弁護士自治からみた自由職業人としての会計士の姿
自民・公明連立で圧倒的多数(320議席以上)を確保する状況となりました。このブログでは政治の話はしないことに決めていますが、本日は少しばかり民主主義に関わるテーマに触れておきたいと思います。
先週水曜日(12月12日)、大阪弁護士会において会員向けの研修講師を務めました。ときどき当ブログでもご紹介する金融庁の「LEON風ちょい●おやじ」ことS検査局審議官とのコラボ、ということで、私自身も楽しく勉強させていただきました。S審議官はCPAAOB(公認会計士・監査審査会)の事務局長を兼任されていることもあり、講演のなかでも、時折「最近の監査法人は・・・」「会計士協会は・・・」というお話が飛び出してきます。具体的なことをここで引用しますと、また差し障りがありそうなので申しませんが、やはり自治権に慣れている弁護士の立場からしますと、「監督される行政当局がある・・・ということのは、ずいぶんとやりにくいだろうなあ・・・」と改めて認識いたしました。
しかし「弁護士自治」といいましても、安閑としていられない状況になっています。EU諸国では、すでに弁護士自治が政府によって制限されているところもあるとか。弁護士の数が多くなりますと、経済的に困窮してくる弁護士も出てきます。そうなりますと「強制加入団体」ということが成り立たず、政府の保護規制も必要になるのではないか、との意見も強く主張されるようになります。また、まじめな話ですが、弁護士自治が制約を受けないためには、やはり健全な民主主義(多数決原理)の土壌を支える少数者保護、消費者を含めた弱者保護、平等権確保で力を発揮することが大前提になります。法治行政の世界では、立法による規制が中心になりますので、どうしても多数決原理が働いて少数者の人権がないがしろにされてしまいます。そこが切り捨てられてしまいますと、もはや多数決主義の基盤がなくなってしまうわけで、ここにどうしても弁護士の自由職業人たる活動が不可欠です。今後、弁護士自治が守られるかどうかは、少数者保護、弱者救済、人権の平等のためにどれだけ弁護士が熱心になれるか、というところにかかっているのではないでしょうか。議員定数違憲訴訟を熱心に推進することも、これが民主主義の根幹に関わる問題だからこそ熱心になるわけです。今回の衆議院議員選挙においても、弁護士グループの方々が手続きの差し止めを申し立てましたが、差止めの可能性は別として、行動自体はとても有意義なものだと思います。
さて、公認会計士の方々からみると、この弁護士自治というものがうやらましく感じることもあるかもしれません。弁護士自治が「弱者保護」に正当性を求めるところと同じように、会計士の自由職業人たる地位を確保するためには、一般株主・投資家保護というところに正当性が認められる必要があります。常に投資家・株主のために会計監査制度を維持していることが外から見えなければならないでしょうし、自らの信用維持のために懲戒権限などもきちんと行使される必要が出てきます。このあたりの自立性が見えなければ、監督官庁による締め付けが厳しくなってきます。12月11日のWJS(ウォールストリートジャーナル)では、米国のPCAOB(公開会社会計監視委員会)が(米国の)8大監査法人の内部統制監査が不適切である、と発表したことを報じています。8大監査法人による米国上場会社の内部統制監査において、その実効性に関する確証を得られないままに監査を行っていた例が22%もあったそうです。「最近の監査法人の怠慢は度をこしている。指導について改善策を検討してもらう」との発言が併せて報じられています。日本企業の事業におけるグローバル化が進展するなか、FCPA(外国公務員への賄賂提供禁止)やカルテル、マネロン等、法規制の内外ネットワーク化も顕著となっています。このような法規制のグローバルネットワーク化において、日本の監査制度がどうなっていくのか、海外からの圧力も含め注目されるところです。
