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2013年4月26日 (金)

ダイバーシティ問題だけではない東証のガバナンス報告書改正

朝日新聞の朝刊で4月24日から連載されている「けいざい深話・東芝サプライズ人事」はとても興味深い内容であります。日本を代表する企業における異例の人事問題をとりあげたものです。東芝社は委員会設置会社ですから、社外取締役が複数存在するのですが、法定機関たる指名委員会は過半数の社外取締役で構成されています。私は今朝の新聞を読み、果たして指名委員会がどこまでの実権(真の人事権)を握っていたのかはわかりませんが、少なくとも伝統のある日本企業が裸の権力闘争によって企業価値を低減させてしまうことを回避できたのは、まぎれもなく指名委員会の存在ではないか、と感じました。

上記記事は「社長は、次期社長候補として複数名を掲げ、会長が含まれる委員会が合議でこの候補者から一名を選出した」と報じています。このような対応となったのも、委員会設置会社というガバナンスの厳格な制度を採用し、またこれを(形の上なのかどうかは不明ですが)尊重せざるをえないことに由来するものではないでしょうか。しかしこれによって平穏に人事問題が解決されることになるのであり、もし指名委員会が存在していなければ、「サプライズ人事」どころの話では済まないのではないでしょうか。委員会設置会社であるがゆえの流れではないかと思います。

さて、昨日に引き続きガバナンスに関連するディスクロージャーのお話でありますが、私が社外取締役に就任しておりますニッセンホールディングス社が「女性の活躍状況の開示に係る『コーポレート・ガバナンスに関する報告書』」の開示第1号として内閣府のfacebookで紹介されました(内閣府男女共同参画局のページはこちら)。女性の活躍状況の資本市場における『見える化』の推進が図られ、コーポレートガバナンス報告書の記載要領も4月18日に改訂されたことによるものであります。ちなみにニッセンHDのリリース(会社における女性の活躍状況に係る開示のお知らせ~安倍首相による「成長戦略スピーチ」を受けて~)はこちらです。実際に23日に更新されたニッセンHDのガバナンス報告書の中では、ダイバーシティ方針の部分が注目部分かと。

ところで、今回の報告書記載要領の改訂では、女性の上場会社における活躍状況の開示ばかりが話題になっておりますが、よく読むとそれだけではないようにも思われます。現状のコーポレートガバナンスの概要を示すところにおいて、概要だけでなく「業務執行、監督機能等の充実に向けた追加的な施策の内容等を具体的に記載してください」とあります。具体例として

取締役会や監査役会など(委員会設置会社の場合は、法定の各種委員会、執行役会を含みます。)の法定の組織のほか、経営諮問委員会、アドバイザリーボードなどの名称により設置された各種の諮問委員会や、経営会議、執行役員会、常務会等について、それぞれの概要(業務執行や監督のプロセスにおける役割、構成メンバー、男女別の構成など)や開催状況等を記載することが考えられます

とあります。男女別の構成などを記載することからみると、ここでも女性の活躍状況の開示と無関係ではありませんが、ガバナンスの充実に向けた各企業の追加的施策の内容を示す、任意で設置した委員会等の開催状況等を記載する、といったことから、コーポレートガバナンスの充実に向けた各施策の見直し状況や運用状況についてまで示すことが望ましいとされているようです

経営トップが企業の持続的成長のためにガバナンス改革をやろうとしているのか、それとも世間の風潮に合わせて改革の形だけ整えようとしているのか、強制するものではなく、任意ということでしょうが、(どっちが企業価値向上に資するものなのかは、ここでは問いませんので)せめてESG(環境・社会・ガバナンス)投資がさかんになってきた昨今、ESGに関わる事項については外から見えるようにしなければならない、ということがより鮮明に表現されているように思えます。真剣にガバナンス改革をやる、ということであれば、冒頭の東芝社の事例のように社外取締役制度、各種諮問機関を設置した趣旨等が活かされるでしょうし、そうでないということであれば社内の力学にすべての施策も流されてしまう、ということになると思われます。

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2013年4月25日 (木)

機関投資家における議決権行使の個別開示とガバナンス問題

本日(4月24日)の日経新聞朝刊に、機関投資家が株式を実質保有する企業の株主総会において、各議案にどのような賛否を示したのか、個別に開示する制度の導入について報じられております。政府の成長競争力会議でも、すでに英国スチュワードシップ・コードを我が国でも導入せよ、と民間委員の方々から意見が出ておりましたので、これが実現される見込みのようです。

そもそも機関投資家にとっては保有株式について受託者責任を負う立場にありますので、投資先企業のガバナンスが気に入らず、パフォーマンスに納得がいかなければ(当該企業の株式を)売却してしまえばよい話です。ところがリスクを嫌う投資手法をとる場合には(パッシブ投資)、一気に保有株式を売却するわけにもいかないところから、議決権行使を通じてパフォーマンスを上げることによって受託者責任を履行する、とされることも多いようです。機関投資家がきちんと受託者責任を尽くしているかどうか、外から見える形にすれば、企業経営者との馴れ合いによる議決権行使も回避できるのでは、と期待されます。

ただ実際には、機関投資家と言いましても、保険会社のように企業とのビジネス上のお付き合いのために株式を保有していることも多く、個別開示を制度として義務付けることには相当の抵抗が予想されます。したがって上記記事にもありますが、義務化されるのではなく、あくまでも努力義務として規定されるのかもしれません。このあたりは今後詰めていくところだと思われます。

いずれにしましても、機関投資家による議決権行使の個別開示が進むことにより、当該企業の社外取締役の導入問題をはじめ、ガバナンスの改革が促進されることが予想されます。会社法の改正議論の中では、社外取締役を一人以上導入することの義務付けが検討されましたが、その趣旨を金融庁が所管する開示規制の手法で実現していくものと思われます。ちなみに、このあたりの機関投資家の株主総会における議決権行使の問題は、(前にも一度ご紹介しましたが)5月発刊予定の「株式会社法大系」に掲載される江頭先生の論稿でも語られており、とても参考になるところであります。

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2013年4月23日 (火)

不正リスク対応基準による監査役への影響等(お知らせ)

P4220003_640本日(4月22日)の毎日新聞(関西版)にて、拙著「法の世界からみた『会計監査』-弁護士と会計士のわかりあえないミゾを考える」の書評が掲載されました(写真とともに記事内容を引用してご紹介するのは若干支障があるかもしれませんので、写真のみとさせていただきます)。こういったマニアックな分野の書籍でありますが、おかげさまで発売一カ月で二回も増刷されまして、各書店での在庫もようやく復活しております。以前掲載させていただいた「正誤表」の分も2刷から修正されておりますので、どうかよろしくお願いいたします(アマゾンさんでも22日現在、大量入荷されたようです)。なお、この後も経営財務、会計・監査ジャーナル等において書評が掲載される予定です(辛口批評かもしれませんが)。

さて、書籍とは別のお話ですが、4月20日発売の中央経済社「ビジネス法務」2013年6月号に「不正リスク対応基準による監査役への影響」と題する論稿を掲載させていただきました(ビジネス法務6月号の目次はこちら)。前半は今般の監査における不正リスク対応基準の解説、後半は監査役実務における具体的な影響について、かなり私的な意見を前面に出して書き下ろしたものです。とりわけ企業会計審議会ではツッコミ不足だと思われた「会計監査人と監査役との連携」につきましては、法律家の立場からかなり詳細に実務レベルでの方策を記したつもりです。またご興味がございましたらお読みいただければ幸いです。※ちなみに当雑誌の今月号において、私的に最も勉強になったのは海外進出企業の撤退実務の特集記事でありました。これ、また別エントリーでご紹介したいと思います。

