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2013年3月11日 (月)

経理財務部門・内部監査部門必読!NOS第三者委員会報告書

ネットワーク運用業務大手のネットワンシステムズ社(以下、NOS社といいます。東証1部)が3月8日「当社元社員による不正行為に係わる調査結果に関するお知らせ」と題して、営業担当者らによる会社資産横領事件に関する第三者委員会報告書を公表しています。不正行為疑惑について社内調査に従事していた外部専門家の方々が、そのまま第三者委員会を構成しているため、純粋な日弁連ガイドライン上の第三者委員会ではありませんが、これに準拠する旨の合意書を同社と締結したうえで活動されたもののようであります。

委員長は日弁連第三者委員会ガイドラインの産みの親である国広弁護士です。さすが期待を裏切らない(?)内容でありまして、この報告書自体が資産流出型の不正防止体制整備の参考書になるかと思われます。文章が平易であり、(従業員不正を許してしまった)内部統制上の問題点もわかりやすく解説されています。本来ならば、もう少しじっくりと社内調査を進めたいところだったのかもしれませんが、おそらく監査法人より四半期報告書に対する意見が出せない(つまり調査後1か月ほどで報告書をまとめないと上場廃止になってしまう)という状況になったために、社内調査を第三者委員会調査に移行させ、時間との闘いの中で(必死で)調査をまとめ上げられたのではないかと推測されます。復元メールも事実認定のために活用されています。会計監査人が意見を出せるように、発覚した不正の「広がり」を確定する、という意味においては、本件調査とは別に「件外調査」の重要性、とりわけCAAT(コンピュータ利用監査技法)を駆使したフォレンジック(全件調査から不正疑惑を抽出する作業)の重要性があらためて認識されるところであります。

某銀行出身の中部地区営業責任者が、太い銀行とのパイプを利用して、社外関係者らと共謀のうえ7億8000万円ほどの会社資金を横領していたというもので、架空の外注費名目で不正請求を繰り返すという手法が使われていたようであります。会社経費に関する国税調査によって疑義が持たれたことが発端でありますが、社内に「これはおかしい」と声を上げた業務管理グループ社員が存在したことが大きかったように読めます。このような社員が存在するかどうか、これは運によるところもあるように(私は)感じております。外部関与者の所属する組織(金融機関等)でも第三者委員会が設置され、鋭意調査中のようですが、これらの組織においては、NOSでの不正が発覚していなければ、まったく疑惑にすら気が付いていなかったのではないでしょうか。

報告書では、外部者と共謀して不正請求を行っていた営業担当者の問題行為や、その発覚を防ぐための証拠隠ぺい行動について克明に描かれており、驚嘆の一言に尽きますが、このあたりの事情につきましては、ぜひ経理財務担当者、内部監査担当者の皆様にはお読みいただきたい内容です。社内で抜群の営業成績を上げ、とりわけ優良顧客(ここでは金融機関)に対して太いパイプを有する営業責任者の行動は誰も止められないものなのでしょうか?経理財務担当者や内部監査担当者は、「あの営業マンはおかしい」と感じても、恫喝されたり、不正隠ぺいを懇願されると、会社のためにご自身の魂を売ってしまうのでしょうか?それが組織で生きる社員のオキテなのでしょうか?この委員会報告書の最後に書かれていますが、こういった社員のほとんどが「まじめで誠実」な社員ということです。そういった真面目で誠実な社員の「ほんの少しの不正つじつま合わせ」がたくさん集まることによって大きな不正に発展してしまうのではないでしょうか。

それにしても、「俺は当社に多大な貢献をしているのだから、これくらい裏で頂戴してもバチは当たらないだろう」といった意識で会社資金を横領してしまう、というのはよく見かける正当化理由であります。委員会によるヒアリングに対して、「これだけ貢献してきたことを、社内処分にも斟酌してほしい」と懇願されていたそうですが、実にリアルであります。

