会計監査人と監査役との「違和感」の共有-フタバ産業事件ふたたび
今年3月で当ブログも丸8年となりますが、2009年ころにずいぶんと取り上げましたフタバ産業事件につきまして(不適切な会計処理が発覚したのは2008年ですが)、ご承知のとおり元社長の刑事事件に発展して再び話題になっております。社長の肝いりで社外に設立したロボット製造会社(持分法適用会社)の業績が悪化し、これをフタバ産業が、社内の正式な資金支援の手続きを回避しながら、なんとか実質的支援を続けようとしていたところ、監査法人から「なんかおかしい」と勘付かれてしまい、苦し紛れに虚偽の伝票を作成してしまったというもの。本日(2月7日)の日経ニュースでは、逮捕された元社長が、監査役に対しても虚偽の伝票を示してウソの説明を行っていた、と報じられています。
2008年当時の役員履歴をみますと、監査役は5名で、トヨタ自動車出身の常勤監査役、社外監査役、東京銀行出身の監査役がおられますので、プロパー出身の元社長からみると、かなり「こわもての監査役」だったようです。当時の特別調査委員会報告書、責任追及委員会報告書の「事実経過」を読み返しますと、監査役会として、この「社長肝いり会社」とフタバ産業との取引については相当に注意をしており、取締役らに対して何度も説明要求を繰り返していたそうです。虚偽の伝票を監査役に示した、というのも、やはり監査役らに対する元社長の苦し紛れの対応だったのかもしれません。
昨年の日経ヴェリタスでも「監査法人が不正を発見した案件」と紹介されていたとおり、よく報告書を読み返しますと、2005年ころには、すでに会計監査人が違和感を感じていたようで、この違和感を監査役と共有していた事実が記載されております。「平成17年9月29日開催の取締役会における対応の是非」と題する項目では、会計監査人から指摘をうけた監査役が、元社長と対決するシーンが出てきます。この対決を議事録に留めておくよう監査役が要求したところ、元社長がこれを拒否したことも記されています。このあたりが、まさに「不正の兆候」が取締役会で顕在化し、フタバ産業社が有事に突入していったあたりかと思われます。その後も、これまで主犯格といわれていた元執行役員の方が、何度も社内ルール違反を繰り返すわけですが、なぜここまで問題になっているにもかかわらず、「社長肝いり会社」を支援するのだろう・・・と疑問に感じておりましたが、今回の刑事事件でなんとなく納得できそうです。
いずれにしましても、2005年あたりから、監査役会と取締役会との間で、緊張関係が出てきたことが想像できますが、(もっと早くなんとかならなかったのか・・・という疑問もありそうですが)会計監査人と監査役との連携によって経営者関与の不正が発見できた数少ない事例ではないかと思われます。
このフタバ産業事件のもうひとつの特筆すべき点は、2009年に三つの第三者委員会が設置され、それぞれ報告書を提出しているところです。いずれの第三者委員会もフタバ産業が依頼したものですが、後の二つは実質的には親会社ではないか、と言われています。2009年8月の日経法務インサイドの記事では、最初の第三者委員会報告書は、経営陣に責任なし、との結論だったそうです(これは公表されていません)。私が監査役の代理人を務めたアイ・エックス・アイ社についても、不適切な会計処理が発覚してから社長が逮捕されるまで1年を要しましたが、その間、第三者委員会が設置され、社長以外の主犯格が独断で架空循環取引をやったと結論つけていました。(ちなみにフタバ産業の二つ目の報告書では、元社長が主導していた疑いがあることを明記しています。)日弁連の第三者委員会ガイドラインが2010年に制定されたのも、こういった時代背景があったのではないかと。
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