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2013年4月22日 (月)

子会社会計不正事件の原因は親会社のガバナンスにある(と思う)

迷える会計士さんからお知らせいただいて知りましたが、東京商工リサーチ社による2012年度「不適切な会計・経理を開示した上場企業」調査の結果が19日に公表されております(日経プレスリリースはこちら)。内容別では「子会社によるもの」が前年度調査よりも倍増し、なかでも2011年度はゼロだった「海外子会社や海外事業における不正事件」が急増しているそうです。当ブログでも、昨年来多くの上場会社の国内・海外子会社の会計不正事件を取り上げました。

このような調査結果が出ますと、子会社管理の徹底、企業集団内部統制の厳格化、といった対応が検討されると思うのですが、ときどき不正調査を本業として行う者としては、子会社の経営陣が関与するような会計不正事件の場合、形式的に子会社管理を徹底してもあまり効果はないのではないか、むしろ親会社のガバナンスに問題があるのではないか、と感じるところであります。

そもそも子会社不正が急増しているのは、昨今の日本企業の子会社政策(企業買収、事業再編、海外進出)と表裏一体の関係にあるわけでして、いわば子会社政策が重要な経営戦略の一環だからであります。実務レベルでは財務、人材が重要ではありますが、なんといっても重要な戦略である以上、社長の経営責任を賭けて子会社化したわけで、そこで失敗することは親会社社長の経営の失敗を意味するところです。しかし実際には失敗するM&Aが多いことは皆様ご承知のとおりかと。そこで少し考えればおわかりのとおり、子会社から上がってくる業績報告について、果たして親会社取締役会が冷静に聴取することはできるのか、といった疑問が湧いてくるのであります。

親会社経営トップの失敗は誰も認めたくないのです。なので子会社トップから良い業績報告が出てくれば(これを信じたいので)疑いもなく信用しますし、聴きたくもない悪い業績報告が出てくれば誰も耳を貸そうとしないのであります。つまり親会社の経営陣には経営判断は正しかった、という方向に「心のバイアス」がかかっていますので、良い業績報告しか信用しないのであります。きっちり厳密にデューデリをやったケース、子会社復興のために親会社のエース級を送り込んだケースなどは、なおさらであります。

こういった親会社役員のバイアスに子会社トップが気づくわけですが、そうなりますと、もはや会計不正は「やりたい放題」です。とりあえず耳心地のよい報告を上げておけば、親会社からの深い追及は回避できます。親会社の内部監査といっても、親会社経営トップの重要な経営判断のミスを指摘する、ということはかなりの勇気が必要です。それこそ明確な証拠でも出てこない限り、「疑惑」を口に出して報告することはむずかしいところです(沖電気工業さんの海外子会社不正事件において、親会社に不利な事情を報告した際の親会社役員の方の行動を想起いたします)。

結局「社長、あなたの戦略は失敗だった可能性がある」ということを、誰かが社長に言える状況になければ子会社トップが関与するような会計不正は発見できない、ということであります。内部通報などによって、子会社不正に関する情報が会計監査人に届くケースもあるとは思いますが、果たしてこれも積極的に調査を開始して、不正を確信的に把握することが確実かどうかは微妙であります(ましてや海外子会社の場合は会計監査人としても困難です)。昨年、大証2部のニチリンさんの子会社会計不正事件について、親会社取締役会が(子会社の報告内容から)疑惑を抱き、非定例調査に動いたことがありましたが、あの事案は第三者委員会も親会社のガバナンス、内部統制が良好であったと評価しています。つまりは親会社のガバナンス、内部統制がしっかりしていることこそ、子会社不正の予防および早期発見に資するものだと思います。

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2013年4月19日 (金)

スタートアップエンジン2013で講演いたします(お知らせ)

昨年来、当ブログエントリー「医薬品登録販売者の虚偽証明は西友だけなのだろうか?」でも注目しておりました医薬品販売登録者制度の不正受検問題につきまして、厚労省が中間報告を出しています。現時点まで判明した不正受検関与事業者は(当初判明していたのは2社でしたが)31社ということですから、予想通り全国で多くの事業者が不正受検に関与していた、ということであります。そうでもないと、このようなとんでもない不正を一般事業者が行うことはありえないと思いますし、おそらく違法性が「みんなで渡れば」ということで希薄化していったものと予想いたします。ただ31社というのはまだまだ少ないものであり、今後は都道府県の調査によって更に増えていくはずであります(読売新聞ニュースでも、今後増える見込みとあります)。なお、最初の2社とは異なり、「駆け込み報告」で社名が公表されない事業者はかなりラッキーですね。

さて、またまたお知らせでございます。起業支援を目的としたイベント「スタートアップエンジン2013」が今年も5月に開催されます。今年で3回目となり、年々盛り上がりを増しているイベントでございますが、どういうわけか私に講演の依頼がございまして、起業やIPO(新規上場)を志しておられる経営者(もしくはそのタマゴ)の方々や起業支援をされていらっしゃる方々の前でお話をさせていただくことになりました。

日時は5月17日(金)午後1時半から5時半まで。場所は大阪国際会議場10階です。参加のお申し込みや詳しい内容はこちらのスタートアップエンジン2013開催のページをご覧くださいませ。

上記ページをご覧の通り、私以外の講演者の方々は、まさにビジネスの世界で数々の功績を上げてこられた方なので、おそらく多くの方がお越しになるのではないかと想像いたします。私はといいますと、IPO支援団体の副代表を務めさせていただいているものの、本業では専ら上場会社や上場予備軍の会社の「暗部」ばかり見てきた立場なので、これから起業、起業支援される方々のお気持ちに水を差すことになってしまうのではないかと一抹の不安を覚えるところです。

ただ、リスク管理というのは、経営判断の方向性を正すものですし、また平時にきちんと意識をしておけば、有事になっても適宜軌道修正のチャンスに恵まれる、という結果を招いてくれるものであります。どこの企業にも不祥事の芽があるわけですから、その芽を実らせてしまう(不祥事に発展させてしまう)土壌を肥やさないためにも、どのような心がけが経営者に必要なのか、私が経験した具体例を交えてお話させていただくつもりです(題して「法の世界からみた上場会社の悲喜こもごも」)。

ひょっとすると、企業支援をされる方々にとっては「嫌な話をするなぁ」と顔をしかめたくなるような内容になるかもしれませんが、そのあたりは関西のノリでご容赦ください。最終的には関係者すべてがハッピーになるような起業・上場こそ大切だと思います。若干参加費用がかかりますが、どうか大阪国際会議場までお越しいただきますよう、お願いいたします。

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2013年4月18日 (木)

弁護士の誠実性は外から見えなければならない-4月16日最高裁判決から考える

北越紀州製紙さんは、インサイダー取引問題、会計不正疑惑への対処として外部調査委員会を立ち上げた大王製紙さんに対して「公正性が担保されていない。日弁連第三者委員会ガイドラインに基づく第三者委員会を改めて要望する」との文書を送付されたようです。最近の企業不祥事発生企業に対しては、ステークホルダーから透明性、公正性が担保された自浄作用の行使が強く求められる時代になりました。さて士業と呼ばれる弁護士、会計士の世界ではどうなのでしょうか?

