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2013年2月27日 (水)

市場を制する者はコンプライアンスを戦略として活用する?

2月25日の日経法務インサイドでは、「薬の登録販売者制度 相次ぐ不正受験に動揺」と題する特集記事が掲載されております。当ブログでも昨年11月に、西友社による医薬品登録販売者制度の不正受験をとりあげまして「虚偽申請は西友だけなのだろうか」等のエントリーを3本書きました。組織ぐるみでもないのに、これだけ露骨な不正行為が全国的に堂々と行われるというのは、おそらく他の小売業者でも同様のことがまかり通っているからではないか?と推測しておりましたが、案の定、別の大手スーパーさんや、ドラッグストアさん等でも大量不正受験の事実が発覚しております(ちなみに25日の上記記事によると、もうすぐ西友社でも大量不正受験に至った経緯について公表されるそうであります)。

上記記事のように、不正受験によって取締役らの株主代表訴訟リスクが高まるかどうかは、私はなんとも言えませんが、この西友社をはじめとした不正受験問題にひそむリスクは、なにも医薬品登録販売者制度に限るものではなく、業界を超えた他社においても同様の不正リスクがあることを物語っているように思います。

これだけの競争関係にある企業社会において、他社もやっているのに自社だけはやらないのはマズイ・・・といった意識が働けば、残念ながら誰でも不適切な行動に出る動機があります。「みんなで渡れば怖くない」症候群が社内に蔓延することで、不適切な行動によって利益を最大化することに、誰も社内で異を唱えないという事態に発展していきます。「営業が泥をかぶって働いているからこそ利益が出ているのに、管理は涼しいところから偉そうな口を叩くな!」と担当取締役から一喝されてしまえば、それでコンプライアンス軽視の社風が形成されていくのかもしれません。こういった中でコンプライアンス経営の重要性を唱えることはなかなか難しいところであります。

ところで医薬品登録販売者制度は規制緩和の一環として制度化されたわけでありますが、ドラッグストアや調剤薬局だけでなく、この制度のおかげでスーパーやディスカウントストア、コンビニまで大衆薬という売れ筋商品を販売する道が開かれたことになります。ただ、既存の市場占拠者たちも、新規参入組に対して手をこまねいているだけではありません。行政に働きかけて、できるだけ競争条件のハードルを高くしたいところであります。

たとえば今回の「実務経験証明制度(業者側が、資格試験受験者について、一定程度の医療品販売に従事していた経験があることを証明するもの)」というものも、これまでの医薬品販売業界が行政に対して強くプッシュをして採用された条件だとお聴きしております。もちろん消費者の生命、身体の安全を守るための制度であることは間違いないところでありますが、そのための具体的な条件設定を強く求めたのは競争を有利に展開するため、といった狙いがあったからではないかと推測いたします。たとえ規制緩和によって市場の競争が激しくなったとしても、容易には新参者が市場を席巻してしまうことができないよう、コンプライアンスルールを活用して対抗する、ということも十分考えられるところかと思います。この先、大衆薬のネット販売の議論とも関係しそうな論点になりそうです(たとえばネット販売の原則全面解禁を認める代わりに、到底「実質的な解禁」とは言えないような厳しい安全基準を設けるとか・・・)

市場を制する武器としてのコンプライアンスは、このような規制緩和が問題となる場面だけではないように思います。たとえば景表法違反によって消費者庁から排除措置命令が出されるといったケースで、とんでもない誤認表示を理由に排除措置命令を受けるのであれば仕方ありません。しかし、それなりに企業が商品の性能について自信をもっている場合、「表示された性能は具備されていない」とする排除措置命令(もしくはその予告)に不満を持つことがあります。

表示通りの性能を具備していると確信を抱いているにもかかわらず、行政が「これが正しい測定方法」として指定している方法によって基準をクリアしなければ、何ら効果がないものとして評価されてしまうおそれがあります。業者側としては「ほかにも表示通りの性能があることを示す測定方法がありますよ」と反抗してみても、なかなか覆りません。このあたりも、国民の権利保護が究極の目的ではありますが、表示の適正を判断するために、いかなる測定方法によって製品の性能を測定すべきか、という点は市場に強い力を持つ企業がイニシアティブをとっていることがあるのではないかと。実質的には行政に強い力を持つ大きな企業が中心となり、新規参入者側へ参入条件を高く設定する、ということも起こりうるのではないでしょうか。

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2013年2月25日 (月)

「取締役会の乱」が企業を守る事例-明治機械社・続編

2月23日、法曹倫理国際シンポ「法曹の使命と職業倫理」の午後のセクションにおきまして、第三者委員会と弁護士倫理に関する基調講演をさせていただきました(東京大学法学部の会議室での講演というのは初めてのことでした)。当該セッションでは、法曹の職域が拡大されるなかで、弁護士倫理は確保できるか、といった主題でディスカッションが設定されておりました。カナダ・ヨーク大学のソッシン教授(ロースクール院長)とご一緒させていただいたのですが、カナダでも第三者委員会は存在する、カナダの場合は裁判官や検察官など公益代表者が就任する、日本の場合、弁護士では中立性という概念が想定できず、その実効性は確保できないのではないか、といった趣旨のご発表をされました(なるほど、海外からは第三者委員会というのは、こういった理解をされるのか、と納得いたしました)。

