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2013年1月 4日 (金)

コンプライアンスはブレーキではない(年頭のご挨拶)

皆様、あけましておめでとうございます。<m(__)m>本年も当ブログを宜しくお願いいたします。このブログが読まれる頃には、相当に明るい株式相場になっていることと思います。

正月休みに、昨年インサイダー規制の見直し(金融商品取引法の改正)の原因となりました公募増資インサイダー関連の第三者委員会報告書をいろいろと読み比べておりました。インサイダー取引規制がどう変わるか・・・という点への興味ではなく、むしろ「なぜインサイダー取引防止体制が整備された金融機関において、このような事件が発生したのだろうか」といった不正検査士的興味からであります。

金商法の見直しと関連して、賦課される課徴金の高額化や情報提供者の処罰化など、マスコミの話題はインサイダー取引規制の強化に集中しておりますが、当事者がなぜインサイダー情報を提供したのか、なぜ金融のプロがインサイダー取引を行ったのか、といった原因分析のところには、これまであまり関心が寄せられていないようであります。

一連のインサイダー取引事件に関与した当事者に、倫理規範、法規範意識が欠如していた、という個人的な要因が認められることは間違いありません。しかし、各報告書によりますと、個人的要因だけでは片づけられない原因が共通してみられるようです。

それは、「取引先との過度の信頼関係の形成」というものであります。たとえばSMBC日興証券の役員の事例も、元はSMBC時代の顧客との「私的な貸し借り」が発端ですし、三井アセット信託銀行のファンドマネージャー(2名)についても、取引先証券会社担当者との「親密な個人的つきあい」や「過度の接待、贈答品」です。なぜプロのファンドマネージャーが「これってインサイダー情報ではないのか」と気づかなかったか、というと、日常の親密なおつきあいの中で警戒感が失われ、インサイダー情報も、多くの取引の中に紛れてしまったので冷静な判断を欠いてしまったそうです(同社第三者委員会報告書概要、特別委員会報告書等参考)。

各社の再発防止策をみると、インサイダー情報の監視強化、携帯電話の会話記録化、社内での制裁強化など、いずれも営業戦略にとってはブレーキになりそうなものばかりですし、このたびのインサイダー規制見直しの内容も営業活動への萎縮効果が懸念されております。これではコンプライアンスはやはり事業活動にとってのブレーキだと言われても仕方ないかもしれません。

しかし、不祥事(インサイダー取引もしくはインサイダー情報の提供)をさかのぼって不祥事の芽にまで目を向けますと、今回の一連の公募増資インサイダー事件では、いずれも取引先との親密な関係を維持するために一生懸命になっていたビジネスマンの姿が浮かび上がります。営業戦略、事業戦略として、取引先と信頼関係を構築することは誰も否定しないところですが、ただ少しばかりの「ボタンの掛け違い」が生じてしまい、そこにインサイダー取引という誘惑が忍び寄ってきた、ということが核心ではないかと。

これはインサイダー事件に限らず、一般の事業会社でも同様のことが言えるものと思われます。規制を強化しても、顧客との向き合い方に問題が生じれば不祥事は起きるのであり、また規制が緩和されたとしても、取引先との関係に問題が生じなければ不祥事の芽は不祥事に発展することはないと思います。平時ならインサイダー情報だと冷静に認識できたにもかかわらず、取引先との情実によって心が曇ってしまった先の例をみれば、どこでも同様のことが起きるのではないでしょうか。会社の命運を分けるような事業戦略そのものを否定するような規制ではなく、その事業戦略の方向性に間違いがないかどうかを検証するのがコンプライアンスではないかと。

この一連の公募増資インサイダー事件の第三者委員会報告書では、もうひとつ、コンプライアンスはブレーキではないことを示す非常に興味深いコメントが共通して述べられていますが、これはまた別の機会に感想として書かせていただきます。

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コメント

 表題は、まさにその通りと思います。
 コンプライアンスは、「当社にとってのお客様が誰なのか。」をよく考えるための一つの見方と思っております。例えば、増資インサイダーについては、営業部隊にとって増資情報を事前に流す投資家はお客様かもしれませんが、増資を引き受けた幹事会社としては、増資先がお客様であり、増資インサイダーにより株価が下がると必要な資金が集まりにくくなる、という意味で、お客様に不利益を与えてしまうことにもなります。そうしますと、会社として、どのようにどのお客様の利益を確保するか、そういったことを検討する上でのコンプライアンスという見方はいかがでしょうか。

 また、コンプライアンス部門は、できるかぎり、「こうした方が安全」という安全な道を指し示す役割になれればと考えておりますが、難しいでしょうか。

投稿: Kazu | 2013年1月 4日 (金) 11時25分

kazuさん、本年もよろしくお願いいたします。
CSRの発想からすれば、KAZUさんがおっしゃるとおりのコンプライアンスの見方になるのでしょうね。ただ、ノルマを課せられた現場の担当者の心にどれだけ響くかというと難問かもしれません。
真のお客様の利益を確保する、という姿勢も、やはり現場の担当者がどれだけ「ワクワク感」をもって仕事に臨めるか、という「心の余裕」に依拠するところが大きいだろうな、と感じるところです。今年もこういった話題をたくさん取り上げていきたいと思っています。

投稿: toshi | 2013年1月 7日 (月) 02時07分

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