★おかげさまで、拙著「法の世界からみた『会計監査』-弁護士と会計士のわかりあえないミゾを考える」が、ご好評につき再度の増刷(初版第3刷)決定となりました。一昨日、20冊以上入荷されたアマゾンさんでも、すぐに在庫が切れてしまいましたが、ようやく今週あたりから増刷分が書店・通販にも追加で入荷されることになっております。来週は全国紙でも書評が掲載されることが決まりましたので、またあらためてご紹介させていただきます(本当にどうもありがとうございます-広報終わり)。

さて、拙著第3章「他人(ひと)のせいにする弁護士・会計士」では、私個人の意見として「弁護士の誠実性は外から見えなければならない」と提言をさせていただきました。弁護士生活23年間、依頼者に迷惑をかけたり、決して清廉潔白な仕事だけをしてきたわけでもない自身への自戒をこめて記したものです。これだけコンプライアンス経営が叫ばれる時代、企業も自浄能力を発揮して自らの不正を公表する覚悟を決めているのだから、弁護士も本当に顧客のために善管注意義務を尽くしているのかどうか、外からも物差しで測れるようにすべきだ、というのが趣旨であります。そうしないと、いつまでたっても依頼者のリテラシー(弁護士選定能力)は向上しないわけでして、また「外から見えない」ことをよいことに、善管注意義務を尽くさない弁護士が増えてしまい、その弊害が「弁護士自治」の衰退につながってしまうおそれが生じます。こういった課題を設定したうえで、個人的には「弁護士の誠実性の見える化」を提言したものであります。

ところで、こういった懸念に対して、ひとつの具体例を示したのが昨日(4月16日)の最高裁判決であります。債務整理を受任していた弁護士(被上告人)が、示談相手である金融機関の時効待ち方針を選択して、示談をせずにそのままの状態で仕事を事実上終えたわけですが、最高裁は、この時効待ち方針のリスクを依頼者に十分説明しないままに事実上事件処理を終えたことは(本件事例のもとにおいては)説明義務違反となり、損害賠償義務を負う可能性があるとして、これを高裁に破棄差し戻しとする判決を下しました。

とくに田原裁判官、大橋裁判官は、補足意見として弁護士の善管注意義務の尽くし方について、債務整理という個別事件についてでありますが、その内容をかなり明確に示しておりまして、これがまさに「誠実性の見える化」の具体例であります。各補足意見でも述べられているとおり、弁護士が受任事件を処理する場面における善管注意義務の尽くし方は、広い裁量権が認められているのですが、事件処理の各段階において、どのような説明義務があるのか、かなり具体的に示しております。私も、医師の善管注意義務と同様、具体的な説明義務違反の有無によって(つまり手続き的正義の理念によって)善管注意義務を尽くしたのかどうかを判断せざるをえない、と本の中では述べておりますので、こういったモノサシ(手続き的正義から実体的正義を推し量る手法)にならざるをえないのではないかと考えています。

もちろん、こういった時効待ち方針に関する債務整理の手法の是非については、最高裁の見解とは異なるご意見もたくさんあると思います。また、この判決は事例判決だと理解しておりますので、その射程距離を厳格に検証すべきです。たとえば「何が弁護士の誠実性か」という点についても、この裁判では法廷意見(多数意見)、田原意見、大橋意見では微妙に異なることがわかります(債務整理事件における時効待ち方針の採用自体について誠実性を欠くとする裁判官もいれば、一般論としても弁護士倫理規程が善管注意義務を判断する重要な解釈指針とみる裁判官もおられます)。「弁護士の誠実性」が多義的だというのであれば、ベストプラクティスとしてモノサシを提示しておいて、そのモノサシからはずれる処理が妥当だと当該弁護士が判断すれば、逸脱した処理がなぜ必要なのか、その合理的な理由を依頼者に説明する、という手法も考えられるのではないでしょうか。

しかし、この判決でも示されているとおり、弁護士の受任事件の処理には広い裁量権が認められていることは間違いないわけですから、その裁量権の限界がどこにあるのか、むしろこういった判決を基に議論することがとても自然ではないかと。本件も、前任者の処理に疑問をもった後任の弁護士が代理人となって訴えを提起したわけですから、こういった議論が増えることによって「弁護士の誠実性の見える化」が図られることになるものと予想します。現に、この裁判の原告(債務整理を委任した方)は、たまたま前任弁護士が依頼者から訴えられたというニュースを見て委任契約を解除した、ということなので、誠実性の見える化が求められる象徴的な事例ではないかと思う次第であります。

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2013年4月16日 (火)

ランド社は想定外だったのか?-第三者委員会の乱

4月3日、日本公認会計士協会主催の「企業統治と独立社外役員の役割」と題するシンポに登壇させていただきましたが、その際、昨今の第三者委員会の活動については多くの会計士の方々より疑問が呈されておりました。最近では会計士協会さんご自身でも、会計不正事件に関わる第三者委員会の在り方等を研究されている、と聞き及んでおります(拙著でも「なぜ第三者委員会は会計士に嫌われるのか」ということを詳論しております)。

実際、昨年の会計不正事件に関する第三者委員会の活動をみましても、監査役会と取締役会が別々に設置して別途報告書が出されたもの、第三者委員会が設置されたものの、途中で活動が中止されたもの、開示すると言いながら結局は開示されずに「うやむや」になってしまったもの等が目立ちました。今年も、会計不正事件ではありませんが、合理的な理由もなく委員の構成すら開示されない第三者委員会が設置されています。こういった事例が増えますと、本当に第三者委員会というのはステークホルダーの利益保護のために活動しているのだろうか、単純に現経営者の急場しのぎの道具にしかすぎないのではないか・・・と疑心暗鬼になってしまう方も多いかもしれません。

しかし本日(4月15日)、ランド社から公表されております社外調査委員会要旨はなかなかスゴイものがあります。ランド社が第三者委員会に対して、重要事項の記載のあるページが削除された参考資料(不動産鑑定評価書)を提出していたと指摘し、実際にも財務諸表作成のための根拠資料としてもこのページ数が欠落した評価書が参考にされていたようです。この事実をきちんと調査しない限りは、投資家のためにもこのまま決算短信を開示すべきではない、との勧告を行ったとのことであります。そして、この勧告を受けて、同社もなぜこのようなことになったのか、勧告に従って調査を行う旨リリースで表明されています。なお同社は昨年12月初めに、粉飾決算の被疑事実によって強制捜査を受けております。

自社使用の目的で第三者が作成した不動産価格評価書を財務諸表作成に使用したり、第三者委員会に虚偽の資料をそのまま提出すること自体言語道断でありますが、このような第三者委員会の厳しい指摘はそもそも同社では想定されていなかったのでしょうか?単純に会社側から提出された資料をそのまま鵜呑みにして報告書を作成するものであり、資料の作成者たる外部第三者から確認をとるようなことまではしないだろうと予想していたのでしょうか?ちなみに年末の第三者委員会による中間報告書では、外部関係者からのヒアリングが未了であるとの報告がなされていましたが、この不動産鑑定士の方へのヒアリングを想定していたのでしょうか?

