあり、しかもうっかり開示の原因は広報担当者が別の広報記事と間違って掲載してしまった、という点であります(ちなみに同社のHPを確認しましたところ、10月29日にリリースされたニュースは、すべて決算短信に関連するものばかりであり、いったいどの広報記事と間違えて掲載されたのかはわかりませんでした)。

財務報告の開示統制が、広報とは別の部署が担当しているということならまだ理解できるのですが、広報部署が担当しているのであれば、(たとえ別のニュースを掲載したつもりでいたとしても)必ずニュースを開示直後に、きちんとアップされているかどうかを確認するのではないでしょうか?広報担当部署が間違ったことに気付いたそうですが、それでも20分もの間、業績の下方修正に関するお知らせが閲覧可能の状況にあったわけですから、開示直後には何らの確認もなされていなかった可能性が高いと思料されます。個人事業者でも、自社のHPを運営しているところでは、おそらく更新手続きを終了した時点でアップ内容を確認するのが普通だと思いますので、この規模の会社としてはちょっと信じられないところです。(追記:なお、ひろさんからご指摘を受けましたように、HPへの入力はすでに予約機能によって同時刻以前に入力済みだったのかもしれません。確認作業が遅れたという点では同じだとは思いますが)

同社の開示マニュアルには、おそらく開示統制の一環として開示直後の確認作業が盛り込まれているものと思いますので、もしそういった確認手続きが履行されていなかったとすれば、重大な運用上の不備が認められます。もしマニュアルどおりに確認作業を行った末に20分も閲覧可能な状況に置かれていたとすれば、まずマニュアル自体に問題があるか、開示情報訂正のための情報伝達方法に問題があるということになります。

TDNETのような適時開示情報システム上ではなく、同社HP上で情報が早期に公表されてしまったわけですから、投資家サイドからすると「情報入手の公平性」に問題が生じる事態となりました。同社は今回の事故を契機に再発防止策を検討されるそうですが、私としましては、うっかり開示を未然に防止するシステムよりも、この「空白の20分」がなぜ発生したのか、その原因を知りたいところですし、この空白の20分を作らないための再発防止策こそ、同社の内部統制においてもっとも重要なのではないかと思う次第であります。

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コメント

 ホンダのミスは、さりげなく適時開示制度の根幹とも関わるので大問題ですね。うっかりでも開示されたら、その直後に社内の人がインサイダー規制を潜り抜けられちゃうかもしれないわけですから。
 で、原因ですが、ホンダくらいのHPのシステムだと、「何時にこのページの修正版を公開する」といった予約機能があるのではないかと思います。なので、10時半に公開する予定のリリースを当該時刻以前に登録していたのだと思います。で、問題は、予約したページのプレビュー機能があったのかどうか?みたいなシステム的な話なのではないでしょうか。
 事前チェックがされないまま、当日間違ったページが公開され、10時40分くらいになってから、社内の別部署からの問い合わせ等でミスが判明して、あわてて取り消しを行ったというような動きかなと。だとしても、公開時のチェックではなく、予約時のチェックが抜けていたのではないか?ということなので、うっかりミスが免責されるわけではありません。

投稿: ひろ | 2012年10月30日 (火) 10時03分

ひろさん、ご解説ありがとうございます。なるほど、たしかにホンダくらいの会社ですから予約機能は導入されているでしょうね。開示を失念しないためかとおもいますが、そのことが、また新たなリスクを生むとすれば、難しいものですね。

投稿: toshi | 2012年10月30日 (火) 10時37分

私も本件は重大な問題だと思いますね。グーグルの場合は大きく取り上げられましたが、日本でこういった問題を新聞が大きくとりあげないことこそ、日本の市場が成熟しない大きな原因ですよ。ただ、どこかの新聞社だけにリークされてしまうような情報管理のほうがもっと問題ではないかと思いますが。

投稿: nobu | 2012年10月30日 (火) 11時18分

この手のミスは千回か万回に一度は必ず起きる性質のもので、何分後かに修正できただけマシだったと言えるのではないでしょうか。

それよりも、毎回繰り返される
「マスコミ報道→当社が発表したものではございません→報道通りの内容がリリース」
の方がよほど悪質と思います。これを必要悪と言ってしまっていいものかどうか

投稿: icchi | 2012年10月30日 (火) 22時16分

東証での開示前にHPで決算情報を知り、発表前に株取引をしたんですが、これは情報の伝達行為にあたり、インサイダー取引とみなされるのでしょうか?
見解をお聞きできれば幸いです。

投稿: yuu | 2012年11月 3日 (土) 22時50分

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