弁護士倫理という意味では、私はステークホルダーの利益のため、(個別の利害関係者ではなく、社会総体の利益)という概念を持ち出して、これまでの弁護士倫理の枠組みのなかで、その外観的独立性や精神的独立性はなんとか確保できるという趣旨のことを申し上げましたが、たとえ弁護士が委員として就任していても、経営者ではなく会社自身の存立にとって意義のある活動ができ、委員会の実効性が確保できるのでは・・・ということを実証できそうな事例が2月22日にリリースされております。先日こちらのエントリーでご紹介した子会社の不適切会計処理により第三者委員会を立ち上げた明治機械社の件であります(代表取締役の異動に関するお知らせ)。当ブログのタイトルでは「取締役会の乱」などと書いておりますが、そもそも取締役会には代表者に対する監督機能があるわけですから、法律的には「あたりまえ」のことが起きたにすぎないのかもしれません。ただ、実社会ではここまではっきりと取締役会が社長にノーを突きつけた例は珍しいと思いますので、あえてこのようなタイトルとさせていただきました。

わずか3枚ばかりのリリースですが、中身はたいへん濃いものになっております。第三者委員会は「子会社不正が証券取引等監視委員会による調査まで発覚できなかったということについては、社長の責任は否定できない」と指摘し、さらにコンプライアンス体制やガバナンス改革等、様々な提言をしていました。個人的には、社長さんは(長期間)問題となっている子会社の非常勤監査役たる地位にもあったわけですから、当該子会社の会計不正についての責任はかなり重いものではないかと推測いたします。

にもかかわらず、同社の社長は同社の抜本的改革には何ら着手しようとせず、そればかりか独断で監査法人を変更しようとして、独断で新旧の監査法人に変更の通知を出していたそうであります(もちろん取締役会の承認を得ていないので変更の効力はないとのこと)。また同社は更なる真相解明のために社内調査委員会を立ち上げようとしたところ、その社内調査委員会設置の趣旨が、取締役会と社長との間で差異があった(どうも社長さんは自身や第三者の責任回避を意図としていたそうであります)そうであります。会社の将来に危機感を抱いた取締役会は、直ちに社長に対する解職決議を行ったところ、その後社長が(社長職だけでなく、取締役たる地位も)辞任をしたとのこと。まさに自浄能力を発揮したといえるものかと思われます。

同社は、3Q報告書の提出期限(2月14日)の直後に第三者委員会報告書が提出されており、一か月以内に報告書を提出しないと上場廃止になってしまう、という有事に至っておりましたので、取締役会としても会社を守るための危機意識はかなり高まっていたものと思われます。そういった危機意識が背中を後押ししているところも大きいものと思われますが、第三者委員会の提言の実効性は、こういったソフトローによって担保されているのではないでしょうか。先日、明治機械社の会計不正事件に関する第三者委員会報告書については、かなりレベルが高いものとしてご紹介いたしましたが(ちなみに委員長は元東京地検特捜部部長、委員には元東京地検特捜部検事、証券取引等監視委員会特別調査課におられた会計士の方など)、本当に独立性が高い第三者委員会報告書が提出されれば、たとえ社長の反対があったとしても、このように実効性が担保される、といった好例ではないでしょうか。こういった事例が集積されることで、第三者委員会の評価も少しずつ高まるように思います。

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2013年2月21日 (木)

組織の不正を許さない30代社員(内部通報・内部告発アンケート)

もうすでにいくつかのブログでも紹介されておりますが、共同ピーアール社(JDQ)の内部告発アンケート結果が公表されております(アンケート結果はこちら)。10年ぶりの調査だそうでありますが、やはり不正を見つけたら告発すべきだ、告発してもよい、と回答された方が、どの年代でも増えているそうです(ちなみに、このアンケートでは内部通報と内部告発を含めて「内部告発」と表現されているようです)。公益通報者保護法に関する期待感が、残念ながら、ずいぶんと薄れてしまっていることもリアルに認識できて参考になります。

マスコミ等でも紹介されておりますので、当ブログでご紹介する必要もないとは思うのですが、ひとつだけ興味深いのは今回のアンケートでも、10年前のアンケートでも、ダントツで内部告発意識の高い年代が30代なのですね。今回の調査結果でも、30代社員の半数以上は不正を見つけたら内部告発する、とのこと。しかし(10年前は30代だった)40代の方々が、他の年代層とあまり変わらない率に落ち着いています。これはどうしてなんでしょうか?やはり30代くらいの会社員の方々は、間違ったことは許さない、不正は見逃さないという熱い想いをお持ちなのでしょうか?それが40代くらいになると、ご自身を取り巻く生活環境の変化や将来への期待感の喪失などによって急速にしぼんでしまうと。。。

そういえば、私がいつも愛読している富山和彦さんのご著書のなかにも、 「30代が覇権を握る日本経済」というオモシロイ本がございまして、この年代でなければ、これからの日本は変えられない!40代、50代はもう変える力はない、経営者は30代の若きエリートに注目せよ、というもので、こういったアンケート結果をみますと、あながち間違いではないのかもしれません。このあたりのことを理解する感覚が、サラリーマンの経験のない私には乏しいように思います。

ところで、この内部告発アンケートを公表された共同ピーアールさん、ん?どこかで聞いたことがあるような・・・と思っておりましたところ、当ブログでも以前ご紹介した事件がございました(組織ぐるみの会計不正に立ち向かう社外監査役の事例)。そうそう、社員から内部告発を受けた社外監査役さんが、経営者関与の会計不正を暴き、社長と他の取締役2名に対して辞任勧告を突き付けた・・・というまさに「ガバナンス+ヘルプライン」の典型的な事例でありました(40年間君臨された社長さんが辞任をされたのですよね)。まさに内部告発の脅威を身をもって体験された会社さんなので、このアンケート調査結果への思い入れもかなり強いものかもしれません。

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2013年2月20日 (水)

会社法に残された課題(あくまでも個人的見解ですが・・・)

