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2013年2月18日 (月)

不正の証跡をメールで丹念に追った事例-明治機械・会計不正事件

2月14日は大王製紙社の内部告発事件についてご紹介いたしましたが、翌日である15日には、こちらもたいへん興味深い会計不正事件の報告書がリリースされております。

→「第三者委員会調査報告書受領のお知らせ」(明治機械社 東証2部)

連結子会社の押込売上計上、架空売上計上、不適切な貸倒引当に関する事例であります(正式な決算訂正は今後なされるようです)。今回の会計不正事案の発覚は、直接的には昨年10月の証券取引等監視委員会の調査によるものでありますが、すでに平成21年12月の時点で会計監査人には、本件不正を指摘した匿名の内部告発が届いていた、ということだそうであります。

不正を主導した関係者のヒアリングが困難な状況の中、ここまで関係者の不正関与を認定した背後には、調査委員会による丁寧なメール調査があります。平成20年当時からのメールが詳細に検討されており(フォレンジックによって消去メールを復元されたのか、それともそのまま残っていたのかはわかりませんが)、相当丹念にメールが精査されていたようであります。この報告書には、精査された生々しいメールのやりとりが多数掲載されております。親会社社長の認識、親会社の常勤監査役の黙認(?)については、お読みいただいた方の印象に委ねたいと思いますが、子会社の債務超過と業績下方修正をなんとか回避したいという動機・プレッシャーのもと、果たして一般株主や投資家を裏切る行為が許容されるはずもないわけでして、どうしてこのようなコンプライアンス違反が常態化していたのだろうかと、たいへんショックを受けてしまう案件であります。

個人的に関心が高いのは、ひとつは内部告発受領時の社内調査の経過であります。匿名による内部告発が会計監査人に届いた際、会計監査人から監査役会に告発事実が報告されています。しかし、この内部告発が「内容が不正確だから」「子会社社長が事実無根であると供述したから」という理由で、監査役会を中心に行われた社内調査は、いとも簡単に終了に至っております。しかしどうみても、この会計監査人への匿名内部告発は「不正の端緒」であります。そもそも内部告発の内容が完全に事実と一致している、といったことはないわけでして(不正確なのは当然)、しかも告発の対象とされている方が否認をしたというだけで調査を終了する、というのはいわば「最初から結論ありきの社内調査」「バイアスに支配された社内調査」と言われても反論できないところであります。この点は、福岡魚市場株主代表訴訟の高裁判決なども出ている現在、とくに管理担当役員の方々にはご留意いただきたいところであります。

そしてもうひとつ関心がありますのは、明治機械さんの会計監査人(大手監査法人さん)は、内部告発を受理した平成21年12月の時点で、もっと他に対処すべきことはなかったのだろうか、という点であります。それこそ監査役との(不正対応に関する)連携はどうされたのでしょうか?(そのあたりは報告書にも記載がないのでわかりませんが)。金商法193条の3による不正届出までは至らなかったのでしょうか?たしか、「私たち、監査人にウソついてました」といったニュアンスの会話がメールで登場しておりましたが、その後の監査において不正リスクが高まったことを前提とした監査はなされていたのでしょうか?(報告書25~26頁参照)。

ちなみに、この第三者委員会報告書も、32ページあたりで監査法人のミスを具体的に指摘しております。近々「不正リスク対応監査基準」が施行される予定でありますが、まさにこのような事例が出てくるからこそ職業的懐疑心が問題とされるのではないでしょうか?不正発覚の引き金は引きたくない、との監査人の気持ちは理解しているつもりではありますが、また、監査基準が施行された後に、さらにこのような事案が積み重なれば、さらに厳格な監査基準へと改訂されていくような気がいたします。今回の報告書の判断事項につきましては、ぜひとも現役の監査役の皆様、そして現役の会計監査人の皆様のご意見を伺ってみたいものであります。

PS メールがそのまま報告書に掲載されていると、粉飾を行っている関係者の(そのときの)罪の意識がよくわかりますね。直接の関与者以外の方々は、意外と深刻な雰囲気でない、という場面もあります。関係者を擁護するつもりはありませんが、こういった雰囲気で不正が進行していく、というのが会計不正事件の現実なのかもしれません。

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