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2012年12月27日 (木)

2012年のブログを振り返っての総括とご挨拶

当ブログへお越しの皆様、本年もご愛顧いただき、ありがとうございました。おかげさまで、今年も炎上することなく一年ブログを書き続けることができました。<m(__)m>昨年はブログの問題発言等で(当事者のクレームをもとに)エントリーを3回抹消しましたが、今年はどうやら1回だけで済みそうです(コメントをいただいてからエントリーを抹消する、というのもたいへん気が引けるのですが)。

当ブログをRSS登録されていらっしゃる方ならばおわかりかと思いますが、今年1年、当ブログをご愛読いただいている方の数は、昨年とほぼ同じであり、増えてもいなければ減ってもいないというところです。ブログという媒体がFB(フェイスブック)ほかのSNSに押され気味のようですから、今後も読者数が急激に増える、ということはなさそうですが、もう少しだけ、このスタイルで続けていこうかな、と考えています。

本業のほうがずいぶんと忙しくなり、東京や名古屋での深夜・早朝の打ち合わせというのも増えてきましたので、来年はもう少しエントリー数も減りそうです。ただその分、良質の情報や意見を「第一次情報として」お届けできるよう、工夫していきたいと思います。アコーディア紛争、不正リスク対応監査基準問題はじめ、いくつかの話題は積み残していますし、コメントにも十分にお返事していないのが心残りではありますが、来年への宿題とさせていただきます。

第一法規さんの会社法務A2Zの2013年1月号に、2013年の企業法務の展望ということで論稿を掲載いただきました。当ブログの(来年における)関心も、そこに書いたものとほぼ同じなので、またご興味がございましたら書店等でお買い求めいただき、ご一読いただけましたら幸いです。またビジネスロージャーナルの最新号におきましても、2012年のお勧め雑誌記事として、国広先生、名取先生と対談させていただいた中央経済社さんの「ビジネス法務」の連載記事が取り上げられておりました。弁護士が社外役員に就任することの現実的な厳しさを私自身も教えていただき、両先生にはたいへん感謝しております。今年の楽しい思い出です。

年末のこれからの数日間は、新刊書の最終原稿チェック、そしてお手紙やメールを頂戴している方々へのお返事書きで過ごしますので、今年はこれでブログ更新は最後です。来年もリアルの世界でたくさんの出会いがありそうです。そこで感じたこと、教わったこと、疑問に思ったことを(守秘義務に反しない範囲で)ブログをお読みの皆様と共感できれば、と思っています。来年もどうかよろしくお願いします。皆様良いお年をお迎えくださいませ。

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2012年12月25日 (火)

企業不正の調査実務(内部統制では語れないもの)

Fuseichosa002いよいよ年末の慌ただしい季節となりました。今年は金融機関が28日まで、ということなので、クリスマス(25日)といっても、もはやそれどころではない方も多いのではないでしょうか。私の事務所も、復興特別所得税の関係で(弁護士も事務職も)顧問料や報酬請求の計算の準備に忙しくしています。関係者の皆様方には、いろいろなご案内がいくと思いますが、どうか宜しくお願いいたします。

今年も企業不正事件が発覚した際の不正調査の話題は多かったように思います。不正調査の際に調査報告書が公表されますが、今年も興味深いものがいくつかございます。一般の企業の皆様、そして不正調査に関わる弁護士、会計士の方々にとって、たいへん有益ではないかと思えるものとしては、会計不正事件としては①沖電気工業さんの第三者委員会報告書、②ニチリンさんの第三者委員会報告書(ただし内容が少しわかりにくい、とのお声がチラホラ・・・)、また業務不正事件としては③ファーストサーバさんのデータ消失事件に関する第三者委員会報告書、④SMBC日興証券さんのインサイダー事件に関する報告書が秀逸かと思います(いずれもネット上からPDFにて閲覧可能です)。その他にも有益な調査報告書が公表されていたかもしれませんが、私もすべてを把握しきれていないので、またご存じの方がいらっしゃいましたらお教えいただければ幸いです。

設立7年目にして遂に会員数が1000名を超えたACFE JAPAN(日本公認不正検査士協会)ですが、東京でも大阪でも危機対応等を取扱分野とされている弁護士の方々が今年も試験に合格されました。問い合わせを受ける件数も増えておりますので、協会理事のひとりとしてたいへんうれしく思います。本日ご紹介する新刊書「企業不正の調査実務」(株式会社KPMG-FASフォレンジック部門 著 中央経済社 3,800円+消費税)も、CFE(公認不正検査士)のメンバーの方々が中心となって書き下ろされたものです。(ちなみに、上記沖電気工業の第三者委員会のメンバーの方もCFEの資格保有者です)。本書を執筆された会計士の方々は、実際に日本企業の海外子会社の不正調査(たとえば現地の経営トップの不正関与事件)に従事しておりますので、まさに現場調査に精通された方による実務書となっています。

内容は会計士の方々が執筆したものなので、会計不正事件関連の実務解説が多いのですが、FCPA(海外公務員への賄賂供与)やM&Aデューデリ時における調査などにも言及されています。社内調査のノウハウを磨きたいとお考えの企業担当者の皆様、巷で最近関心の高い「フォレンジック(デジタル調査やE-ディスカバリー対応)」にご関心のある方々、そして不正調査の分野に関心をお持ちの弁護士・会計士の皆様に、ぜひともお読みいただきたい一冊です。不正の手口、不正の端緒の把握、不正への初動対応、実際の調査技法、そして調査終了後の事後処理方法などが、最新の動向も含めて(わかりやすく)解説されています。

これは個人的な好みの問題ですが、私はなんといってもKPMG-FASさんの「お家芸」ともいうべきCAAT(Computer Assisted Audit Techniques)技法に関する解説が一番の興味対象です(つい先日も、関西のCFE研究会において、あずさ監査法人さんの不正対応部門の方にCAAT技法を具体的にご解説いただいたところです)。企業のコンピュータ内に存在する文書を統計的手法によって調査を進めて、不正の端緒を見つけたり、不正の起きやすい部署を特定する手法です。企業不正と内部統制といえば、一般のイメージとして「ガチガチの現場統制によって不正を防止するのはいいけれど、その分、現場は疲弊するし、作業効率も悪くなるのでは」と思われがちです。たしかに不正が発生する確率は極めて低いにもかかわらず、職務分掌、ダブルチェック、ローテーション制度など人的にも物的にも多くのコストをかけることには、費用対効果の面において批判を受けることもあります。

