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2013年1月 7日 (月)

やっぱり監査・監督委員としての社外取締役はしんどそう・・・(^^;

いよいよ正月気分も抜けまして、本日から本格始動となる会社さんも多いと存じますが、新年早々から憂鬱なネタで申し訳ありません。

昨年11月に監査・監督委員会設置会社への移行と社外監査役の憂鬱と題するエントリーをアップしまして、監査役会設置会社における社外監査役が「すんなりと」監査・監督委員会設置会社の社外取締役に移行するのは躊躇するなぁ・・・といったことを述べましたが、その続編であります。

年末に「月刊監査役」2013年1月号が届きまして、法制審議会会社法制部会の部会長でいらっしゃる岩原先生の「会社法制の見直しと監査役」と題する論稿を拝読いたしました。ジュリストや旬刊商事法務における岩原先生の論稿をきちんと読まれた方であれば特に目新しい内容ではないのかもしれませんが、私のように「つまみ食い」のような形で会社法の見直しについて勉強している者にとりましては、監査役制度を見直すうえでも、とても参考になりました(あくまでも岩原先生の個人的意見・・・ということだそうですが)。

とくに、新たな企業統治の形態である監査・監督委員会設置会社に関する解説は、この制度が会社法制の見直しの中で「なぜ登場したのか」というあたりからの背景事情まで書かれてあるので、(恥ずかしながら)その複雑な内容がやっと理解できたような次第です。社外取締役導入義務化との関係、欧米諸国のモニタリングモデルへの傾斜、そして我が国特有の監査役制度との調整など、かなり苦心の末に改正要綱の中に盛り込まれたようです。

しかし、この岩原先生の論稿(あくまでも個人的ご意見ということですが)を読めば読むほど、やはり昨年11月にここでつぶやきましたとおり、監査・監督委員会設置会社の社外監査役に就任するには、「気合を入れて」いかないとえらいことになるのではないか・・・・・・と改めて認識しております。

この論稿を拝読するまでは、「監査・監督委員である社外取締役が(正確には組織としての監査・監督委員会が・・・ということになりますが)、他の取締役の選任・解任や報酬について、株主総会で意見陳述権があるといっても、付け足しみたいなものではないか」と勝手に推測しておりました。しかし、監査・監督委員会設置会社には、モニタリングモデルへの「熱い思い」が感じられるようであり、委員会設置会社ほど完全なものではないにせよ、これに近いものとして運用されることが期待されているようです。ということは、監査・監督委員会には、委員会設置会社の指名委員会や報酬委員会に準じるほどの役割が込められているのではないかと。いや、だからこそ取締役の利益相反行為についての事前承認という、極めて重要なポジションも付与されている、ということのようであります。

経営のモニタリング機能・・・という言葉も(これまでは)なにげなく使っていたように思いますが、この論稿ではまず第一義として、「経営者の業績の評価、すなわち経営の効率性からの統制である」とされております。まずは取締役会において経営の評価等に関し問題を提起し、他の取締役にその問題に対応する義務を負わせることにある、ということで締めくくられております。やはり監査・監督委員たる社外取締役に期待されているのは、経営者のパフォーマンスを評価することにあるということです。

日常の業務執行も全面的に執行部に委ねてよい、という制度選択が採用されたのも、こういった役割を期待しうる監査・監督委員が就任されるであろう・・・という期待からだと思います。もし、立案者の熱い思いとは裏腹に、ワンマン経営者の独占的支配権のもとで、この監査・監督委員会設置会社が活用されたら・・・と思いますと、少なくとも社外取締役に選任される方には、きちんとリスクまで承知したうえで受任されることをお勧めしたいと思います(まだ法制化されておりませんし、どれだけの会社が移行を検討するのかも未知数ではありますが・・・)。

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コメント

先生の仰せの通り、本制度には問題点が多々ありますね。
監査役制度と委員会制度の良い点を取り入れた中間的性格とのイメージがあり、一見その本質は分かりにくくなっていますが、立案者(当局)の意図、狙いは非常に明確であることが、岩原教授の論文を読めばよく分かります。それは英米式のモニタリング・モデルの一形態として本制度を創設し、監査役制度からの全面的移行を積極的に推進すること、それによって株主利益=収益力を最優先する、競争力を持ち果断で効率的な経営体制を確立することです。その前提には現行の監査役制度への不信=否定があります。又不祥事への対応(経営トップの暴走への歯止め)は考慮はするが最優先課題ではなく、経営者の業績パフォーマンスの監督が第一ということでしょう。(政治の世界での「決められる政治」、「果断でスピード感ある決定」の流行とよく似ている気がします)

そこから考えると、「パブリックコメントでは賛成多数にも関わらず、なぜ常勤者の義務付けを排除したか」「日本と米国の内部監査体制の質量の違いを無視して、なぜ内部統制システムのみに依拠した監査を礼賛、推進するのか」「業務執行の決定の取締役への委任がなぜ「定款で定める」のような簡易なやり方で可能なのか」「監査委員会にさえ認めていない権限、機能がなぜ付与されているのか」等々の疑問は解けてきます。
立案者(当局)の意図は明確とは言え、実際の運用がその通り進むとは限りません。英米型モニタリング・モデルの移植が齎す摩擦の外に、経営者による「悪いとこどり」の結果、立案者(当局)の想定を超えた弊害が生じる危険性も小さくないでしょう。「内部監査部門充実はせずに、常勤者をなくしてコスト削減」「業務執行決定の権限をワンマン代表取締役に集中」。結果として、経営陣に対する監督機能が従来より低下する恐れも否定し難いのではないでしょうか。

穿った見方をすれば、今改正での監査役権限強化策=負担増(会計監査人の選任、事業報告への内部統制システムの運用状況の概要記載と監査役のチェック等)は現行の監査役の限界性を浮き彫りにする狙いもあるかも知れません。何よりも常勤性の強みを生かして現在の監査役監査の実効性を高めていくことが、仮に監査・監督委員会に移行しても常勤者を置く最大の根拠になるはずです。

投稿: いたさん | 2013年1月 9日 (水) 16時16分

いたさん様、詳細なご意見ありがとうございます。私も同感です。委員会設置会社でも、監査委員会の7割は常勤の監査委員が置かれているそうです。やはり委員会設置会社ですら、昔からの監査役制度に近いものをそのまま置いている、ということなのでしょうね。ですから理想と現実の差は今回も当然に生じてくるものと思います。
さて、どれだけ監査・監督委員会設置会社が誕生するのでしょうね。

投稿: toshi | 2013年1月15日 (火) 01時03分

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