「社外取締役制度」に関する最近の議論と若干の私見(その1)
ご承知のとおり、今年9月に法制審議会にて了承された「会社法制の見直しに関する要綱」(会社法改正要綱)では、上場会社の取締役の一人以上が社外取締役でなければならない、との改正案は見送られることになりました。関係者の利害調整を目的とする会社法に、社外取締役制度の義務化がどのように位置づけられるのか、という「そもそも論」もありますが、特別取締役制度に関する現行会社法の規定からしますと(会社法373条1項)、少なくとも会社法が「社外取締役には経営者および側近の暴走を食い止めるという役割がある」と考えていることは明らかであります(江頭「株式会社法」第4版395頁)。しかし、結局のところ会社法で制度化(強制導入)されなかったことからすれば、個々の会社が社外取締役を選任することは自由であり、また選任するとしても、社外取締役に何を期待するかは個々の企業の立場で判断してよいのではないかと思われます。
以前と比べますと会社法改正要綱が決定されたことで、議論が沈静化したようにも思えるのですが、現状では社外取締役制度を採用する企業が増えているそうです(今年の6月総会を境にして、社外取締役が取締役総数の過半数を超えている東証1部上場企業が29社→39社に増加 日経産業新聞10月17日付けより)。いま、ちょうど6月総会に向けて取締役の人選をされている会社が多いと思いますが、来年に向けてますます社外取締役に選任される方は増加することは間違いないでしょう。
さて、「人選の時期だから」ということでもないかもしれませんが、ここのところ社外取締役の有用性に関する記事を目にすることが多くなりました。たとえば今年、法律雑誌の座談会でご一緒させていただいたオリンパス社の社外監査役である名取弁護士の「社外取締役は不正を暴くことではない(日経ビジネスオンライン)」などは、とても読み応えのあるもので、コーポレートガバナンスがどのような目的のために議論されるべきか、ということにまで踏み込んでおられ、とても参考になります。なお、論稿の最後に、社外取締役制度を導入しない会社がどのように「当社としては、社外取締役を選任しないほうが相当だ」とする理由を開示するのか、とても関心があるとされています。これは私も非常に関心を持つところです。
つぎに日本取締役協会の原氏(大和証券グループ本社名誉顧問)のインタビュー記事「シリーズ日本取締役協会」(サンケイビズ)では、原氏が今回の会社法改正の中で社外取締役の義務付けが見送られたことを「意外であり、非常に残念。日本的ガバナンスの改正がこれほどかと思うと情けない」とされています。証券取引所や証券会社の立場からすると、取引の活性化を促すためにも海外投資家の視線に配慮し、ガバナンス改革を推進すべし、ということになりますから、このような意見が強く発信されることになると思います。キッコーマン社の茂木会長のインタビュー(日経新聞)においても、厳しい競争に勝つにはCEOによる強力なリーダーシップが必要だが、社外取締役はCEOや取締役会が十分に機能しているかどうかをチェックするうえでも不可欠な存在だと述べておられ、リーダーシップと社外取締役制度は両立するものであることを語っておられるところに強い印象を受けました。
さらにJPプレス「日本の企業統治:振り出しに逆戻り」は、元オリンパス社長ウッドフォード氏やBDTI(会社役員育成機構)のベネシュ氏のインタビューなどから、あまりにも日本の企業がガバナンス改革に消極的であり、その消極的な態度から、市場における不信感を増幅させている現状を憂いています。社外取締役制度の義務化が見送られたことは落胆の一言に尽きる、とのこと。ちなみにウッドフォード氏が会長を告発する取締役会に出席し、動議への賛同を求めた際の社外取締役の方々の印象を「まるで教室にいる生徒のようにふるまった」と表現しています。おそらく近々出版される英語版「回想録」の表現ではないかと思います。ちなみにアメリカでも、いまガバナンスに変革の流れが起きているようで、アメリカの上場会社では「モノ言う幹部」が増加し「仲良しクラブ」からの脱却が目立っているそうです。会長と取締役会がCEOの経営を監視する、という新たなスタイルが増えているとのこと(朝日新聞ニュースはこちら)
東京電力をどのように再生していくべきか、ということについて、社外取締役の方々がインタビューに熱く答えておられるところをみますと、やはり過半数が社外取締役というのは一人、二人の場合と比較すると大きく違うなぁとの印象を持ちます。ゼロと一人との違いも大きいわけですが、やはり一人と過半数の違いも、そもそも社外取締役に期待される役割が変わるほどの差になっているように感じます。タイトルに「若干の私見」と偉そうに書いたわりには、ここまで自説めいたものは何も書いておりませんが(スミマセン・・・)、義務化が見送られたこと、また上記のような最近の議論などを踏まえて、(その2)においては若干の私見を述べたいと思います。
