医薬品登録販売者の虚偽証明は西友だけなのだろうか?(その3)
企業コンプライアンスの実務に重要な影響を及ぼすと思われる富士通元社長損害賠償請求事件の控訴審判決が11月末に東京高裁から出たようですね。東京地裁と同様、控訴審でも富士通側の全面的な勝訴のようですが、高裁判決では富士通側が「N氏と交際している人物が反社会的勢力と密接に関わることに疑いを持つに至った相応の根拠」について深く言及されており(合理的根拠ではなく、相応の根拠でした。訂正します)、実務的にも重要な判決かと思われます。少しブログでは書きにくい内容なので、どこかで上場会社向けに解説できる機会がありましたら、①元社長損害賠償請求ルートと②反社と名指しされた法人・個人による名誉毀損賠償請求ルートにそれぞれ分けて、地裁・高裁判断を検討してみたいと思います。
さて本題ですが、ちょうど1カ月前に、スーパー西友さんの医薬品登録販売者に関する不正受験の記事が公表されまして、こちらのエントリーで「他にも不正受験している企業はあるのでは?」と書きました。その後、やはり横浜のドラッグストアさんでも大量不正受験が発覚しましたし、11月22日の日経新聞ニュースでは、厚労省の調べによって、この2社以外でも延べ201人の不正受験者が存在することが報じられています。
しかし、西友さんが(組織ぐるみではないですが)全国的に不正受験を行っていたことに鑑みますと、上記数字は予想外であり、まだこの程度では実態を反映したものではなく、不正受験の数は少なすぎるように思います。ということで、厚労省はいよいよ今年12月末を期限として、全国のドラッグストアや調剤薬局、スーパーなどに対して不正受験に関する調査を依頼し、自主申告をするように通知したそうです(流通ニュースはこちら)。
中止犯の必要的減免事由(刑法総論)の解説に出てくる「引き返すための黄金の橋」ではありませんが、これが組織の自浄能力を発揮する最後のチャンスかと。ここで自社の不正受験の事実を報告すれば、よほど悪質なものでないかぎりは会社名も公表されることなく、企業の信用が毀損されるおそれも乏しいのではないでしょうか。もし自主申告をすることなく社内の不正を放置していますと、疑惑対象企業の数が少なくなる分、リスク・アプローチによってピンポイントで調査が入ります。また、いわゆる「やぶへびコンプライアンス」の典型的パターンとして、医薬品販売登録不正受験の事実以外にも、芋づる式に別個の不正が発覚する(合わせ技一本)、というおそれが生じてきます。また行政が動くことで、社内の内部通報や内部告発も急増しますので、致命的となる「企業の二次不祥事」が発覚するリスクも格段に高くなります。
この自主申告要請という手法は、業界団体に自主規制を指導することと並び、企業の自主的な行動を促して行政目的を達成させる、という最近の行政規制の典型例ではないでしょうか。そういえば2004年10月以降、西武鉄道やカネボウ等の証券取引法上の不適切な事例が相次いで判明した中で、金融庁は4,543社に対して有価証券報告書等の自主的点検を要請しましたことがあります。その後、訂正報告書を提出した会社数がなんと全体の14.3%にも相当する652社に達し、訂正総件数は1,330件に及びました。みんなで渡れば怖くない・・・という点で、規制の実効性に疑問もあるかもしれません。しかし「これくらい誰でもやっているではないか」という考え方がコンプライアンス意識をマヒさせてしまう(正当化させてしまう)ことを考えますと、まじめに対応している企業が損をしない・・・という意味においてはある程度の実効性もあるのではないか、と考えるところです。
| 固定リンク
コメント
西武事件を発端とする名義株問題の有価証券報告書虚偽記載については、自主的な訂正をしなかった会社にきついペナルティがありました。率直な対応をしない場合、あとが怖いという先例ですが、きっと厚生労働省も同じ対応を執るのではないかと予想しております。
山口先生のご指摘のとおり、「やぶへびコンプライアンス」や「芋づる式に別個の不正が発覚する(合わせ技一本)」ということや、社内の内部通報や内部告発も急増する可能性はありますが、それは、あくまで「既に行われた不祥事」が「発覚しなかった」だけのことであって、会社としてリスクを抱え込んでいる(役員としても、辞任や報酬減額リスクを抱え込んでいる。)状況かと思います。
山口先生の書き方からすると、致命的となる「企業の二次不祥事」が発覚するリスクも格段に高くなるとして、できるだけ発覚しない方がいいのでは、とも読めますが、実際には、「既に発生している不祥事リスクが最小限にとどまるよう。」対策を打つことが適切かと思います。理想論かもしれませんが、対策をしないですむ現代でしょうか。
今の世の中、不祥事を隠しきることは不可能でしょう(再生紙や防火建材の問題で、トップが関わって隠蔽を指示しても、結局発覚しましたし。)。ですから、トップ自ら自浄作用を発揮して不祥事を適切に公表し、コントロールして、企業のロスを最小限にすることが必要、ということではないでしょうか。それができないトップは、自己保身に走ったと言われても仕方ないのではないでしょうか。
また、上場会社について不祥事が眠っているということは、これから投資をする投資家に対する重大な背信行為ではないかと。株を買ってから不祥事で倒産したとなれば、投資家はどう思うでしょうか。
ですから、今回の登録販売問題については、これを機会に他の不祥事も一緒にあぶり出すことが必要ではないでしょうか。理想論かもしれませんが。
投稿: Kazu | 2012年12月 4日 (火) 15時21分