しかしCAATのように、合理的な手段で不正の起きそうな場所を特定する、起きてしまったミスを不正なのか誤謬なのか早期に判定する、仮に不正が起きたのであれば早期に影響範囲を特定する、といった手法を採用するのであれば、それは現場の作業効率を最大限度認めたうえで、おかしなところがあれば対応する、というものなので、内部統制の限界や短所を補完するものとして「スグレもの」ではないかと思います。不正への対応は内部統制によるだけでなく、こういった不正の早期発見を念頭に置いた不正調査技法にも光があてられるべきだと思います。このCAAT技法は、デジタルフォレンジックの一手法ですが、単純にどこの企業にも通用するようなマニュアルがあるのではなく、各企業ごとに調整が必要な技法なので、社内調査の手法を企業担当者が学ぶ機会にもなります。また、こういった手法で不正調査が奏功しますと、「この会社は悪いことをしてもすぐバレる」といったイメージが社内に徹底しますので、不正の要因たる「機会」を喪失させることにもつながります。

海外子会社の不正について秘密裏に調査を敢行した事例なども紹介されていますが、海外諸国のプライバシー権保護の状況によっては調査自体が新たな不正やリーガルコストを生む可能性もあるため、どうしても現地の弁護士の支援を受けなければならない現実があるようです。たしかに、不正調査に100点満点はない「現実」も教えてくれます。この分野にご関心がある方には、ぜひともお読みいただきたい一冊です。

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2012年12月21日 (金)

三菱自動車をリコールへと導いたもの-内部通報制度の威力

すでにマスコミ各紙で報じられているとおり、三菱自動車さんはリコールの届出において不適切な対応があったとして国交省から厳重注意を受けたそうです(なお、国交省のリリース内容を報じる物流ニュースこちら)。同社は2000年に「リコール隠し」によって企業の信用が地に落ちたことがありましたが、今回の不祥事発覚によって「企業体質が変わっていない」と批判されています。

今回の件については、2005年の時点において「事実と異なる報告を行っていた」という点についても厳重注意の対象になっていますので、「リコールに消極的だった」ことにつき情状酌量の余地もなく、企業体質が批判されることは当然かと思います。ただ、上記国交省のリリースによりますと、「リコールの届出が不適切だ」とする内部通報が三菱自動車内に届き、この通報への対応として「こういった社内での通報があった」と国交省に報告をしている点においては「リコール隠し」とまでは認められないように思います。報告を受けた国交省はリコールが適切であったかどうか、自浄能力を発揮して再調査せよ、と三菱自動車さんに指導した結果、同社は(自浄能力発揮の手段として)外部調査委員会を設置して、リコールが不適切であったことを認めた(更なるリコールを届出た)というのが経緯のようです。

この自浄能力発揮の経緯は、最近の内部通報制度の効用の典型的なパターンです。不祥事を知らせる内部通報が社内に届いた場合、この通報を無視したり、通報による調査がずさんだったりしますと、今後は外部通報(内部告発)に向かいます。つまり内部通報者は国交省に対して不正を知らせる可能性が高いわけで、そうなりますと(たとえ隠す意図がなかったとしても)世間一般からは「リコール隠し」があったと評価されることになり、企業にとっては致命的な打撃となります。

昨年(2011年)1月、田辺三菱製薬さんでは、関連子会社において注射剤の品質検査を怠ったままこれを販売していた、という不祥事が発覚しました。この不祥事はマスコミの取材を起因として第三者委員会を設置して、その結果、不祥事を認めることになりましたが、それ以前に内部通報がありました。その内部通報に対しては、親会社である同社が十分な調査をしないままに「不祥事は確認されなかった」との結果を示し、そのままうやむやになっていたところ、マスコミに内部告発がなされたのです。結局、世間からは「また不祥事を隠していたのか」と受け取られ、その後、業界団体から同社が脱退を余儀なくされました(なお、すでに同社は業界団体に再加盟しておられます)。三菱自動車さんも、この田辺三菱製薬さんの事例のような対応だけは避けたい、との気持ちが強かったのではないでしょうか。

企業にヘルプラインがあたりまえに設置されるようになったために、不祥事が発生した場合には自浄能力を発揮するのが当然と思われるようになりました。これを逆から考えますと、内部通報に対してこれを放置していると、後日「不祥事を知りながら隠していた」との評価を受けやすくなったことを示しています。したがいまして、今回の三菱自動車さんのように、「内部通報を受領した場合には、ともかく内部通報が内部告発に変わる前に、なんとか自社で対応しなければならない」という傾向が強くなってくるのです。これが近時における内部通報制度の威力です。

「わざとリコールの範囲を限定的に報告していたのではないか」といった疑問もわくところですが、正確なことは今後の国交省の立ち入り調査等の結果をみなければわかりません。ただ、リコール対応の支援を行った経験からしますと、今回問題となっている「対象車種の範囲」や「対象時期の範囲」というのは合理的な判断によって確定することがとても困難なのです。企業にとってリコールには多大な費用負担が生じますので、どうしてもリコールの対象範囲を狭く解しがちになります。そこで、なぜそのように狭く解したのか、外部第三者に説明がつくような理屈が必要になります。ここがあいまいですと、今回のように社内の関係者からも「対象範囲の限定理由が合理的ではないのでは」と疑問の声が上がります。こういったことからしても、恣意的にリコールを隠していたというよりも、リコールに対する審査が甘かった、というのが本当のところではないか、と推測しています。

本件は、ヘルプライン(内部通報制度)の運用をひとつ間違えると、一次不祥事で止まるはずだったものが、二次不祥事に発展してしまう典型的な事例です。他社でも十分に起きるリスクを内包している事例ではないかと思われます。

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2012年12月20日 (木)

「監査役の乱」ならぬ「監査役の権限濫用」?

来年早々にも出版予定の新刊書の原稿チェックに追われておりまして、あまりブログを更新する時間もないまま過ごしております。お寄せいただいている常連の皆様のコメントにも満足にご回答できず誠に申し訳ございません<m(__)m>。年末年始も原稿チェックが続きそうなので、もうしばらくお待ちいただければ幸いです。

(さてここから本題になりますが)3年ほど前、監査役が経営執行部と対立し、会社法上の監督権限を行使する企業紛争事例が目立ちました。当ブログでも、そういった事例をご紹介するたびに「監査役の乱」といったフレーズを用いて、マスコミや法務関係者の方々にも(そこそこ)ウケていたことを記憶しています。