会社サイドと第三者委員会との間では表に出ていない諸事情あるかとは思いますが、まず、なんといっても、こういった場面において第三者委員会は解散するのではなく、同社の不都合な事実を断固として開示する方向で頑張った点は評価できるものと思います(ここで第三者委員会が、不都合な真実を目の当たりにして単純に辞任したり解散したり、といった対応に出なかったことは、あたりまえに見えるかもしれませんが、委員会がまさにステークホルダーのために活動していることを示していると思います)。会社側と第三者委員会とにおいて、この勧告の開示に至るまでどのような葛藤があったのか、たいへん興味のあるところです。

昨年も、どことは申しませんが、企業側にとって有利な第三者委員会報告書が提出されると思いきや、社長の意に反して厳しい指摘がなされ、結局開示されることなく、また第三者委員に報酬も支払われることなく委員会の活動が終わってしまった例があったようです。これはまさに投資家や会社債権者のために委員が活動していることの証左であり、第三者委員会につきまとうリスクであります。ただ、それでも投資家のほうを向いて委員会としての活動を行わねばならないのであり、本件を含めて、たとえ社長の意に反してでも厳しい報告書を開示する(開示させる)ことが第三者委員会の信頼性を高めることに資するものと思います。

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2013年4月15日 (月)

証券取引等監視委員会VS日本風力開発-バトル勃発(その2)

マニアックな話題がお好きな方であれば既にご承知のとおり、先週金曜日(4月12日)関東財務局は日本風力開発社に対して平成21年3月期の有価証券報告書について、虚偽記載が認められたものとして、その訂正報告書の提出命令(有価証券報告書の訂正命令)を出しております(金融庁リリースはこちら)。行政手続(告知聴聞)もすでになされております。そして、この訂正命令に対しては同社より反論および徹底抗戦のリリースも出されました。なお念のために申し上げますが、訂正命令については聴聞手続きのみで金融庁(関東財務局)の命令が出ますが、課徴金納付命令のほうは今後審判手続きを経て発令の判断が下されることになります(ということで、正確な題名は金融庁VS日本風力開発、としたほうが良いのかもしれません)。

前にも申し上げました通り、現在進行形の行政事件について個々具体的な意見を述べることはエチケット違反だと思いますので、あくまでも一般論としての野次馬的感想のみ申し上げます。前回のエントリー「証券取引等監視委員会VS日本風力開発-バトル勃発」について、コメント欄の「素人さん」と「会計人さん」の質疑応答がなかなか興味深いところでありまして、過年度決算の訂正の根拠となる「虚偽記載」だけの問題なのか、それとも刑法犯の対象となる「虚偽記載」や「偽計」の問題に発展するのか、という点は極めて重要だと私も認識しております。なぜなら、そこで問題となる「会計事実」が会計士的発想で語られるのか、法律家的発想で語られるのか、という点に関係してくると思われるからです。

このあたりは新刊の拙著「法の世界からみた『会計監査』-弁護士と会計士のわかりあえないミゾを考える」の95頁から101頁あたりに詳しく論じているところをご参照いただければ幸いでございます。今回の日本風力開発の事例は、同社リリースなどを読みますと、会計処理方法の適正性が問題となっているわけではなく、いわゆる「収益計上の基礎となる会計事実の存否」が問題となっており、まさにこの本で書いたところが妥当するものと思います。これまで同社の会計監査人は同社のビジネスモデルを認識しながら、同社の会計処理を妥当なものと認めていたわけですが、そこに「覚書」というものが飛び出してきてしまいました。しかもこの「覚書」は調査報告書によりますと、(取引先の社内調査で存在が発覚したようなものなので)同社の経営者も全く知らなかったようなものであります。

新刊の拙著でも書いたように、収益認識の基礎となる会計事実の存在は、消去法的発想で合理的な心証がとられます。もし、会社の会計意見が正しくないということであれば、Aという事象が出てくるはずだが(仮説)、サンプルを調査してもAという事象は出てこない、だから会社の意見は概ね正しい(合理的保証が得られた)、という発想です。しかし、そこに仮説をそのまま正しいと根拠付けられない事象(覚書の存在)が目の前に出てきてしまったら?これは消去法的発想からするとどのように位置づけられるのでしょうか?というあたりの問題です(法律家が大好きな要件事実←抗弁事実←再抗弁事実、規範的要件←評価根拠事実⇔評価障害事実というのはいずれも積み上げ式発想なので今回とは全く異なりますね)。

そしてもうひとつの問題が「真実かつ公正なる概観」こそ相対的真実を追求する会計士的発想だという点であります。会計士(会計監査人)の判断は経営者の意見が正しいのか正しくないのかを決める最終判断者としての意見です。その監査人の意見は上場廃止をも決めてしまう可能性がありますので、くれぐれもミスが起きないように「考え得るかぎりの事実関係のうち、もっともありうると考えられる事実を会計事実と捉える」のであります。ゆえにそこではビジネスモデルに対する深い理解が求められますし、同じ監査法人の中でも他者の意見を参考にして「もっともありうる事実はどれか」を検討することになります。

これは財務諸表監査という制度が社会インフラとして求められている以上、投資家に誤解を極力生じさせないためには当然のことかと。販売あっせん手数料の今期計上を基礎付ける対価実現の認識、環状的な金銭流動が経済的な合理性ある取引の上に立つのかどうか、という点は日本風力開発社の調査報告書で述べられているところが「もっともありうる事実」と考えられるのかどうか、といった視点で判断されるのではないでしょうか。つまり日本風力開発が主張するところが「ありうる」だけでは足りず「最もありうる」と判断できるかどうか、というところが注目されるところだと思われます(会計処理の適正性が問題となるところでは、公正なる会計慣行の併存ということもありえますが、会計事実の存否が問題となる場面では「併存」ということはありえないでしょう)。

以上はあくまでも過年度決算訂正という「訂正命令」や「課徴金納付命令」の範囲内での話であります。そこでは会社もしくは会社関係者の責任追及が問題とはされていません。あくまでも投資家保護という行政目的による措置であります。これが刑事事件の告発に向けてのステップということになりますと、少し話が変わってきます。そこでは会社もしくは会社関係者の刑事責任を追及することになりますので、基礎となるのは会計事実の存否ではあっても、法律家的発想で判断しなければなりません。(70%程度の合理的保証を目的とした)消去法的な事実認定ではなく、(抗弁事実や評価障害事実の主張にさらされながら)積み上げ式の事実認定が求められることになります。会計不正事件を発生させてしまった会社は、理屈の上では民事責任による賠償請求のリスクがあるにもかかわらず、過去の内部統制報告書をなんのためらいもなく訂正しますが、このあたりの感覚をご理解いただければおわかりになると思います。この点はまた、厳格化されるインサイダー取引規制における課徴金納付命令と比較しながら別途エントリーで述べてみたいと思います。

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2013年4月12日 (金)

喫緊の課題である国際企業不祥事リスクへの対応

本日(4月11日)、大手町の日経ホールにて、国際企業不祥事への対応に関するセミナーを聴講してまいりました。アメリカのファームに勤務される日本人弁護士、公正取引委員会の担当官の経歴をお持ちの弁護士、そして欧米で実際に企業不祥事対応をされている外国人弁護士の方々によるもので、主に企業の反トラスト法違反、FCPA事例に関するものであります。国内企業の不正リスク評価において、いま最も検討しておかなければならないのが反トラスト法、FCPA(海外公務員へのわいろ供与)ということで、この貴重なセミナーはぜひ拝聴しておきたいと思い、わざわざ東京まで出かけてまいりました。コンプライアンス関連の問題に詳しい同業者の方もちらほらお見えになっておりましたし、予想どおり満席の盛況ぶりでした。

