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2012年11月 5日 (月)

医薬品登録販売者の虚偽証明は西友だけなのだろうか?

行政規制の手法が事前規制から事後規制へと重心が移行することにより、どのような影響が国民生活に及ぶのか・・・ということを考えさせられる事件が続きました。ひとつは田中文科相による大学設置不認可問題であり、もうひとつは大手スーパー西友さんにおける医薬品登録販売者の資格取得のための虚偽証明書発行問題です(たとえば中国新聞ニュースはこちら)。事前規制の緩和により、医薬品登録販売者なる資格が誕生したことに起因する不祥事です。大学設置不認可問題は、まさに事前規制(審議会手続きにおける準則主義への移行)と事後規制(第三者認証制度の活用)とのバランスをいかに認可判断のうえで考慮すべきか、という問題でありますが、本日は西友さんの問題を取り上げたいと思います。

一般用医薬品指定の95%を占める大衆医薬品販売につきましては、2006年の薬事法改正により、薬剤師さんがいなくても登録販売員の方が常時店舗販売に従事していることで可能となりました(規制緩和)。そこで大手スーパーなどでも店舗展開戦略がさかんになりましたが、その登録販売者の受験資格として、薬剤師の下での1年間の販売実務経験等が求められています。西友さんでは、この実務経験の証明書を、所定の実務経験のない社員に対しても、実務経験があったものとして内容虚偽の証明書を発行していた、とのことです。すでに200名以上の社員の受験において虚偽証明書が発行されているそうで、現在も社内で調査中とのこと。

新聞報道によりますと、今年8月に匿名情報が厚労省に寄せられ、これを契機に行政の調査が開始されたそうです。こういった不正は情報提供(おそらく内部告発)によって明るみになってしまうわけですから、やはり不正はなかなか隠し通すことがむずかしい時代になったと思います。西友さんによると「各店舗の販売責任者の認識にズレがあった」と述べておられますが、全国の各店舗で同様の虚偽証明書が使われているので、一人や二人の販売責任者の認識問題では済まないものと推測されます。

これほどまでに全国規模で不正な証明書が作られていたわけですから、たとえ組織トップが認識していなかったとしても、多くの現場管理責任者が不正な行為だと認識していたはずであります。しかし、現場において「バレたら新聞ネタになるから、みんな黙っとけよ」といった意識があったのでしょうか。西友さんの疑惑の受験者自体が200名を超えるほどなので(つまり受験者自身も疑惑を知っているはずなので、不正が発覚する可能性は高いわけですから)、そもそもバレたらたいへん、という意識がなかったのではないかと。むしろ現場の管理責任者からしますと、それほど悪気があって行っていたものとは、どうも思えません。むしろ、法令違反とは承知していても、なにか自分の行動を正当化してしまう事実が存在していたのではないでしょうか。「こんなもん、自己申告なんだから」といった軽い気持ちもあったと思いますが、一番リアルに考えられる正当化理由は、「ほかのスーパーやディスカウントショップでも同じようなことをやっているではないか。これくらいやらないと、店舗拡大戦略のうえで他の大手小売りに負けてしまうし、第一、商品を販売できる者が少なくなり、顧客の皆様にご迷惑をかけてしまうではないか」といったところではないかと思います。

西友さんが、経営トップからして故意的に不正証明を推奨していたとすれば問題外でありますが、このコンプライアンス経営のご時世、おそらくそんなことはありえないと思いますので、やはり現場管理責任者の「ほかの企業だって、普通にやっていたではないか」という正当化理由が大きいのではないかと推測いたします。ただ、この正当化理由が本当だとしても、社内調査の結果を公表する段階で正直に公表できるかどうかは未知数です。具体的にどこの大手小売業者がやっていた、と特定の企業名を公表することは差し控えたいでしょうし、そんなことを公表すると自社の社会的評価をかえって低下させてしまう可能性があります。ということは、社内の誰かが営業戦略を実行することに熱心なあまり、ついつい悪いことだと承知しつつ、不正を犯してしまった、と調査結果で述べることになりそうです。当ブログでも何度か「他社をかばうコンプライアンス」というテーマで取り上げたことがありますが、こういったところにも真実をきちんと公表できない企業の悩みが伺えるところです。

ただ、BtoCの典型である西友さんにとって、「消費者の生命、身体の安全を軽視する企業姿勢」は大きな問題だと世間から受け止められるわけでして、どこまで自浄能力を発揮して社内調査を誠実に行うのか、これからの課題になりそうです。おそらく、こういった不祥事が表沙汰になっても、社内では「有事の感覚」の方と「まだまだ平時の感覚」の方に意識が分かれているのではないかと想像いたします。

11月 5, 2012 未完成にひとしいエントリー記事 |

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コメント

 この事件においても、「社会から期待されていることは何か?」を考える姿勢の欠如が見受けられるように思います。経営者の意向または自分の利益ばかりに重きを置き、企業の社会的責任を軽視しています。

