広電社長解任-そのとき社外取締役、監査役は?
東証2部上場の広島電鉄さんで、社長さんが解任された、と報じられております。最近の社長解任劇といえば、委任状争奪戦やTOB、つまりモノ言う株主が主役となるケースが多いと思いますが、今回は株主の支配力によるものではなく、まさに「社長解職劇」という社内のクーデターによるものと思われます。
ただ、「クーデター」といいましても、通常は取締役会の招集通知に「社長解任(正式には解職)議案」については書かれておらず、一部取締役から「緊急動議」が出されるケースがほとんどだと思いますので、今回のように招集通知に「社長解職の件」と堂々と記されているケースはかなり珍しいのではないでしょうか。オリンパスのケースでも、ウッドフォード氏は薄々感じてはいたけれども、緊急動議で解職されたものと記憶しております。
日経の記事によりますと、12月25日ころから各取締役間で協議が始まり、1月4日に社長交代要求、(社長名義で)招集通知、7日に臨時取締役会開催という経緯だそうで、企業法務に関心のある法律家の立場からは「この招集手続きに瑕疵はないのか、取締役会の決議は有効だろうか」というあたりに話題が集まるのかもしれません。しかし、このあたりは詳細な事実関係が判明しないとなんとも言えないところがありますし、社長解任といいましても、(解職された方は)今後も「取締役」としてお残りになるわけですから、あまり意見にわたることは述べないほうがよろしいかもしれません。
ただ、こういったクーデター事案におきまして、社外取締役さんや、2名の社外監査役さんに、どれだけ事前の情報を付与しておくべきか・・・というあたりは結構悩ましいところがあるのではないかと。産経新聞の記事によりますと、臨時取締役会に出席していた役員は合計10名ということなので、取締役7名(欠席2名)、監査役3名、つまり常勤を含め監査役は全員出席をしていた、ということのようです。仕事始めの忙しいときに、きちんと社外監査役がそろって出席ということは、(招集通知を受領する以前から)クーデターについては知らさせていたものと思います。解任劇の後、平穏無事にビジネスが進むかどうか、という点について、この「監査役の出席」はずいぶんと大きな影響力をもつものと思われます。まさに「監査役を制する者はクーデターを制す」といったところではないでしょうか(いろいろと非難されそうな物言いで恐縮ですが)。
さて、ここからは私の勝手な推測ですが、監査役さん方に、あらかじめ「何が起こるのか」を囁いておくとしても、メインバンクさんから来られているような社外監査役さんに囁くのはちょっと勇気が必要かな・・・と。今回の広電さんのケースでは、社外監査役のおひとりはメインバンク(かつ筆頭株主)ご出身の方であります。平穏な経営を特に好まれるメインバンクさん、ということになりますと、お家騒動はあまり好ましいものではございません。そのあたり、どのような配慮があったのでしょうか。また今回、社外取締役さんは欠席されたそうですが、社外取締役さんが、どのようなルートで(どなたの紹介で)広電さんの社外役員に就任されたのか、そのあたりも準備段階ではナーバスになるところかもしれません。
いやひょっとして、昔の有名な某百貨店の解任劇と同様のシナリオが存在しているのだろうか・・・などと考えるところもありますが、これは全く根拠のない私自身の妄想でございます(あしからず・・・)。いずれにしても、教科書(会社法の基本書)には取締役会の監督機能というものが当たり前に記述されており(会社法362条2項2号、3号)、最近のガバナンスでも「モニタリングモデル」というものが話題になるのでありますが、こういった事態がリアルの世界で発生しますと「解任劇」「クーデター」と呼ばれるところに法と現実とのギャップを感じるところであります。
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コメント
欠席された社外取締役さんは広島ガスの社長さんです。
元々「広島瓦斯電軌」という1つの会社だったのが戦時中に現在の広島ガスと広島電鉄とに分離されたという歴史的な経緯があって、この両社は現在でも健康保険組合を共同で運営しているなど一定の関係があります。
そうした歴史的経緯もあって、両社の社長は互いの社外取締役に就任するというのが慣例となっていたようで、今回社長を解任されたO氏も広島ガスの社外取締役も兼務されていました。
ここからは推測ですが、O氏は広電の社長を解任されたといっても、広島ガスの社外取締役の地位は今のところそのままですから、広島ガスさんに迷惑を掛けないためにあえて欠席してもらったのではないでしょうか?
投稿: 広島県人 | 2013年1月12日 (土) 02時59分
広島県人さん、コメントありがとうございます。なるほど、そういった背景事情については存じ上げませんでした。また、私も広島県人さんの推測についてはそのとおりかと思います。ともかく中立的な立場で・・・ということへの配慮でしょうね。納得いたしました。
投稿: toshi | 2013年1月12日 (土) 03時08分