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2013年3月14日 (木)

関西テレビ不適切映像事例とコンプライアンス体制の進化

私も以前(一度だけですが)出演したことがあります関西テレビ制作の報道番組で、取材対象者の撮影に不適切な映像が使われたようでありまして、3月13日、同報道番組内で謝罪されたことが報じられております(たとえば読売新聞ニュースはこちら)。不適切な映像を使用したことについて謝罪されたものの、同局としては、「ねつ造」や「やらせ」を行ったものではないと説明されたようであります。

本件が報じられた後、同局には視聴者から多数の苦情が寄せられている模様で、「あるある大事典事件のときの教訓が生かされていない」「ねつ造体質は変わっていない」との有識者の方のご批判もマスコミで紹介されています。私もすぐに「あるある大事典事件」のこと(関西テレビの内部統制体制)が頭をよぎりましたが、ただ本件については、もう少し問題点を整理して考える必要があるように思います。

民放局は、どうしても視聴率を獲得することが必要なので、視聴者を惹きつける番組制作に熱心になることは当然であります。したがいまして、あるある大事典事件の第三者委員会報告書にも書かれていたように「許される演出」と「許されない誇張表現」の境界の線引きをどうすべきか、というところが常に問題となります(つまり常に「不祥事の芽」は事業経営の中に存在するわけです)。この線引きのリスクを常に意識していれば、編集の独立という問題はあるものの、早期の軌道修正が可能となりますので、「あるある大事典事件」は発生しなかったのであります。しかし局側がリスクを意識していないことを奇貨として(視聴率をどうしても稼ぎたい)番組制作会社側はどんどんエスカレートしていった、というのが不祥事の最大の原因でありました。

今回の不適切映像事例も、やはりこの線引きの問題であります。関西テレビ側は、とくにねつ造でもない、やらせでもない、「内部告発者を保護するという立派な名目がある以上、後ろ向きの映像をスタッフが演じても、許される演出の範囲だ」と考えたものと思います。ところが、報道番組の視聴者からすれば、テロップでも流れていない限り、本人が後ろ向きで語っていると誤信するのが通常の感覚ではないかと。このあたり、関西テレビ側の境界線が少しずれていたものであり、苦情が集まることも仕方ないものと思います。

しかし日経新聞の報じるところ(日経ニュース13日午前11時30分)によりますと、この撮影を行った3名の取材班のうちの1名(おそらくこの方は制作会社の方ではないかと)が、「このような撮影手法は問題ではないか」と疑問を呈し、報道局の幹部社員に相談したそうであります。そして相談を受けた幹部社員がこの問題を調査し、自社の判断において今回の不適切映像事件を公表し、今回の謝罪に及んだとのこと(現場にいた報道部記者に対しては口頭による厳重注意処分とのこと)。

たしかに「おかしい」と声を上げたのは同局の社員ではなく、制作会社側かもしれませんが、これを社内で問題視した関西テレビ社には一定程度の自浄能力があるところが示されたのではないでしょうか。2007年のあるある大事典事件のように、一部週刊誌による「やらせ追及」による質問状を受け取り、これに回答する形でねつ造を認めたものとは明らかに異なります。コンプライアンス経営にとって大切なことは、「当社にもかならず不祥事は発生する」という覚悟を前提として、もし不祥事が発生した場合にはどうすべきか、というリスク管理を内部統制としてきちんと具備しておくことであります。これが最低限度、視聴者を裏切らない放送局としての姿勢だと思います。

もし今回の件で、経営執行部は「番組編集の独立を侵害しない」といった名目で、社内で問題にせず、また社外に公表されなければ、おそらく誰も問題行動には気づくことなく、今後も不適切映像の活用が繰り返されていたかもしれません。そしてオソロシイことは、そういった映像を使ったことが第三者から暴露されてしまうことであります(そういったケースであれば、あるある大事典のときと変わっていないと指摘されても反論できないと思います)。

今回の公表に至るまでの一連の同社の対応は、社外の常識と社内の常識との食い違いがあったという意味においては批判されてもしかたないものではありますが、番組制作側の「線引きのリスク」を意識した上で自浄作用を発揮して、「隠す文化」が根付くことを回避した、という意味においては「あるある大事典のころよりもコンプライアンス体制は進化している」ものと評価できるように思います。今後は行政当局から、なんらかの改善要求があるかもしれませんが、それを承知で公表することは、社内的にもコンプライアンス経営の重要性を浸透させることにつながるものと確信しております。

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コメント

大阪で似たような事件が多発する裏には、このような甘い考え方があるからでしょうね。
「許す、許さない」は視聴者の判断。
製作者側は、常に「やって良い事、悪い事」を考えて行動すべきではないでしょうか。
本人ではない者を映して本人であるかのように思わせる。このような誤魔化しは、まるで誘因広告と同じです。
有りもしない商品の写真を広告に載せて客を誘引すれば法律で罰せられます。
法律違反しなければ何をやってもいいという事ではありません。法律に定められていないことでも人としてやってはいけないことはたくさんあります。
良識のある行動を、社会的に影響のある方や大阪の方に取っていただきますようお願いします。

投稿: unknown2 | 2013年3月15日 (金) 01時05分

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