内部統制報告制度の機能不全(後だしジャンケンによる重要な欠陥の開示)、金商法193条の3の届出件数の伸び悩み(平成20年以来、わずか5件ほど、しかも開示されないケースがある)、監査法人異動時における意見表明の形骸化など、まさに投資家のための開示制度に関与する会計監査人の姿が期待されているのですが、そこにほとんど姿が見えないように思われます。今後、オリンパス事件のような大きな会計不正事件が発生しなければ良いのですが、同じ規模の会計不正事件が再発した場合には、おそらくさらに行政による締め付けは厳しくなっていくことは間違いないと推測します。このたび新たに不正リスク対応監査基準が策定される予定ですが、内容的にはこれまでの報告書基準とあまり変わらないものであったとしても、行政当局主導で監査基準が策定されたことに重大な意義があると思います。それは、あたかも会社法改正の中で(使い勝手は悪いかもしれませんが)ともかく多重代表訴訟というものが新設されて、親子会社規律に関する会社法の議論が堂々とできるようになったことに近いところです。
会計監査人の職務とは?監査の目的とは?といった「監査の原点」についての議論が学者さんの理屈の問題から離れて、堂々と監査基準のなかで出来るようになった意味が大きいと思います。来年おそらく不正リスク対応監査基準に関する会計士協会の実務指針が策定されることになると思いますが、そこで出てくる指針において、自由職業人たる会計士さんのあり方をどう見据えていくのか、「かっこいい会計士さんの姿」を期待する外野の者として注目しておきたいところです。
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コメント
Toshi先生のブログでコメントするのも如何かとは思いますが、個人的には、弁護士自治について国民の支持をどこまで維持できるかについて、Toshi先生の見解のほかにもポイントがあるかと思います。
私自身は弁護士自治の制度意義について、十分に理解していると思いますし、維持するべき制度であるとは思いつつも、その制度は天賦のものではなく、不断の努力で維持されるべきものであろうと考えます。
その観点から見るに、甚だ心許ないものを感じます。
端的に(これだけで判断するのは誤りですが)象徴的に感じるのは、懲戒制度の機能不全であろうかと思います。
法曹人口問題などでは質の問題が問われることが多いのですが、その割には自浄能力がどこまで働いているのか疑問です。
能力的な意味の「質」は市場淘汰に相応しい(それ自体が依頼者の利益を損ねるという意見もありますが)性質の問題かともいます。
他方、依頼放置、犯罪の片棒を担ぐ、脱税etc.の倫理違反については、まさに弁護士自治の守備範囲だと思うのです。
Toshi先生の「少数者保護、消費者を含めた弱者保護、平等権確保」という広義の「公益活動」も当然重要ですが、一般目線で弁護士自治を見ると、上記の観点のほうが余程、共感を得る視点だと思います。
監督官庁があるべき、という意見が出る背景は、懲戒がらみであろうことは想像に難くないところです。
懲戒請求の結果は官報と会報に掲載されるのみで、処分期間中に限り開示され、開示請求にも限定がされている有様で、全く懲戒処分の実効が担保されていないかと思います。
この辺を改善するだけでも、弁護士自治への理解者(少なくとも消極的賛成者)は増えるのではないかと思います。
投稿: 場末のコンプライアンス | 2012年12月17日 (月) 17時03分
場末のコンプライアンスさん、ご意見ありがとうございます。私も(ここで申し上げるのは如何なものかとは思いますが)、懲戒に関する問題は気にしています。たしかに毎月の「自由と正義」(弁護士会の月刊誌)を読みますと「おお、こんなに懲戒されているのか!?」と驚くのですが、開示という意味では正直、希薄です。まぁ、某有名ブログで毎月広報されている、という事実上の広報効果はありますが。しかし、これでも以前よりはだいぶ運用は改善されていますので、それなりに気を遣っているところはあることをご斟酌いただければと思います(うーーん、こういうこと書いて大丈夫かな・・・笑)
投稿: toshi | 2012年12月17日 (月) 18時39分