3月ころから日経や朝日でも報じられておりますとおり、すでに日本企業の幹部職員10数名がアメリカで禁固刑によって服役している、というのが衝撃的ではありますが、これが現状なのであります(たとえばこちらのニュース記事を参照)。米国における反トラストの摘発は約半数が日本企業というのも衝撃的。みなさん、企業戦士として最前線で海外勤務をされている中、米国司法省から反トラスト法違反として捜査対象となり、司法取引の末、企業の更なる事業拡大と引き換えに服役の道を歩むということであります。もちろんアムネスティ・プラン(リニエンシー制度)によって徹底的に司法省への捜査協力に尽力し、刑事免責を受ける企業も出てくるのでありまして、なんとも複雑な心境です。

(これは私の推論ですが)国際不祥事リスクが日本企業に伝わりにくいのは、日本の公取委によるカルテル捜査の着手については適時開示がなされる一方で、米国や欧州諸国からカルテル捜査が開始されたとしても、その後の司法当局との複雑な手続きゆえに訴追に及ばないケースも多く、いずれの企業も適時開示の対象とはしていないからだと思われます。しかし、たとえ正式な訴追に及ばないとしても、有罪答弁合意等によって企業にとっては重大なリスクが現実化することも多いので、このあたりは今後、証券取引所ルール等でも問題になってくるのかもしれません。

(これも私の感想として書かせていただきますが)とくに日本企業として学んでおかなければならないのは、①国際不祥事リスクとしての平時の対応(コンプライアンス・プログラム)と②危機管理としての「司法妨害罪」の適用やペナルティ・プラス制度、③サピーナ(証人召喚令状、証拠物提出命令状制度)④子会社や販売代理店におけるコンプライアンスプログラムの浸透であります。たとえリニエンシーが適用されなくても、その後の司法取引や量刑プログラムにおいて平時のコンプライアンスプログラムの運用はかなり重要であります。外国人弁護士の方のお話では、(最近の海外案件ではありますが)社員がカルテルに関与していた事案において、当該会社が厳格なプログラムを励行していたがために、法人としての罰金は科されなかった例があるそうです。これは刑事免責の話だけではなく、その後の民事責任追及の場面でも影響が出てくるものと思われます。また、司法省から捜査が開始された時点において、関連証拠を隠ぺいしたり、廃棄してしまうことが多いようですが、これが経営者による指示によることが判明した場合、司法妨害罪ということで極めて重い二次不祥事を構成してしまう、とのこと(実刑の可能性もあるようです)。手続き重視の思想が日本には根付いていないために、国内の役職員にとって重要なポイントだそうであります。

さらに我々弁護士にとって重要なことは、秘密特権に関する知識を理解しておかなければ会社にとって極めて不利な状況を出現させてしまう、ということであります。これは日本の弁護士の方からお話が出ておりましたが、アメリカでもカルテル事案等では社外調査委員会が構成されることがあり、そこでの秘密特権の確保の工夫が活動の実効性を左右するようであります。ということで、日弁連第三者委員会ガイドラインによる第三者委員会とは違った形での第三者委員会の活動が(海外対応のためには)必要になってくるのかもしれません(これを「第三者委員会」と呼べるかどうかは、また検討する必要がありますが)。

一昨日のエントリーで述べたように、不正リスクは経営判断にはめこまれています。(たとえば新興諸国へ進出するためには、どの程度のFCPAリスクを甘受すべきか等。これがビジネスの現実論ではないかと。しかし、まだ日本ではリスク認識がかなり甘いように思われます。)したがって国際不祥事問題は、ベストプラクティスを実現するための専門弁護士の領域と、経営判断の際に経営者に説明をしたり、平時のリスク管理を実施するためのリーガルコンサルタントの領域が求められます。ということで、管理部門の役員クラスの方々には、ぜひともコノテのセミナーを受講されることをお勧めいたします。

日経新聞編集委員の方からの質問に対して、外国人弁護士の方が「カルテルで捕まって服役が決まったからといって解雇する?とんでもない!社員の生活を最後まで守ってやるべきだ。服役中の生活費を支給していた企業もあるのだ」との発言は(良い悪いは別として)なんだか日本人の考え方に合致しているようで、少しほっとしたような気がしました。なお、エラそうな物言いで恐縮ですが、ひとつだけコンプライアンスに関心のある弁護士として物足りなかったのは、一流企業の幹部職員がなぜカルテルに及んだのか、その原因分析が全くなかったことであります。誰でもカルテルの脅威については知悉しているご時世、どうしてかくも安易にカルテルに至ってしまったのか、そこには様々な営業戦略における人間模様があるはずです(たとえば同業他社との貸し借りの問題、他者との別件での紛争が発展した形での価格合意、販売地域の確約等)。そのあたりの分析(いわゆる「不祥事の芽」)が今後の我々の仕事なのかな、と思ったりしていました。

さて、私がこのセミナーに参加させていただいたのは、FCPA等のリスクが喫緊の課題であることだけでなく、今後の金融行政にも同じようなアプローチが出現する予感がするからであります。すでにアメリカではFCPAの捜査権限を証券取引監視委員会が保持していますが、日本においても近時は「検査妨害罪」などを駆使して行政捜査の円滑化を図る流れが出てきております。海外協力がさかんになっているのも競争法コンプライアンスの領域と全く同一であります。行政規制の在り方と、そこへの法律や会計の専門家の関与、というまさに私の関心分野にも関連する問題だと思っております。そのあたりは、また別途エントリーで触れてみたいと思います。

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2013年4月10日 (水)

グーグル型コンプライアンス経営は日本企業に根付くのか?

前から読もう読もうと思っておりましたが、ようやく商事法務NBLの新春座談会記事「持続的成長を支える新しい市場規律とその担い手」(NBL992,993,994号)を読み進めることができました。まだ半分程度ではありますが、いやいや、これは非常におもしろい座談会であり、企業コンプライアンスに関心がある方には必読ではないかと思います(人選もなかなかスゴイ!)。ただ、NBLは一般の書店では購入できないので入手困難なのが難点です。いっそのこと、私が司会をした前年度の新春座談会の記事と合わせて一冊の本にしたほうが良いかもしれません(ずいぶん勝手な物言いですが)。

ひとつひとつのテーマに反応しすぎてしまって、なかなか前に進まないのでありますが、ひとつだけ本日ご紹介したいのは、グーグル型コンプライアンス経営のお話であります。グーグルのストリートビュー判決とコンプガチャ事件に関連した話題の中で、たいへん興味深いお話が花王のコンプライアンス部門統括執行役員の方から語られます。

伝統的な日本企業は、ともすればスピードに欠けるとか、ディシジョンができないなどと揶揄されることもあります。われわれ日本企業は、なにか新しいサービスなりを展開しようというときに、ストリートビューにおけるグーグルのような、トライ&エラーを続けてブラッシュアップしていくという手法ではなく、先に行政に十分時間をかけて確認してから進めていくという手法をとりがちです。・・・きちんと考えた上でトライ&エラーをしていくグーグルの手法と、日本企業の従来型の手法、これらはなかなかおもしろい比較だと思いますし、われわれはそういうところで負けている部分があるのではないかと思いました。