ところが最近は「監査役の乱」というよりも、「監査役の権限濫用」といったほうがよいのではないか・・・と考えられる問題も発生していることが報じられています。本日(12月19日)にTDNETでリリースされておりますダイヤ通商さんの「不正調査委員会の終了に関するお知らせ」を読みますと、元監査役の善管注意義務違反の有無が委員会の調査対象となっていたようです。結論としては大株主と会社側が和解的解決を図ることができたため、調査委員会を続行する意味がなくなり、当該元監査役さんの職務執行の法的責任の有無は判断されずじまいになりました。ただし、同調査委員会からは「監査役は党派的な行動を慎み、特定の株主ではなく、株主共同利益の観点から、その職務を執行しなければならない」とのコメントが出されています。

この元監査役の方は、調査委員会設置に関するお知らせを読みますと、取締役会等に何等の報告もなく営業活動を行ったり、社内ルールに従わずに自社株式を市場で売却していたことが、そもそも監査役の職務として善管注意義務違反にあたるかどうか、が問題となっていたようです。大株主からの推薦で社外監査役として選任されていましたので、おそらく大株主の利益になる行動が目立っていたものと思われます。

実は同様の監査役の行動については、私自身も「噂」として耳に入ることもありますし、また最近発売された金融法務事情1958号の巻頭でも「監査役制度への過度の期待は禁物」とのテーマで、某著名な弁護士の方が、類似の「監査役リスク」を紹介されておられます。監査役の持つ監査権限は会社法の度重なる改正によって強大なものになっています(ただ、現実にはなかなか行使されないというだけのことでして)。もし、この監査役の目が取締役にではなく、大株主に向いている、ということになりますと、時として大株主の利益を最優先するために強大な権限が行使される、ということも十分に考えられるところです。たとえ権限が行使される、というほどのことでなくても、監査役であるがゆえに優先的に入手しえたビジネス情報を、大株主側に有利に活用してしまう、ということもありえます(これは監査役の忠実義務違反?)。

このたびの会社法改正の話題のなかで、親会社監査役が子会社の社外監査役に就任できなくなる、といったことが実務上で大きな影響を及ぼすものとされています。親会社の監査役であれば独立性に問題がないのだから、子会社の社外監査役に就任してもよいのでは・・・とも思えるのですが、いくら独立性があるとしても、親会社出身の社外監査役であれば、やはり親会社の利益を優先して子会社の監査活動を行ってしまうのではないか、との危惧が残りますので、そのあたりが「親会社監査役もダメ」となった趣旨ではないかと思われます。

もちろん監査役は非業務執行役員たる立場にありますので、自ら会社の業務執行に勤しむというのは監査役の権限の枠内では収まりきれない行動です。自らの権限行使に付随した職務執行であれば問題がないのですが、そもそもすべての株主の共同利益のために行動すべきなのですから、出身母体に有利な取引を画策する、ということになると善管注意義務に反する行動に該当することも十分に考えらると思います。問題は、だれがこういった監査役の権限濫用行動に待ったをかけることができるか、ということころかと。取締役の違法行為については監査役が指摘する立場にありますが、監査役が善管注意義務に反するおそれのある行動に出ている場合、仲間である監査役からの指摘がないと口に出して問題化する、ということがむずかしいのかもしれません。

監査役の権限が強化され、また実際にモノ言う監査役さんが増えれば増えるほど、今度は当該権限を「濫用」してしまう悩ましい事案も増えてくるようです。他にも同様の事案があれば、また過去に振り返って検証してみたいと思っています。

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2012年12月18日 (火)

自民党政権下での会社法制・会計制度改革(あくまでも個人的予測)

以下で述べることは、すべて私の独断的な推測によるものなのでご注意ください。

自民党のマニュフェストの中には、企業法務に関わる項目がいくつか散見されますが、当ブログの関心事項との関係ではマニュフェスト192項(企業統治改革の推進)が注目されるところです。

社外取締役の要件厳格化、上場会社における複数独立取締役選任義務の明確化、会計監査人選任における監査役・独立取締役のあり方の見直し、公益通報制度の実効化、親子会社規制等に関する規律の法制化、監査法人・公認会計士制度の見直し、違法行為についての刑罰厳格化と「過去は問わない」一定期の自首による免責などを検討し、企業統治改革を推進します。

とのこと。安倍総裁の下での商法、会計制度改革マニュフェストといえば、愛媛1区でぶっちぎり当選を果たされた塩崎元官房長官の提言が中心になっていると思われます(これはたぶん間違いないでしょう)。当ブログでも過去にご紹介したとおり、平成17年改正会社法制定にあたっては、塩崎氏が委員長を務める自民党商法委員会によって、法制審議会での十分な審議を飛び越えて、(会社法現代化の中間試案には全く存在しなかった)大会社における内部統制の取締役会における決議・開示義務が会社法に盛り込まれました。なお、そのときに自民党小委員会が「併せて会社法改正に盛り込むべき」とされていた「取引先等関係者も認めない社外取締役・社外監査役の要件厳格化」および「監査役のなかに財務会計的知見を有する者を一人以上導入」という提案は、「とりあえず様子をみる」ということで見送られました。

もちろん今回の会社法改正案はすでに要綱化されていますので、政権交代によって大きく変わることはないと思います。しかし、上場会社を対象とするルールの改正としては、企業行動規範を含む取引所ルールの改正や金融商品取引法、公認会計士法改正等でも、ガバナンス改革が実質的には可能になりますので、現実的な企業統治改革が進むことも考えられます。

なかでも「複数独立取締役選任義務の明確化」や「社外取締役の要件厳格化」といったあたりは、(経済界の猛烈な反対が予想される中で)どのように実現を図るのか関心がありますし、最近の塩崎さんのインタビュー記事などでも「会計士処分の厳罰化は、公認会計士法改正で対応可能であり、むしろ会計士の地位を高める」といったご発言は、上記マニュフェストのなかにも片りんが窺われるところです。いっぽうIFRS(国際会計基準)の導入については、塩崎さんは極めて積極的な発言をされていましたので、導入推進派の方々には自民党の手腕に期待されている向きもあるかもしれません(このあたりはあくまでも個人的意見ですが・・・)。

マニュフェストの実現には優先順位があると思いますので、自民党政権下でどこまで企業統治改革がなされるかは、様々な政治力学に左右されるところかと。ただ、いずれにせよ掲げられたテーマについてはいずれも私自身がとても関心を持つものばかりであり、マニュフェスト193項で掲げられている「健全な資本市場構築に向けた諸策」とともに、政治力がどこまで発揮されるのか注目したいと思います。

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2012年12月17日 (月)

弁護士自治からみた自由職業人としての会計士の姿

自民・公明連立で圧倒的多数(320議席以上)を確保する状況となりました。このブログでは政治の話はしないことに決めていますが、本日は少しばかり民主主義に関わるテーマに触れておきたいと思います。