昨日(2月18日)、近畿法曹稲門会の皆様の主催により、法務実践講座「会社法改正と裁判・企業実務」が開催されましたので聴講させていただきました(大阪市 中央公会堂)。私は早稲田の出身ではございませんが、関西の実務家に広く参加の機会をくださいました近畿法曹稲門会の皆様に、厚くお礼申しあげます。<m(__)m>おかげさまで、江頭先生のご尊顔を初めて拝見することができました。そういえば、今月は神田教授、江頭教授と名刺交換をさせていただく、というたいへん記念すべき如月となりました(神田先生のように「いや~、ブログいつも拝見してますよ~」といったお言葉は江頭先生からはいただけませんでしたが←あたりまえですが 笑)

会社法改正の経緯、これまでの法改正との違い、要綱の主たるポイントの解説と進み、有斐閣より5月に出版される「株式会社法大系」の中身もご紹介され、私にとりましては、まさに至福の90分でございました。機関設計をいろいろと変えてみるよりも、株主の在り方、労働市場の在り方を変えていかないと、実質的なガバナンス改革は困難ではないか・・・とのご意見も裏話などを交えて、楽しく拝聴できました。

なお、江頭先生のお話をお聴きしての個人的な見解ではございますが、今回の会社法改正に「残された課題」のようなものがあるように感じました。江頭先生のご講演の中にも出てきたお話ですが、そのひとつは、社外取締役の定義(会社法2条15号)等に関わる問題で、会社法の規定する「業務執行」とは一体何を指すのだろうか・・・というところであります。昨年、ダイヤ通商さんが、社外役員の善管注意義務違反の有無を判断するための第三者委員会を設置したことがありました(「監査役の乱」ならぬ「監査役の権限濫用」?)。そこでは、大株主が出身母体である社外監査役さんの行動(海外の取引先企業が日本の販売先を探していたときに、別の会社をこの海外企業に紹介をして、その取引の仲介を図ったこと)が問題になっておりました。もちろん、ダイヤ通商さんでは監査役という立場だったわけで、そもそも業務執行となれば善管注意義務違反になってしまいそうですが、もしこれが社外取締役による行為だとすれば、果たして業務執行にあたるのでしょうか?また、(これは江頭先生が例としてお話されていたものですが)MBO等の交渉の場に社外取締役が(社長さんの横で)立ち会う、といったことは果たして業務執行に該当するのでしょうか?

もし、こういった行動が業務執行にあたるということになりますと、会社法2条15号の「社外取締役」にはなりえないわけですが、実際には社外取締役として選任されていながら、さまざまな(会社法上の)業務執行をされておられる社外取締役の方も多いのではないか、という素朴な疑問であります。この「業務執行」とは何ぞや・・・というのが、実はよくわかっていないような気もいたします。もちろん執行すべき業務の決定権限は、取締役または取締役会が有していることはわかるのですが、ではその「業務」というのは、具体的にどのようなことまでを指しているのだろうか・・・というと、コンメンタールなどを読んでもよくわからないところであります。取締役の業務執行の正当性(有効性)を付与するのは取締役会による委任(包括委任)でありますが、たとえ正当性が付与されていなくても、対内的にも対外的にも業務執行といえるものがあるのではないかと。そういった事実上の業務執行という概念がある以上は、(社外取締役が行うべきではない)会社法2条15号の業務執行を論じる実益はありそうです。近時、社外取締役は企業価値向上のために積極的な活動が期待されているところですが、どうなんでしょう。

そしてもう一つの残された課題でありますが、これは江頭先生も(個人的なご意見として)最後におっしゃっておられましたが、会社計算規定に関する改正、つまりIFRS(国際財務報告基準)と会社法との関係規整ということであります。普通は、これだけの会社法改正が終了しますと、当分は改正はないというのが常識的な考えだそうですが、今回は会社計算規定が全く改正されなかったので、IFRSの動向により改正作業が行われる可能性があるのでは、とのこと。

2010年8月、私は早とちりをして「いよいよ法制審会社法改正論議にIFRS登場か?」とのエントリーを出しておりましたが、江頭先生のお話をお聴きして、あながち「大外れ」でもなかったようで、ホッといたしました。IFRSの国内法への取り込みは、以前にも述べましたように、各国で一致しておりません。また金商法と会社法の垣根(財務諸表と計算書類の調整問題)にも触れることになります。これを日本の法の世界と会計の世界がどのように取り扱うのか、あの平成10年 「商法と企業会計の調整に関する研究会報告書」(大蔵省・法務省)が出されたときのような調整協議の場が再び蘇るのかどうか、こちらも楽しみであります。

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2013年2月18日 (月)

不正の証跡をメールで丹念に追った事例-明治機械・会計不正事件

2月14日は大王製紙社の内部告発事件についてご紹介いたしましたが、翌日である15日には、こちらもたいへん興味深い会計不正事件の報告書がリリースされております。

→「第三者委員会調査報告書受領のお知らせ」(明治機械社 東証2部)

連結子会社の押込売上計上、架空売上計上、不適切な貸倒引当に関する事例であります(正式な決算訂正は今後なされるようです)。今回の会計不正事案の発覚は、直接的には昨年10月の証券取引等監視委員会の調査によるものでありますが、すでに平成21年12月の時点で会計監査人には、本件不正を指摘した匿名の内部告発が届いていた、ということだそうであります。