これは私も全く同感でして、いろいろなコンプライアンスセミナーでも申し上げているテーマであります。私はこれを事後規制手法重視に進む日本社会において、これに順応できない日本企業の在り方として位置付けています。なお、ときどき日本の新興企業の中には、経営トップの方針としてグーグル型(トライ&エラー型)のリスク管理手法により、スピード経営を実現しているところもあるように思います。

ただ、私個人の意見としましては、このグーグル型の経営手法を日本企業が実現する場合、以下のような条件をクリアすることが必要ではないかと思っております。ひとつは経営判断の意思決定の前に十分なリスク管理ができていること。この座談会の真ん中あたりでも話題になるのですが、リスク管理というのは経営判断と分離されているのではなく、その判断プロセスに組み込まれているはずです(リスクとリターンは表裏の関係にあるわけですから、むしろ当然のことかと)。そこではガチガチのリスク管理ではなく、経営トップ自身がどの程度の想像力をもってリスクを想定できるのか、というところにかかっているわけで、あらかじめリスクを想定できているからこそ、進みながら修正ができる、ということであります。

つぎにリスクが想定できているとしても、誰が「修正すべき」と口に出すのか?という点であります。リスクを想定しているのが経営トップだとしても、トップは自ら経営判断を決定したのであり、すでに心のバイアスがかかっているわけです。自らの経営判断が間違っていたと認めることは、自分の職業人生を否定するに等しいと感じておられるわけで、これは容易なことではありません。あらかじめ撤退や修正の条件を明確に定めておく、という手法も考えられますが、想定しえない状況が出現する場合にはあまり役に立たないこともあります。そこで、経営者に「これはエラーです。修正しましょう」と誰が口に出して言えるのか、ここがとても日本企業においてハードルが高いのではないかと思います。

そして最後に「トライ&エラーの手法は闘うコンプライアンスである」ということです。おそらくコンプライアンスを走りながら考える、というのは企業のレピュテーションリスクを新たに背負う可能性が否めません。全くの法令違反行為は論外ですが、企業がグレーゾーンをあえて渡るということは「金儲け第一主義の会社」とか「やったもん勝ちという企業風土」といった悪評が立つ可能性があります。世論や業界常識に反する行動は、たしかに企業の社会的信用を毀損させてしまうリスクを伴う可能性があり、だからこそ世論や業界の常識そして行政の伝統的なルールまでをも変えて、自らが世界標準を構築するだけの気概を持たなければならないと思われます。

この座談会でも現役官僚の方が「最近は行政の不作為について責任を問われる時代」と述べています。企業がトライ&エラーによってコンプライアンス経営を実現するためには、この行政規制の実効性を損なわずにいかにトライしていくか、そのあたりが問われるのではないでしょうか(この座談会は、最近のコンプライアンスネタを考えるにあたり、さまざまなヒントが語られておりますので、折に触れて続編を書かせていただこうかと思っております)。

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2013年4月 8日 (月)

監査役会の同意なき監査役選任決議の効力と裁量棄却判決

先週木曜日(4月4日)、物言う監査役として毅然と経営陣と闘ったある監査役の方の裁判がすべて終結した旨のリリースが出ておりました。当該監査役と会社との和解内容は、おそらく今後、会社と闘う監査役の方を支援する代理人報酬(監査費用)の相当性にも影響を及ぼすものではないかと思いますし、本当にここまで自身の信念に従って闘ってこられた元監査役の方には敬服いたします。

監査役は独任制機関(ひとりひとりが会社の機関)でありますので、自らの意思で監査権限を行使しうる立場にあります。しかし監査役会が設置された会社の場合、多数決による監査役会意見が会社法上の法的効果を生じさせることがあり、上場会社の監査役会(3名以上で構成)においては、監査役間での意見合意が得られず、全員一致の監査役会意見が形成できない場面というのも想定されるところであります。上記「物言う監査役」さんの場合も、まさに監査役会でも意見合意がみられない状況があったように記憶しております。

ところで、ここのところ、6月総会の準備のために、最近の株主総会対策に参考となる判例の解説が法律雑誌やセミナー等でなされることが多いのですが、この監査役会における意見形成の瑕疵が、株主総会決議にどのような影響を及ぼすのか、参考となる判決が出ております。

各種セミナー等でも紹介され、また月刊ジュリスト4月号特集「会社法の実務」でも採りあげられているイー・キャッシュ社株主総会決議取消訴訟判決(東京地裁平成24年9月11日 資料版商事法務343号42頁)は、監査役会の招集通知を受領していない監査役が存在するにもかかわらず、残りの監査役で監査役会を開催しても、その監査役会の同意は無効であり、株主総会の監査役選任議案の取消事由に該当すると判示しております。会社法では、監査役の選任議案を会社が株主総会に上程する場合、事前に監査役会の同意を得なければならない、とされているのでありますが、その同意が無効である以上は、招集手続等に法令違反があるものとして、当該監査役選任に関する総会決議の取消事由にあたる、というものであります。

但しこの判決では、他の2名の監査役は新たな監査役選任については同意をしており、また決議の取消を求めている原告(元監査役)も、(監査役選任議案上程を審議する)取締役会には出席して、何も異議を述べていない、という事実を認定したうえで、このような状況であれば、招集手続きに重大な違法があるとはいえず、会社法831条2項により裁判所の裁量によって棄却(つまり決議は有効のまま)とされています。この結論については、有識者の方々も、概ね妥当な判断であると解説されているようです。

確かに、この判決も事例判決であり、おそらく先例等を踏襲したものと思われます。また監査役は単独で監査意見を述べることができるにもかかわらず、これを述べていない以上、監査役会の同意がないことについて、裁量棄却で処理することは考えられるところであります。しかし、株主総会参考書類には「監査役会の同意を得ております」と虚偽の情報が開示されているのであり、実際に同意がないことと併せますと重大な違法手続きに該当しない、と簡単に処理できるものかどうかは検討に値するものと思われます。とりわけ会社側の新しい監査役追加選任の理由は「重要性を増した監査役の機能の一層の充実強化を図るため」と記載されており、そのように監査役制度の重要性を会社が十分に認識しているのであれば、監査役会の同意を確認せず、さらに株主に対して虚偽の情報を開示する、というのは全く矛盾した対応だと思われます。

さらに、上場会社の場合、3名の監査役のうち2名は社外監査役であり、意見の異なる社外監査役が適法に監査役会に招集されていれば、その合意内容は覆される可能性があったのではないでしょうか(理念的には、社外監査役にはそのようなことも期待されているのではないかと)。たしかに平時の監査役には、いかなる監査業務を行うかは広い裁量権が付されているものと思われます(最近はリスクアプローチによる監査手法が主流です)。しかし、監査役はいったん有事となると(いわゆる黄色信号が点滅すると)、その裁量権は収縮し、監査役としての善管注意義務を尽くすべき具体的な行為規範も明確になります。たとえば一人の社外監査役から、具体的な問題を指摘された場合、もう一人の社外監査役はその問題を認識することになりますから、その時点で有事に必要な措置をとらなければ法的責任を追及される可能性が平時と比べると格段に高まります。ということは、監査役会が開催されていれば過半数の結論がひっくり返る(1:2→2:1)可能性は十分あるわけで、単純に平時の感覚で二人の監査役が同意していたから実質的には監査役会が開催されて同意があったものと同じ、とは到底言えないものと理解しております。

監査役会での協議は軽視されてはならない、ということを、冒頭の監査役さんの事件で私は学びました。株主のほとんどの方々は、招集通知を読んだうえで、前日までに書面で議決権を行使するわけですが、監査役会の同意に関する虚偽情報の開示は、こういった株主の議決権行使や当日参加のうえでの質問にも影響を及ぼすものと思われます。そう考えますと、有事における監査役会における協議が持つ意義と、その情報開示の重要性に鑑みるならば、この判決のように軽微な瑕疵として裁量棄却にしてよいかどうかは、若干疑問を感じるところであります。

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2013年4月 5日 (金)

集団訴訟制度の創設で日の目を見るか-公益通報者保護法

(4月5日午前 追記あります)

株価、これからどうなるんでしょうね?円は100円までいってしまうのでしょうか?