先週水曜日(12月12日)、大阪弁護士会において会員向けの研修講師を務めました。ときどき当ブログでもご紹介する金融庁の「LEON風ちょい●おやじ」ことS検査局審議官とのコラボ、ということで、私自身も楽しく勉強させていただきました。S審議官はCPAAOB(公認会計士・監査審査会)の事務局長を兼任されていることもあり、講演のなかでも、時折「最近の監査法人は・・・」「会計士協会は・・・」というお話が飛び出してきます。具体的なことをここで引用しますと、また差し障りがありそうなので申しませんが、やはり自治権に慣れている弁護士の立場からしますと、「監督される行政当局がある・・・ということのは、ずいぶんとやりにくいだろうなあ・・・」と改めて認識いたしました。

しかし「弁護士自治」といいましても、安閑としていられない状況になっています。EU諸国では、すでに弁護士自治が政府によって制限されているところもあるとか。弁護士の数が多くなりますと、経済的に困窮してくる弁護士も出てきます。そうなりますと「強制加入団体」ということが成り立たず、政府の保護規制も必要になるのではないか、との意見も強く主張されるようになります。また、まじめな話ですが、弁護士自治が制約を受けないためには、やはり健全な民主主義(多数決原理)の土壌を支える少数者保護、消費者を含めた弱者保護、平等権確保で力を発揮することが大前提になります。法治行政の世界では、立法による規制が中心になりますので、どうしても多数決原理が働いて少数者の人権がないがしろにされてしまいます。そこが切り捨てられてしまいますと、もはや多数決主義の基盤がなくなってしまうわけで、ここにどうしても弁護士の自由職業人たる活動が不可欠です。今後、弁護士自治が守られるかどうかは、少数者保護、弱者救済、人権の平等のためにどれだけ弁護士が熱心になれるか、というところにかかっているのではないでしょうか。議員定数違憲訴訟を熱心に推進することも、これが民主主義の根幹に関わる問題だからこそ熱心になるわけです。今回の衆議院議員選挙においても、弁護士グループの方々が手続きの差し止めを申し立てましたが、差止めの可能性は別として、行動自体はとても有意義なものだと思います。

さて、公認会計士の方々からみると、この弁護士自治というものがうやらましく感じることもあるかもしれません。弁護士自治が「弱者保護」に正当性を求めるところと同じように、会計士の自由職業人たる地位を確保するためには、一般株主・投資家保護というところに正当性が認められる必要があります。常に投資家・株主のために会計監査制度を維持していることが外から見えなければならないでしょうし、自らの信用維持のために懲戒権限などもきちんと行使される必要が出てきます。このあたりの自立性が見えなければ、監督官庁による締め付けが厳しくなってきます。12月11日のWJS(ウォールストリートジャーナル)では、米国のPCAOB(公開会社会計監視委員会)が(米国の)8大監査法人の内部統制監査が不適切である、と発表したことを報じています。8大監査法人による米国上場会社の内部統制監査において、その実効性に関する確証を得られないままに監査を行っていた例が22%もあったそうです。「最近の監査法人の怠慢は度をこしている。指導について改善策を検討してもらう」との発言が併せて報じられています。日本企業の事業におけるグローバル化が進展するなか、FCPA(外国公務員への賄賂提供禁止)やカルテル、マネロン等、法規制の内外ネットワーク化も顕著となっています。このような法規制のグローバルネットワーク化において、日本の監査制度がどうなっていくのか、海外からの圧力も含め注目されるところです。

内部統制報告制度の機能不全(後だしジャンケンによる重要な欠陥の開示)、金商法193条の3の届出件数の伸び悩み(平成20年以来、わずか5件ほど、しかも開示されないケースがある)、監査法人異動時における意見表明の形骸化など、まさに投資家のための開示制度に関与する会計監査人の姿が期待されているのですが、そこにほとんど姿が見えないように思われます。今後、オリンパス事件のような大きな会計不正事件が発生しなければ良いのですが、同じ規模の会計不正事件が再発した場合には、おそらくさらに行政による締め付けは厳しくなっていくことは間違いないと推測します。このたび新たに不正リスク対応監査基準が策定される予定ですが、内容的にはこれまでの報告書基準とあまり変わらないものであったとしても、行政当局主導で監査基準が策定されたことに重大な意義があると思います。それは、あたかも会社法改正の中で(使い勝手は悪いかもしれませんが)ともかく多重代表訴訟というものが新設されて、親子会社規律に関する会社法の議論が堂々とできるようになったことに近いところです。

会計監査人の職務とは?監査の目的とは?といった「監査の原点」についての議論が学者さんの理屈の問題から離れて、堂々と監査基準のなかで出来るようになった意味が大きいと思います。来年おそらく不正リスク対応監査基準に関する会計士協会の実務指針が策定されることになると思いますが、そこで出てくる指針において、自由職業人たる会計士さんのあり方をどう見据えていくのか、「かっこいい会計士さんの姿」を期待する外野の者として注目しておきたいところです。

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2012年12月14日 (金)

経営トップに近づくほど不正を隠すようになる?-オリンパス事件刑事公判より

(本日は短めのエントリーです)ひさびさのオリンパス事件ネタですが、12月11日に開かれた旧経営陣の刑事公判では被告人尋問が行われたようで、事件発覚当時常勤監査役であったY氏の公判での証言内容が報じられています。2001年当時、経理部長だったY氏は、これ以上損失飛ばしを隠すことはできないと考えて、当時の社長であったK氏等に公表を勧めたそうです(財テク失敗で損失が拡大した20年ほど前から、Y氏は歴代の社長に対して強く公表を迫っていた、とも報じられています)。

しかし、昨年公表されたオリンパス事件の第三者委員会報告書によると、このY氏は副社長に就任していた2006年の時点では、内部通報制度(ヘルプライン)に外部窓口を設置することについての社内の提案に対し強く反対をしていた、とあります。「当社は労務問題が多いから、とくに外部窓口を設ける必要性はないのでは」とのY氏の意見だったそうですが、おそらく損失飛ばしのスキームが社外第三者に漏れることを強くおそれたからではないかと思われます。

仮にこのY氏が刑事公判において証言したところが正しいとするならば、どうして考え方がこのように大きく変わってしまったのでしょうか?経理部長という立場からすれば、損失飛ばしによって粉飾する、ということの矢面に立っていたはずですから、もはや不正経理を続けることは耐えられない気持ちだったものと推測されます。辞表を持参して公表を迫ったほどの人なので、もし2001年ころに、オリンパス社にヘルプラインが存在していれば、Y氏自身が内部通報制度を活用していたのかもしれません。