不正を主導した関係者のヒアリングが困難な状況の中、ここまで関係者の不正関与を認定した背後には、調査委員会による丁寧なメール調査があります。平成20年当時からのメールが詳細に検討されており(フォレンジックによって消去メールを復元されたのか、それともそのまま残っていたのかはわかりませんが)、相当丹念にメールが精査されていたようであります。この報告書には、精査された生々しいメールのやりとりが多数掲載されております。親会社社長の認識、親会社の常勤監査役の黙認(?)については、お読みいただいた方の印象に委ねたいと思いますが、子会社の債務超過と業績下方修正をなんとか回避したいという動機・プレッシャーのもと、果たして一般株主や投資家を裏切る行為が許容されるはずもないわけでして、どうしてこのようなコンプライアンス違反が常態化していたのだろうかと、たいへんショックを受けてしまう案件であります。

個人的に関心が高いのは、ひとつは内部告発受領時の社内調査の経過であります。匿名による内部告発が会計監査人に届いた際、会計監査人から監査役会に告発事実が報告されています。しかし、この内部告発が「内容が不正確だから」「子会社社長が事実無根であると供述したから」という理由で、監査役会を中心に行われた社内調査は、いとも簡単に終了に至っております。しかしどうみても、この会計監査人への匿名内部告発は「不正の端緒」であります。そもそも内部告発の内容が完全に事実と一致している、といったことはないわけでして(不正確なのは当然)、しかも告発の対象とされている方が否認をしたというだけで調査を終了する、というのはいわば「最初から結論ありきの社内調査」「バイアスに支配された社内調査」と言われても反論できないところであります。この点は、福岡魚市場株主代表訴訟の高裁判決なども出ている現在、とくに管理担当役員の方々にはご留意いただきたいところであります。

そしてもうひとつ関心がありますのは、明治機械さんの会計監査人(大手監査法人さん)は、内部告発を受理した平成21年12月の時点で、もっと他に対処すべきことはなかったのだろうか、という点であります。それこそ監査役との(不正対応に関する)連携はどうされたのでしょうか?(そのあたりは報告書にも記載がないのでわかりませんが)。金商法193条の3による不正届出までは至らなかったのでしょうか?たしか、「私たち、監査人にウソついてました」といったニュアンスの会話がメールで登場しておりましたが、その後の監査において不正リスクが高まったことを前提とした監査はなされていたのでしょうか?(報告書25~26頁参照)。

ちなみに、この第三者委員会報告書も、32ページあたりで監査法人のミスを具体的に指摘しております。近々「不正リスク対応監査基準」が施行される予定でありますが、まさにこのような事例が出てくるからこそ職業的懐疑心が問題とされるのではないでしょうか?不正発覚の引き金は引きたくない、との監査人の気持ちは理解しているつもりではありますが、また、監査基準が施行された後に、さらにこのような事案が積み重なれば、さらに厳格な監査基準へと改訂されていくような気がいたします。今回の報告書の判断事項につきましては、ぜひとも現役の監査役の皆様、そして現役の会計監査人の皆様のご意見を伺ってみたいものであります。

PS メールがそのまま報告書に掲載されていると、粉飾を行っている関係者の(そのときの)罪の意識がよくわかりますね。直接の関与者以外の方々は、意外と深刻な雰囲気でない、という場面もあります。関係者を擁護するつもりはありませんが、こういった雰囲気で不正が進行していく、というのが会計不正事件の現実なのかもしれません。

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2013年2月15日 (金)

大王製紙の有事ふたたび・・・このまま嵐は去っていくのか?

創業家との紛争の末、北越紀州製紙社の持ち分法適用会社としてリ・スタートされた大王製紙社ですが、どうも北越紀州製紙さんとの間で、やや問題が表面化している模様であります。大王製紙社の最近のインサイダー疑惑、粉飾決算に関する内部告発問題など、ガバナンスおよびコンプライアンス問題が浮上していることから、北越紀州製紙社は「大王製紙社において特別調査委員会を設置してはっきりさせよ」と提案されたそうです(北越紀州製紙側のリリースはこちら)。これに対して、大王製紙側は、すでに内部告発者からヒアリングも済ませて、裏付けのない私的意見であることがはっきりした、またインサイダー疑惑についても弁護士や社内調査の結果から問題なし、とのことなので調査は不要である、と回答をされたそうであります(大王製紙側のリリースはこちら)。

内部告発は製紙業界の業界新聞、金融庁、そして東証に対してなされたようですが、とくに話題になったのは今年1月から2月にかけて業界新聞に(連載モノで)内部告発文が掲載されたことかと思います。告発されたのは(たしか業界紙の紹介では)49歳の企画課長の方だったので、まさに経営の中枢にいらっしゃる方です(現在は関連会社に異動されたようですが)。そのような立場の社員が自社の粉飾決算やインサイダー問題などを(告発者が特定できる形で)業界新聞に告発し、また新聞社側も、裏付けがあるものとしてほぼ一面を使って大きく報じたものなので、製紙業界において話題にならないはずはなく、北越紀州製紙社が特別調査委員会を設置するように提案するのも当然のように思うのでありますが、いかがでしょうか(注-なお、「とおりすがりの研究者」さんのコメントでは、この内部告発文の内容は、相当に推測、私見に基づくものだった、とのことです。公正を期すために付記させていただきます)

単純に、社員の内部告発があっただけでは、その信憑性にも問題がありますので「有事」とはいえないかもしれません。しかし、本社の機密情報にアクセスしうる立場にあると(一般には思われる)企画課長の方が、おそらく職を賭して業界紙に告発した、ということからすれば無視するわけにもいかないと思われます。とくに上場会社ということなので、ステークホルダーたる一般株主に対しても説明責任があるわけで、もし特別調査委員会が「お金がかかる」ものであるならば、せめて社内調査委員会の調査結果程度は開示すべきではないでしょうかね。そもそも業界新聞も、裏付けがあるものと確信して、あれだけの内容の内部告発文を堂々と掲載しておられたわけですから、当該新聞社への大王製紙社としての対応(たとえば報じられた内容は事実無根であり法的措置をとる、等)がどうであったのかも知りたいところであります。また、外形的にはインサイダー取引があったと疑われても仕方のない状況が存在したことは間違いないわけですから、これも調査結果を公表されることが自浄能力ある企業としての姿ではないかと思うのですが。

