「取締役会の乱」が企業を守る事例-明治機械社・続編
2月23日、法曹倫理国際シンポ「法曹の使命と職業倫理」の午後のセクションにおきまして、第三者委員会と弁護士倫理に関する基調講演をさせていただきました(東京大学法学部の会議室での講演というのは初めてのことでした)。当該セッションでは、法曹の職域が拡大されるなかで、弁護士倫理は確保できるか、といった主題でディスカッションが設定されておりました。カナダ・ヨーク大学のソッシン教授(ロースクール院長)とご一緒させていただいたのですが、カナダでも第三者委員会は存在する、カナダの場合は裁判官や検察官など公益代表者が就任する、日本の場合、弁護士では中立性という概念が想定できず、その実効性は確保できないのではないか、といった趣旨のご発表をされました(なるほど、海外からは第三者委員会というのは、こういった理解をされるのか、と納得いたしました)。
弁護士倫理という意味では、私はステークホルダーの利益のため、(個別の利害関係者ではなく、社会総体の利益)という概念を持ち出して、これまでの弁護士倫理の枠組みのなかで、その外観的独立性や精神的独立性はなんとか確保できるという趣旨のことを申し上げましたが、たとえ弁護士が委員として就任していても、経営者ではなく会社自身の存立にとって意義のある活動ができ、委員会の実効性が確保できるのでは・・・ということを実証できそうな事例が2月22日にリリースされております。先日こちらのエントリーでご紹介した子会社の不適切会計処理により第三者委員会を立ち上げた明治機械社の件であります(代表取締役の異動に関するお知らせ)。当ブログのタイトルでは「取締役会の乱」などと書いておりますが、そもそも取締役会には代表者に対する監督機能があるわけですから、法律的には「あたりまえ」のことが起きたにすぎないのかもしれません。ただ、実社会ではここまではっきりと取締役会が社長にノーを突きつけた例は珍しいと思いますので、あえてこのようなタイトルとさせていただきました。
わずか3枚ばかりのリリースですが、中身はたいへん濃いものになっております。第三者委員会は「子会社不正が証券取引等監視委員会による調査まで発覚できなかったということについては、社長の責任は否定できない」と指摘し、さらにコンプライアンス体制やガバナンス改革等、様々な提言をしていました。個人的には、社長さんは(長期間)問題となっている子会社の非常勤監査役たる地位にもあったわけですから、当該子会社の会計不正についての責任はかなり重いものではないかと推測いたします。
にもかかわらず、同社の社長は同社の抜本的改革には何ら着手しようとせず、そればかりか独断で監査法人を変更しようとして、独断で新旧の監査法人に変更の通知を出していたそうであります(もちろん取締役会の承認を得ていないので変更の効力はないとのこと)。また同社は更なる真相解明のために社内調査委員会を立ち上げようとしたところ、その社内調査委員会設置の趣旨が、取締役会と社長との間で差異があった(どうも社長さんは自身や第三者の責任回避を意図としていたそうであります)そうであります。会社の将来に危機感を抱いた取締役会は、直ちに社長に対する解職決議を行ったところ、その後社長が(社長職だけでなく、取締役たる地位も)辞任をしたとのこと。まさに自浄能力を発揮したといえるものかと思われます。
同社は、3Q報告書の提出期限(2月14日)の直後に第三者委員会報告書が提出されており、一か月以内に報告書を提出しないと上場廃止になってしまう、という有事に至っておりましたので、取締役会としても会社を守るための危機意識はかなり高まっていたものと思われます。そういった危機意識が背中を後押ししているところも大きいものと思われますが、第三者委員会の提言の実効性は、こういったソフトローによって担保されているのではないでしょうか。先日、明治機械社の会計不正事件に関する第三者委員会報告書については、かなりレベルが高いものとしてご紹介いたしましたが(ちなみに委員長は元東京地検特捜部部長、委員には元東京地検特捜部検事、証券取引等監視委員会特別調査課におられた会計士の方など)、本当に独立性が高い第三者委員会報告書が提出されれば、たとえ社長の反対があったとしても、このように実効性が担保される、といった好例ではないでしょうか。こういった事例が集積されることで、第三者委員会の評価も少しずつ高まるように思います。
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