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2012年11月19日 (月)

オリンパス損失飛ばし事件と「公表」の時期(金商法21条の2)

11月13日、オリンパス社より海外機関投資家から損害賠償請求に関する訴訟を提起された旨開示されました(当社に対する訴訟の提起に関するお知らせ)。マスコミ各紙で報じられているとおり、総額190億円の請求額ということですから、オリンパス社の経営にも影響が出てきそうな金額です。6月に訴状が提出されたにもかかわらず、今月になって送達されたそうなので、訴状の補正や添付書類の追完、訴訟費用の納付など、原告側も準備がたいへんだったのでしょうね。

私自身、この事件には未だよくわからない点がありまして、たとえば解任騒動の2週間前にウッドフォード氏をCEOに選任した取締役会が、なにゆえ深い議論もなく全員一致で社長解任に同意してしまうのだろう・・・などと考えています。取締役や監査役の責任調査委員会の報告書では、ウッドフォード氏を解任することについて賛同した役員には法的責任はないと認定されていますが、「この人がオリンパスの最高経営責任者にふさわしい」という理由で社長からCEO兼社長に全員一致で選任した取締役会が、そのわずか2週間後に「やはり日本文化に合わない社長だった」という理由で解任される、というのは普通に考えますとありえないわけです。なぜ社外取締役の方々が、どうしてそうなっちゃうの?ちょっとおかしいのでは?と声を上げなかったのか、法規範的にみてもかなり無理があるのではないか、と思ってしまいます。

さて、そういった「未だよくわからない」ことの一つとして、このオリンパス事件における金商法21条の2第2項における「当該虚偽記載等の事実が公表された日」というのは、いったい何時を指すのだろう・・・という疑問があります。この「公表日」の概念は、金商法21条による損害賠償請求を行う株主の範囲を確定するためにも必要なのですが、何時の時点を基準として株主の損害額を推定するか、という判断基準になる点が重要です。公表日を境にして、その前後1カ月の平均株価の差を損害金額と推定することになりますので、原告側としては、株価が急落した時点を「公表日」と主張したくなるのは当然のことであり、被告側はもっと後にずらしたくなる、ということになります。

ではオリンパス事件において虚偽記載が公表された時点は何時か、ということですが、いくつか考えられるところです。主なところは①ウッドフォード氏が解任された時点、②会社自身が損失飛ばしによる会計不正の事実を認めた時点、③第三者委員会が報告書を開示した時点、④正式に有価証券報告書の訂正を公表した時点くらいが問題になるかと思われます。今回の海外機関投資家による損害賠償請求訴訟の中身については、詳しく報じられていないようなので、どこを公表日と捉えているのかは不明ですが、学者の方々の議論や先行する損害賠償請求訴訟での原告(個人株主)側の主張などは、②または③あたりを「公表日」だと解しておられるのではないでしょうか。おそらく今年3月13日に出ましたライブドア損害賠償請求訴訟最高裁判決の考え方からしますと、③あたりの判断になるのが穏当な解釈かと思われます。ちなみに同最高裁判決では、ライブドアの強制捜査直後に、検察による司法記者クラブでの会見が「公表」に該当するとされています。

金商法21条の2第2項の「公表」といえるかどうかを考える場合、誰が、どのような内容を、どのような方法で行ったか、という点が吟味されるわけですが、上記最高裁判決では、これらの吟味にあたり、文理解釈以外には、「この規定は投資家保護の趣旨によって制定されたものなので、投資家保護の見地から判断する」ということで、政策的価値判断を重視して上記のとおり検察の会見を「公表」と解釈しています。ということは、今回のオリンパス事件でも、どの時点が「公表日」に該当するかは、政策的価値判断による解釈というものも成り立つのではないでしょうか。

たとえばウッドフォード氏が解任直後にフィナンシャルタイムスやブルームバーグの取材に応じていますが、当時は代表取締役ではなかったものの、取締役たる地位にはありました。また、代表取締役兼CEOの時代に会社として正式に意見報告を依頼したPwC(プライスウォーターハウスクーパース)による報告書もこの時期に開示しています。この報告書では、専門家として「不適切会計の疑いがある」ことが掲載されており、しかも英社および国内三者の企業買収に絡む法外な買収金額や手数料のことも問題視されています。ということは、この報告書が開示されたことによって、2007年以降の関連会社の「のれん」に計上されている資産が取り消される可能性は公表されていたことになります(現に、オリンパス社側は、10月19日の時点で「PwCは当社の正式な監査法人ではない」と開示して、この報告書の信用性を否定するリリースを出しています)。

ただ問題は、海外メディアへの非公式な取材対応が「公表としての方法」にふさわしいものかどうか、というところです。たしかに国内の投資家からすれば、当時の状況では、オリンパス社の開示情報のほうが正しいと判断する方が多かったはずなので、公表に値するとは言えないと思います。ただ、海外の投資家からすれば、少なくとも数日前まではCEOの立場にあった者が、客観的な第三者による報告書をもってオリンパスの会計不正を推認させる具体的事実を指摘しているわけですから、むしろウッドフォード氏の発言に信ぴょう性を感じるのではないでしょうか。また海外に追い出されたウッドフォード氏が真実を公表する方法が他にも見いだせなかったとすれば、これもできる限りの公表方法ではないかとも思われます。

以上は、あくまでも「可能性」に関するお話です。ウッドフォード解任直後の時期に株価が急落しましたが、これは虚偽記載の可能性が高まったからではなく、日本を代表するレンズ機器メーカーの内紛発生を問題視したからと受け止めるほうが素直かもしれません。オリンパスに対する金商法を根拠とする損害賠償請求訴訟が本格化してきましたが、今後は損害に関する争点や、この「推定規定」に関する争点の議論がさらに尽くされることを期待しています。また、虚偽記載に関する役員の責任が併せて問われているのであれば(これは根拠条文は変わりますが)、「相当の注意の抗弁」がいかなる場合に認められるのか、先日のアーバンコーポレイション事件判決などと共に、コンプライアンスの視点からも注目されるところだと思います。

11月 19, 2012 商事系 |

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