私的な見解ではありますが、大王製紙社は(現在のところ)再び有事に至っているもののように見受けられます。内部告発をされた社員の方が、いまどのような処遇となっているのか、社内調査に対しては真摯に回答されたのかどうか、委員会設置の提案を拒絶した大王製紙社に対して、今後北越紀州製紙側としてはどう対応するのか等いろいろと興味がございますが、ともかく早期の幕引きを図ろうとされている大王製紙社として、本当にこのまま嵐は静かに去っていき(北越紀州製紙社との信頼関係も維持されて)再び平穏に事業を展開することになるのかどうか、有事対応支援を時々本業としている者としては注目しておきたいところであります。

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2013年2月14日 (木)

社外取締役が保護すべきは「一般株主」か「ステークホルダー」か

日興インサイダー事件は、検察側が訴因変更(訴因の追加)を行ったそうですね(毎日新聞ニュースはこちら)。公開買付関係者取引の訴因に、一次情報受領者による取引の訴因を追加したということですが、この二つの訴因は両立することはないと思われますので、有罪となる訴因に関する公訴事実についてのみ判断され、もうひとつの訴因については判断されない、ということになると思われます。つまり「共謀」の有無についての裁判所の判断は回避されることになりますと、これから始まる日興元執行役員の方の裁判では立証のハードルが高くなる可能性があります。これは裁判所が訴因変更を促した趣旨が、たとえば(私が推測するような)インサイダー規制の条文構造に由来するものであれば、あまり問題はないのかもしれませんが、共謀を裏付ける事実が薄いという立証の点にあったとすればハードルが高くなる可能性がある、ということになろうかと。判決は28日だそうであります。

(さて、ここからが本題ですが)オックスフォード大学のメイヤー教授の「社外取締役を増やすだけで企業統治が強化されるわけではない」 (日経ビジネスWEB 但し閲覧には会員登録が必要です)を興味深く読ませていただきました(早稲田大学と東証さんの共催シンポでもご講演されたのですね・・・)。日本の「会社法制の見直しに関する要綱」のなかで、監査・監督委員会設置会社(仮称)という機関設計が検討されていますが、メイヤー氏の理想とする取締役会の姿に最も近いのではないか、と想像したりしております。またガバナンスにおいて短期的売買を繰り返す株主の存在も重要だが、長期的保有者と短期的保有者に議決権の差を設けることも検討されるべき、とする意見も述べておられます(そういえば当ブログでも、以前DOWAホールディングスさんの敵対的買収防衛策を題材にして、こういった議論を一度取り上げたことがありましたね)。

ところで表題のとおり、このインタビュー記事では社外取締役の役割がメイヤー氏によって語られているわけですが、以前から「社外取締役は誰の利益を一番に確保しなければならないのか」と疑問に感じていたところについて、メイヤー氏は明確に回答しておられます。

(聞き手)となりますと、株価を高めて株主価値を最大化することだけが、企業の監督に徹する社外取締役の目的ではないと。

(メイヤー氏)そうです。例えば、あるメーカーが、顧客を満足させることを自社の最も重要な目的としていたとしましょう。顧客のニーズと要求を満たすだけの高品質の製品を生産することがその会社の第一の目標になります。それを追求していくうちに、株主にも相当なリターンをもたらすでしょうが、株主価値を最大化することは決して最優先の目的ではありません。さらに言えば、顧客を満足させるという第一の目標を達成するために、株主だけでなく従業員や部品を供給する会社もきちんとケアされているかどうかも、監督を担う社外取締役は確かめることになります。

なるほど、企業を取り巻くステークホルダーの利益を最優先に考えるべきであり、その追求の中で株主にも相当なリターンが得られるのだ、ということを語っておられるようです。しかし東証の「独立役員」(厳密には社外取締役または社外監査役なので、ズバリ「社外取締役」とは異なりますが)というのは、一般株主の利益を最優先に考えるべきであるとされています。たとえば先日ご紹介した東証「独立役員ハンドブック」の20頁には

株式会社のステークホルダーのうち、一番最後にその利益の分配を受ける株主が保護されることは、取引先や従業員など他のステークホルダーの利益を確保することにもつながります。短期的には、一般株主の利益とそれ以外のステークホルダーの利害が対立する場面もあり得ますが、中長期的には一般株主の利益が保護されることは、他のステークホルダーの利益確保にも役立つといえるでしょう

との解説がなされています。発想は良く似ておりますが、この独立役員たる社外役員の役割と、メイヤー氏の理想とする社外取締役の姿とは、「誰の利益を最優先とすべきか」という点において大きく異なっているものと思われます。このあたりは株主価値の最大化ということに重点を置くアメリカの発想と、企業の社会的責任(CSR)思想の深い欧州の発想の差異に起因するものなのかもしれません。

なお、昨年末にご紹介した「ずる-嘘とごまかしの行動経済学」の著者である行動経済学者のダン・アリエリー氏(米国)は、最近の金融不正事件を例に挙げて「株主価値の最大化に重きを置く企業は、金融や法律、環境の分野で、さまざまな不正行為を正当化できるおそれがある」と警告を発していました(同書233頁)。また、日本の昭和49年の商法改正の際、「企業の社会的責任」に関する条文を商法に挿入すべきかどうかの大論争になりましたが、反対派の学者の方々は、企業の社会的責任などという曖昧な規律を条文化してしまうと、取締役が善管注意義務に従った行動であることを、「社会的責任を尽くす」という言葉でどうにでも説明してしまうおそれがあり、妥当ではないと力説されておられたようです。

