グループ企業ヘルプライン(内部通報制度)活用のススメ
企業集団における業務執行の適法性を確保するための体制の一環として、最近はグループ企業ヘルプライン(内部通報制度)を策定している親会社も増えつつあるように思います。子会社で発生している不正を知った社員が、子会社だけでなく、親会社の内部通報窓口に情報を提供できるシステムです。子会社としては、自身の社内で発生した不正事実を自ら調査したい、という気持ちはわかるのですが、親会社が子会社で発生している不正を覚知することは非常に困難ですし、ましてや子会社トップの不正となりますと、親会社への不正報告も期待できないため、かなり実効性は高いものと考えております。
これまでグループ企業ヘルプラインが有効に機能した例というのも、あまり世間に公表されてこなかったのですが、1月24日、医薬品販売大手の富士薬品社の子会社トップが業務上横領の件で(経理課長と共に)逮捕されたことを受け、本件に関する富士薬品のリリースが出ております。当社100%子会社の元社員逮捕のお知らせ(お詫び) (ちなみに毎日新聞ニュースはこちら)いわゆる子会社不正が親会社への内部通報(内部告発?)によって社内調査に至った事例だと思われます。
この富士薬品社のリリースや新聞で報じられているニュース記事を総合しますと、子会社の代表者および経理課長から領収書の偽造を命じられた社員が、この事実を親会社に通報し、社内調査を進めたうえで警察署へ相談、刑事告訴に及んだとのことであります。富士薬品社のリリースからしますと、社内にグループ企業ヘルプラインが設置されていたかどうかまでは不明でありますが、ともかく自社に通報がなされたことで自浄能力を発揮できた事例だといえそうです。また、不正への加担を命じられた子会社社員にとって、親会社への内部通報が唯一の救いだったものと言えますので、(すでに被害額は1億円以上に上るようではありますが)不正拡大を防止するのに、本件通報が役立ったものといえそうです。
ちなみに、こういった事件の社内調査を支援した経験からしますと、1億円以上の被害が生じているにもかかわらず、どうして告訴金額が300万円なのか・・・という疑問も生じるかもしれませんが、横領事件の告訴には有力な証拠が必要となります。警察、検察側からは、「確実に立件できる範囲で被害額を限定してほしい、そうすれば告訴を受理し、強制捜査に踏み切れる」といった要望が出されるからです。決して親会社から出向している子会社代表者ということで、身内に対して甘い処理を行っているわけではありません。また、調査の相手が子会社トップや経理課長、ということですから、調査準備の密行性をどのように確保すべきなのか、とても難しいところがあります。したがいまして、アクセスできる資料にも限界がありますので、300万円程度の被害申告に至ったものと推測されます。
しかし経理課長が預金口座のすべての管理を任されていた、ということですから、経理課長と代表者がグルになってしまえば内部統制は全く機能せず、親会社としては子会社不正を認識することは困難であります。内部統制が無効化された状況において、不正を早期に発見することが可能となるのは、やはり本件のように社員による内部通報が効果的であることを痛感いたします。
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