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コメント
私は、「株式取引の活性化を促すためにも海外投資家の視線に配慮し、ガバナンス改革を推進すべし」と考えておりますが、これは、「証券取引所や証券会社の立場」だけではなく、日本経済の活性化を求める立場からの見解だからと思っております。ですから、上場会社には、「日本経済の活性化に協力」と「自社のガバナンスの向上(緊張感と十分な説明のある取締役会等)」という一石二鳥の独立社外取締役導入と考えて欲しいなと思います。
「上場会社」ということで、日本では、資金調達手法の確保だけでなく、企業としての信用や人材確保等のメリットを得ている訳ですから、その分、自分の会社のこと(部外者に経営に口出しされたくないという個人的理由(?))だけでなく、日本全体のことも考えて欲しいとおもいます。日本経済全体が活性化すれば、自分の会社の経営にもよい影響があるでしょうから。
投稿: Kazu | 2012年11月 9日 (金) 11時37分
めちゃくちゃ我流の意見を。
社外役員(取締役も監査役も)に対して全く期待を寄せていないので、個人的には、投資家目線を気にして導入するなら、会社法を弄るのはよして、上場企業のみに適用する(上場規則で対応)か、せいぜい有報提出会社に限定する(法体系を無視するなら金商法?)ぐらいで、お願いしたいですね。
個人的には、厳密に取締役と執行役の分離を行わない限り、社外役員がいくらいても難しいと思っています。
社内の事情に疎くてもだめ、かといって社内に牽制できる間合いがなくてはダメ。
社外役員は「単なる社内事情に疎い、丸めこみやすい人」となり下がる気がしてなりません。そして、従業員がやろうと思えば、それは容易だと思います。勿論、やる気があって、それなりの能力があれば、そう容易く丸めこまれないというのも分かりますが、それだけの有能な人がどれだけいるのか。
スーパーマンを前提とした制度は、崩壊するだけではないかと思います。
海外の社外役員がワークしているのは、社外役員だからではなく、経営と執行の分離が徹底していることがワークしているだけで、社外であるかどうか、ではないと思っています。
投稿: 場末のコンプライアンス | 2012年11月 9日 (金) 15時54分
ご意見ありがとうございます。私は8年間の経験から、うまく機能すれば社外役員制度は十分に機能するものと考えています。スーパーマンが必要なのではなくて、社内役員と社外役員との相互理解ですね。社長は社外役員をうまく活用しなければ会社に有用性はないのです。また、社外役員もどうすれば会社の成果を上げることに寄与できるかを考えないと役に立てないです。社外役員は社内のことに精通していないので、ベクトルの大きさには寄与できないかもしれません。しかしベクトルの方向が間違っていないかどうかは、社内の常識にとらわれている社内役員には精査できません。会社の日々の業務に役立つ社外役員など必要ありません。将来を左右するビジネスモデルの「機会」や「リスク」を知るための選択肢こそ、社外役員には求められています。そのあたりの理解が必要ではないかと。
投稿: toshi | 2012年11月12日 (月) 01時14分
法制化は見送られたものの、東証が何等かのルールを検討中とも聞いております。いたずらに社外取締役の選任を避けるよりも社外取締役の有効活用を考えることも必要かと。
弊社では3年前に同じ業界の大企業(資本関係はありません)を退職した経営経験のある人材を社外取締役に迎えました。この取締役がとにかくよく働く。頼まれてもいないのに、それが使命とばかりに、週に3日程度出社して、社内各部署を歩き回り、夕方からは社員とノミニケーション?を図るなど、社内状況の掌握に努め、経営陣に対して適切なアドバイスを与える、といったことで、社外取締役のイメージを一変させてしまいました。
この社外取締役は、執行取締役の監督は勿論のこと、経営指導?まで積極的に行い、それが的を得ていたこともあって経営陣はもとより一般従業員の信頼を勝ち得てしまいました。まさに、素晴らしくコストパフォーマンスの良い社外取締役と言えましょう。こういう人材は稀有で、たまたまこの様な人材に恵まれた弊社はラッキーだったといえばそれまでかもしれませんが、積極的に人材を探せばまだまだ理想的?な社外取締役候補は沢山おられるのではないかと思います。ちなみに、この社外取締役ですが、経営陣から乞われて今年の株主総会で執行取締役に選任されました。
投稿: チャック | 2012年11月14日 (水) 10時12分