本日の経団連タイムス(4月4日付け)によりますと、日米欧の経済団体が共同で「日本における集団訴訟制度への緊急提言」を3月25日に公表したことが報じられております(経団連タイムスはこちら)。先日(3月29日)の日経新聞朝刊でも日本版クラスアクションとして「乱訴の懸念、焦る企業」の見出しで大きく特集記事が掲載されておりました。差止めだけでなく、今後は消費者被害の金銭的救済という視点からも集団訴訟(集団的消費者被害救済制度)が認められることになり、これは企業経営にとっても重大な問題であります(なお遡及適用の問題については、こちらの担当大臣会見記録等から、消費者庁の温度のようなものが感じられそうです)。

今国会へ法案を提出する予定とありますが、景気回復基調に水を差すのではないか、といった危惧感から、上記のとおり経済団体は緊急提言を公表されたようです。集団訴訟の対象は消費者契約の目的物に限定される(生命、身体等への拡大損害は除外)わけですが、それでも消費者庁の立法上の考え方からみると、悪質事業者かどうかは、個々の事案ごとに判断されるわけであります。どんなにCSR経営で著名な企業であったとしても、個々の事案では「駆逐されるべき悪質事業者」として評価される可能性があるわけですから、この制度のリスクはかなり高いものがあるように思います。有価証券報告書の虚偽記載事案についても、個々の事案ごとに適用対象となるかどうか検討を要する、というのが消費者庁の考え方であります。

アメリカのクラスアクションでは、被害者側の法律事務所が社内の事情を知っている者に対して内部告発を呼び掛けることもありますが(たとえばこちらの記事など)、日本でもそのような呼び掛けがなされるかどうかは別として、消費者適格団体への内部告発の増加は十分考えられるところです。消費者適格団体への内部告発は公益通報者保護法によって保護される対象になるはずですし、通報目的による社内情報の持ち出し、情報提供行為も適法とされる可能性が高いと思われます。これまであまり認知度が高まってこなかった公益通報者保護法も、今回の集団訴訟制度の創設でかなり周知されるのではないでしょうか。

企業のリスク管理の一番大切なことは不良製品を作らない、説明義務を怠らない、不平等な取り扱いをしない、ということだと思いますが、不都合な事態が発生したとしても、これを内部できちんと把握する体制を整備運用することも大切ではないかと。こういった集団訴訟制度が施行されますと、そのリスクの大きさから「不利益事実は隠す」という風潮が生まれるかもしれません。しかし、不利益事実を隠ぺいするような行動は内部告発を誘発し、債務不履行を基礎付ける事実を認定しうる有力な証拠になってしまう可能性もあります。「ブラック企業」の仲間入りを果たさないためにも、消費者庁管轄である公益通報者保護法の運用にも関心を向けていただきたいと思います。

(4月5日午前9時 追記)

朝日新聞の朝刊に「消費者団体が代行訴訟ー企業、年最大19兆円の損失」といったショッキングな記事が掲載されています。慶応大学教授の試算によりますと、現在検討されている制度だと1兆円程度の損失見込みだが、今後訴訟を起こせる条件が緩和された場合には6兆円から19兆円の損失が企業に生じる可能性があるとのこと。企業と消費者との公平な損失の負担、といったほうが正しいかと思いますが。

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2013年4月 4日 (木)

拙著「法の世界からみた会計監査」増刷決定のお知らせとお詫び

いつも拙ブログをご覧いただき、ありがとうございます。さて、先週26日に発売されました当職の新刊書「法の世界からみた『会計監査』」の売れ行きが(おかげさまで)好調でございまして、一昨日(4月1日)に増刷が決定いたしました。

そこで、増刷を機に、初刷で判明した誤植、表記の誤り等をチェックし、第二刷に反映させることになりました。初刷から第二刷へ訂正しますのは、以下の「正誤表」記載のとおりです。なお印刷をされる方のために末尾にPDFをダウンロードできるようにしております。

Hounosekai_seigo01_2


「正誤表.pdf」をダウンロード

文意が変わるほどの大きな誤植はございませんが、細かいものは、こんなにたくさん誤植がありましたこと、この場でお詫び申し上げます(けっこう一生懸命チェックしたつもりだったのですが・・・)初刷をご購入いただいた方にもお知らせしておいたほうがよろしいかと思いました。ご迷惑をおかけいたしますが、どうぞよろしくお願いいたします。

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2013年4月 3日 (水)

6月株主総会会社における議決権行使助言会社ポリシーへの憂鬱

日経ニュースによりますと、キヤノンさんが3月28日に開催した定時株主総会の議決権行使結果が公表され、取締役選任議案では同社代表取締役への賛成比率が72%と2012年の総会(91%)に比べて大きく低下したそうであります。他の取締役は9割以上の賛成票を得ていることから、議決権行使助言会社による反対推奨が影響を及ぼしたものと思われます。ご承知のとおり、今年からISSにおける議決権行使ポリシーにおきまして、社外取締役を一人も置かない会社の代表取締役選任議案については、機関投資家に対して反対票を投じることを推奨することになりました(ちなみに同社の外国人持ち株比率は約3割)。

このニュースを知って、すこし意外に思われた方も多いのではないでしょうか。ISSの議決権助言ポリシーが本年度から変更されることは承知していたところではありますが、たしか昨年の12月ころの情報では、議決権を行使する外国人機関投資家の間では、

「ISSは社外取締役導入に熱心ではあるものの、果たしてガバナンス改革が企業価値向上にどの程度反映されるのかは未知数。しかも社外役員にふさわしい人物を短期間のうちに見つけ出すことは困難。社外取締役の導入は、個々の企業の判断を尊重すべきであり、社外取締役がボードに一人もいないことで社長に反対票を投じるのはちょっと抵抗がある」

という意見が大勢、とのことでありました。アナリストの方々の分析でも、ISSの推奨にもかかわらず、社外監査役議案や買収防衛策議案とは異なり、社外取締役を選任しない企業の代表取締役選任議案については、機関投資家が反対票を投じる確率は低いというものだったように理解しております。

ところが最近、どうも大型公的年金基金をはじめ、機関投資家の考え方に変化が生じてきているのではないか、との風の噂が聞こえてきております。その理由としては、①最近の調査で東証一部上場会社の55%がすでに社外取締役を導入していることが判明していること、②会社法改正論議の末、東証が社外取締役たる独立役員の登録をルール化しようとしていること、そして③独立取締役の選任まではむずかしいが、まずは社外取締役を導入することを求める程度であれば(とりあえず候補者を探し出すことは可能だと思われることから)相当の理由があると思われること、といったことのようであります。