しかし副社長たる地位に抜擢されますと、損失飛ばしを公表しようといった気持ちは薄れてしまって、ひたすら隠すことに執心することになります。自身を副社長に抜擢した元会長への恩義を感じたのか、それとも従業員から経営トップに近い地位になると「会社はつぶせない」といった責任感を抱いたのか、そのあたりはわからないところですが、ともかく同じ人間でも、社内における立場が変わりますと、職業倫理の意識も変わってくることを象徴しているように思えます。経営トップに近づくにしたがって、「全体最適」のためには不正を隠す、いや隠し通すことが有益なのだ・・・という考え方に支配されてしまうのでしょう。なにゆえこのように気持ちが変わってしまうのか、このあたりは是非知りたいところです。

こういった証言内容からしますと、外部窓口を設置する等、やはり従業員にとって活用しやすいヘルプラインを作り、非業務執行役員のところにも、重要な通報事実が(社長に届くのと同時に)届けられるような仕組みこそ、不正の早期発見のためには必要ではないかと改めて感じます。

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2012年12月12日 (水)

新しいインサイダー取引規制と事前規制的抑止力

きょう(12月11日)は金融審議会作業部会において、新しいインサイダー取引規制(現行法の改正)の大筋がまとまったことが報じられました。証券仲介会社や事業会社の役職員による情報伝達行為・取引推奨行為が新たに規制対象に含まれるようですが、そのかわり(情報伝達者が)インサイダー取引を行わせる目的を有すること、実際に当該情報によってインサイダー取引が行われたことなどが成立要件とされるそうなので、企業実務に過度の萎縮的効果を与えないように配慮されているようです。また繰り返し情報伝達行為等を行った悪質な証券会社の社員等については、氏名の公表もあるとのこと。ネット検索が当たり前の時代に「公表」というのはかなりツライ行政処分ですね。その他には西友インサイダー事件で行政当局側が苦労したTOBで買収される側の企業関係者も「公開買付関係者」に該当することが明確にされるようです(詳しくは金融庁の こちらのページをご参照ください)。

そもそもインサイダー取引規制は刑事罰、課徴金を課すということですから、事後規制的な色合いが強いものと思います。エンフォースメントを厳格にすることで、利得行為への抑止力が働き、市場の健全性を確保することが図られるものと考えられます。しかし情報伝達行為や取引推奨行為までインサイダー取引規制の対象となりますと(他人の利益のためにインサイダー行為を勧める、ということなので)、「情報伝達者の利得をはく奪するというよりも、制裁的な課徴金で抑止しよう」といったところが問題になってきます。今回の作業部会でも、「他人の計算によるインサイダー規制」が、憲法の禁止する二重処罰にあたらないかどうかが真剣に議論されていたようで、このあたりは著名な刑法学者、行政法学者の代表的なご意見をもってしても、インサイダー規制への適用ということについてはっきりしていません。現に経団連の意見書でも、「課徴金の引き上げは不当利得の剥奪の趣旨を逸脱しない範囲において行われることが望ましい」とされているようです。

また今年10月にはJDQのSJI株に関わるインサイダー取引について、証券取引等監視委員会の勧告にもかかわらず金融庁が処分をしないとする、インサイダー取引では初めての不処分決定も出ました。ペナルティを引き上げても、(法律家の支援の下で)とことんまで争うような事案も出てくるでしょうし、確信犯的な者に対して多少ペナルティを重くしたとしても「やる奴はやる!」と予想されます。また「俺は二次情報受領者だ」といった主張をしてくる人たちも増えるかもしれません。したがって事後規制的効果というものは、抑止力に一定の限界があるでしょうし、そもそもインサイダーによる事後規制の効果(引き上げ)については、ハコ(企業)そのものが反市場的な場合にこそ(そこそこの)実効性があるのではないでしょうか。まじめな会社の「出来心による」社員のインサイダー行為には、現行法上のペナルティでも十分抑止効果はあると考えています。

ということで、まじめな上場企業にとってインサイダー取引規制が改正された場合の問題は、やはり実務上は事前規制的効果ではないでしょうか。これまでのインサイダー防止体制の構築といえば「自己完結型」でした。ともかく身内から不幸な犯罪者を出さないために、情報管理体制を構築する、「やれば必ずバレる」という実態を社員間で周知徹底する、という自助努力が中心でした。しかし今回の情報伝達行為・取引推奨行為の規制化や「公開買付関係者」の範囲の拡大は「連携・協調型」、つまり他社との連携・協調による防止体制が求められるように思います。自社で努力していたとしても、他社関係者の行動次第では通常の業務遂行に支障を来すこともありますし、また不要なインサイダー疑惑に巻き込まれる恐れも生じます。先の経団連意見書でも「業務遂行上の必要がある場合には適用除外にすべし」と主張されているそうですが、このあたりになんとかインサイダーリスクを自社のみでコントロールしたい、との気持ちが表現されているように思います。このあたりが事前規制的効果としてはとてもやっかいかなぁと感じます。

また、オリンパス事件では行政当局が刑事罰と課徴金、いずれの適用も視野に入れていたように記憶していますが(間違っていたらごめんなさい)、今後、証券取引等監視委員会が、「多少の不処分事案は出たとしても、とことんやる!」といった政策的判断を行うことによる実務上の影響も無視できないと思います。まじめな上場会社としては、そもそも疑惑の渦中に巻き込まれること自体を避けたいわけです。インサイダー取引の可能性が疑われるような未公表重要事実の管理を徹底するためにはどうすべきか、当局の取締の動向などにも配慮したうえでどこまで未然防止を進めていくべきか、ということの検討も、一般の事業会社にとっては必要かと思われます(ただし友好的TOBの買付対象会社のように、いきなり関係者に重要情報が届く、ということもあって、万全の準備などはできないかもしれませんが)。

我々弁護士は、ときどき何か都合が悪いことがあると、つい「これは守秘義務だから」などと安易に守秘義務を持ち出すことがあります(私はそんなことはありませんが・・・)。他者からの執拗な追及を免れるには非常に便利な言葉です。今後、企業間の情報伝達において「これはインサイダーだから」などと、ときには自社にとって都合の悪い情報を開示しない理由として、またときには相手に妄想を抱かせるようなセールストークとして活用されることを懸念するのは私だけでしょうか。。。

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2012年12月10日 (月)

抜き打ち監査は粉飾決算を発見できるか?(不正対応監査基準)

