« 会計監査人と監査役との「違和感」の共有-フタバ産業事件ふたたび | トップページ | 社外取締役が保護すべきは「一般株主」か「ステークホルダー」か »

2013年2月12日 (火)

私財を投入しても不正は隠せない-マツヤ会計不正内部告発事件

昨年12月28日、不適切会計処理に関するリリースが出ておりました食品スーパー展開のマツヤ社(JDQ)が、第三者委員会調査報告書(要旨)を公表しておられます(調査委員会の報告および当社の対応について)。経営トップまで粉飾に加担していた、とのことで社長、副社長の辞任も併せて公表されていますが、架空の仕入割戻しを計上することで過大な利益を計上していたものであり、過年度決算の訂正をされるそうであります。信濃毎日新聞ニュース が事件の概要を伝えております。

社内におけるリベート計上に関する(財務報告の信頼性向上のための)内部統制システムの整備および運用に問題があったことを、この報告書は丁寧かつわかりやすく検証しているため、再発防止策に説得力があります。経営者関与の粉飾事案について、どこまで実効性があるかは意見が分かれるかもしれませんが、本事案を読むと、内部監査部門の充実がいかにリスク管理にとって重要か、とても理解できるところです。また、地域(長野県内)における大手スーパーとの競争激化によって業績が悪化したため、他社から迎え入れた剛腕幹部の力量に期待したものの、この方が現場に相当のプレッシャーをかけてしまったことから粉飾を容認するに至ったストーリーは、他社にも参考になるところかと。

それにしても、経営トップが粉飾に気付き、副社長、専務と一緒に合計6000万円を(私財をもって)穴埋めした3か月後、同社の監査を担当する監査法人に粉飾に関する内部告発が届いています(告発事実の一部は不正確なものでしたが)。ここは単なる推測ですが、他社からやってきた剛腕幹部に対する社員の憤りだったのかもしれません。また、この内部告発によって社内調査が開始されることになりますが、これだけ多額の穴埋めをして「なかったことにしよう」と考えていた社長以下3名の方々は、この内部告発をどのように感じておられたのでしょうか。なんとか内々に処理できる、と考えていたところで、監査法人から不正の疑惑をつきつけられたものでありますが、やはり「不正の隠ぺい」は代償が大きいなぁと改めて認識するところであります。監査役も経営執行部に対しては、不正の端緒(在庫商品の急激な増加)を指摘し、内部統制システムの強化を求めていたところだったので、不正調査に関する監査役と会計監査人との足並みがそろっていたのかもしれません。

内部通報制度が機能していなかった点も気がかりではありますが、CFEとして最も問題だと感じるのは財務報告の信頼性を図るための社内ルール違反が公然と行われていたということであります。リスクアプローチの手法による監査等に基づいて、社内ルール自体が整備されていなかったことも問題ではありますが(これは社員教育等で長期的な能力向上が必要かもしれません)、すでに存在しているルールすら組織として守られていなかったことが、関係者の証言内容等から判明します。社内ルール違反は、平時こそ軽微なミスにしか映らないかもしれません。しかし、このような有事を招く最大の要因は、平時における小さな社内ルール違反の積み重ねであります。この積み重ねがなければ、経営トップが私財を投入して隠ぺいしなければならない事態に至るまでに、なんとか早期発見が可能であったと思われます。同業他社で辣腕をふるった営業マンをスカウトし、担当役員として活躍してもらいたい・・・という強い期待が、業績悪化によってプレッシャーを感じていた経営者の目を曇らせてしまったのかもしれません。

なお、本事例における第三者委員会は、不正な在庫操作について調査を進める中で、別途在庫商品の過大計上の事実を疑わせる端緒を突き止め(「異常値の発見」報告書15頁)、過大計上に至る原因を分析し、追加的に過年度決算の訂正に結び付けています。いわゆる件外調査によって他の虚偽記載事由を見つけ出したことになりますが、こういった件外調査によって虚偽記載を発見することにより、委員会活動の公正性が高まる一例かと思われます。

|

« 会計監査人と監査役との「違和感」の共有-フタバ産業事件ふたたび | トップページ | 社外取締役が保護すべきは「一般株主」か「ステークホルダー」か »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 私財を投入しても不正は隠せない-マツヤ会計不正内部告発事件:

« 会計監査人と監査役との「違和感」の共有-フタバ産業事件ふたたび | トップページ | 社外取締役が保護すべきは「一般株主」か「ステークホルダー」か »