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2013年1月22日 (火)

東証独立役員セミナー「独立役員、こんなときどうする!?」

今朝(1月21日)の日経新聞法務欄に社外役員リサーチのプロネッド社による上場会社アンケートの結果が紹介されておりました。弁護士を社外取締役に選任する場合、「経営の幅広い知識や経験を持つ人材が不足していること」が懸念材料だそうであります。ちなみに企業が弁護士たる社外取締役に期待するのは「リスク管理」が中心であり、弁護士以外の社外取締役に期待している役割は、約6割の企業が「経営戦略の執行の監督」を挙げておられるそうです。

法制審議会会社法制部会長の岩原教授も、モニタリング・モデルとしての取締役会の第一の機能は「経営者の業績の評価」であり、とくに社外取締役に求められるのは、「経営陣が今後の収益予想に基づいて策定した経営戦略方針に基づく業務執行の成果が、当初の方針に照らし妥当であったかを、経営者に業績の結果に則して説明させ、責任を負わせること」にあるとされています(「月刊監査役」2013年1月号6頁)。経営者の成果を評価する何よりの指標は会計成果であり、だからこそ財務専門家としての独立取締役は重要だとされています。

社外取締役候補として、弁護士資格保有者が挙げられることは多いのですが、「経営パフォーマンスの評価」という視点から、企業価値の向上に資する社外取締役の役割を考えますと、上記プロネッド社のアンケート結果は当を得ているものと思います。上記記事で締めくくられているとおり、弁護士が社外取締役に就任する場合には、経営や事業への理解を深める努力を怠らないようにしなければ(リスク評価だけでは)一般株主の利益向上のために有用とは言えないかもしれません(でも、複数の社外取締役が選任されるケースでは、有事対応やD&O保険の適用問題など、弁護士が選任されているほうがかなり有用な場面もありますよ)。

中堅規模の上場会社の社外役員を8年間経験した者としては、弁護士が経営パフォーマンスの評価という観点から有用であるためには、まずは「儲けのからくり」をきちんと理解することが第一かと(私も「比較的単純なビジネスモデル」であるにもかかわらず、理解するまで時間がかかりましたので、あまり偉そうには言えませんが)。その業界の経営構造だけでなく、同業他社と比較したうえでの「当社の儲けのからくり」も理解しなければ、会計成果やリスク評価すら「とんちんかん」な意見しか言えないように思います。また、経営者の暴走を止めることことも重要な役割かもしれませんが、(個人的には)、経営者が経営スピードを思いっきり上げてもコケないように「道路に穴があいてないか、大きな段差がないか」を経営者に示すような意見が言えること(経営者の背中を押すこと)も大切だと思います。

さて、社外取締役と証券取引所ルールによる「独立役員」とは、その役割としては少し異なるところもありますが、このたびの会社法改正(附帯決議)でも明記されたように、今後は独立役員の役割についても再び注目が集まるところかと思われます。ということで、東京証券取引所は、2月5日、一昨年に引き続き、第二回目の独立役員セミナーを開催することとなりました(セミナーのご案内はこちら)。私もこのシンポに登壇することになりましたが、まさに弁護士の独立役員経験者として発言させていただきます。ちなみに、私は8年間の社外監査役(すでに昨年6月に退任)就任期間のうち、最後の2年ほど独立役員として登録されておりました。

どうみても経営戦略への知見が豊富な他のメンバーの方々と比較して、「なぜこの弁護士が?」と疑問視されるかもしれません。しかし、これにはきちんと役回りがある(と、思っております)。独立役員といいましても、現実は社外監査役が7割を占めており、上記アンケート結果の懸念されるとおり、経営の幅広い知識や経験が(若干)乏しい独立役員もいらっしゃるかもしれません。ということで、社外監査役出身の独立役員であっても、一般株主の利益保護の観点から、「ガバナンス、ファイナンス、資本政策、有事対応等、いずれの課題についても、最低これくらいは対応できたほうが望ましい」というモデルを示す役回りを期待されているものと(勝手に)推測しております。

証券取引所は、今後「社外取締役たる独立役員」の選任義務(努力義務)を、企業行動規範において明記するようですが、もちろん社外監査役たる独立役員も継続して就任されるところです。ハンドブック「独立役員の実務」(2012年 商事法務)のなかにも記載されているように、社外取締役と社外監査役では、一般株主の利益保護のために「異なるアプローチもありうる」とされています。そういったアプローチの手法も、どこかで示すことができれば・・・とも思います。

東証もしくは大証の上場会社の独立役員の方のみ参加可能ということなので、参加資格は絞られておりますが、もしご参加いただけます方は、神田先生の基調講演と共に、当シンポをご覧いただければ幸いでございます。

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コメント

山口先生,大証(含JASDAQ)の独立役員も参加できるのですか?東証のイベントですし,HPでは東証の役員に限定していましたが・・・。

投稿: Kazu | 2013年1月22日 (火) 09時53分

おはようございます。そうですね。大証登録会社の独立役員も参加可能との話なんで、よければご参加ください。

投稿: Toshi | 2013年1月22日 (火) 10時58分

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