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2012年10月18日 (木)

企業が自浄能力を発揮すれば第三者委員会の性格も変わる

今年も適時開示におきまして、子会社不正事例が目立つようになりました。たいへん興味深い事例として、すでに こちらのエントリーにて、沖電気工業さんの第三者委員会報告書を「必読」とご紹介しましたが、実は最近、もう一社の調査委員会報告書(要旨がおそらく10月末までに提出される予定)が開示されるのを楽しみにしている事例がございます。

自動車ホースメーカーであるニチリン社(大証二部)が、9月28日に「当社連結子会社の不適切な会計処理について」と題する開示を行っております。沖電気工業社と同様、海外子会社のトップが子会社不正に関与していた、というものでありますが、こちらは外国人経営者ではなく、本社の取締役兼務の子会社トップの方(日本人の方)のようです。

このニチリン社の会計不正事件に対する本社の対応は、まさに自浄能力を発揮して不正を開示した例として、ひとつのモデル事案となるのではないかと感じております。子会社による粉飾の疑惑を本社取締役会が、まず子会社作成に係る月次報告書から察知して、調査を子会社管理部門に指示します。さすがに子会社トップの不祥事ということからでしょうか、この子会社管理部門による調査は有効なものにはならなかったようです。

そこで本社が直接経営トップにヒアリングを行い、子会社の棚卸資産の金額に問題があることを突き止めます。そして(不正調査実務ではここが難しいところですが)、本社の内部監査部門が、子会社に対する定例の内部統制監査を実施すると共に、非定例の重点監査(棚卸資産について在庫抜き取り調査を敢行)を行い、その結果、在庫金額の過大計上の事実を把握するに至ります(ここで証拠化されたものと思われます)。

子会社の経営トップが調査に関与しないところで証拠を固め、その後この経営トップに再度ヒアリングをしたところ、粉飾の事実を認め、過年度の決算にも影響が出る可能性があるために調査委員会を立ち上げた、という経過であります。

さて、9月28日の上記開示内容によりますと、この調査委員会は外部専門家に同社経理担当取締役が加わるというもので、第三者委員会に準じるような構成になっています。通常は日弁連の第三者委員会ガイドラインに準拠して・・・と記載されるところでありますが、あえて「日弁連ガイドラインには準拠しません」と明言されています。その理由として縷々述べられているところですが、一言でいえば「自分で見つけて、自分で調査して、自分で事実を確定できる見込みが高まったから」というもの。つまり、社内調査の結果を検証して、第三者の視点でこれを補完すれば足りる、ということであります。

今年、何度もフォレンジック専門会社さんとタイアップをして、社内調査委員会の在り方についてセミナーを開催させていただきましたが、私も、自浄能力を発揮できる企業であれば、あえて日弁連ガイドラインに準拠した第三者委員会を設置しなくても、社内調査委員会に外部第三者が参加するか、あるいは社内調査委員会の調査結果を外部委員会が検証する、という手法でも十分ではないかと述べてきました。まさに、このニチリン社の不正会計事例は、(純粋な社内調査委員会によるものとはいえませんが)こういった自浄能力を発揮した会計不正事例のベストプラクティスに近いものと思われます。もちろん、今後上記委員会によって事実関係が明らかにされ、そこで予想外の事実が出てくる可能性も否定できませんが、自ら不正を発見してこれを公表することのインセンティブが働く一例になることを願っております。

昨年7月より今年6月までの1年間で、会計不正事件を公表して決算訂正に至った上場会社は39社に上ります。会社の公表内容がどうみても信用できない場合には日弁連ガイドラインに準拠した第三者委員会が設置されるべきですが、自浄能力を発揮して公表に至る経過によっては、社内調査委員会主導による報告書でも企業の信用を維持できる場合があることが示されることに期待しています。

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