 経営トップは、たとえこのような事態を知らなかったとしても(知っていたら論外ですが)、現場管理者が企業倫理やCSRに反する行動を大規模に展開することを可能にしたという責任は免れないはずです。

 会社や自己の利益を追求するなとは申しませんが、それを消費者の生命・身体の安全に優先させるというのは、消費者からみれば許せないことです。まずは西友の経営トップがCSRとは何かを見直し、それを社内に浸透させることを願います。

投稿: せしりあ | 2012年11月 5日 (月) 02時06分

西友のある店舗のOTC売り場の者です。
今回の西友の事件はおっしゃる通り他店、すなわちスーパー以外にもドラッグストアーや調剤薬局でも普通に行われていた事です。ドラッグストアーの化粧品担当者で薬に関しては一切接客応対していなくても実務経験証明を出していたり、調剤薬局の会計事務をしている方や、受付の方、ましては調剤薬局は小さい所だとOTCの薬の種類が5種類ぐらいの店舗もありますからそれを販売実績と呼べるのかどうかも疑問です。結局は西友は見せしめとしてのエスケープゴートだったのでしょう。ただし、当たり前ですが、西友の店舗の中にも真面目にコンプライアンスを守り一生懸命仕事をしているOTC売り場がある事も忘れないでください。
それと、OTC販売に関してはそれ以上に問題なのに表面に現れていない配置販売業界の事をもっと取り上げてください。この業界に関しては、薬事法改正後も無資格のまま第二類、三類の販売が無期限で認められ、薬のくの字もわからない素人が説明をして歩いているんです。
私は以前この業界に長年従事してそのいい加減さに嫌気がさし登録販売者と言う資格を取り今の職場に転職しました。
ぜひ、この不公平な問題を表に出してください!

投稿: モニカのパパ | 2012年11月 5日 (月) 06時51分

西友の事件については、コンプライアンスの見地のみならず、やはり制度としての問題点を考えてしまいます。

実行不可能ではないが、合理性の薄い手間を要するルールを社内で決めたとします。おそらく、多くの社員は、上層部の決定だからと従う。しかし、時間が経過し、そのルールは実質的に守られなくなることがあると思います。

西友の事件を考えると、閉店時間の遅い店舗や24時間営業だってあると思うのです。薬剤師や登録販売者が不在で、パート従業員のみでも、第二類、三類の販売を継続するのが実情だと推測します。ドラッグストアからすると、お客さんの要望があるので応じますとなるし、他店との競争を考えれば、登録販売者の資格を厳密に守るのかになると思うのです。

薬事法36条の3の区分を現在の第二類を削除して、第一類と第三類のみとし、第三類は登録販売者に加えて一般販売員も販売できるようにすればどうであろうかと思うのです。

第三類は、ビタミンB・C含有保健薬、主な整腸薬、消化薬等で日常生活に支障を来す程度ではないが、身体の変調・不調が起こるおそれがある成分を含むものが、厚生労働省の説明ですから。やはり、自分が服用する薬なので、ある程度の自己責任があってもやむを得ないと考えます。

投稿: ある経営コンサルタント | 2012年11月 5日 (月) 15時14分

皆様、ご意見ありがとうございます。コメントを読ませていただき、かなり理解が深まりました。モニカのパパさんのコメントで、現場の雰囲気も少しですが認識できました。ということで、この話題につきましては、コメントだけでなく、メールも頂戴しているものもあり、続編を書かせていただきたいと思います。

投稿: toshi | 2012年11月 6日 (火) 02時59分

立法事実があやふやなまま、他の要因によって規制をかけるとこうなる、というような見本の事例に思えます。

そもそも医薬品登録販売者による販売自体が、妥協の産物だからというところが、そもそもの発端であるように思えます。
だからこそ、現場レベルでの必要性が浸透しないし、あいつもやっているから、論が蔓延る原因にもなっているかと思います。

勿論、悪法とはいえ法は法、明らかに無効といえない法であれば、遵守するのは当然ですが、こういうケースは「法」というものの信頼を長期的に損なう立法例だと思う次第です。

投稿: 場末のコンプライアンス | 2012年11月 6日 (火) 13時56分

このエントリーにおいても、また大学設置認可問題においても本日、動きがありましたね。今夜はちょっと本業が忙しいのでブログの更新ができそうにもないので、明日の夜にでも、どっちかのエントリーの続編を書きたいと思います。医薬品登録販売者制度というのは、場末のコンプライアンスさんが言われるとおり「妥協の産物」なのです。医薬品を新たに売りたい業界と、既存の業界の厳しいつばぜり合いですね。やはり競争あるところにコンプライアンス問題あり、ということです。

投稿: toshi | 2012年11月 6日 (火) 14時07分

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