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2012年12月25日 (火)

企業不正の調査実務(内部統制では語れないもの)

Fuseichosa002いよいよ年末の慌ただしい季節となりました。今年は金融機関が28日まで、ということなので、クリスマス(25日)といっても、もはやそれどころではない方も多いのではないでしょうか。私の事務所も、復興特別所得税の関係で(弁護士も事務職も)顧問料や報酬請求の計算の準備に忙しくしています。関係者の皆様方には、いろいろなご案内がいくと思いますが、どうか宜しくお願いいたします。

今年も企業不正事件が発覚した際の不正調査の話題は多かったように思います。不正調査の際に調査報告書が公表されますが、今年も興味深いものがいくつかございます。一般の企業の皆様、そして不正調査に関わる弁護士、会計士の方々にとって、たいへん有益ではないかと思えるものとしては、会計不正事件としては①沖電気工業さんの第三者委員会報告書、②ニチリンさんの第三者委員会報告書(ただし内容が少しわかりにくい、とのお声がチラホラ・・・)、また業務不正事件としては③ファーストサーバさんのデータ消失事件に関する第三者委員会報告書、④SMBC日興証券さんのインサイダー事件に関する報告書が秀逸かと思います(いずれもネット上からPDFにて閲覧可能です)。その他にも有益な調査報告書が公表されていたかもしれませんが、私もすべてを把握しきれていないので、またご存じの方がいらっしゃいましたらお教えいただければ幸いです。

設立7年目にして遂に会員数が1000名を超えたACFE JAPAN(日本公認不正検査士協会)ですが、東京でも大阪でも危機対応等を取扱分野とされている弁護士の方々が今年も試験に合格されました。問い合わせを受ける件数も増えておりますので、協会理事のひとりとしてたいへんうれしく思います。本日ご紹介する新刊書「企業不正の調査実務」(株式会社KPMG-FASフォレンジック部門 著 中央経済社 3,800円+消費税)も、CFE(公認不正検査士)のメンバーの方々が中心となって書き下ろされたものです。(ちなみに、上記沖電気工業の第三者委員会のメンバーの方もCFEの資格保有者です)。本書を執筆された会計士の方々は、実際に日本企業の海外子会社の不正調査(たとえば現地の経営トップの不正関与事件)に従事しておりますので、まさに現場調査に精通された方による実務書となっています。

内容は会計士の方々が執筆したものなので、会計不正事件関連の実務解説が多いのですが、FCPA(海外公務員への賄賂供与)やM&Aデューデリ時における調査などにも言及されています。社内調査のノウハウを磨きたいとお考えの企業担当者の皆様、巷で最近関心の高い「フォレンジック(デジタル調査やE-ディスカバリー対応)」にご関心のある方々、そして不正調査の分野に関心をお持ちの弁護士・会計士の皆様に、ぜひともお読みいただきたい一冊です。不正の手口、不正の端緒の把握、不正への初動対応、実際の調査技法、そして調査終了後の事後処理方法などが、最新の動向も含めて(わかりやすく)解説されています。

これは個人的な好みの問題ですが、私はなんといってもKPMG-FASさんの「お家芸」ともいうべきCAAT(Computer Assisted Audit Techniques)技法に関する解説が一番の興味対象です(つい先日も、関西のCFE研究会において、あずさ監査法人さんの不正対応部門の方にCAAT技法を具体的にご解説いただいたところです)。企業のコンピュータ内に存在する文書を統計的手法によって調査を進めて、不正の端緒を見つけたり、不正の起きやすい部署を特定する手法です。企業不正と内部統制といえば、一般のイメージとして「ガチガチの現場統制によって不正を防止するのはいいけれど、その分、現場は疲弊するし、作業効率も悪くなるのでは」と思われがちです。たしかに不正が発生する確率は極めて低いにもかかわらず、職務分掌、ダブルチェック、ローテーション制度など人的にも物的にも多くのコストをかけることには、費用対効果の面において批判を受けることもあります。

しかしCAATのように、合理的な手段で不正の起きそうな場所を特定する、起きてしまったミスを不正なのか誤謬なのか早期に判定する、仮に不正が起きたのであれば早期に影響範囲を特定する、といった手法を採用するのであれば、それは現場の作業効率を最大限度認めたうえで、おかしなところがあれば対応する、というものなので、内部統制の限界や短所を補完するものとして「スグレもの」ではないかと思います。不正への対応は内部統制によるだけでなく、こういった不正の早期発見を念頭に置いた不正調査技法にも光があてられるべきだと思います。このCAAT技法は、デジタルフォレンジックの一手法ですが、単純にどこの企業にも通用するようなマニュアルがあるのではなく、各企業ごとに調整が必要な技法なので、社内調査の手法を企業担当者が学ぶ機会にもなります。また、こういった手法で不正調査が奏功しますと、「この会社は悪いことをしてもすぐバレる」といったイメージが社内に徹底しますので、不正の要因たる「機会」を喪失させることにもつながります。

海外子会社の不正について秘密裏に調査を敢行した事例なども紹介されていますが、海外諸国のプライバシー権保護の状況によっては調査自体が新たな不正やリーガルコストを生む可能性もあるため、どうしても現地の弁護士の支援を受けなければならない現実があるようです。たしかに、不正調査に100点満点はない「現実」も教えてくれます。この分野にご関心がある方には、ぜひともお読みいただきたい一冊です。

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