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2013年1月18日 (金)

富士通名誉毀損事件最高裁決定と真実性の証明の対象(速報版)

昨日のエントリーで取り上げましたドリームライナー(ボーイング787)の事故ですが、アメリカの運輸当局が異例の運航禁止命令(緊急耐空性命令)を出したことが報じられております。予想以上に早い展開となりましたが、安全性の確認ができれば解除される、とのことなので、日米両国においてどのような対策がなされれば「安全性が確認された」といえるのか(その対策がどうして「利用者の安心」とつながるのか)、今後とも注視しておきたいと思います。

さて、本年1月15日、最高裁(第三小法廷)において富士通名誉毀損(損害賠償等)請求事件に関する決定が出たようであります。結果は富士通(法人)および同社役員(個人)側の勝訴の内容であり、いわゆる「上告不受理」決定とのこと。これで富士通側勝訴の原審判決(東京高裁第11民事部 平成24年6月27日)が確定いたしました。

ちなみに、本訴訟は富士通の元社長さんによる損害賠償請求事件とは異なり、富士通社が元社長辞任に至った事情などを開示したことで、「反社会的勢力との関係が深い」と記された法人およびその代表者が、民法709条、会社法429条1項を根拠として、富士通社を相手取って起こしていた裁判であります(元社長さんが訴えている事件は上告中かと思われます)。自分たちは何ら反社会的勢力でもなく、また同勢力と深い関係もないのに、一方的に富士通社から「関係がある」と指摘されたのは名誉毀損(人格権侵害)であり、損害賠償と共に謝罪広告の掲載を求める、といった内容です。

名誉毀損行為といいますのは、不特定または多数の人たちが認識しうる状況のなかで、他人の名誉や社会的評価を低下させるに値する事実を開示することで成立します。本件原審の高裁判決では、富士通役員らの一連の情報開示行為は、元社長の辞任に至る経緯を(上場会社として)広く公表する過程において原告(控訴人)らの社会的信用を低下させるものであるから、形式的には名誉毀損行為に該当する、ただし富士通側には違法性阻却事由が認められるから、役員らの開示行為は適法、としています。たしか最初は「社長は病気療養のために辞任する」と富士通側が公表したところ、元社長側が「辞任を迫られたことは納得できない」と反論して大きな騒動になり、その後(東証からの注意もあり)富士通側が辞任理由に関して再度、真実の経緯を公表したものと記憶しております。その「再度の公表」のなかで、本裁判の原告(控訴人、上告人)が「反社会的勢力との関係のある者」と指摘されていました。

反社会的勢力(もしくは関係を有する者)への企業対応に関する蛇の目ミシン株主代表訴訟事件最高裁判決(平成18年4月10日)の内容との整合性から考えますと、この高裁判決が今後の企業実務に及ぼす影響は大きなものがあり、とりわけ上場企業の取締役、監査役を含めた平時からの反社会的勢力排除への取組み(行動指針の作成)や、有事に至った場合の具体的な対応方法を考えるうえで示唆に富むものとなっています。どこの上場会社とは申し上げませんが、最近でも「当該企業の某役員が反社会的勢力と関係があるのではないか」と噂された場合に、たいへん苦労して(工夫して?)これを打ち消すための開示を行っている企業が散見されます。しかし、富士通社のように、真正面から真実を開示しなければならない場面というのも想定されますので、この高裁判決の射程範囲を綿密に分析したうえで、たとえ形式的には名誉毀損の要件に該当したとしても、どうすれば違法性阻却事由(公益目的の有無、公共の利害に関わる事実としての真実性の証明対象事実は何か)によって賠償責任を免じられるのか、各企業において(顧問の弁護士さんと相談しながら)検討されるのがよろしいのではないかと思います。

本来、「これは噂であるが・・・」といった前置きをしても(原則として)名誉毀損に該当してしまうわけですが、今回の事件では、なぜ「反社会的勢力かどうか」ということではなく、「反社会的勢力と関係があるとの『うわさ』自体」が真実性の証明対象事実になったのか(これは会社側からすれば、立証の負担として大きな違いであり、現に本裁判では富士通側が真実性の証明に成功しています)、その理由を分析し、業種、上場・非上場の区別、企業規模、連結か単体か、親会社か子会社か、といった各企業ごとの特性を考慮しながら、平時からの対策を提案することが法律家の役割ではないかと思います。

なお、最近、証券会社が警察保有の情報にアクセスできるようになった、との報道がなされていますが、アクセスできる情報は極めて限られた情報であり、「反社会的勢力と関係を有する者」まで広げてアクセスできるものではないようです。また、金融機関の持つ情報への一般企業のアクセス方法も流動的であり、「この会社は真っ黒」というような特定の情報を得ることができるとは限りません。反社会的勢力対応は、あくまでも平時からの自助努力が原則であることを肝に銘じておくべきです。

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