そういえば、以前当ブログでもご紹介した2011年の中日本高速道路社の担当者による所得税法違反事件にも共通するところがあるように思います。あの事件では、企業がどうしても事業を進めていくために不可欠な用地買収の担当者が、「誰もやりたがらない、キビシイ役回りを自分がひとりで進めている」という意識を持っていたために、またその意識を他の社員も共有していたために、不正に手を染めた社員は「汚れ役は俺しかできないのだから、これくらいもらったってバチは当たらないだろう」との意識を持ち、また周囲もそれを認めて、やりたい放題の資金流用を誰もとめられなかった、という内容でありました(第三者委員会報告書の内容から判明いたします)。NOSの事例でも、内部監査部門も経理財務部門も、会社の屋台骨を支えている営業担当者の行動であるがゆえに「〇〇さん案件」として誰も口をはさめない、はさめないどころか、見て見ぬふりをするように指示され、これに応じてしまったというところは、なんともコンプライアンス経営のむずかしさを痛感するところであります。

とりわけこの営業責任者の方は、経理財務部門を恫喝する場面では、リスク管理の盲点を上手に突いています。不正はどこの会社でも起きる、と考えれば「不正が起きていること」を前提とした調査が行われます。しかし、平時において「不正は起きる」という視点で調査を行おうとすると、かならず「君は当社にそんなことをする人間がいるとでも思っているのか、それでも君は誇りをもった社員なのか」と批判を受けるのです。しかし、そこをクリアしなければ有事に役立つリスク管理などできないわけでして、この営業責任者の恫喝はまさにイタイところを突いています。

どうしてこれだけ大きな会社で内部通報制度が機能しなかったのだろうか、と素直に疑問が出るところなので、この報告書でも、内部通報制度が機能しなかった状況を社員へのインタビュー等で把握しておられます。

「内部通報などしたら、君の経歴にキズがつくぞ」(社員が管理職から言われたこと)

全体発注の3割が架空請求によるもの、というのはどうみても不自然です。その不自然さをそのまま許容していた組織風土こそ、どこの企業でも「自社にもあるのでは」と、チェックしてみる価値はあるのではないでしょうか。これからは自浄能力のある組織でなければ生き残れない時代です。自浄能力が失われていく組織にならないためにも、本事例においてもっとも重大なコンプライアンス違反と言えるものは何か、多くの企業の皆様にお考えいただくべきではないかと思い、ご紹介した次第であります。

3月 11, 2013 内部統制の事例検証 |

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コメント

NOSの調査報告、大変参考になりました。ありがとうございます。
こういう情報が世に出ていることには中々気付かないので、山口先生からタイムリーにご紹介を頂けると助かります。それにしても、国税局の調査能力には敬服しますね。小職も経理部で国税対応をしておりましたが、知識は兎も角、あの突破力、執着力には頭が下がります。国家権力を背景にしているから…でしょうが、あの力で監査を遂行できれば、世の不正は相当減るんじゃないかと感じますねぇ。

投稿: パーやん | 2013年3月12日 (火) 08時41分

調査報告、内部監査部門の末席にいるものとして、興味深く拝見しました。ありがとうございます。

調査報告の中に「当調査委員会としては、内部監査室がA の変更要求を受け入れたと断定することまではできない。しかし、監査対象者であるA に不用意に監査記録を見せること自体、内部監査を行う者としての基本動作に反する行為という他ない。」とありますが、監査記録を監査対象に見せる事自体は問題ではないように思います。実際、記載事実の確認や監査終了後に改善を促すために見せる事はありますし。先方の言い分を鵜呑みにして、安易に改変する事が問題であろうかと。

投稿: 内部監査部門の末席 | 2013年3月12日 (火) 15時11分

いつも勉強させてもらっています。共謀者が在籍していた会社も第三者委員会を立ち上げるそうで、この報告書と食い違う内容なのか、楽しみです。
ところで経理財務部門を恫喝するところのAの言動はすさまじいのですが、あれだけの言葉を発するというには、それなりの前フリがあるわけですよね。いったいどのようなシチュエーションがあったのか、財務経理部門のひとりとしてたいへん興味があります。

投稿: unknown1 | 2013年3月12日 (火) 16時04分

皆様、コメントありがとうございます。本件はフォレンジックという視点から話題にされることが多いようですね。おそらくメールチェックもさることながら、やはり全数調査についての関心が高いようです。プレディクティブコーディングについては、また別途エントリーにてお話できればと。

投稿: toshi | 2013年3月20日 (水) 15時58分

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