近時の役員責任追及訴訟の類型と不祥事企業の自浄能力の発揮
本日(1月23日)は、東京・名古屋・大阪のCFE(公認不正検査士)研究会の合同交流会に参加してまいりました。毎年1回開催され、三回目の今年は名古屋開催ということで名古屋CFE研究会の皆様には懇親会までたいへんお世話になりました<m(__)m>。
今年の発表は①某大手監査法人のフォレンジック担当会計士によるNOVA社役員責任追及訴訟判決(平成24年6月7日大阪地裁)を題材とした討論、②某大手法律事務所の企業法務担当弁護士による東和銀行役員責任追及訴訟控訴審判決(平成23年12月15日東京高裁)を題材とした討論を行いました。NOVAの事例は、昨年12月の こちらのエントリーにあるように、私も関心を寄せていた判決です。この合同研究会の討論の面白いところは、判決で認定された事実をもとに、判決文で表現されていない「真の問題点」「本当の事件の原因」を推論し、不正の未然防止や早期発見に活かす、という点にあります。
たとえばNOVA事件判決であれば、NOVAの(当時の)会計処理の妥当性を判断するにあたり、監査法人としては、会社側にどのような資料を求めていれば、もっとスムーズに意見を形成できたのか、前受金の収益認識に関する会計処理について、当時の消費者契約法による清算義務についても「経済的合理性に基づく会計処理」として反映させるべきではなかったのか、さらに(実際に清算された金額だけでなく)清算に関する法的紛争の可能性をどこまで認識していれば引当金の算定の判断に影響が出ていたか、といった諸点への検討がなされました。これは後日の同様の事例にも参考になる議論ではないかと思われます。
また東和銀行事件判決では、「頭取案件」と呼ばれる取引先融資にあたり、判決の上では取引先の経営状況の悪化や、実現困難な業績見込みについて詳細に検討され、最終的には融資判断の甘さが取締役の善管注意義務違反の根拠とされていますが、この研究会では、「なぜ、審査部長も、また多くの役員も消極的であった融資について、頭取ともうひとりの役員だけ熱心に融資決済を求めていたのか」と言う点が議論されました。判決文にはどこにも出てくるものではありませんが、当時の時代背景からみると、同銀行がさまざまな不良債権処理にあたり、この取引先にお世話になっており(つまり暗黙の貸し借りがあって)、本件融資も「貸し借り」の一環として履行されたのではないか、といった意見が出ておりました。ただ、大蔵省出身のワンマン頭取の意見に誰が抵抗できたのか、どうすれば抵抗できたのか・・・ということになりますと、なかなか妙案が浮かんでこないのも事実であります。
ちなみに、当ブログでは以前、こちらのエントリーにて、「企業不祥事発生時に自浄能力を発揮した企業は株主代表訴訟を提起されていない」ということを書きましたが、こういった判例を検討しておりますと、不正確な表現だったかもしれない、と思っております。会社が、自らの判断で役員(元役員)の責任追及訴訟を提起していたとしても(一見、自浄能力を発揮しているように見えるかもしれませんが)、果たして十分な責任追及が期待できるのかどうか疑問が生じるケースもあるからです。
今も係属しているオリンパス役員責任追及訴訟では、第三者委員から成る責任調査委員会の報告書を基に、オリンパス社が会計不正事件が発生していた当時の取締役、監査役を相手に(損害賠償請求事件として)訴えを提起しています。提訴までの経緯に鑑みると、自浄能力を発揮しているものと考えられます。しかし、上記の東和銀行事件では、金融庁から改善要請を受けて(お尻に火がついた)監査役が、会社を代表して役員の責任を追及しています。さらに、昨年6月29日に大阪地裁で取締役の責任が一部認容されました石原産業フェロシルト不法投棄・元役員損害賠償請求事件では、監査役が元取締役らに対して提起した損害賠償請求訴訟に、(不満を感じた)一般株主らが共同参加して大きな訴訟に発展しております(最終的には代表訴訟も提起)。
これらの事例は、行政当局から後押しされたり、機関投資家や一般株主から訴訟提起を求められたり、ということで、かならずしも会社が積極的に役員の責任追及に動いたとは言えないものであります。会社自体が訴訟を提起するということは、役員の善管注意義務違反を裏付ける事実を積極的に開示する覚悟を世に示すものになり、本来ならば問題をあいまいに処理しない、という決意を表明することになるわけですが、株主代表訴訟を回避する目的も見え隠れするようで、自浄能力の表れとみることまではできないように思います。会社による役員責任追及訴訟が提起されたからといって、それだけで自浄能力が発揮されている、とまで即断できるものではない、ということを認識しておく必要があろうかと。
なお、石原産業元役員損害賠償請求事件判決は非常に長い判決文ですが、不祥事発生時点における取締役の地位に応じて、詳細な責任判断が記述されておりますし、内部統制システムの運用についての裁判所の考え方を示す、たいへん興味深いものです。これはまた判決文を精査したうえで、ブログにてご紹介したいと思います。
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