このように考えますと、東証の独立役員制度のように、株主価値の最大化というよりも、もう少し具体性を持たせて一般株主(支配権を持つ可能性がなく、市場の流動性のみによって経済的価値を実現できる株主)の利益保護、といった言葉で表現することが、一番具体的なものであり、その行動規範としての「ごまかし」が効かないものではないかと思えるのですが、いかがなものでしょうか。あるいは、メイヤー氏も抽象的な議論に徹するのではなく、インタビューの内容からすると、社外取締役が誰の利益を最優先とすべきかは一義的に決まるものではなく、個々の企業の理念に照らして決するべきものであり、その理念を追求する過程において各種ステークホルダーの利益に配慮すべきものなのだ、と考えておられるのかもしれません。いずれにせよ、企業価値を最大化する、というのは当社では具体的に何を目指すことなのか、その目指すなかで社外取締役がどのようなポジションにあることが期待されているのか、というところが明確にされませんと、各企業における社外取締役の役割も、わかりやすく説明できないように思えます。

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2013年2月12日 (火)

私財を投入しても不正は隠せない-マツヤ会計不正内部告発事件

昨年12月28日、不適切会計処理に関するリリースが出ておりました食品スーパー展開のマツヤ社(JDQ)が、第三者委員会調査報告書(要旨)を公表しておられます(調査委員会の報告および当社の対応について)。経営トップまで粉飾に加担していた、とのことで社長、副社長の辞任も併せて公表されていますが、架空の仕入割戻しを計上することで過大な利益を計上していたものであり、過年度決算の訂正をされるそうであります。信濃毎日新聞ニュース が事件の概要を伝えております。

社内におけるリベート計上に関する(財務報告の信頼性向上のための)内部統制システムの整備および運用に問題があったことを、この報告書は丁寧かつわかりやすく検証しているため、再発防止策に説得力があります。経営者関与の粉飾事案について、どこまで実効性があるかは意見が分かれるかもしれませんが、本事案を読むと、内部監査部門の充実がいかにリスク管理にとって重要か、とても理解できるところです。また、地域(長野県内)における大手スーパーとの競争激化によって業績が悪化したため、他社から迎え入れた剛腕幹部の力量に期待したものの、この方が現場に相当のプレッシャーをかけてしまったことから粉飾を容認するに至ったストーリーは、他社にも参考になるところかと。

それにしても、経営トップが粉飾に気付き、副社長、専務と一緒に合計6000万円を(私財をもって)穴埋めした3か月後、同社の監査を担当する監査法人に粉飾に関する内部告発が届いています(告発事実の一部は不正確なものでしたが)。ここは単なる推測ですが、他社からやってきた剛腕幹部に対する社員の憤りだったのかもしれません。また、この内部告発によって社内調査が開始されることになりますが、これだけ多額の穴埋めをして「なかったことにしよう」と考えていた社長以下3名の方々は、この内部告発をどのように感じておられたのでしょうか。なんとか内々に処理できる、と考えていたところで、監査法人から不正の疑惑をつきつけられたものでありますが、やはり「不正の隠ぺい」は代償が大きいなぁと改めて認識するところであります。監査役も経営執行部に対しては、不正の端緒(在庫商品の急激な増加)を指摘し、内部統制システムの強化を求めていたところだったので、不正調査に関する監査役と会計監査人との足並みがそろっていたのかもしれません。

内部通報制度が機能していなかった点も気がかりではありますが、CFEとして最も問題だと感じるのは財務報告の信頼性を図るための社内ルール違反が公然と行われていたということであります。リスクアプローチの手法による監査等に基づいて、社内ルール自体が整備されていなかったことも問題ではありますが(これは社員教育等で長期的な能力向上が必要かもしれません)、すでに存在しているルールすら組織として守られていなかったことが、関係者の証言内容等から判明します。社内ルール違反は、平時こそ軽微なミスにしか映らないかもしれません。しかし、このような有事を招く最大の要因は、平時における小さな社内ルール違反の積み重ねであります。この積み重ねがなければ、経営トップが私財を投入して隠ぺいしなければならない事態に至るまでに、なんとか早期発見が可能であったと思われます。同業他社で辣腕をふるった営業マンをスカウトし、担当役員として活躍してもらいたい・・・という強い期待が、業績悪化によってプレッシャーを感じていた経営者の目を曇らせてしまったのかもしれません。

なお、本事例における第三者委員会は、不正な在庫操作について調査を進める中で、別途在庫商品の過大計上の事実を疑わせる端緒を突き止め(「異常値の発見」報告書15頁)、過大計上に至る原因を分析し、追加的に過年度決算の訂正に結び付けています。いわゆる件外調査によって他の虚偽記載事由を見つけ出したことになりますが、こういった件外調査によって虚偽記載を発見することにより、委員会活動の公正性が高まる一例かと思われます。

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2013年2月 8日 (金)

会計監査人と監査役との「違和感」の共有-フタバ産業事件ふたたび

今年3月で当ブログも丸8年となりますが、2009年ころにずいぶんと取り上げましたフタバ産業事件につきまして(不適切な会計処理が発覚したのは2008年ですが)、ご承知のとおり元社長の刑事事件に発展して再び話題になっております。社長の肝いりで社外に設立したロボット製造会社(持分法適用会社)の業績が悪化し、これをフタバ産業が、社内の正式な資金支援の手続きを回避しながら、なんとか実質的支援を続けようとしていたところ、監査法人から「なんかおかしい」と勘付かれてしまい、苦し紛れに虚偽の伝票を作成してしまったというもの。本日(2月7日)の日経ニュースでは、逮捕された元社長が、監査役に対しても虚偽の伝票を示してウソの説明を行っていた、と報じられています。