土曜日(12月8日)の日経新聞朝刊の一面トップ記事の見出しは「企業を抜き打ち監査 不正会計防止へ基準」というものであり、(世界初の)不正対応監査基準の原案が明らかになったことが報じられています。当ブログでも「法律家の視点から」ということではありますが過去に何度かご紹介させていただきました。この新しい監査基準については、素案(たたき台)が公表されて以来、日本公認会計士協会から「素案に対する意見書」も出ましたし、いろいろと監査基準に対する反対意見なども出されていましたので、「この素案は後退するのではないか?」との推測も流れていました。しかし、この日経の一面記事(および5面の解説記事)を読む限りでは、それほど後退しているとは思えませんし、むしろ「抜き打ち監査」まで会計士さんの行為規範として手続きに盛り込まれるということは、監査人、上場会社とも、かなり真剣な対応が求められるものになるのではないかと思われます。また詳細な意見は会計審議会監査部会における資料公開後に述べることとして、今回の記事に関する感想のみを記しておきます。

1 内部者の情報提供と「不正の端緒」

そもそも会計監査人が会計不正を発見する端緒の8割程度は会社側からの内部通報・内部告発による情報提供による、というのがCFE(公認不正検査士)としての私の実感です。昨年のオリンパスの粉飾事件でも、1999年の時点では社員から、そして2011年には元社長が(当時の)監査法人に対して情報提供をしています。情報を受領した監査法人の対応が適切であったかどうかは別にして、ともかく内部通報が監査人に届く、ということは不正の端緒としてはかなり重要視すべきものです。

こういった内部通報が「不正の端緒」として明記され、その後の監査手続きが不正対応という「非定例監査」に変わるということになりますと、監査実務にも影響が出てくるのではないでしょうか。公益通報者保護法が周知され、またヘルプラインが充実するにしたがって「まじめな通報」の場合、情報提供先が何も動かないということになりますと、通報者の関心が内部告発(外部のマスコミや行政当局、ネット掲示板等)に向かうか、もしくは内部通報の外部窓口(弁護士事務所等)に向かうケースが多くなりました。大きな会計不正問題に発展した場合、どの時点で監査法人に情報提供がなされたのか、ということが明らかになるケースが増えると思いますので、不正会計監査基準に従った行動がなされたのかどうか、客観的に判断できる場面が想定できます。

2 抜き打ち監査の実効性

つぎに監査対象企業の不正リスクが高い場合、会計監査人は「在庫や経理書類を抜き打ち監査すること」が求められる場面をあると上記記事では報じています。もちろん監査人に強制権限が認められるわけではありませんが、これは少し驚いています。一定の不正リスクがあれば抜き打ち監査が可能になる、という意味でしょうか?たしかにナナボシ事件の大阪地裁判決では、オーナー支配の強い会社である、ということから「不正を強く疑うべき」ことを前提に監査人の注意義務が論じられています。

しかし「抜き打ち監査」というのは、監査人と監査対象会社との信頼関係の維持に影響を及ぼしかねないものなので、相当な不正の嫌疑が疑われるような場面でないとむずかしいのではないかといった印象を持ちます。つまり不正リスクが高いということから、監査人の行為規範として「抜き打ち監査」の要請が出て、被監査会社の(抜き打ち監査に対する)反応から「不正の端緒あり」と判断するのか、それとも元々「不正の端緒」があり、いわば有事対応のひとつとして「抜き打ち監査」がありうるのか、そのあたりが記事からははっきりしていないように思います(ただし、記事からはなんとなく前者のように読めますが)。いずれにしても、抜き打ち監査といっても強制的に書類の開示や商品在庫の確認作業はできませんので、抜き打ち監査に対する会社側の反応次第では適正意見を表明できない、さらに深度ある不正対応監査手続きを行いうる、といったことにつながるものではないかと。抜き打ち監査によって不正が直ちに発見できる、というものではないと思います。

3 不正対応監査基準と監査役制度

また、こういった不正対応監査基準が施行された場合、今まで以上に監査役との連係が問題となるケースが増えるものと思われます。監査役との関係では会社法397条1項が会計監査人が「その職務を行うに際して」不正を発見した場合には、監査役への報告義務が明記されています。また、金商法193条の3においても不正を発見した場合の監査役への通知が求められています。会計監査人に、不正発見への対応を求められるようになりますと、たとえ確実な証拠に基づいて、会計監査人が不正事実を認識している場合でなくても、監査役への報告義務や通知義務が認められやすくなるのではないかと思われます。それは単に条文の解釈問題だけでなく、会計監査人が監査役に報告や通知をすることによって、その報告・通知に対する監査役の反応をみることができます。この監査役の反応も、当然のことながら会計監査人にとっては不正を発見するための過程になりうるはずです。もちろん監査役自身にも職務上、不正発見のための具体的な注意義務の判断に影響が出てくるはずです。

4 J-SOXの実務への影響

最後に、不正対応監査基準と現行J-SOX(金商法上の内部統制報告制度)との関係です。現在のJ-SOXでは、現実には不正が発覚した場合にのみ「開示すべき重要な不備」があったと開示される運用になっています。経営者評価が不正事実の発覚によって訂正されるケースが非常に多いことが、これを物語っています。不正対応監査基準が「不正リスク」というものを監査人の監査計画だけではなく、行為規範と結びつけて論じるのであれば、内部統制の有効性(とくに内部統制監査人による不正リスクに関する判断)にも影響が出てくるのではないでしょうか。不正が発覚したり、財務決算プロセスに大きな誤謬が見つかった、というケースではないけれども、この会社には財務諸表を作成するにあたり、重大な虚偽記載を生じさせるリスクがある、という(まさにJ-SOXの本来の目的である)開示制度の運用がなされるきっかけにもなるのではないかと考えたりしています。

他にも「市場の番人たる会計士」の象徴と思われる「監査引き継ぎ」の手続きなどもありますが、このあたりは具体的な内容が公表されてみなければ、正確なことは言えませんが、ともかく世界初の不正対応監査基準というものが出来上がるとなりますと、既存の監査や会計の制度とどのように整合性を保つのか、興味深い論点が多いように思います。

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2012年12月 6日 (木)

「企業会計原則」は法律なのか?-ノヴァ第三者責任追及訴訟判決-

金融・商事判例1403号(2012年11月15日号)に、ノヴァ(現在NOVAの名称を使用している法人とは異なります)の元受講生が原告となり、同社元役員、監査法人を被告として第三者責任(会社法429条)等を追及していた訴訟の判決(大阪地裁平成24年6月7日)が掲載されています。判決内容は元取締役、同監査役、会計監査人とも勝訴(原告の請求棄却)となっており、そもそもノヴァが上場会社として英会話学校を運営していた頃の財務諸表、計算書類の表示は粉飾決算にあたらないので、役員らの責任も発生しないという内容です。なお、消費者保護訴訟の一環として提訴されたようですので、金商法上の民事責任が追及されたものではありません。