先日、当ブログでもご紹介したとおり、トヨタ自動車さんが(独立性は別として)社外取締役を導入した、ということの衝撃も影響しているのではないでしょうか。もちろん、各社外国人持ち株比率は様々でしょうから、上記キャノン社の議決権行使結果の受け止め方も様々かと思います。しかし、最近の株高の状況の中、外国人機関投資家の持株比率が高まっている企業も増えているものと思いますので、そういった企業の総会担当役員、担当者の方々は、今後の機関投資家の動向(議決権行使助言会社の推奨について機械的に処理するのか否か)に留意しておく必要がありそうです。

さて、お知らせでございます。

Bunkyodosinosaka拙著新刊「法の世界からみた『会計監査』-弁護士と会計士のわかりあえないミゾを考える-」がおかげさまで発売日より1週間で増刷が決定されました。どうもありがとうございます。今後はさらにお買い求めやすくなるものと思いますので、どうか多くの方にお読みいただければと。

ちなみに左の写真は本日(4月2日)の文教堂 新大阪駅店の販売状況です。新幹線でお読みいただくにはピッタリ(?)の一冊でございます<m(__)m>。

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2013年4月 1日 (月)

証券取引等監視委員会VS日本風力開発-バトル勃発

当ブログもいよいよ(ドリコム時代も含めて)9年目に突入いたしました。これからもどうぞよろしくお願いいたします。<m(__)m>

ということで、9年目突入にふさわしい話題でございます。先週金曜日(3月29日)、証券取引等監視委員会は日本風力開発社(マザーズ)に対し、風力発電機の販売あっせん手数料が実態なく売上として架空計上されたまま有価証券報告書が提出されている、として平成21年3月期の報告書の訂正命令(訂正報告書の提出命令)を同社に発出するよう金融庁に勧告を行いました(SESCのリリースはこちら)。拙著新刊「法の世界からみた会計監査」の第2章「弁護士・会計士の守秘義務は七難隠す?」のコラムでもご紹介しているとおり、会計監査人の交代において、監査法人側が(沈黙を破って)監査契約解除に関する反論声明を出した事件として、2010年当時はかなり話題になった一件であります。

そして、この提出命令勧告を受けて、日本風力開発社は、同日「SESCの認定したところは客観的事実に反するものである、我々は当時の監査法人の無限定適正意見をもらっているし、また調査委員会報告、その他弁護士、会計士らによる(問題なし、との)意見も受領している、今後は審判で堂々と自社報告書の正当性を説明いたします」と発表(風力開発社のリリースはこちら)。SESCに対して宣戦布告であります。過去にはTTG社、ペイントハウス社等で訂正命令が発出されたことはありますが、堂々と争われることを想定して訂正命令が出るのは初めてではないかと思われます。

昨年9月28日、大阪地裁は三洋電機減損ルールの会計処理の適法性について、金融庁が課徴金処分を出したにもかかわらず、これを「違法ではない」と判断しています。その理由のひとつとして、三洋電機の課徴金処分は「(三洋電機による)妥協の産物」であり、これが審判で争われたわけではない、としています。つまり、三洋減損ルールの会計処理の違法性については、審判で争われたらどうなっていたのか、わからないとの前提があるようです。今回の日本風力開発の売上架空計上の件については、2010年7月に弁護士、会計士による調査委員会が、その会計処理は会計基準に照らして問題はない、との意見を出しております。したがいまして、もし今後、同社が審判で争うということになりますと、まさに同社の会計処理が会計基準に適合したものかどうか、という点が争点になるかもしれません。

ただし、以前「会計士と弁護士とのミゾ」としてブログで書いたのですが、会計処理が正しいかどうか、ということと法律上の虚偽記載にあたるかどうか、という点は「全く同じ、というものではない」ことを認識しておく必要があると思われます。SESCは金商法上の「虚偽記載」にあたると主張しているのに対して、会社側が「過年度決算の必要性はない」と反論するのは争点がかみ合わない可能性があります。現時点からみれば、過年度の会計処理が許容されないからこそ過年度決算の訂正を図るわけですが、これはあくまでも会計上の相対的真実の原則に基づくものであり、過去の時点では会計処理が許容されるように思えたことに相当の理由があれば、現時点では正しい決算とは言えないけれども(会計上はセカンドオピニオンは認められません)、法律上の「虚偽記載」(法令違反)には該当しない場合もありえます。この点、当局側は主に事実の存否という点で「虚偽記載」に当たるかどうかを主張し、会社側が当時の会計基準を引用して、その処理方法に問題がない、という反論をしてしまいますと、議論が成り立たない可能性があります。

会計処理の具体的な問題点のご紹介は省略いたしますが、興味深いのは、当時の(解任されたとされる)会計監査人が存在を知った(取引関係者担当者間における)合意書の評価であります。同社の最初の調査委員会は、この合意書には法的効力がないばかりか、相手方の悪意・重過失も明白なので取引的不法行為も成立しない、という前提で扱っておられますが、ちょっとここは私的には疑問が残ります(そもそも、この合意書が作成されないままでオモテの取引が成立したのかどうか、その経済的合理性こそ問題になるのではないかと)。いずれにしても、同社二番目の調査委員会の意見書を前提としますと、同社の連結子会社、取引先を含め、そのビジネスモデルの実態が示され、その中で、同社が販売あっせん手数料を受領する取引が経済的に意味のあるものと解されるかどうか、その解釈の中で合意書がどのような意味を持つのか、というあたりが争点になるのではないかと(もし真剣に争われるとすれば、この審判手続きは野次馬的におもしろいものになりそうです)。

それにしても、この騒動の発端とされた「覚書(合意書)」は、どうして当時の会計監査人が知るところとなったのでしょうか?このあたりは同社のリリース等からは明らかにされていないのですが、2010年当時の朝日「法と経済のジャーナル」の記事によると、取引先の社内調査によって合意書の存在が発覚し、これを日本風力開発社の監査人が入手したようです。もし、この記事の内容が事実だとしますと、当時の会計監査人としては、この合意書の文面から取引実態を調査するしか方法がないと思われます。仮に、こういった不正が疑われる場面において、取引先の会計監査人と連絡を取り合って合意書作成の具体的な事情について裏付けがとれるのであれば、もう少し局面が変わっていたのでしょうか?今回の不正リスク対応基準の設定にあたり、不正摘発型の監査手続き(たとえば取引先企業の監査人との意見交換等)の導入は見送られたのですが、かりに今回のバトルにおいて、訂正命令が発令されない、ということになりますと、またこういった手法が検討されることになるのでしょうか?(これは私の単なる素朴な疑問であります)

本来、会計監査人が投資家保護のために対処しなければならないところ、当局が前面に出てきた意味は大きいと思います。この事例の行く末はまたまた「市場の番人」たる会計士の役割を考えるための試金石になりそうです。ところで、解除された監査法人さんの後を引き継いだ監査法人さんは2011年に公認会計士協会から(品質管理に問題あり、として)監査事務所としての登録申請を拒否されておりますが、こういった事情もあることを念のため、申し添えておきます。

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