2008年当時の役員履歴をみますと、監査役は5名で、トヨタ自動車出身の常勤監査役、社外監査役、東京銀行出身の監査役がおられますので、プロパー出身の元社長からみると、かなり「こわもての監査役」だったようです。当時の特別調査委員会報告書、責任追及委員会報告書の「事実経過」を読み返しますと、監査役会として、この「社長肝いり会社」とフタバ産業との取引については相当に注意をしており、取締役らに対して何度も説明要求を繰り返していたそうです。虚偽の伝票を監査役に示した、というのも、やはり監査役らに対する元社長の苦し紛れの対応だったのかもしれません。

昨年の日経ヴェリタスでも「監査法人が不正を発見した案件」と紹介されていたとおり、よく報告書を読み返しますと、2005年ころには、すでに会計監査人が違和感を感じていたようで、この違和感を監査役と共有していた事実が記載されております。「平成17年9月29日開催の取締役会における対応の是非」と題する項目では、会計監査人から指摘をうけた監査役が、元社長と対決するシーンが出てきます。この対決を議事録に留めておくよう監査役が要求したところ、元社長がこれを拒否したことも記されています。このあたりが、まさに「不正の兆候」が取締役会で顕在化し、フタバ産業社が有事に突入していったあたりかと思われます。その後も、これまで主犯格といわれていた元執行役員の方が、何度も社内ルール違反を繰り返すわけですが、なぜここまで問題になっているにもかかわらず、「社長肝いり会社」を支援するのだろう・・・と疑問に感じておりましたが、今回の刑事事件でなんとなく納得できそうです。

いずれにしましても、2005年あたりから、監査役会と取締役会との間で、緊張関係が出てきたことが想像できますが、(もっと早くなんとかならなかったのか・・・という疑問もありそうですが)会計監査人と監査役との連携によって経営者関与の不正が発見できた数少ない事例ではないかと思われます。

このフタバ産業事件のもうひとつの特筆すべき点は、2009年に三つの第三者委員会が設置され、それぞれ報告書を提出しているところです。いずれの第三者委員会もフタバ産業が依頼したものですが、後の二つは実質的には親会社ではないか、と言われています。2009年8月の日経法務インサイドの記事では、最初の第三者委員会報告書は、経営陣に責任なし、との結論だったそうです(これは公表されていません)。私が監査役の代理人を務めたアイ・エックス・アイ社についても、不適切な会計処理が発覚してから社長が逮捕されるまで1年を要しましたが、その間、第三者委員会が設置され、社長以外の主犯格が独断で架空循環取引をやったと結論つけていました。(ちなみにフタバ産業の二つ目の報告書では、元社長が主導していた疑いがあることを明記しています。)日弁連の第三者委員会ガイドラインが2010年に制定されたのも、こういった時代背景があったのではないかと。

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2013年2月 6日 (水)

東証・独立役員セミナー(パネルディスカッション)のご報告

2月5日、東京国際フォーラムB7会場にて開催されました、東京証券取引所主催「独立役員セミナー」のパネルディスカッション「独立役員・こんな時どうする?」に登壇させていただきました(一日ずれていたら、私は雪で出席できなかったかもしれません)。第1回の独立役員セミナーから約2年半ぶりの開催でしたが、700名の独立役員の方々がお集まりになり、たいへん盛況でございました。モデレーターは西村あさひ法律事務所の武井一浩さん、パネリストは経済同友会の副代表幹事の橘・フクシマ・咲江さん、日本CFO協会理事長(伊藤忠商事元副社長CFO)の藤田さんなど、現在も数社の社外取締役を務めていらっしゃる方々や、いちごアセットマネジメントのスコット・キャロンさんとご一緒させていただきましたが、正直、登壇している私自身が(横で拝聴していて)たいへん勉強になりました。といいますか、普段モヤモヤしていたものが、ずいぶんとスッキリ整理できた気分です。

先日ご紹介しましたとおり、私は社外監査役たる独立役員として何ができるか・・・というポジションに徹しましたので、「独立役員が業績評価を報酬の決定にどのように活かすか」といったご質問には、ちょっと回答できませんでした。独立役員としての活動において、監査役であることの意識はあるか、とのご質問もありましたが、「たしかにありますね」と回答したものの、その理由を明確にお話できませんでした。新規投資などの重要な業務執行の決定に関する取締役会などでは、どうしても「経営判断の合理性」の点について、取締役の善管注意義務を尽くしたかどうかを中心に検討します、と回答したかったのですが、うまく語ることができませんでした(汗)。会場での様子は、後日東証WEBにて議事録が公表されますし、今回は(なんと!)動画配信される(ということは議事録の修正がきかない?)そうですので、お越しいただけなかった皆様におかれましては、そちらのほうで議論の模様をご確認いただければと思います。

ディスカッション終了後、控室にて、東証の皆様を交えて登壇者で40分ほど、懇談させていただきましたが、これがなかなか私の関心を惹くものでありました。ここで書いてもよさそうな話題のみ取り上げますと、①社外取締役に就任するにあたり、本当に留意するのは社外取締役対応の事務局の力量(これはかなり重要とのこと)、②社内と社外で情報格差が生じるのは当たり前、その情報格差が存在する中で、何ができるかを考えないといけない(この点、私は少し肩に力が入りすぎていたかもしれません)、③今日は「社外取締役1人で何ができるか」を検討したが、現実には一人の場合と二人の場合とでは大きな違いがある(二人であれば社外取締役の役割が大きく異なる)、④会社役員賠償責任保険(D&O保険)の適用範囲が真剣に検討されたら、「社外取締役のリスク論」が盛り上がるのではないか、そして最後に⑤あの「独立役員ハンドブック」はよく出来ている、これまでの社外取締役としての活動がほぼ間違っていないことが確認できた、とのこと(だそうです>編集担当のKさん ちなみに商事法務で昨年一番売れた本、とのこと)