このノヴァの会計処理については、以前から細野祐二氏(会計評論家、元大手監査法人所属の公認会計士)が注目しておられたものであり、ご著書「法廷会計学vs粉飾決算」(日経BP社2008年)の中でも「NOVAの方舟」として詳しく論じておられました(同書245頁以下)。受講生から前払いで授業料が払われた際、ノヴァ社はその45%を「システム登録料」として売上に計上しており、その余を分割して収益に計上していたのですが、このような収益計上基準は、そもそも企業会計原則云々以前の問題としておかしい、日本では認められることはない、とされていました。また2007年10月30日付日経新聞(11面)記事では、日本公認会計士協会がNOVA(当時)に対する会計監査が適切であったかどうか、調査する方針を固めた」とあり、「受講生が前払いしたレッスン料の45%を契約時点で売上としており、収益計上が適切だったのか、という点が問題視されている」とあります。

消費者法(特定商取引法)との関係で、ノヴァ社が解約返戻金に見合った内部留保を積んでおかねばならないのでは、といった最高裁判決との整合的な会計処理の是否も問題になっているのですが、そこは省略することとして、そもそも受講生から中途解約を求められた場合には、清算ルールが決められているにもかかわらず、受講契約当初に一括前払い金の45%を売上計上する、という会計処理は収益の実現主義(企業会計原則)からみるとおかしいのではないか(役務の提供がないのに収益が実現しているとはいえない)、粉飾ではないか、というのが原告側からの主張です。

上記大阪地裁の判決では、ノヴァ社側の会計処理方式の違法性を論じるにあたり、受講生をレッスンするためには、教室を借りたり、講師を探して来る等、いわゆる準備のための費用がかかっていることから、前払い金の45%を収益として初年度の売上に計上することも「費用収益対応原則、実現主義に反して違法である、とまではいえない」と判断しています(別途受領する入学金とこのシステム登録料含めても・・・ということだと思います)。個別に解約を申し出る受講生に対しては解約ルールが別途定められているわけですが、例年解約件数がそれほど多くないわけですから、長期的でみれば(実際に入金されている以上)相応の理由がある限り、初年度に多額の収益を計上しても許容される、というところでしょうか。

私は裁判所が企業会計原則違反をどのように法律問題として解釈するのだろうか・・・と注目しておりましたが、この地裁判決では、違法・適法の判断根拠として、ダイレクトに企業会計原則を持ち出しているようです。ということは、たとえば原告側が主張するように、厳格に収益と費用を対応させて「前受金」項目で保守的に会計処理をする場合も、ノヴァ社が実際に行ったように、45%を収益とする内訳が何ら合理的な理由もないままに一括して収益として計上される場合も、いずれも企業会計原則では問題ない、ということになるかと。企業会計原則を法律と同様に考えるのであれば、これはまさに解釈に裁量の幅がある、ということを示すように思います。

しかし、細野氏が「おかしい」と明言されていた会計処理について、役務提供の準備に要した費用があるのだから、45%を一括収益計上できる、という論理で「企業会計原則違反は存在しない」という結論は容易に導かれるのでしょうか?レッスンのために教室を借りたり、講師を用意することは、一回限りの役務提供ではありませんし、そもそも引当金を積む際には、引当率を計算するのに厳格な資料が必要となるにもかかわらず、経営者側の判断で45%の一括収益を認めるのになんの資料も不要というのがちょっとよくわからないのですが、こうやって裁判になってみると企業会計原則というのは、本当に幅が広い概念なのだなぁと感じます。ただ、別の著名な会計士の方より、いくら会計処理方法に裁量の幅があったとしても、きちんと会社の儲けの仕組みを理解すれば、おのずと適切な会計処理方針はひとつに決まるのであり、裁量の幅など存在しない、とのご意見をいただいたことを付言しておきます。

被告となった監査法人の反論を読んでみても、消費者被害救済の見地から訴訟が提起された関係からか(つまり粉飾そのものが重要な争点となる投資家被害訴訟とは異なるからか)会計処理方法の可否についての反論はされていないようです。本件は控訴審に係属しているそうなので、控訴審判決がどうなるかは未定ですが、絶対的真実が問われる司法裁判所において、企業会計原則の「相対的真実主義」が論じられるというのは、なかなか興味深いところです。

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2012年12月 4日 (火)

医薬品登録販売者の虚偽証明は西友だけなのだろうか?(その3)

企業コンプライアンスの実務に重要な影響を及ぼすと思われる富士通元社長損害賠償請求事件の控訴審判決が11月末に東京高裁から出たようですね。東京地裁と同様、控訴審でも富士通側の全面的な勝訴のようですが、高裁判決では富士通側が「N氏と交際している人物が反社会的勢力と密接に関わることに疑いを持つに至った相応の根拠」について深く言及されており(合理的根拠ではなく、相応の根拠でした。訂正します)、実務的にも重要な判決かと思われます。少しブログでは書きにくい内容なので、どこかで上場会社向けに解説できる機会がありましたら、①元社長損害賠償請求ルートと②反社と名指しされた法人・個人による名誉毀損賠償請求ルートにそれぞれ分けて、地裁・高裁判断を検討してみたいと思います。

さて本題ですが、ちょうど1カ月前に、スーパー西友さんの医薬品登録販売者に関する不正受験の記事が公表されまして、こちらのエントリーで「他にも不正受験している企業はあるのでは?」と書きました。その後、やはり横浜のドラッグストアさんでも大量不正受験が発覚しましたし、11月22日の日経新聞ニュースでは、厚労省の調べによって、この2社以外でも延べ201人の不正受験者が存在することが報じられています。

しかし、西友さんが(組織ぐるみではないですが)全国的に不正受験を行っていたことに鑑みますと、上記数字は予想外であり、まだこの程度では実態を反映したものではなく、不正受験の数は少なすぎるように思います。ということで、厚労省はいよいよ今年12月末を期限として、全国のドラッグストアや調剤薬局、スーパーなどに対して不正受験に関する調査を依頼し、自主申告をするように通知したそうです(流通ニュースはこちら)。

中止犯の必要的減免事由(刑法総論)の解説に出てくる「引き返すための黄金の橋」ではありませんが、これが組織の自浄能力を発揮する最後のチャンスかと。ここで自社の不正受験の事実を報告すれば、よほど悪質なものでないかぎりは会社名も公表されることなく、企業の信用が毀損されるおそれも乏しいのではないでしょうか。もし自主申告をすることなく社内の不正を放置していますと、疑惑対象企業の数が少なくなる分、リスク・アプローチによってピンポイントで調査が入ります。また、いわゆる「やぶへびコンプライアンス」の典型的パターンとして、医薬品販売登録不正受験の事実以外にも、芋づる式に別個の不正が発覚する(合わせ技一本)、というおそれが生じてきます。また行政が動くことで、社内の内部通報や内部告発も急増しますので、致命的となる「企業の二次不祥事」が発覚するリスクも格段に高くなります。

この自主申告要請という手法は、業界団体に自主規制を指導することと並び、企業の自主的な行動を促して行政目的を達成させる、という最近の行政規制の典型例ではないでしょうか。そういえば2004年10月以降、西武鉄道やカネボウ等の証券取引法上の不適切な事例が相次いで判明した中で、金融庁は4,543社に対して有価証券報告書等の自主的点検を要請しましたことがあります。その後、訂正報告書を提出した会社数がなんと全体の14.3%にも相当する652社に達し、訂正総件数は1,330件に及びました。みんなで渡れば怖くない・・・という点で、規制の実効性に疑問もあるかもしれません。しかし「これくらい誰でもやっているではないか」という考え方がコンプライアンス意識をマヒさせてしまう(正当化させてしまう)ことを考えますと、まじめに対応している企業が損をしない・・・という意味においてはある程度の実効性もあるのではないか、と考えるところです。

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2012年12月 3日 (月)

セイクレスト事件-専門家の鑑定に法律は入らず?

すでに各紙で報じられているとおり、元JASDAQ上場の不動産販売会社セイクレスト社の経営トップおよび指南役のアドバイザーが金商法違反(偽計取引容疑)により先週逮捕されました。昨年のネステージ社の強制捜査事件と同様、第三者割当増資における現物出資の過大評価により、セイクレスト社の一般株主の株式価値が著しく希薄化され、割り当てを受けた第三者が会社資産を流出させた(利得した?)構図になります。そもそもセイクレスト社が割当先から現物出資を受けた不動産は直近に出資者が4億ほどで購入されたものですが、セイクレスト社はこれを「20億」と評価して新株を割り当てたようです。

昨年のネステージ社の事件と異なるのは、この現物出資の対象とされた土地の鑑定を請負った不動産鑑定士の方が強制捜査の対象とはされていない、ということです。6億から20億の幅を持たせて鑑定結果を出しておられるようですが、この評価額の相当性は誰がみても疑義を残すようなものと思われます。しかし、それでも司法の世界は「相当性がない」ということだけで偽計取引を立件することはないように思います。やはり鑑定は専門家の世界であり、収益見込みなどの前提となる数字を会社側から提示され、また割引率に影響を及ぼす経営環境などの説明を受けることで、一定の制約条件のもとでの専門家意見が出されたのであれば、これを刑事的に問題視することはできないものと思われます。昨年のネステージ事件で不動産鑑定士の方が逮捕されたのも、「最初に鑑定結果の数字ありき」の協議に加わっていたこと、つまり「共謀」が認められたためではないかと推測いたします。

評価に関する認識の食い違い・・・ということだけで立件しようとしますと、以前当ブログでもご紹介したとおり、Tホールディングス社の元会長さんの刑事無罪事件のような結果になってしまいかねません。おそらく取締当局は、鑑定評価額の相当性ではなく、近いうちに土地を開発して別荘を販売するといった記載内容を、企業価値向上を装った「偽計」にあたるものと考えているのではないでしょうか。

逆にいえば、不動産鑑定のプロの方が、公正な立場で法律に則って鑑定を行ったとしても、既存株主保護には限界がある、ということです。そうなりますと、やはり上場会社におけるコーポレート・ガバナンスが機能するかどうかが投資家被害の未然防止にとってのカギになってきます。この点、12月1日の朝日新聞朝刊(関西版の社会面)には、上記第三者割当増資が開示された2010年2月当時、同社の取締役および監査役が、この増資には問題があるとして反対をされていたことが掲載されています。とくに監査役3名からなる同社監査役会は、「価額の相当性に関して不安を感じざるを得ない」と社長に指摘したそうです。ちなみに、いまでも当時の第三者割当増資に係るリリースをネットで閲覧することができますが、同リリースによりますと、弁護士と会計士2名による調査委員会では、この20億という現物出資の評価額は相当に疑問である、という意見を会社側に述べたことが明確に記載されています。したがって、監査役会が「不安を感じる」と述べたことも、納得できるところです。

しかし、監査役会が疑義を呈した二日後の臨時株主総会では、同社社長が「これをやらないと会社がつぶれる」と強行に主張したため、出席した取締役全員がこれを認めたとのこと。なお、そこでの監査役の意見陳述の内容については上記朝日新聞では触れられていません。ただ、増資決定に関するリリースの中では、(臨時取締役会には監査役全員が出席したうえで)監査役は特に有利な発行価額ではないこと(適法性)、および第三者割当が相当であることを述べた旨の記載があります。新聞で報じられているところと、リリース内容にみられる監査役会の意見との齟齬(そご)が生じています

この増資に関する社内での決定の前後に、同社の複数の監査役の方がお辞めになっていますが、ここが個人的には気になるところです。このケースでは、第三者割当増資に関する社内協議の時点において、すでに社内が有事であることは上記新聞記事の内容からも明らかです。そうであれば、監査役は独任制機関として、「あやしい」と思えば社長と対決せよ、というのが理想の姿かと思います。まぁ、そこまでは現実には無理だとすれば、法的責任の免責効力がどうなるかは別として、辞任というカードを切ることも考えられるところです。しかし、開示規制として「監査役の意見」が求められているケースで、そこに監査役意見がきちんと掲載されていない場合には、やはり何らかのアクションが必要になるのではないでしょうか。もちろん、監査役が現物出資の価額の相当性について、「やっぱり疑問はない。相当だと思い直した」というのであれば結構ですが、わずか2日後の取締役会で意見が翻ることは考えにくいところです。

大規模第三者割当増資については、監査役の意見が求められるところであり、セイクレスト社の事例だけではなく、株主や投資家から高い関心が寄せられます。そこで開示内容に虚偽または株主等に誤解を招く表現が記載されている場合には、当該記載の訂正を求める、という積極的対応が監査役には強く求められるのではないかと、私などは考えてしまいます。もちろん「議事録に意見を記録させて、異議を留めておく」という方法で、自らの立場を明らかにすることも大切でしょう。ただ、アーバンコーポレイション事件(金商法上の不法行為責任が問われた裁判)において、本来開示すべきことの「非開示」が虚偽記載と認定されているように、監査役が意見を求められているときに、あいまいな表現が記載されている場合には、やはり監査役の職務としてその積極的な訂正要求まで求められるように思います。

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