いつもこういった社外役員シンポで思うところですが、経営者や独立役員の皆様へのメッセージとしては参考になるとしても、現実に社外役員を迎え入れる会社側の実務担当者の皆様へのメッセージとしては、「もうひと押し」が必要なのではないか、と。「もう、社外取締役が企業価値向上に有用、ということは一般論としてはわかった。でも、どうすれば役に立つのか具体性や説得力に欠けるんだよな」という声はよく耳にいたします。社外取締役が実質的に制度化されるにあたっては、実はそのあたりをきちんと考えること(アイデアを出すこと)が先決ではないか、と考え込むところです。

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2013年2月 4日 (月)

インサイダー規制に関する検察のジレンマと罪刑法定主義の呪縛

私事で恐縮ですが、今月23日、24日に東京大学で開催されます「法曹倫理国際シンポジウム」にて基調講演をさせていただきます。英語が堪能ではございませんので、どなたかに私のレジメを英訳していただくことになっております(すみません・・・<m(__)m>)私が発表しますのは、(企業不祥事発生時の)第三者委員会と職業倫理に関するテーマでございます。

ところで、企業価値判断に関する第三者委員会委員の職業倫理が問題となりそうなところですが、第三者委員会委員が情報を提供したとされるインサイダー事件に関する記事が読売新聞の1月29日付け朝刊に掲載されておりました。記事だけでは真実かどうかは即断できませんが、会計専門職にある委員の方がTOB情報を昔からの知り合いに漏えいしたのではないか、との疑惑だそうであります。情報提供者、ということなので、現行のインサイダー規制の上では処罰が難しい、と報じられています。

最近は、インサイダー規制、とりわけインサイダー情報を他人に提供した者のモラルに関する話題が増えておりますが、FACTA誌でも取り上げられておりますSMBC日興証券元執行役員と知人の会社役員のインサイダー刑事裁判がスゴイことになっております。会社役員側の刑事裁判において、裁判所は予定していた判決言い渡しを延期して、訴因変更を促したそうであります。裁判所が訴因変更を促す・・・ということは実務的には生じるところでありますが、判決言渡し直前という時期においては異例のことかと思います。裁判所は「このままでは会社役員を有罪にはできない」とのことだそうですが、被告人側としてはなんとも・・・(会社役員の弁護人は東京地検特捜部出身の著名な方ですが、当然怒り心頭だったようで)。

証券会社の執行役員の方がインサイダー情報を漏えいするということなので、検察側はこの会社役員よりも証券会社の執行役員側の悪質性を強調したい、とのことだったと推測いたします。裁判では、双方をTOBの「公開買付け等関係者」によるインサイダー取引の共同正犯として起訴されていました。執行役員と会社役員がこの取引によって「ギブ&テイク」の利益状況にあるところから、共謀共同正犯が立件できると検察側は見ていたのではないかと。とりわけ真正身分犯については身分のない者も共同正犯が成立する、というのが判例・通説の立場なので、なんとかなるだろう・・・との見込みがあったものと推測いたします。

しかし裁判所は「検察の立件には無理がある」と感じたようであります。たしかに真正身分犯の共同正犯は非身分者にも成立する、というのが判例の立場ではありますが、本件は、そもそもインサイダー規制の中に別途「一次情報受領者」によるインサイダー取引規制の条文が存在します。この条文があるということは、一次情報受領者たる共犯的立場の者は、この条文に該当する場合のみ処罰の対象とされることを法が予定しているのではないか・・・とも考えられそうであります。いや、そう考えることが刑法の大原則たる罪刑法定主義の考え方に合致するのではないか、と。そう考えますと、会社役員側の刑事判決直前になって、裁判所が訴因変更を促した、というのもナットクできるような気がいたします。

検察側が、裁判所の指示に従って訴因を変更するとなると、会社役員側を第一次情報受領者によるインサイダーとして処罰を求めることになりますが、そうなると元執行役員についてもこの「ほう助犯」として処罰を求めることになりそうです。しかしこれでは「元執行役員の情報漏えいこそ悪質」と捉えた検察の立件構想は不発に終わってしまいます。それだけでなく、ほう助犯として捉えるとしても、情報提供行為は構成要件該当性の問題なので、なにをもって正犯者の犯行を容易にしたのか、そのあたりの具体的な事実が明確に主張されなければ成立しないのかもしれません(このあたりは、ちょっと私も自信がありませんが)。検察としては、控訴審の裁判官は共同正犯を認めてくれる、ということに賭けて、このまま訴因を維持するのでしょうか、それとも変更するのでしょうか。

元執行役員側も、公開買付け等関係者によるインサイダー取引の共同正犯として立件されているそうですが(ただしこちらは否認事件)、会社役員側に共同正犯が否定される以上は、防御の対象となる事実自体が変わってきますので、こちらも否定されることになるものと思われます。こういった検察のジレンマも、やはり現行のインサイダー取引に関する条文構造の「建てつけの悪さ」によるものかと。現在、インサイダー取引規制については情報提供者も正犯として立件できるように改正が検討されておりますが、身分犯、不真正身分犯の共犯に関する最高裁の考え方と矛盾しないような条文を検討しなければ、将来的に同様の問題が生じることも考えられるのではないでしょうか。

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